hot-spring
四季の中で一番美しいのは、秋だと思う。
山が赤く染まり、過ごしやすい気候。
こんな時期に温泉に行くのは、最高だ。
そして君と初めての旅行。
温泉は大好きだ。
恥ずかしながら、キラとも一緒に温泉に入った。
そして、お風呂上りといえば。
一杯と相場は決まっている。
一足先に風呂から出たキラは(出ざるを得なかったのだが…)が冷蔵庫からビールを取って、先に縁側で涼んでいた。
そして、露天からイザークが出てくる音がして、彼女が来るのを待つ。
「はぁ…気持ちよかった」
髪の毛をしばって出てきたイザークは浴衣を着ていた。
とても鮮やかな花の散った濃紺の浴衣。
帯はふわふわとした白いもの。
それがとてもよく似合っていて、キラは一瞬見ほれてしまった。
「どうしたの…それ」
「ん?あぁ…女将さんが出してくれて」
結構嬉しいようで、イザークがクルリと回る。
「似合ってるよ。じゃあさ、飲もうよ」
お互い意外とザルなので、お酒は楽しみだった。
しかし、風呂に入る前に飲むと危ないということなので、
出てからのお楽しみに取っておいたのだ。
キラが栓を開けて、イザークがそれを受け取り、キラのコップに注ぐ。
キラもイザークのコップにビールを注ぎ。
「「乾杯」」
二人だけの宴会が始まった。
酒が進んでくるに連れて、話も進む。
今日行った観光地の話しや昔の話。
キラの仕事場の話などで盛り上がる。
酒も、最初はビールだったが、カクテル、日本酒、ウイスキーと多種多彩。
強い二人は片っ端から空けていった。
飲み始めてから2時間。
だんだんとイザークの表情が変化してきた。
さすがにペースが速かったのか、酔いが回ってきたらしい。
顔には出ていないが、話していると呂律が怪しい。
「イザ?」
「ん?…なに、だから、あの時は…んで…」
「呂律回ってないけど…酔ってきたでしょ」
テーブルに何本も空き瓶があり、座椅子に座りながら飲んでいたのだが、
イザークが次第にテーブルに突っ伏すような姿勢になってきた。
「ん…なんとなく」
「あーじゃあ、そろそろお開きにする?」
明日も又出かける予定になっているから、響くようなことは無いようにしたい。
「まだ…飲む!!」
しかし、イザークの手は止まらずに、コップを口に持っていき、残っていた酒を飲み干した。
「あーもぅ、やめよ。明日また出かけるし…飲めるのは今日だけじゃないんだから」
対面で座っていたキラが、イザークの方へ回り込み、さっと空になったコップを奪う。
「むっ…何すんだ」
「もう終わり。お仕舞い。さ、寝よう」
「嫌だ」
コップを取られたのがよほど悔しいのか、イザークはふらっと立ち上がるとキラの持つコップを奪い返そうとした。
しかし、いきなり立ち上がったので、足がもつれ、キラに向かって倒れこんだ。
「いったい…」
「うぅ…んー」
イザークに押し倒されるような形で、畳に倒れこんだキラ。
その反動で、手に持っていたコップはゴロゴロと畳の上を転がっていった。
「大丈夫?」
少し背中を打ったが、たいしたことはない。
自分に倒れこんだイザークが気になり、声をかける。
「んー…へい…き」
ゆっくりと起き上がったイザークのあまりに扇情的な姿に、キラは目を奪われてしまった。
浴衣は肌蹴、下着をつけていない胸は、見えるか見えないかのきわどいところ。
裾も開けてしまい、綺麗な足が覗いている。
しかも、自分の上でイザークがこうなっているというのがたちが悪い。
「っ…イザ」
キラは思わずイザークを抱きしめた。
内心、チャンスなどと思いながら、イザークの腰に手を回し、さぁ!と意気込んだら。
肩越しにイザークの寝息が聞えてきた。
「…嘘でしょ」
ゆっくりとイザークを引き剥がしてみると、すやすやと眠る姿。
キラが気がつかないうちに、イザークはかなりハイペースで飲んでいたようだ。
でなければ、2時間ぐらいで酔うはずはない。
「はぁ…」
仕方ないので、キラはイザークの浴衣をキチンと直して、彼女を布団まで運んだ。
折角二組引いてもらった布団だが、キラとしては一緒に寝たいので、一つだけ使うことにした。
イザークを横たえて、電気を消し、彼女を抱きしめてキラも眠りに付いた。
結構飲んだのにも関わらず、キラは朝7時には起きてしまった。
朝食は8時半なので、それまで時間がある。
自分の横に寝ているイザークを起こさないようにキラがゆっくりと布団から出る。
彼女は気付く様子はなく、眠り続けている。
「お風呂でもいこうかな」
イザークにもう一度きちんと布団をかけて、キラは部屋風呂へと足を向けた。
朝風呂に入るのは、意外と気持ちがいいもので、キラはついつい長風呂になってしまった。
もうそろそろ上がらないと、部屋に料理が来てしまうし、イザークも起こさないといけない。
最後にもう一度温まって、キラは風呂から出た。
出かける用に服を着て部屋に戻ると、案の定イザークはまだ寝ている。
キラが布団を綺麗にかけなおしていったのにも関わらず、布団はずれ、すでにイザークの上にかかっていない。
昨日の夜のように、浴衣は肌蹴、足はむき出し。
「…まったく」
はぁっとため息を付いて、キラはイザークに覆いかぶさった。
「イザが悪いんだよ〜」
そう言ってキラは、イザークの顔に触れた。
優しく頬を撫でて、口元に手を持っていき綺麗な唇をそっと開く。
絶えず寝息が聞える。
キラはそれを塞ぐように、イザークの唇にキスをした。
軽く触れても気がつかないのはキラも判っている。
だんだんと触れている時間を長くしていき、最後は舌を入れて深く深く口付けた。
ぴちゃっという音を響かせて、キスをする。
このぐらいになるとさすがにイザークも覚醒しだす。
もぞもぞと動き、眉間に皺が寄る。
キラの手が、胸に触れたときにはさすがにイザークは目を開けて抵抗した。
「な…なに、キラ??」
「んーおはよ」
ハァハァと浅い呼吸を繰り返して、イザークが目覚めた。
「朝からなにして…」
キラがゆっくりとイザークの上からどいて、イザークも布団の上に座る。
「あんまり、素敵な格好してるから…ね」
キラが指差して、イザークがはじめて自分の格好に気がつく。
浴衣の前は肌蹴、あられもない姿を晒していた。
「うあぁぁ!!」
慌てて前をかき合わせて、イザークは立ち上がって風呂のほうへと駆け足で走って行った。
「…いきなり立ってはしると…あぁ」
危ないといおうとして、風呂場のほうでガチャンという音がした。
「あー…落ち着きないんだから」
キラはしょうがないといった風に笑い、簡単に布団をまとめだした。
イザークが戻ってくる頃には、朝食も運ばれてくるだろう。
今日又観光に行って宿に帰ってきたら、明日には帰らなければならない。
思う存分楽しもうと、キラはガイドブックを取り出し、眺めながらイザークと朝食が来るのを待った。
END