共に見る白銀の朝日1


前の家から人の声が聞える。
大きな有川家の屋敷には、今は将臣と敦盛意外の八葉が暮らしていた。
すべてを終え、敦盛は将臣と一緒にいるべく、現世に残ることを決意した。
そして、将臣の仕事も起動にのり、敦盛自身もアルバイトだが生計を立てられるようになったので、
二人で家を出た。
しかし、皆からの寂しいという意見を無碍にすることも出来ず、二人は結局目と鼻の先の賃貸を借りることにした。

大晦日。
去年、譲に教えてもらった作り方を敦盛は再度確認し、二人用の小さなおせちを作った。
将臣は実家の方の大掃除の手伝いに借り出され、敦盛もおせち作りが終わり次第行くと告げていたのだが、
思いのほか料理に時間がかかってしまった。
年越し蕎麦用の天麩羅を揚げたり、今晩食べる用の料理を用意したり。
色々やっているうちに自分達の夕飯の時間になってしまった。
時間を見ると午後7時になろうとしている。
敦盛は夕飯をテーブルに並べ、将臣が帰ってくるのを待った。

鎌倉は太平洋に面していると入っても、雪も降るし、寒い。
将臣がコタツを買ってくれたので、その中に入って敦盛はテレビをつけた。
そろそろ、紅白が始まる。
現世に来た時は何もかもが初めてだったのに、今で慣れたものだ。
ニュースが終わり、きらびやかな画面が映し出された。紅白が始まったのだ。
それと時を同じくして、がちゃがちゃと玄関があいた。
敦盛は一度テレビを消して、玄関まで将臣を出迎えた。

「おかえりなさい…あぁ・・・ずいぶん汚れてしまいましたね」
汚れても大丈夫なような格好で出て行った将臣だが、それでもかなり汚れていた。
「あぁ…納戸の片付けとかやらされてな…くもの巣だらけだぜ」
「とりあえず、お風呂も沸いてますから…先に綺麗にしてきてください。私はその間にお蕎麦をゆでますから」
「悪いな」
将臣をお風呂場に押し込んで、敦盛は彼の着替えを用意した。
脱衣所にバスタオルと着替えを置いて、敦盛はお湯を沸かした。



将臣が風呂から出ると、そばつゆのいいにおいがした。
「もうすぐ出来ますから…コタツに入っててくださいね。湯冷めしますから」
「あぁ」
テキパキと動く敦盛に従い、将臣は冷蔵庫から冷たいミネラルウォーターを出して夕飯が並べられているコタツに入った。

「はい…海老天蕎麦です」
コトンと蕎麦の器が将臣の前に出される。
敦盛は自分の分も置き、薬味やお茶も用意して、コタツの中に入った。
「ありがとな、手伝ってやれなかったけど」
「いえ。私の方こそ、お手伝いに行くと言っていたのに、いけなくてすみませんでした」
「お互い様だな、さっ冷めないうちに食おうぜ」
「はい」
将臣の頂きますの合図で、二人は温かい年越しそばを食べ始めた。

よほどお腹がすいていたのか、将臣はそばをぺろっと食べてしまい、料理も見事に平らげてくれた。
敦盛はその後、食器類の片付け。
将臣はコタツに入ってみかんを食べながらテレビを見ていた。
今日はこの後近くの寺まで除夜の鐘をつきに出かける予定になっている。
望美の母親から着物も借りて、着付けも勉強したので一人でも着られる。
なので、敦盛は先に風呂を済ませたほうが言いと思い、片付けが済んだ後すぐに風呂を使った。

長い髪をドライヤーで乾かし終えた時には、すでに紅白も中盤というところだった。
洋服に着替えて、敦盛もすばやくコタツの中に滑り込んだ。
「ん…足冷たい」
「乾かすのに時間がかかりましたから」
将臣の素足に敦盛の冷たい足が触ったのだろう。
「食ったら…眠くなってきたな」
「寺に行く時間にはまだありますから…少し寝てきてはどうですか?起こしますから」
将臣が敦盛に寄りかかる。
こういう風に彼が甘えるのは敦盛だけだ。
「んー…じゃあ、一緒に寝るか」
「えっ」
不意をつかれて、敦盛は将臣に抱え上げられていた。
「あの…紅白は?」
「いいよ、テレビなんか。それよりお前と一緒にいたい…いいだろ?」
そう耳元で囁かれては、抵抗できない。
敦盛はコクコクと頷いて、将臣のされるがままになった。





コタツのある部屋から続きになっている部屋が二人の寝室だった。
大きなベッドが一つと箪笥だけのシンプルな部屋。
将臣は抱えた敦盛をベッドにおろし、エアコンのスイッチを入れ、自分もベッドに乗った。
一緒に寝るという雰囲気ではない。
転がった敦盛の上に将臣が乗っかってきたから。
「あの…12時前には出かけるのですよ?」
困ったふうに言う敦盛の頬を将臣は優しく撫でる。
「大丈夫だって…そんなに激しくしないし…」
「ま…将臣殿!!」
「そんなに怒るなよ」
荒げた声はすぐに彼の唇に吸いとられる。
将臣の巧みなキスで、敦盛はすぐに反論など出来なくなってしまった。

「っ…ぁ…はぁ」
「エアコンまだ効かなくて寒いけど…すぐに暑くなるからな」
いつもキスだけで敦盛は息を上げてしまう。
「さて…敦盛、ちょっと体こっち」
いつの間にか敦盛の上着のボタンをすべてはずし、将臣は下着のフロントホックもはずしていた。
「っ…さむいです」
上半身をひやりとした感覚が襲う。
「少しがまんな」
将臣は敦盛の身体を横にし、器用に上着を脱がせていく。
部屋は暗いが、カーテンは閉めていないので、敦盛の豊かな体がはっきりと見える。
「っ…」
ひんやりとした将臣の手にも、敦盛は過敏に反応した。
「わるい…冷たいよなぁ…」
将臣は自分も上着を脱いで、そして敦盛の身体を抱きしめた。
「あ…暖かい…」
ぴったりとくっついたお互いの身体はとても暖かく、敦盛はゆっくりと目を閉じた。

時間が経つに連れて、エアコンも効いてくるがそれ以上に二人の身体は熱かった。
「っん…んぁ…ぁ…ぁああ」
細い足を抱え上げられて、体の中心に敦盛は将臣を迎え入れていた。
「っ…敦盛」
ぐちっという水音と荒い息遣いだけが響き、敦盛はいたたまれない気持ちになるが、快感がそれを凌駕する。
将臣が動くたびに、敦盛も合わせて腰を動かす。
途中途中で、将臣がキスを敦盛の顔中に降らせ、涙を溜めた彼女の美しい目元をすった。
「そろそろ…」
「はぃ…私も…も…っ……だめ…」
きつく将臣の背中を掴んで、快感に耐えるもお互いにそろそろ限界が近い。
「敦盛」
敦盛の感じる所をすべて触りながら、将臣は動きを早めた。
「あっ…っ…んっ……あぁぁん」
先に敦盛が痙攣し、ビクビクと足と腰をしならせ、その後に将臣もすべてを彼女の中に注ぎ込んだ。
「くっ」
「ふ…んん!!」
ビクッと内部で将臣が振るえ、達した後の敦盛の身体は又反応してしまう。
「わるい…」
辛そうに快感に揺れる敦盛をいたわって、すぐに将臣は自身を引き抜いた。



ピピピピッと音で、先に将臣が目を覚ました。
折角敦盛が寺に行くのを楽しみにしていたので、寝かせて明日になっては膨れてしまう。
将臣は11時に目覚ましがなるようにして、少し眠っていた。
ごそっと将臣が動いたことで、敦盛も気がつく。
「大丈夫か?」
「はい…11時ですか?」
「あぁ…起きられそうか?」
そんな激しく抱いたつもりは無いが、それでも体格さもあるし敦盛には結構な負担だろう。
「いえ…それほどではありません…でも」
「?」
「シャワーは浴びたいです」
寒い寒いと思っていたが、運動して逆に汗をかいてしまった。
折角先に入っておいたのにとも思うが…。
「わかった。じゃあ、連れてってやるよ」

一緒にお風呂…嫌がった敦盛だが、抵抗空しく綺麗に洗われてしまった。
風呂場ではくっきり浮かんだキスマークをつけた本人である将臣に指摘され、真っ赤になった敦盛。
しかし、そう長くもお風呂にはいってはいられないので、早々に引き上げた。
これから敦盛は着物を着なければならないのだ。

将臣も折角だから着物をと考えたのだが、寒いのでやめた。
「この帯を…そうです、そう押さえててください」
先に着替え終わった将臣に手伝ってもらいながら、敦盛は望美の母から借りた着物をきていた。
白と薄紫のグラデーションの着物はなかなか敦盛に似合っている。
帯の結び方も、凝ったものを教えてもらったらしく、綺麗だった。
敦盛は長い髪を緩くたらした髪型で、薄く化粧もした。
「よし…そろそろ行くか、巾着の中にカメラ入れた?」
「はい…財布も入ってます
巾着を持ち、白いファーをつけて、下駄を履き、将臣の手をとって、二人は除夜の鐘をつきに出かけた。

外に出ると、二人が来るのを待っていたように、仲間達が出迎えてくれた。
「敦盛さんキレー」
望美や朔が敦盛の着物を褒める。
それに照れつつも、ありがとうと礼をいい、ぞろぞろと皆で近くの寺まで歩いた。



寺に着くと、すでに何人もの人が鐘を突くために並んでいた。
「みんな、こっち」
譲の声で、並び、順番を待った。

「寒くないか?」
将臣が敦盛の手を取る。
着物に手袋は似合わないので、敦盛の手は冷たくなってしまっていた。
「いえ…」
「握ってれば大丈夫か?」
将臣の手には手袋がはめてある。
「はい…ずっとつないでいてください」

ゴーンと音がしだして、鐘を突くのが始まる。
すぐに将臣たちの番も回ってきて、一人一回ずつ鐘を突いた。
皆が付き終わる頃、パチパチと遠くで花火が鳴った。
江ノ島で新年を祝う花火が打ち上げられたのだ。

「将臣殿…不束者ですが、今年一年もよろしくお願いします」
「俺も…よろしくな」
お互いに笑いあい、新年の挨拶をすませた。
次は朝日を見に行くことになっている。
「じゃあ、一回家戻って、車な」
「はい!」
皆に挨拶を済ませて、二人は一度家に帰り、朝日を見るために来るまで出かけた。



車は将臣がどうしてもほしかったスポーツカー。
黒いそれは、流線型でとても美しい。
現代の戻ってから、彼は一年待ってすぐに車の免許を取った。
高校へはこの姿ではいけないし、行っても怪しまれるだけだ。
免許取立てだが、運転はかなりの腕。

スピードは控え目。
「このまま下がって…静岡の方へ行こうか」
「静岡?」
さすがにまだ地理はいまいちな敦盛である。
「あー昔の地理だとなんていうんのだろううな…俺達のいる所は・・・相模国。で、これから行く所は伊豆」
「??」
そう言っても隣に座っている敦盛はわからない様子。
「あーこれて江戸時代?」
「す・・・すみません」
「良いって…まぁ、海の綺麗なところだ」

車を走らせて、数時間。
伊豆半島を下り、石廊崎まで。
ラジオをつけて、日の出の時刻を確認する。
午前6時51分。
「敦盛…寝てて良いぞ?」
「あっ」
うとうとしていた敦盛に、将臣が優しく声をかける。
「つかれただろ?着物で寝づらいかも知れないけど・・・」
「いえ、大丈夫です…すみません…じゃあ、ちょっと」
ゆっくりと目を閉じて、石廊崎に付くまで敦盛は疲れた身体を癒すことにした。

暖かい車の中で、素敵な夢の中にいた敦盛を、優しく将臣は揺すりおこした。
「敦盛…そろそろ、日が出る」
「ん…ぁ…はい」
何時の間についていたのだろうか。車のフロントガラスからは、大海原が覗いている。
「寒いから、ちゃんとファーつけて」
「はい」
はずしておいたファーをつけて、敦盛は車から降りた。




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