おめでとう。
おめでとう。
世界で一番の幸福を君にあげたい。

celebration

日曜日の朝から俺はイザークに呼び出されていた。
寒い二月。年度末で忙しい時期だ。
昨日も仕事で忙しかったのだが、可愛い従姉妹のためにと朝早くおきて約束の喫茶店へと向かった。
店員に待ち合わせだと告げると、イザークが待つ席まで案内してもらった。
すると、彼女一人かと思った席には、大学の元後輩が一緒に座っていた。
「キラ…お前どうして」
「アイマン先輩。お久しぶりです」
軽く会釈をするキラは、会うのは一年ぶりなのだが、ちっとも変わらずに優しい笑顔を浮かべている。
「ミゲル、悪いな」
「いいや、で?相談って??」
そういうと、イザークが隣に座っているキラを肘で突いた。
すると、キラがはにかみながら言った。

「僕たち…結婚します」

「はぁ…って、えぇぇぇぇ」
あまりに驚いたため、コーヒーを持ってきたウエイトレスも一緒に驚いていた。
彼女に謝り、一度落ち着くためにコーヒーを飲んだ。
「…先輩大丈夫ですか」
俺を気遣ってキラが声をかけてくれる。
「あぁ…ちょっと、驚いたけど」
「すみません」
気を取り直して話を聞く。
俺はこの二人が付き合っていること自体知らなかった。
イザークやキラは同じ大学の後輩。
彼らは今年の3月には卒業するが、現在2月。
卒業までは1ヵ月ある。
「お前ら…まさか…でき…」
「出来てないぞ!!!!」
いきなり結婚するというから、子供が出来たのかと思ったら、どうやら違うらしい。
「はぁ…で?俺にどうしろと」
「結婚式の手伝いをして欲しいんです」



急な呼び出しで、いきなり従姉妹が結婚。
しかも、相手は学生で後輩。
話を聞くと、意思はしっかりしているし、できちゃった〜では無い。
しかし、この結婚色々問題がありそうだ。
まず、イザークの母であり、俺の叔母であるエザリアがこの結婚に反対であるということ。
学生であることが問題かと思いきや、キラの身分が問題らしい。
今まで色濃いざたに興味、関心をこれっぽっちも持たなかったイザークが彼氏を連れてきたことに、
エザリアはとても喜んだらしいのだが、キラは一般家庭の普通の男だった。
イザークの母親は資産家の娘で自分で企業を経営しているかなりやり手の実業家だ。
イザークはいいところのお嬢さん。
確かに反対だろう。
キラも結構良い所の企業に就職が決まったらしいが…。
この結婚にはこういった理由で反対らしい。
次は、結婚式の場所。
教会が良いというイザークだが、実際にどうやって借りて良いのかもわからないらしい。
俺だってそんなもの知らないが、それを調べて欲しいとのこと。
後は結婚式全般のやり方とか勧め方とか…。
そういったことが判らないという。
本を買えといっても、今時の本は色々あって結局よくわからなくなってしまったらしい。
まぁ、俺も半年前に結婚したばかりなので、協力は出来る。
仕方がないので、丸ごとやってやることにした。
一番心配なのは叔母のことだが、とりあえず3月中に結婚式をしたい!という二人の望をかなえるべく。
俺は仲間を集めて彼らの門出を祝うために色々と準備に取り掛かることになった。

もう一度きちんと話し合おうということになり、俺はこれだけはこの次に会うまでに決めて来い!
というメモを二人に渡した。
まずは日取り。
これが決まらないとどうにもならない。
その次に予算。
大体まだ学生なのだから、たいした貯金もないだろう。
そして結婚指輪。
これも二人で買いにいて来いということを話した。オーダーメイドにすると多少時間がかかる。
後は、ドレス。
レンタル屋に行くにも、作るにも一番時間がかかる。
今のドレスは色も形も沢山ありすぎて、本当に迷う。絶対に迷う!
そんな忠告をして、来週又此処で会おうということを約束し今日は一応お開きにした。



一週間後。
この時に俺は、何件かの教会のパンフレットを持って彼らに会った。
キラとイザークはきちんと俺の言ったことを守ってきて、日取りや指輪の手配をしていた。
日取りが決まれば、色々スムーズに出来る。
3月の第二日曜日にしたいということだった。
俺はパンフレットを二人に見せて、今度は来週までにどこで式を挙げたいかを決めて来いといった。
そして、今日はもう一人、俺の友人を呼んでおいた。
「二人とも、今日はもう暇なんだろ??」
「えぇ、先輩との約束だけですけど」
「じゃあ、これからちょっと付き合って」

俺は二人を連れてとある服屋に来た。
此処には、二人も良く知っている人物が働いているのだ。
「お疲れ〜待ってたよ」
「「ラスティー!!」」
店の前で出迎えてくれたのは、キラとイザークの大学の同期であるラスティー・マッケンジー。
「どうして…」
キラが不思議そうな顔をして尋ねる。
「俺の就職先。もう、ちょくちょくアルバイトで来てるんだよ。さ、入って入って」
二人の背中を嬉しそうに押しながら、ラスティーが店の中に二人を入れた。

「はぁ…すごい」
入るとすぐにキラキラしたドレスの数々。
それにイザークが見とれていた。
「フォーマル専門なんだ。じゃあ、ミゲル先輩はキラね。イザークはちょっとこっち」
自分はキラのタキシード。
ラスティーはイザークのドレスを見にそれぞれ分かれた。

「しかし…お前もいきなりなことするね…」
俺はキラのタキシードを選びながら、そういった。
なんだって、学生時代にすぐ結婚しなくても、いずれできるのだ。
そんなに急がなくてもと俺は思う。
「まぁ…社会に出たら僕も忙しくなるから…できればいっしょにいたいと思って」
それに…好きですから。
そう顔を赤くして話すキラに、なぜかこっちも赤面してしまう。
まぁまぁ、純粋なことで。
「そっか…いいんじゃないか?幸せにしてくれよ?一応従姉妹なんだから」
「それは勿論です」
キラの笑顔のなかに、ひそかに自信を見つけて。
俺はまたタキシードをさがしにかかった。

安心かなと思える男でよかったと。
ちょっと親心に浸ってしまった。
まるで、娘を持った父親だな…これじゃ。



俺はキラに何着かタキシードを選んだ。
白でも最近は色々ある。
黒や灰色も良いかもしれないけれど、キラにはなんだか白が似合うきがする。
とりあえず、1着渡して着替えさせた。

キラが着替えている間に、俺はラスティーの所に行く。
すると、向こうも終わったようで、イザークがいない。試着室に入っているようだ。
「あーゆーのって一人で着られるのか?」
「スタッフが一緒に入ってくれてますよ」
「そう…で?どんなの選んだ?」
「白ですよ…でも…ふふっ」
ラスティーがニタニタ笑う。
「?」
「俺のオススメなんですけどね。たぶん似合う。俺としてはこれで決まりだと…」
それほどの自信作なのだろうか。

「マッケンジー君??いいかしら」
「はい、大丈夫です」
中のスタッフがラスティーに声をかける。もう出来たのだろうか。
「ふふ…じゃあ、イザークさん?どうぞ出てきて」
「はい…っと」
中から出てきたイザークに俺はびっくりしてしまった。

白いドレスはミニスカート。
キャミソールタイプで、胸の下に切り替えし。
ふわふわレースが歩くだけで揺れる。
背の高いイザークだから似合う。

「ほぉ…なかなか」
「ね?俺の言ったとおりでしょ??」
自信満々で言うラスティーだが、言うだけのことはある。
確かに、このドレスはとてもいい。
「じゃあ、イザ行こうか?」
「キラはまだ??」
「あぁ…置いてきた…すっかり」
俺は仕事があるというラスティーとスタッフと一度別れて、キラのところに行った。
すると、まだ試着室でなにやらやっているようだ。



「キラ??大丈夫か」
心配なイザークが声をかける。
「うーん…ネクタイが…これ、自分で結ぶもんなの??」
「私がやろう。とりあえず出てきて」
「はいはい」

キラが出てくると、やはり彼も同じようにびっくりしていた。
「イザ…すごい…似合ってる。それにしなよ」
「ラスティーにもこれがいいって言われた。他の見なくても??」
「いいよ、それが…ううん、それにしよう!!」
すっかり二人で話しが盛り上がっている…。
「キラも…凄くかっこいい」
「へへ…ありがと」
イザークはキラの蝶ネクタイを直してやりながら彼のタキシード姿にご満悦な様子。
「はいはい、ちょっと!ストップ」
俺が間に入ると、二人はなんだかつまらなさそう。
邪魔して悪かったな。

その後、何着かキラも交えてドレスを見たのだが、結局は試着したヤツが一番良いということになった。
しかも、当日はここのスタッフとラスティーが着付けとメイクに来てくれることになった。
なんとも、友達に恵まれている彼らだ。

「じゃあ、来週には教会を決めてこいよ?」
二人にそういうと、ニコニコしながら頷いていた。

二人と別れると、俺はまた別の仲間に電話をかけた。
これは当日まで、彼らにはヒミツ。

一生に一度きりのことだから。
思い出に残るものにしてあげたい。
俺は色々と策を練ることになった。



二人の希望で、家から近い本当に小さな教会に会場が決まった。
そして、二人に呼びたい人への手紙の書き方を教え、その他もろもろの準備も済ませた。
後は当日。そして、イザークの母親、エザリアを呼ぶだけだ。
これが一番大問題なのだが…。

そして式当日。
「僕…パイプオルガン弾けるなんて嬉しいですね」
「頼まれてたドラジェもって来たぞ」
二人の仲間がすでに教会に到着していた。
新郎新婦はまだ来ていない、朝7時前。
朝早い呼び出しにも関わらず、キラとイザークの先輩と後輩がきてくれた。
「ニコルは今のうち練習して…お前がオルガン弾くの二人とも知らないから。
あ、ちゃんとラッピングも…先輩すみません」
「まぁ、気にするなよ。じゃあ、これを来た人に配って…もう少ししたら、ブーケと花も来るから」
後輩のニコルには音楽を。
先輩で建築専攻だったハイネには装飾をお願いしていた。

俺はその後ラスティーの到着を待ち、先に控え室に入ってもらう。
そして、新郎新婦の到着。
キラの母親が二人を車に乗せてきた。
「貴方がミゲルさん?本当に今日は…ありがとうございます」
初めて見るキラの母親は彼に似てとても優しそう。
「いえ、可愛い後輩の頼みですから…おっと、今日はおめでとうございます」
「ありがとう。控え室は…こちらかしら?」
「えぇ。じゃあ、イザークさん、キラ行きましょうね」
「あ…はい」
キラの母親に付いて、イザークが控え室に行く。
「ん?お前も用意しないと」
「えっと…本当に今日はありがとうございました…先輩のお陰です」
改まってキラが礼を言ってきた。
それがなんだか照れくさい。
「いいんだよ。ほら、着替えて来い。かっこよくしてもらって来いよ」
「はい」
何度も頭を下げて、キラが控え室に入っていった。

その後、俺も正装に着替えて、ハイネと共に受付の準備をする。
祝日とも合って、本来ならば教会は日曜ミサがあるのだが、急遽昨日にずらしてくれたらしい。
それでも何人かの人が来ては今日のミサを尋ねてくるので、俺は丁寧に対処した。
式開始時間が迫ると、続々…とまでは行かないが、二人の友人がやってきた。
キラの双子の妹であるカガリ、同じく大学の友人であるアスラン、ラクス、イザークの幼馴染のディアッカ。
後輩のシホやシン、レイ。そしてルナマリアと妹のメイリン。
わいわいと正装をした仲間が集まっている。
彼らには受付でドラジェが振舞われた。
『幸福の種』と呼ばれるそれは、式の間近になってイザークが皆に渡したいと言い出したものだ。
ハイネに相談して用意してもらったもので、貰った彼らはそれを喜んでいた。
俺はその中でも一番頼りになりそうなディアッカにその場を任せて、叔母に電話をかけた。
何回かコールを鳴らすと、すぐに彼女が出た。
「叔母様??俺です」
『…今向かってるわよ。さすがに…このままでは、イザークから縁を切られそうだから』
「待ってますから、イザークと一緒にバージンロードを歩いてやってくださいね」

これで準備はすべて整った。



控え室では着々と準備が進んでいたらしく、俺が行く頃にはすでにキラがスタンバイしていた。
「似合ってるじゃん」
「まごにも衣装って…母親に言われましたけどね」
白いタキシードを着たキラは、とても初々しい。
「イザークは??」
「今、メイクをしてもらってます。あ、これ…指輪です。神父様に」
「そうそう、俺もそれを取りに来たんだよ」
結婚指輪は神父に予め渡しておくことになっていた。
シルバーの指輪が綺麗な台に乗っていた。
「じゃあ、あと10分したら、キラは教会の中に。ラスティーたちも中に入っているように言って。
イザークは此処で待機してるように。叔母様来るってさ」
叔母がエザリアであることをキラが認識して、顔色が変わる。
ずっと気にかけていたのだろう。安心した表情になった。
「判りました」
俺はまた教会の方へと戻った。

友人達が集まった。
教会内は楽しそうな話し声でいっぱいだが、キラが中に入ってくると一際大きな歓声が起こった。
皆がキラの元に集まる。
沢山の祝福を受けてキラもとてもいい笑顔だった。
そろそろ叔母も付く頃かと外にですと、丁度良いタイミングでエザリアが車から降りていた。
また、イザークに負けず劣らず美人で…。
「叔母様…相変わらずお美しくて」
「ありがとう、イザークは??もう用意は済んでいるのでしょ?」
「えぇ、控え室に案内します」

俺は叔母と共に、イザークの待つ控え室へと向かった。
ノックをすると、中からイザークの声が聞える。
「俺、入るぞ」
ゆっくりと扉を開けて中に入る。
そこには白いドレスを身に纏ったイザークがブーケを持ち座って待っていた。
「綺麗だな」
「えぇ…イザーク」
「は…母上…来てくれたんですね」
キラと同じようにイザークも安心した顔になった。
「一人娘の結婚式ですからね…」
「母上っ」
イザークが立ちあがり、エザリアに抱きついた。
「綺麗よとっても…さぁ、時間でしょ?行きましょうね」
母子はうっすらとお互いに目元に涙を浮かべて、でも笑いながら教会の入り口へと向かった。



「俺は裏から入ります…時間になったらこのドアが開きますので、ゆっくり入ってください。
叔母様は台座の前まで一緒に歩いていただいて…その後、キラに交代してくださいね」
手順を説明して、俺は中へと入っていった。

中に入ると、神父も位置についていた。
俺はニコルに目配せをして、音楽を開始するように合図する。
ドアを開けるのは、ラスティーの店のスタッフとハイネが手配してくれた花屋のスタッフだ。
全員が席に着き、俺の合図でドアが開いた。

白いベールに包まれたイザークとシルバーのドレスを身に纏ったエザリアがドアの向こうに立っていた。
皆が一斉に後ろを向き、そしてため息をついた。
イザークのドレス姿がとても美しく、そして綺麗であったからだろう。
髪を上げて、白く小さな花の付いたベールを被るイザークはとても神秘的で。
みんなが彼女に釘付けになっていた。
恥ずかしいのかイザークは下を向きがちだったが、それでもエザリアに連れられてキラの元まで来た。

「エザリアさん…」
「さぁ…イザーク。行きなさい」
エザリアがイザークの手をキラへと移す。
エザリアはキラには何も言わない。でも、優しく笑ってそっとその場を離れた。

神父による聖書の朗読。
そして、指輪交換と誓いのキス。
二人の幸せそうな笑顔に、俺は一安心だった。

式が終わり、フラワーシャワーを浴びて、イザークとキラが外に出てきた。
恒例のブーケ投げだ。
しかし、これもイザークたっての願いで、参加する女性分ブーケを用意していた。
一つ一つ彼女たちにイザークが手渡ししていく。
こういった心遣いの中に、イザークの優しさが垣間見られる。
質素に、でも幸福いっぱいに二人の結婚式は終わった。


その後の二次会は、キラの親友アスランが用意したレストランで行われた。
二人の馴れ初めを皆が聞きたがったりして大いに盛り上がった。
学生で結婚なんてと思ったけど。
この二人なら大丈夫。
おめでとう。
お前たちの門出を俺はずっと見守ってる。



  
END