生まれいずる闇の光
最後の四神の札が神子の手に渡った。
捕えられた四神が復活するのも時間の問題。
アクラムは水晶の中に映る札を手に持った神子とその八葉を忌々しそうに見ていた。
このままでは、聖なる気が京中に溢れ、自分達鬼の住処が本当になくなってしまう。
しかし、今残る鬼…シリン・セフル・イクティダール…彼らの力ではもうどうしようも無いところまできているのは確か。
もっと力を手に入れなければ。
新たな打開策を考えなければ…そう、思考をめぐらせたアクラムの目に飛び込んできた、紫の髪をした女。
「…外からが駄目ならば…中から壊せばいい…か」
アクラムは水晶に手をかざし、喜ぶ神子達の映像を消すと、洞窟の奥にある自分の寝所へと戻っていった。
「これで…京は救われるのね!」
札の入った箱を抱えながら、あかねは喜んでいた。
苦難を乗り越えて、漸く此処までたどり着いた。
後は、四神を解放して、この京を聖なる気で満たせば…自分の役目は終わる。
そしてアクラムを倒せば…あかねや天真、詩紋は元の世界に帰れるのだ。
「よくやったな、あかね!!よっしゃ、屋敷に帰って、藤姫に報告だ」
あかねの頭を天真が勢いよく撫でた。
屋敷に戻り、最後の札を手に入れたその日は皆がゆっくりと休んだ。
祝いの宴が催され、しばしの平和に皆が酔った。
永泉もこの日ばかりは寺に帰らずに、左大臣家に身を寄せていた。
宴の席というのは、苦手な永泉だが、この日ばかりは席の端ながらも酒の席に参加していた。
永泉の座っているすぐ横は屋敷の廊下になっていて、そのすぐ下には広大な庭が広がっている。
夜空には綺麗な三日月。
「永泉さん、くつろげてます??」
あかねが気を使って、永泉に声をかけてくる。
「もちろんです…本当に…あと少しで、この京に平和が訪れるのですね…やっと兄上の望む世になるのですね」
「そうだよ!もうすこしだよ!頑張ろうね!」
あかねが永泉の手をとってぶんぶんと振った。
夜も更けきったころ、漸く宴が終わり、それぞれが藤姫が用意した部屋へと戻っていった。
永泉も、大きな一部屋を借りてそこで一夜を過ごすことになった。
晩いながらも湯殿をつかい、再度部屋に戻ったときはすでに庭から見える月の位置が大分変わっていた。
「もう下がっても結構ですから…遅くまで済みませんでしたね」
ずっとついていてくれた女房にそう告げて、永泉は一人で部屋に入った。
不思議な達成感が永泉を満たしていた。
「兄上…もうすぐですね…」
小声で呟き、布団に入る。
胸の高鳴りをなんとか押さえようと、何度も深呼吸をして永泉は眠りについた。
朝。
藤姫の占いは続いていて、今日はまだ動けそうになかった。
集まっていた八葉は一端自分の仕事に戻ることになった。
永泉も一度寺に帰るべく、藤姫が用意してくれた牛車に乗り込んだ。
外から帰ってきた天真が、外で牛車が待ってると教えてくれ、永泉はあかねとともに屋敷の入り口まで二人で歩いてきた。
永泉が牛車に乗り込み、小窓を開ける。
「なにかあったら、小天狗ちゃんに伝言を頼むから」
「わかりました、いつでも大丈夫なように準備はしておきますので…神子も体調をくずされませんように」
あかねが牛車から離れると、車はゆっくりと動き出した。
「さーてと、私は…あれ?」
永泉を見送ったあかねが入り口から屋敷の中に戻ると、見知った家人が何かを探しているようだった。
「どうしたんですか?」
「これは…神子様」
家人はあかねを見て会釈し、彼女に近づいていった。
「いえ…牛車の用意が出来ましたので、永泉様を探しているのですが…見かけませんでしたかな?」
あそこに…そう言った初老の家人が指差した方向には、牛車が一台止まっていた。
「え?永泉さんなら、さっき入り口に来ていた牛車に乗って帰りましたけど?」
「はぁ…そうでしたか…行き違いでしたかな?私もつい先ほどまで他の仕事がありまして。急な仰せだったものですから…。
他の者にも用意をさせていたのでしょう。では、神子様、他に帰られる方がおりましたら、
私はここにおりますゆえ、声をかけてくださればいつでも出られますから」
「わかりました、じゃあ見てきますね!」
あかねは元気よく屋敷の中へと戻っていった。
永泉の乗った牛車はゆっくりゆっくりと移動していた。
夕べ寝たのが遅かったせいか、この緩やかな揺れが眠気を誘う。
「少しだけなら…」
永泉は脇息にもたれると、ゆっくりと目を閉じた。
次に永泉が目を覚ました時には、すでに牛車の動きは止まっていた。
「ん…」
永泉は眠い目を擦って、あたりの気配を伺い、自分の状況をだんだんと確認した。
「わ…わたくしは…。て…寺に着いたのでしょうか?何も言ってくださらないとは、気をきかせて…下さったのでしょうか」
恥ずかしくて、顔が真っ赤になる。
「お…降りないと」
永泉は慌てて、牛車の引き戸をあけた。
「ぇ…?」
空けた引き戸の外には、見知った寺の門や塔は一切無かった。
顔を出してみても、この車を引いてきてくれた人の姿は無い。
当たりは一面草原で、草以外には何も無い。
「こ…これは…一体…どういう」
「やっと起きたのか」
聞きなれない男の声とともに、永泉の見ていた世界が一瞬にして歪み変わった。
一面の草原が、見知った兄のいる内裏の部屋の中になった。
牛車も消え、永泉は内裏の部屋の御簾の前にいた。
「ここは…兄上の部屋…一体」
『友雅、今回はご苦労だったな』
永泉の目の前には兄である帝がいる。
「っ…も…申し訳…ぇ?」
『いえ…すべては神子の力…もうすぐお上の望まれる平和な京へと戻る日がきます』
相手方は永泉の存在に気がつかない。
永泉が自分たちの真ん中にいるのにも関わらず、帝と友雅は話を続けていた。
「い…いったいどうして」
「ここは、こやつらのいる空間とは異なるが…時間軸は一緒だ」
御簾を通り抜けて、一人の仮面をつけた男がやってきた。
「空間を隔てなければ、ここに入ることは出来ない。陰陽師の結界があるからな…話は聞けても、
手出しは出来ない。まぁ…誰も私やおまえに気付きはしないといったところか」
「ア…アクラム…」
ゆっくりとアクラムが永泉の前に現れた。
それとクロスするように、帝と友雅がいる。
兄や友雅はもちろん、警護の人間もアクラムと永泉の存在に気付かず、そして会話も相手方のものは聞えるが、
自分達のものは聞こえていないようだった。
「なぜ…」
永泉は自分がおかれているこの状況がよくわからなかった。
目の前にいるのは、敵のアクラム…そして、話の通じない兄や友雅。
「京の要である四神が復活するのも時間の問題。もうこれ以上、外から京を侵略することは出来ない。ならば…」
アクラムが人差し指を永泉にむけて振る。
細かい光の渦が永泉を取り巻き、その身体を内裏の畳の上へと引き倒した。
「何を…」
その間にも、永泉の目の前では、兄である帝と友雅の話し合いは続けられており、楽しそうな笑い声まで聞えてくる。
「内側から壊せばいい…」
「あぅっ」
引き倒された永泉にアクラムがのしかかり、彼の長く綺麗な両手が永泉のか細い喉にかかった。
「帝の血に一番近い娘と鬼の首領の血が混ざれば…世界は我らのものぞ?さぁ…我が子を孕め」
「ひっ」
永泉は苦しさと恐怖で、手をばたつかせ、それがアクラムの顔に当たった。
顔の仮面がずれ、結び目が解ける。
アクラムの青い瞳と均整の取れた素顔が露わになった。
「このうす汚せた世界に…新たな光を」
口元だけがうっすらと残酷な笑みを浮かべていた。
「いやぁぁぁ!!!」
永泉の大声を合図に、彼女の上にのしかかったままだったアクラムが力を発動させる。
永泉の法衣が次々に鬼の力で切り刻まれていった。
「あに…うぇ…兄上!!」
永泉の手が兄の方向に伸びたが、やはり彼は気付かなかった。
伸ばされた手は空を切り、畳の上に堕ちた。
帝と友雅は笑いながら、内裏を後にし、残されたのは永泉とアクラムだけになった。
紫の髪が異空間の内裏の畳の上に散っていた。
アクラムは真っ白な永泉の肢体を眺めて、青い目を細めた。
「さすが皇女…一点のしみも無い美しい身体だ…それこそ、汚しがいのあるというもの」
「っ…ひぃ」
アクラムの鋭い爪が永泉の鎖骨を引っかき、真っ白い永泉の肌に赤い血が滲んだ。
永泉の唇は次第に青白くなり、ぶるぶると震えていった。
アクラムを拒む永泉の手は、上手く力も入らないし押しかえす力も弱い。
「恐怖だけだとつまらないか。ならば、快楽を与えてやろう。お互いそのほうがいいだろう?」
「うっ…何?」
アクラムの手が永泉の顎を掴み、瞳をあわせた。
鬼の眼力を使い、アクラムは呪詛にも似た言葉を口だけを動かして唱える。
すると、だんだんと永泉のこわばった顔色が、本来あるべき永泉の顔つきに戻っていた。
「あっ…兄上?」
「…」
「い…今まで鬼が…いえ…内裏にそのようなことあるわけがありませんね…兄上…よかった」
そう言って、アクラムに抱きつく永泉。
「…そうか…お前実の兄を…それも面白いな」
アクラムのかけた眼力は、相手の恐怖心を消すために自分の一番安心する人物が映るようになっていた。
永泉の場合、それは帝であり、血のつながりのある実の兄だった。
「永泉…ふっ」
アクラムの歪んだ笑みも、永泉には兄の極上の笑みに見えていた。
永泉は大好きな兄に抱かれていると思い続けた。
「ぁ…」
血のにじんだ鎖骨をアクラムが舐めると、くすぐったいのか永泉が身をよじった。
「逃げるな」
「はぃ…兄上…んっ…あっ」
アクラムの命令口調も、永泉の頭の中では優しい兄の言葉使いに変換される。
永泉はとても素直だった。
「嫌か?」
「そんな…その…小さくて…すみません」
アクラムが胸に手を伸ばした時も、永泉は物凄くすまなさそうにそういった。
弾力はあるが、少々小ぶりの胸。
しかし、とても感度はよく、少し触るだけで永泉は陸に上がった魚のようにビクビクと反応した。
「よい」
「ぁ…んっ…」
赤い印がいくつも永泉の胸元に散った。
「そこは…」
さすがにアクラムの手が永泉の足の付け根に触れたときには、たとえ彼を帝と思っていても永泉はかすかに抵抗した。
「恥ずかしいです…」
目を潤ませて、そう訴えた。
それでも、ちょっと口付けをして甘い言葉を囁いてやれば永泉の頑なな足の力は緩んでいった。
永泉の着物の腰紐を取り、すべてを脱がし、彼女の膝をゆっくりと立たせる。
物凄く恥ずかしいのか、永泉はアクラムを見ないように、顔を背けて震えていた。
「案ずるな」
「でも…ぁ…あぁぁ…ぃっ…痛い…兄上!!」
アクラムの指が永泉の中にゆっくりと侵入していくが、初めての痛みに彼女はこらえきれず悲痛な声を発した。
「未開か…」
たかだか指一本も入り込めない狭さ。
アクラムは、指を一端引き抜いて、もう少し永泉の立たせた足を広げさせた。
「兄上…そ…そんな、駄目です…きたな…きゃぅ!!」
不意にアクラムの顔が永泉の視界から消えると、彼女にとって信じられないところに濡れた感触がした。
ぐちゅっと音を立てて、アクラムの舌が永泉の下腹部に絡んだ。
「あぁ…駄目です…兄上…中…いやぁ」
アクラムの長めの舌が永泉の内部に入り込み、それが彼女にえもいわぬ感覚を刻み付ける。
「痛くて泣くのは…お前だ」
「でも…でも…な…なにか…んっ…んっぅ」
永泉の両太腿を抱き押さえ、アクラムは彼女の花弁をほぐし、濡らし続けた。
敏感な部分をほぐし続けると、次第に感じてきたようで、永泉の声からは拒否がなくなってくる。
「先に一度快感を体験しておくといい」
「ぁ…アッ…熱いです…お腹…そこ…痺れ…あぁ…あぁぁぁッ」
敏感な部分を舐め続け、アクラムが甘噛みすると、永泉は畳に爪を立て腰を浮かせて、脱力した。
永泉からは彼女自身がこぼした蜜があふれだして、下にひかれた永泉の着物とその下の畳をぬらしていた。
「よかったか…」
荒い息をしている永泉にアクラムが尋ねると、彼女はコクコクと頷いた。
「頭の中が…真っ白になって…でも…その…気持ちよかったです」
「怖いか?」
アクラムによって、永泉の片足が持ち上げられる。
「でも、兄上と一つになれるなら…私は幸せですから…」
「ふっ…」
アクラムの顔が残酷に歪んだが、その顔を永泉が見ることは無かった。
「いっ…ぁ…ぁっ」
挿入はいきなりで、永泉は上手く息も吸えずにただ兄のくれる痛みに耐えた。
アクラムは非情で、初めての永泉にも容赦はなかった。
破瓜の血が、幾筋にもなって、永泉の内股に流れた。
「痛い…兄上…もっと…ゆっく…あぅ…」
最初から容赦なく突き上げられ、永泉の体はされるがままに揺さぶられた。
先ほど感じた快感などなかったように、下腹部にはただ痛みだけが襲っていた。
それでも、その痛みは兄が与えているものだと信じ、永泉は手をアクラムの背中に回した。
「兄上…兄上…」
響くのは、永泉の呼び声と、濡れた音。
最初はきつかった永泉の内部も、血と愛液の力を借りて幾分滑らかになっていく。
悲痛な永泉の声も次第に熱を帯びてきて、アクラム自身も動きやすくなってきた。
「想像以上の体だな…こっちが持っていかれそうになる」
「あんっ…あ…あに…うぇ…いい…です…もっと」
物欲しいそうな目を永泉がアクラムに向ける。
彼は、永泉の両足を自分肩にかけ、挿入をさらに深くしていった。
「あぁぁぁ…ふっ…奥まで…」
アクラムの体重で、彼自身が永泉の奥深くまで入ってくる。
奥まで来るたびに、永泉の中はぎゅっとアクラムを締め付けた。
「ふぁ…ぁぁっ…兄上…なにか…んっ」
「そろそろ…か」
激しい抽挿で、永泉の下肢が小刻みに震え始める。
「兄上…離さないで…大好きです…好きです…兄上」
「くっ…孕めよ…世界を変える子を」
「あん…あっ…ぁ…あぁぁぁっ!!!」
最奥でアクラムの熱がはじけ飛ぶ。熱いものが永泉の内部を満たしていく。
最後の一滴まで永泉の内部に残すように、しばらくアクラムは永泉から離れなかった。
永泉は達した衝撃と極度の疲れで気絶した。
ゴポっという音とともに、鮮血と白濁が永泉の中から溢れ出た。
気絶していても、アクラムが中から出て行くときに密かな反応を示し、ピクッと体が動いた。
「よかったぞ」
アクラムは指を永泉の顔に持っていき、流れた彼女の涙を掬って自分の舌で舐めた。
すべてがおわった。
アクラムは少しだけ乱れた自分の服装を整えて、右手を永泉にかざした。
先ほどとは違う言葉を唱えると、永泉の乱れた着物は何事もなかったように戻り、空間も彼女がいたもとの牛車の中だ。
「3ヶ月…孕んでいたら、すぐにわかる」
牛車の中にはすでにアクラムの姿はなく、彼の声だけが牛車の中に響く。
しかし、永泉がその声を聞くことはなかった。
永泉はその後半日ほどで頼久に見つけられた。
特に体調の変化もなく、永泉自身どうしてここにいたのか判らなかったが、
怪我もしていないし彼女が大丈夫だと言うのを頼久も信じて、寺にそのまま送っていった。
その後、京の平和への道は着々と進んでいき、八葉の力で四神の力は元に戻っていった。
しかし、あかねや天真、詩紋が現代に戻るためにはこちらに移動させたアクラム本人の力も必要なため実現してはいなかった。
アクラムからの攻撃もすっかり途絶え、何の反応もないまま2ヶ月が過ぎようとしていた。
「清明はいるか!」
清明の屋敷に、突然帝が友雅だけを連れて血相を変えて訪れてきた。
「師匠は出ている…何かあったのか」
「永泉が起きない…2日も起きないのだ。そなたでもよい、内裏へ来てくれ」
帝の話によると、いつものように生活状況の報告をしていた永泉が目の前でいきなり倒れたらしい。
疲れもあったのだろうとそのまま部屋に連れて行き、寝かせたのだが、一向に起きる気配がないという。
「呼んでも起きない、頬を叩いても、ただ心音はある…一体なにが」
「わかった…師匠にも式を飛ばしておく」
馬に乗って、3人は内裏へと急いだ。
「これは…気が乱れている」
永泉の部屋に来ると、異様な気を泰明が感じ取っていた。
真っ白ないつもの永泉の気と、鬼に近い黒い気。それらが永泉の周りを覆っていた。
「っ!!」
泰明が永泉に触れようとすると、触る一歩手前で空間に火花が散った。
まがまがしい黒い気が泰明に攻撃を仕掛けたのだ。
「一体何事なのだ!!どうして…」
「わからない…触れられないことには私は何も感じ取れない、師匠が来るまで…」
帝には何も見えていない。
しかし、泰明にはこの黒い気も白い気も、その両方が永泉自身から発せられていることが見える。
式に気付いた清明はすぐに内裏に飛んできた。
そして、部屋に入るなりやはり永泉から発せられているまがまがしい気を感じ取っていた。
「泰明…帝と友雅殿に結界を…」
「わかった…二人とも動くな」
泰明が結界を張り、自分もその中に入る。
清明は自分に札を貼り、手をかざして永泉にそっと近づけた。
永泉の額に赤い痣が浮かび上がり、先ほどの泰明との間に散った火花よりも、もっと巨大な火花というよりも炎が散った。
黒い気が龍となって、清明に襲い掛かったが、札のお陰で彼に被害が及ぶことはなかった。
「永泉様のなかに…赤子が…います」
「なんだと…」
清明が感じ取った気配や様子を帝に話し始めた。
「おそらく…鬼の子かと…それも、かなり強い力をもっております。もう私達の気配を悟っているのでしょう、
近づけまいと気を放ち危害を加えてきます…結界を張りましょう」
「なぜ…どういうことだ…」
帝はその場に崩れ落ち、それを友雅が支えた。
「先ほどの接触で、見たことのない印が額に浮かびあがりました…あれは術印でしょう。
この力は鬼の首領と近いもの…性交渉をもったか、もしくは何かの呪詛か…理由はわかりません。
しかし、この術印をとかない限り、永泉様は目覚めませんし、腹の子も育つ一方です」
「なんという…」
「まずは結界をはり、帝やその近しい方々の安全を確保いたします。母体を傷つけることはまずないでしょう…
私たちを攻撃してきましたから。その後は一端屋敷に戻り、術印を説く方法を考えます」
清明は札を何枚か取り出し、永泉の周りに張って結界を完成させた。
すぐに答えが出ると思っていた面々だったが、あの清明の学力や力をもってしても
アクラムが施した術印を解く方法を解読するのは困難だった。
八葉やあかねもこの事実をしり、何度となく内裏を訪れたが、あかねが訪れると特に気の乱れが激しく、
結界を作る札がビリビリと音をたてた。
龍神の力に反応するように、永泉から発せられる黒い気が目に見えるほどに膨らんでいた。
そして、次第に永泉自身の下腹部も膨らんでいった。
食事も取らずに眠り続けて、しかも腹に子を生しているというのに、永泉の体は痩せなかった。
何ごともなくただ眠っている、旗から見ればそう見えた。
何度清明が内裏に訪れただろう。
書物をあさり、様々な方法で永泉に施された術印の解除に挑んだが結局それが破られることはなく、永泉の腹は臨月を迎えた。
逆巻く白と黒の気が、見えなかった帝にまで見えるほどに、腹の中の赤子の力は強まっていった。
アクラムは3ヶ月目で永泉が懐妊したのを感じ取っていた。
そして、10ヶ月。
永泉の様子を水晶で見て、彼は腹の子と共鳴し、内裏の結界を干渉し永泉を神泉苑まで飛ばした。
いきなりの干渉だったため、清明でも反応できず、泰明と二人で永泉の気を探り、八葉とあかねもそろって神泉苑へと向かった。
神泉苑の大きな泉の真ん中。
空間がひずむほどに逆巻く気の中心に永泉はいた。
宙に浮き、横たわっている。
そばにはアクラム。
「アクラム!!永泉さんに何をしたの!!」
「四神の力は戻った…私の力ももう及ばない…外から壊せなければ、中から壊すのみ。
私の力とそこにいる男よりもさらにこの国の頂点に立つに相応しい女の力を持った子が誕生すれば…」
アクラムは帝を指差し、そういう。
「京は私と私の子供の力にひれ伏すのだ…さぁ、生まれるぞ」
永泉のせりあがった下腹部が光だし、その光が天へと上がった。
光の玉の中には、2つの影。
腹から赤子が出て行った永泉の体が一気に落下し、下の泉に落ちた。
頼久やイノリが泉にはいり、永泉を救い出す。
アクラムはいまだ宙に浮き、そしてその両手には赤子が二人抱かれていた。
紫の髪、そして金の髪。
アクラムは笑った。
闇の皇子達の誕生だった。