lesson
大きな森の入り口に、こぢんまりとした家が建っていた。
「赤頭巾?赤頭巾?」
庭に出ていた子を母が呼ぶ。
しかし、トリガーの引かれる音。
カチャリッ
「…赤頭巾と呼ぶなと…何度言ったらわかるんだ?えぇ、ディアッカ?」
台所で作業をしていた母の額に銃が突きつけられて、お母さん(=ディアッカ)は後ずさる。
「ひぃ…すみません」
ギロリと睨まれて、思わず謝る。
「ったく…で、用は何だ?」
赤頭巾=イザークは、近所でも可愛い…というより美しいと有名な女の子。
まぁ、何で赤頭巾なんて呼ばれるかは、このさい置いといて。
とにかく、甘やかされて育ったのは確か。
親に対して暴言は吐くわ、趣味が射撃で、何でも的にしたがるわ…。
見た目に騙される人間は、必ず犠牲になっていた。
「あの…お祖母さんの所に、こ・・・これをもっていって欲しいんですけど」
「ミゲルの所?」
イザークが、再度ギロッっとディアッカを睨む。
「お…俺、今日は村の会合に出なくちゃいけなくて…お願いできませんか?」
完全に立場が逆転していた。
恐怖に震える、ディアッカが持っていって欲しいものを手渡す。
ディアッカから渡されたのは、大きなバスケット。
中身を確認すると…。
チーズ。
パン。
ケーキ…は、まだいいとしよう。
酒(焼酎)。
タバコ(1カートン)…オイ。
「アイツは、病気なんじゃなかったのか!!!」
「俺にそんなこと言われても!後輩だから、逆らえないんだよ」
「ふん、腰抜けが…まぁ、いいだろう。行って来る」
「お願いします…」
ディアッカは此処の中でつぶやく。
『どうして俺は…こうも立場が弱いんだ??』
そんなこんなで、イザークは少々重い荷物を持って、お祖母さん(=ミゲル)の住む、
森の中へと入っていった。
お祖母さんの住むところまでは、歩いて30分程度だったはずだ。
途中に、綺麗なお花畑があるが、別にイザークに興味はなかった。
「はぁ…酒のビンが重い!!」
森の道は意外とがたがたで、歩きづらい。
「持つの、手伝おうか??」
「ん?」
森の中。
めったに人など通らないのに…。
「やぁ、赤頭巾元気?」
「貴様…どこから沸いて出た!!」
森の中、気配もなく出てきたのは、人間。
紺色の髪の毛、エメラルドの瞳。すらっと伸びた手足、整った容姿。
まるで、童話の王子様がいきなり現れたようだ。
「ひどいね…赤頭巾。俺は、ずーっと君が来るのを待ってたのに」
「黙れ、人狼!!」
「俺には、アスランって立派な名前があるのを…忘れたのかな?」
「お前も…」
カチャリ
イザークが、すばやくポケットから銃取出し、アスランの額に突きつける。
「相当、頭に風穴が開きたいらしいな?」
「手厳しいねぇ」
アスランは、降参するポーズをとった。
「ふん」
「でも、イザークを待っていたのは本当だよ?」
アスランは、イザークと会うたびに、彼女を口説くが、一向に進展する気配はまるでない。
「ほざけ、私はとにかく忙しい。よそを当たってくれ…」
これ以上対応しても、体力の無駄だと悟ったイザークは、
さっさとミゲルの元へ向かって歩き出した。
「仕方が無い…じゃあ、また後でね?イザーク」
アスランは、クスッと笑って、またすぐどこかに消えた。
「はぁ…はぁ…一体、いつになったら着くんだ!!!」
歩き始めて1時間。
一本道なので、迷うことは無いのだが、いかんせん遠すぎる。
30分なんかでは、着かなかった。
こんなことなら、馬でも何でも使えばよかったといまさらながら後悔するイザークだった。
「だいたい…この酒のビンが重いんだ!!」
しかし、だからといって、此処においていくわけにはいかない。
もったいない。
「あーもー!!」
「アスラン!!??」
ピュン、ピュン!!
突然、後ろから声がして、矢がイザークの横をすり抜けて、正面の木に刺さる。
「ひぃ!!」
後、数cmイザークが右にいたら…貫通していた。
「誰だ!!!!」
「あれ?イザークじゃない」
後ろの森の中から出てきたのは、今度は村で猟師をやっているキラだった。
弓矢を背負ってイザークに近づいてくる。
「キサマァ…私を殺すきか!!」
イザークが、荷物を草原に放り投げて、キラに掴みかかった。
「嫌だなぁ…そんなはず無いでしょ〜アスランと間違えただけで…」
「私のどこをどう見て、アイツと間違えるんだ!!」
「ん…確かに」
「お前といい…アイツといい…」
イザークは掴む手を離して、呆れた。
そして、放り出して飛び散った荷物をかき集め、持ち直す。
「アスランと会ったの?」
アイツと言ったので、キラが気になったようだ。
「あぁ…さっきな。しつこかったんで、軽く流してきた」
「まったく…あの変態は懲りないねぇ」
「さっさと、生け捕りにしてくれ」
イザークは平気で物騒な台詞を吐くが、キラもその点では同じなようだ。
「うん…でも、生け捕りだと逃げるから…串刺し??」
しばらく、アスランをそう捕まえるか、または懲らしめるかを二人で議論した。
「あーごめん、僕もうそろそろ戻らなきゃ…」
キラが時計を見て言う。
「私も、これからミゲルの所へ行く。じゃあな」
一通り会話も終わり、二人は別々に歩き出した。
「はぁ…漸く着いた」
キラとわかれて20分後、漸くイザークは目的地に着いていた。
大きなロッジ。
暗い森の中に、ヒッソリとたたずむその家は、ミゲルの家だ。
治りづらい病気にかかってしまったミゲルは、空気のよい所で療養した方がいいことを医者に勧められ、
此処で暮らしていたが、最近すっかり良くなったらしい。
ドンドンッ!
イザークがドアを叩くが、返事は無い。
「留守か??」
しかし、ドアノブを引っ張ると開いている。
無用心な…と思いつつ、さっさと荷物を置いて帰りたかったので、イザークは迷わず中に入っていった。
「オイ、頼まれ物を持て来てやったぞ?」
中に入ると、静まり返っていて、人の気配がしない。
とりあえず、台所にバスケットを置いて、二つある部屋を調べた。
一つは、客間だが、使った気配も無く、誰もいない。
もう一つは、ミゲルの寝室だ。
一応ノックをするが、やはり返事はない。
しかし、開けるとベッドがこんもりと盛り上がっていた。
「寝てるのか??」
イザークはベッドに近づいて、ミゲルを揺する。
「オイ!!起きろ!!持ってきてやったぞ!!」
「待ってたよ!!」
「うわぁぁ」
何度か、ミゲルを揺すったとたん、いきなり布団からすばやく手が出てきて、イザークを布団の中に引きずり込んだ。
「アスラン!!!!」
「やぁ、イザーク」
なんと、ミゲルだと思った物体は、アスランだった。
イザークは、混乱した。
何故にコイツが此処にいて、しかもベッドに寝ているのか。
そして、何故自分は押し倒されないといけないのか…。
「また、後でねっていっただろ?」
「それが今なのか!!!…って、どさくさにまぎれて、どこ触ってやがる!!」
アスランの手が、イザークの服の合わせに忍び寄る。
「えーディアッカから、許可は貰ったし…ミゲルも喜んでたよ?」
「何をだ!!」
イザークはバタバタ暴れて、急いで自分の服のポケットから銃を取り出す。
しかし、掛け布団もかかっているため、なかなか上手く動けず、
そうこうしている内に、アスランにとってそれを奪われてしまった。
「こんな危ないものは、女の子が持つものじゃないんじゃない?」
そういって、床にポイッと投げ捨てる。
ゴトッと鈍い音を立てて、イザークお気に入りのシルバーの拳銃が落ちた。
「さーて。はじめようか??」
アスランが嬉々として、イザークに言う。
イザークは血の気が引いた。
このままでは、確実に既成事実を作られる。
「止めろ!!!おまえ、犯罪だぞ!!」
「大丈夫。強姦じゃないよ?最後はイザークの方が俺のこと…」
「わーーーーそんなわけあるか!!」
とにかくこの上に乗った、男をどうにかしなければならない。
しかし、どのような身体のつくりをしているのか、びくともしない。
「テクニックなら、任せて?」
アスランは、ニッコリと微笑む。
「いやだぁぁぁ」
暗い森の奥。
赤頭巾の悲鳴がこだました。
「俺…このままじゃ、本当に一生をイザークのお供で終わることになる…それが嫌だったんだ!!!」
グラスを手に持ったまま、ディアッカが愚痴る。
会合に出かけると言うのは嘘。
ディアッカは、ミゲルと昼間から居酒屋に入り浸っていた。
「はぁ…お前も苦労するね」
カウンターに二人で座り、ミゲルがディアッカの肩を叩いた。
ディアッカもミゲルも、アスランに買収されていた。
ディアッカは、これからの将来のために。
そして、ミゲルは、幻の銘酒のために。
アスランの意見を呑んだのだ。
教訓
敵はどこにいるかわからない。
日ごろの行いには、十分注意しなさい。
END