world4
今度目が覚めたら、自分は死んでいるのではないかと思った。
激しく抱かれて、意識が何度も飛んだ。
それでも、引き戻されて、さらに強要させられる。
最後の最後は、もう意識も戻らなくて、深く、暗いどん底の闇の中へ、身体が落ちていった。
目覚めは、一度目よりも最悪だった。
動かない身体。
痛む下半身、叫び続けて嗄れた喉。
そしてなにより、生きていることが、一番辛かった。
このままずっと、キラの慰み者でいなければならないと思うと、苦しくて苦しくて。
でも、死ねない。
民を捨てた自分、楽になろうとして逃げることは、簡単だが、出来ない。
神に祈るしか、イザークは出来なかったが。
立て続けにキラに抱かれ、その後2日間、イザークはベッドから出ることは出来なかった。
その間、キラは一度もイザークの元へ来ることはなかった。
来るのは、食事を持ってくる、給仕の者と、イザークの健康管理のための医者だけだった。
このまま、キラが来なければいいのに。
何度もそう願った。
三日目になると、漸く身体が回復し、ベッドから降りることが出来た。
用意された、ヤマト独特の生地のワンピースに身を包む。
窓の真横にある椅子にすわり、外を見る。
太陽が見えないほどの雲に覆われているので、
何時なのかと部屋の時計を見ると、もう昼過ぎだった。
目を凝らして見る。
鉄格子の遠くに、微かに光る、自分の城だったもの。
今、私の国はどうなっているのか…。
そして、散々になってしまった国民達は、ちゃんと生活しているのだろうか。
「はぁ…ん?」
窓辺に一匹の鳥。
どこから飛んできたのだろうか、自分の国では見たことのない綺麗な鳥。
空気の汚いこの国で、生きていられるのだろうか…。
「お前…もっとコッチ…」
チッチッと呼ぶと、鉄格子を抜けて、部屋の中まで入ってくる。
「…何か、食べるもの…」
丁度テーブルの中に、クッキーがあるのを見つける。
イザークは、小さく千切って窓の枠にそれをこぼす。
すると、その美しい鳥はくちばしで、クッキーのかすを食べ始めた。
「…お前はいいな・・・いつでも、飛んでいける」
その羽があれば…。
鳥になれたら。
大人しく食べていた鳥が、何かを察知して、いきなり外へ飛んでいった。
「?!」
イザークは、振り返って入り口を見た。
それと同時に、ガチャリと音がして、キラが入ってきた。
「もう、身体は大丈夫?」
キラはにこやかに、部屋に入って来た。
「…」
「医者はもう大丈夫だって言ってたから…コッチにおいで?」
イザークの座る椅子の所まで来て、手を差し伸べる。
また、抱かれるのだろうか。
拒めば更なる苦痛が待っている。
だったら、大人しくしていよう。
彼が、自分に飽きるまで、されるがままの人形でいよう。
きっと、母の側近の誰かが何かしら策を練っているはずだ。
神はいる。
此処で、希望を失ってはダメだ。
それまで、耐えよう。
「やっと、自分が誰のものなのかわかった?」
何も言わずに自分の手を取るイザークを見て言う。
そう、そうやって、自分にだけ従えばいい。
イザークを生かすも殺すも、すべてが自分の手の上にあるのだから。
キラは、イザークをゆっくり立たせて、ベッドに導いた。
狂乱の宴が始まる。
もう、涙すらでなかった。
「なに…今日は、喘いでくれないわけ」
イザークをベッドに引き倒し、キラも自分の来ていた上着を脱ぎ捨てる。
強引にイザークのワンピースの合わせを開くと、
その途中で何個かボタンが弾け飛んだ。
今日もキスはしない。
泣かせて、喘がせて、彼女の美しい顔が自分によって変えられていく様を見たい。
「…」
イザークは横を向いたまま何も言わない。
それがキラの癪に触った。
「いいよそれでも…また壊れるぐらいに抱くだけだから…」
キラの冷たい言葉でイザークの顔が彼を見つめ、不安に歪む。
前回のように、起き上がれなくなるほどひどくなるのは嫌だ。
でも、言葉には出来ないので、イザークは彼の服の裾を握り締めた。
「なに?ちゃんと言ってよ」
「…」
「言わないと…」
キラが、強引にワンピースの合わせをすべて開き、イザークの形のいい胸を片方わし掴む。
「ぃたっ!」
キラの爪が胸に食い込む。
イザークの身体がビクッとしなった。
「言え」
残酷に響く声。
「…ひどく…しないで…ください」
「言えるじゃないか」
キラが笑う。
「僕の言うとおりにしたら、いい思いだけさせてあげる」
「はぁ…あぁ…あぁんっ」
「いい声。気持ちいぃ?」
やはりキラを受け入れる瞬間の痛みは消えることはなかった。
しかし、一端受け入れてしまえば、後は快楽に流されるだけ。
全部脱がされて、昼のまだ日の明るいうちから行為を強要させられる。
キラも、今日は珍しく、上着を全部脱いでいた。
キラに足を開かされ、部屋中に水音を響かせても、イザークはもう気にならなかった。
理性がなかった。
たった二日の間だが、散々に抱かれたイザークの身体は、
回復のために休んでいたとはいえすっかりキラとの行為に慣れきってしまった。
痛いのは最初だけ。
後は、ただひたすらに快楽だけを求める。
「いいでしょ?ねぇ、言ってよ」
「ぅん…はぁ…きも…ちいぃ…あぁん」
「いい子だね」
キラに従う。
そしてキラに抱きつき、背中に腕を回した。
今は、何も考えたくない。
自分を抱いているキラのことも、考えたくない。
「そろそろ…」
そういって、キラがイザークの腰を抱えなおすと、イザークの感じる部分にキラのものが当たる。
ビクビクッと魚のように身体を震わせるイザーク。
「此処が…いいの?」
「ひぃあ…ぃやぁぁぁ…んぅ」
「嫌?」
キラは、イザークから否定の言葉が出たので、動きを緩慢なものに変える。
「いいの?って聞いたんだけど?」
悪いわけがない。
こんなに濡れて、感じているのだから。
涙をためたイザークが、動きが止まったことで薄らと目を開ける。
すると、忌々しそうに自分を見るキラ。
「あ…ちが…」
「なに?」
明確な言葉を求められる。
羞恥心を弄ぶような。
「そこ…いぃ・・・から…もっと…して」
「そう、それでいいんだよ。僕を否定するな」
「あぁぁぁ!!」
ゆるい動きをいきなり早くされ、イザークはついていけない。
ただ揺さぶられ、必死にキラにしがみつく。
「あぁ…あぁん…はぁっ」
「一緒にイこう」
キラがイザークの耳元で囁き、彼女の足を思い切り開かせて最奥を突き上げる。
「いっ…あぁぁぁぁ!」
強い快楽に耐え切れず、イザークが腰をビクビクさせながら達し、それと同時にキラも達する。
自分の身体の奥に、熱い何かを感じながらも、イザークの意識は暗い終わりのない底へと落ちていった。
この瞬間は好きだ。
何も考えなくていいから。
自分の意識がゼロになる。
この暗い底のない世界は、自分だけのものだから。
行為が終わり、また気を失い寝てしまったイザーク。
死んだように寝ているイザークの唇にキラは口付けを送る。
この瞬間は、彼女は牙を向けない、か弱い存在。
でも。
どうも府に落ちない。
こうやって手に入れて嬉しいはずなのに。
抱いて、自分を奥まで注ぎ込み、彼女のすべてを手に入れているはずなのに。
白い肌に無数に散らばる、自分が付けた所有の証。
顔には涙の後がくっきりと残る。
彼女の乱れた姿を見ることが出来るのは、自分だけである。
欲しいと言わせて、服従させることが出来るのは、自分だけなのに。
でも、何かが違う。
「っ…頭が痛い」
キラは乱暴に、乱れた格好のままのイザークにシーツをかけて、イライラしながら、塔を後にした。
それから、毎日のようにキラはイザークを抱きに塔へ上がった。
壊すまで抱いて、帰っていく。
イザークは食べ物が喉を通らず、痩せていく一方だった。
キラとの行為が終わった後、彼がイザークの口元に、
何度かフルーツを持っていくこともあったのだが、彼女の胃が受け付けず、
吐き出してしまうので、彼のそんな行動も、数日で終わった。
抱いて、出て行く。
それが、一ヶ月程度続いた。
「ゲホッ…き…もちわるい…」
元から細かった身体は、さらに細くなった。
水は飲めるが、食べ物を飲み込むのが辛い。
しかし、イザークもこのままでは自分の生命の危険を感じているので、何とか果実だけでも口にする。
2週間目までの、キラの抱き方はそれはひどく、彼女は気を失ってばかりだった。
しかし、此処一週間、キラもしつこく行為を強要しないので、大分楽になった。
行為が終わっても、イザークは意識を保っていられた。
このまま飽きてくれたら。
捨ててくれたら。
イザークは、窓際にある椅子にもたれかかるように座りながら、いつものように鳥が来るのを待っていた。
それが唯一の此処での楽しみであり、心が落ち着く瞬間でもあった。
クッキーを用意して、待つ。
「今日は…遅いな…」
いつもだったら、来る時間…今日は、なかなか鳥が来ない。
「鳥に…飽きられたか?」
クスッと笑う。
しかし、しばらくすると、いつものように鳥がやってきた。
でも、今日は2羽だ。
「友達か?」
仲良くしている様子を見て、イザークは嬉しそうに微笑む。
「…キラとも、お前達のような関係を築けたらよかったんだろうな」
2羽の鳥が、部屋の中まで入ってくる。
イザークの周りを飛び回り、肩に止まってイザークの髪を引っ張ったり、彼女の差し出した手のひらに乗っかる。
可愛く鳴いて、イザークの心を癒す。
「こら…ひっぱるな」
自然にイザークに笑みがこぼれる。
この瞬間が永遠に続けばいいのに…。
そう思った瞬間、カタッという音がした。
鳥も慌てて、塔から出ていく。
イザークもビックリして、またキラが来たのかと思い、入り口のドアを睨んだが、誰かが入ってくる様子はなかった。
イザークはホッと胸をなでおろし、また外を見た。
曇った空の向こうに見える、自分の城は、まだある。
母が、国際会議に掛け合っていていれば。
どこかの国が自分の国と同盟を結んでくれれば。
今日はキラが来なかった…。
キラはいつものように塔へ登っていた。
そして、いつものように彼女を抱こうとしていた。
だが、出来なかった。
鳥たちと戯れ、笑う彼女の姿を見てしまったから。
今まで一度だって、自分に向かって笑ったことなんて無かった。
向けられていたのは、憎しみと怒りの目。
快楽に歪む顔、泣いた顔。
キラは、うっすらと開けたドアから、彼女の笑顔を見てしまい、思わずドアを閉めた。
中に入っていけなかった。
閉めたドアに寄りかかり、ズリズリと座り込んだ。
何だというのか、この頭痛と胸の痛み。
以前抱いた後にも感じた頭痛と今日初めて感じるこの胸の痛み。
キラは頭を抱えこむ。
感じたことのない、不快感。
「くそっ!!」
キラは立ち上がり、塔から出て行った。
「キラ…どうかしたのか?」
執務室に戻り、持っていたサーベルを床に放り投げる。
ガシャンッと大きな音がして、同じく執務室で書類を読んでいたアスランがキラの元にやってくる。
「うるさい!!!」
「…」
キラに叱咤されて、アスランは黙る。
しかし、ゆっくりと床に放り投げられたサーベルを拾い上げ、剣を置く場所に戻す。
この若き皇帝は、自分の感情を上手く表現できない。
今日も、いつも良く起こす癇癪だとアスランは思った。
しかし、イザークを手に入れてから、彼の癇癪は納まり、仕事も颯爽と行っていたのに。
何かあったのか。
だが、アスランとしては、別に知りたくもないし、あえて知ろうとは思わない。
キラが、皇帝としてきちんと職務をこなしてくれればそれでいいのだ。
彼が、皇帝であり続ける限り、自分はこの地位にいれるのだから。
「陛下…陛下はいらっしゃりますか?」
執務室にノック音が響く。
イライラしているキラが、その音にも不快感を示して、椅子に座り顔をしかめる。
アスランはすばやく立ち上がると、大きな扉を開き、扉の前でひざまずく伝令係りから書簡を受け取る。
書簡の宛名は連名になっている。
エザリアの祖国名を筆頭に、国際会議の議長名、そして共同声明を受け入れた国々の名が連なっている。
「…忌々しい…」
イザーク一人のために、国際議会を持ち出すとは、考えないわけでもなかった、まさか本当にそこまでするとは。
今の不安定なキラにこの書簡を見せたら、全面戦争になりかねない。
慎重を期さないと、自国の有益に関わる。
「書簡?」
「あぁ…国際議会からだ…」
「そう」
声色が怒りに満ち溢れている。
「読むか?」
アスランが、扉を閉めて、キラの机までやってきて書簡を渡す。
キラはそれをひったくるように、アスランから奪い、ペーパーナイフで封を開ける。
「上等じゃないか…」
文字を追うごとに、キラの眉毛はつりあがって行く。
最後まで読み終わると、キラは、読んだ書簡を破り捨てた。
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