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春めく陽気。
今年は桜がまだ散らずに、残る。
ここは国が設立した大学。
今日は、この大学の入学式が執り行われる日である。

正門をくぐるとまっすぐに伸びる並木道。
その突き当たりには、この大学の初代学長である、名誉教授の名が刻ませた大講堂がある。
今日の入学式はこの大講堂で行われる。
並木道では、真新しいスーツに身を包んだ新入生たちが、先輩たちのサークル勧誘に答えながら、みな大講堂を目指していた。
そんな並木道に面した大学校舎2階の窓に2人の人影があった。

「やっぱり、若いよね。10代だもんね」
茶色い髪の毛に大きな紫の瞳。
人懐っこそうな笑みを浮かべて、新入生を眺めているのは、工学部3年のキラ・ヤマト。
「親父くさいぞ」
その発言に、突っ込みを入れているのは、キラと同じく工学部3年のアスラン・ザラだ。
紺色の髪にエメラルドの瞳。
キラよりはニヒルな感じの笑みを浮かべでるその様は、近寄りがたい高貴な雰囲気が漂う。
「あ、シンちゃん発見!ほら、アスラン」
キラが、誰か知り合いを発見したようで、並木道の人を指差す。
「レイのか…」
レイというのは、この二人の所属するサークルの後輩である。
シンというのは、そのレイの彼女だ。
どうやら、この大学に無事に入学できたようだ。(レイは、シンの出来が悪くてかなり四苦八苦していた)
写真で見せてもらった彼女は幼い印象があったが、今日は化粧をしているのだろう。
スーツも手伝って、ずいぶん大人びて見える。
だが、それよりも目を引く人間をアスランが見つけた。
しかしそれはキラも同じだったようで、二人で声がそろう。

「「あっ!」」

二人して、同じ人間を指差す。
その先には、銀色の長い髪を風になびかせて、シンの横で笑う一人の女の子がいた。
「どうして、かぶるかなぁ」
キラが、アスランを嫌そうな目で見る。
「それは、俺も同じ。まったく」
アスランも頭を掻いて、キラと同じように嫌そうな表情をしている。
この二人は、生まれたときから一緒に育ったようなものだったので、何かと好みが似るのだ。
大学の学部もそうだし、趣味も似ている。
「しかし、美人だなぁ…でも、ああゆうタイプに限ってすごい純情なんだよね」
「そうだな、からかいがいがある」
くすくすと二人で笑っていると、先ほど話題にのぼっていたレイことレイ・ザ・バレルが二人の下にやってきた。
この部屋は、3人が所属するサークルの部室だ。
「先輩たち、俺だけに勧誘させるつもりですか?」
もともと無口なレイは人に話しかけたりするのがものすごく苦手だ。
なので、とても勧誘なんてできないとわかっていて、この二人は面白半分で勧誘作業をレイに任せていた。
レイは、金髪のストレートヘアで、まるで容姿は本から抜け出した王子様のようだ。
そこにいれば、女の子たちが集まるだろうとも二人は考えていたが、むしろ近寄りがたかったようだ。
「収穫は?」
どうせ、いないだろうと知りつつ、アスランが聞く。
「いませんよ、たぶんシンは俺にくっついて入るでしょうが…」
「そうだね、。あ、ねーレイ。あの子知ってる??」
ずっと窓の外を見ていたキラがようやく振り返る。
「誰です??」
レイが窓に近づいていき、キラの指差す人間を確認する。
「ほら、君の彼女の横にいる、銀色の髪の美人さん」
キラが指差す方向には、自分の彼女であるシンと一緒に、高校時代の後輩、イザーク・ジュールの姿があった。
「俺の高校の後輩ですよ」
「じゃあ知り合いなんだ、しかもシンちゃんの隣にいるってことは…友達同士?」
「親友です」
キラは、ラッキーと言わんばかりに指をパチンと鳴らした。
「そうか、じゃあレイ。彼女を打ちのサークルに入部させてくれ。これ、命令」
アスランが、ビシッとレイを指差して命令する。
ちなみに彼がサークルの部長であった。
「はぁ、わかりました」
またよからぬことを考えているなとレイは思いつつ、この二人に逆らうと痛い目を見ることはわかりきっているので、
二つ返事で了解する。
「じゃあ、早速シンのところに行ってきます」
「がんばってね〜」
キラに元気よく送り出されて、レイはシンの元へと向かった。



ただいまの時刻は、午前九時。
大講堂での式は九時半からの予定なので、イザークとシンはまだ講堂に入らずに外で話をしていた。
「ほんと、ほんと!!入れると思って無かったよーー」
おお喜びしているのは、さっきも話題に上っていた人間の一人。
レイの恋人シン・アスカである。
お世辞にも頭が良いとはあまりいえない彼女は、恋人とそして大親友と同じ大学に行くべく猛勉強をしたのだ。
回りからは、お前が国立大学に入れるわけが無い、やめろと散々言われたが、
大親友と彼氏が根気欲勉強に付き合ってくれたので、補欠だったが入学することができた。
「私もだ、でもこれがお前の実力なんだ。やればできるって証明できてよかったな」
イザークは、頭を撫でてシンをほめてやる。
「うんうん、あー早くレイと会いたいなぁ」
「今日は、先輩来てるんだろ?」
「入学式前に顔出すって言ってた…あ、いた。レイ!」
並木道横の校舎から出てきたレイをシンが見つけて、手を振る。
それにレイが気づいて、駆け寄ってきた。
「シン」
レイはシンたちの所まで行くと、シンの頭をイザークと同じようにそっと撫でた。
「よかったな、おめでとう。イザークも…」
「はい、ありがとうございます。3年間またよろしくおねがいします」
「へへ、レイぃ」
きちんと挨拶するイザークとは対照的にシンはレイに抱きついた。
「…まったく」
レイも口では嫌がっていても、さりげなくシンの背中に腕を回している。
結局のところ、相思相愛なのだ。
「そうだ、シン、イザーク。話があるんだが…まだ、時間大丈夫か?」
やさしくシンを自分から離して、レイがさっきのことを切り出す。
「っと、すみません、私はもう行かないと」
「あ、そうだね。なるべくわかりやすいところに座っておく」
「じゃあ、先輩失礼します」
後でね〜とシンが手を振って、イザークを見送った。
「イザークは何かあるのか?」
「新入生代表挨拶の原稿もらうんだって…やっぱりイザってすごいよね」
「あぁ…で、話なんだが、式が終わったら今日はもう終わりだろ?サークルの部室に案内してやるから、
お前イザーク連れて、大講堂の入り口で待ってろ」
レイが腕時計を見ると、もう式開始まで10分しかない。
そろそろシンを大講堂の中に入れないといけないので、話を切り出す。
「うん!行く。イザ同じところに入ってくれるかなぁ…」
「まぁ、話を聞いて決めればいい。じゃあ、早く行かないと遅れる」
手を振って、シンは講堂の中に入っていった。
それを見届けて、レイはアスランとキラの待つサークル室と戻った。

「普段無口なのに、シンちゃんの前では違うんだねぇ」
帰ってくるなり、まだ窓際にいたキラのそんな言葉。
「見てたんですか…いいじゃないですか、別に。後で迎えに行くことになりました」
むすっとして、部屋にあるソファに座る。
この部屋にはソファが2脚、コンピューターが3台とそのデスク。
そのほか、ポットや食器を置く棚や冷蔵庫に電子レンジ。
かなり充実したつくりになっている。
レイが戻ると、アスランはパソコンで何かしていて、キラはまだ窓の外を見ていた。
「そっか、楽しみ。あー…喉渇いた。アスラン、レイ何か飲む?淹れるよ」
「俺、アイスティー」
アスランが、そう答える。
パソコンにかじりついていたと思ったら、ちゃんと聞いているところはさすがだ。
「俺が淹れましょうか?」
「いいよ、勧誘とか疲れたでしょ?ソファに座ってなよ」
キラは窓際に持っていった、パソコンデスク用の椅子を片付けて、冷蔵庫を漁る。
「皆、アイスティーね」
キラは、うきうきしながら、アイスティーのパックを取り出して、コップに注いだ。



「お疲れ、どうだった入学式は」
がやがやと大勢の新入学生が大講堂から出てくる。
式が終わる前からレイは彼女たちを待った。
「レイ!すごかったよ〜イザかっこよくて」
レイを見つけるなり、シンはイザークの手をとって、レイの元へかけっていった。
「イザークはああいうの得意だよな。高校のときも弁論大会とか出てたし」
レイが高校時代にイザークがリベートの全国大会に出たときの事を思い出した。
シンと一緒に決勝戦を見に行ったのだ。
「いえ、ああいうのはやはり緊張します」
「でも、皆釘付けだったよ〜イザ美人だし。へへ、自慢できる」
「ありがと」
イザークがまたシンの頭を撫でる。
シンは、頭を撫でてもらうのが好きだった。
イザークの手は優しくて暖かいし、レイも同じなのだ。
「じゃあ、シン、行くぞ。イザークも悪いが、付き合ってくれ」
「かまいませんよ。先輩がどんな活動してるのか気になりますから」
イザークとシンはレイの後について、並木道の横にあるサークル会館に入っていった。

「ここだ、さぁどうぞ」
レイがドアを開けてくれて、二人は失礼しますと部室に入っていった。
中では、ソファにアスランが。
ソファの後ろに、パソコンデスクの椅子を持ってきてその背もたれに両肘をかけて座るキラの姿。
「あ、キラさん!」
「やぁ、シンちゃん。覚えててくれたの?まぁ座って。レイ、飲み物お願いね」
キラが人懐っこい笑みを浮かべて、二人に手招きする。
「シンは、オレンジジュースでいいか?イザークは…ブラックのホット?アイス?」
「うん!」
「じゃあ、アイスで。すみません」
レイに飲み物をたのんで、イザークとシンはソファに座った。

「僕は、ここのサークルの副部長のキラ・ヤマト。工学部の3年です。でこっちが」
「部長のアスラン・ザラだ。学部はキラ同じ、よろしく」
「シン・アスカです」
「イザーク・ジュールです、私たちは二人とも文学部です」
それぞれが挨拶をする。
「実は、このサークルは大半が去年の4年生で構成されてて、皆卒業してしまったんだ。
なので、人手が足りないし、うちの大学は最低5人いないとサークルとしては成立しない。
で…単刀直入に言うと、入って欲しいんだ」
アスランが、入部希望の書類をソファの前にあるテーブルに、二枚おいた。
「シンちゃんは、入るんでしょ?」
「はい、レイがいるし…でも、イザは」
「あーまぁ、ほかのところで見たいところも無いけど…でも、なにやってるんですか?」
いきなり入ってくれと言っても、何をしているのかわからなければ、入りようも無い。
「ロボットを作ってるんだ」
レイがジュースとアイスコーヒーを持って戻ってきて、ちょっと説明をする。
彼女たちの前において、そしてアスランとキラにもコーヒー(キラはミルクと砂糖をたっぷり入れないと飲めない)
を差し出し、自分はアスランの横に座った。
「「ロボット?」」
「遺跡発掘用の、小型ロボット。俺たちは、学校側から資金をもらって活動してる。
結構しっかりとした活動をしてるんだ。そのために、文献を読んだり、その遺跡に行ったりしないといけない。
俺たちは理数系だからもっぱら、ロボット製作中心だけど、君たち文学部なんだろ?文献購読とか…興味ない?」
アスランが部の詳細を説明する。
結構大掛かりなことをやっている部だったので、イザークとシンは驚いた。
「へぇ…すごいんですね」
「文献ですか…シンは本読むのは好きだよね」
シンは、勉強はあまり得意ではないが、本を読むのがすごく好きだった。
それはイザークの影響でもあるけれど、記憶力も本に関してはすごくいい。
「うん、でもイザだって好きでしょ?それに遺跡だって。イザ歴史好きじゃん」
「まぁ」
どっちにしても、二人とも本好きということには変わりは無い。
「じゃあ、いいんじゃない??楽しいよ〜入ろうよ」
キラが勧誘する。
「イザ…どうする?」
「うーん」
文献を読めるのは魅力的だし、遺跡にはものすごく行ってみたい。
シンとは離れたくないし…どうせ、シンはこのサークルに入るだろうし。
どうする?とイザークのスーツの袖をつかむ彼女の目は入ろうよ〜と言っている。
「ねーイザぁ」
「わかった。わかりました。じゃあ…よろしくお願いします」
イザークは、アスランやキラに頭を下げた。
それに続いて、シンも「お願いします」と頭を下げる。
その瞬間に、キラとアスランがにっこりと笑ったのを見るものは、誰もいなかった。



数ヵ月後。
イザークたちは大学にも慣れて、サークル活動にも慣れていった。
サークルは結局ほかに部員が入らず、5人での活動となった。
7月の前期定期試験が終わった後すぐに遺跡見学に行くために、5人は忙しくしていた。
イザークとシンは授業の合間をぬって、サークル室に顔をだして、読んだ遺跡の文献の話をした。
アスランとキラはロボットの組み立て、レイもそれを手伝ったり、設計の計算をしなおしたりした。
イザークは数学も得意なので、レイの手伝いをし、シンは手先が器用なので組み立てを手伝った。
仲間として打ち解けるのに時間もかからず、5人は仲良く活動をしていった。
6月下旬ごろにようやくめどが立ち、7月の試験前には忙しさから開放され、勉強に専念できる状況になった。
シンだけがテストに四苦八苦していたが、イザークのおかげで追試もなさそうだし、
夏休みのレポートも少ないので、有意義な夏休みになりそうだ。

試験週間の最終日に5人はサークル室にあつまった。
今回見学に行く遺跡の資料と日程をアスランから告げられる。
「明後日、10時に大学正門集合。で、遺跡へ行き見学とビデオカメラでの撮影。
許可はもらってるから、今回作ったロボットを試運転して、記録をとる。
その後は、俺の家の別荘に行って、まぁお疲れ様会。一泊二日でちょっと強行だけど、がんばろう」
それぞれの役割分担も決めて、遺跡までは車で行くことになった。
車はレイが用意して、運転はレイ・アスラン・キラのローテーション。
昼食は、シンとイザークが用意して、夕飯は別荘の近くにレストランがあるのでそこでとる。
朝食は、別荘の管理人さんが作ってくれるようだ。

前日、シンはイザークの家に泊まって、当日二人は朝早く起きて、昼食のお弁当作りにいそしんだ。
イザークはどちらかというと洋食が得意なので、サンドイッチやそれと合う付け合せを。
シンは、和食好きなので、いろいろな種類のおにぎりや煮物、出汁まき卵を作った。
お弁当と自分達の旅行かばんを持って、家を出ようとしたら、シンの携帯電話が鳴った。
相手はレイでこれから迎えに行くので待っているようにということだった。
荷物が重いと思ったのだろうか、先に迎えに来てくれたのだ。
レイに荷物を車の一番後ろにおいてもらい、シンは乗りなれた助手席に、イザークは後ろのシートに乗った。
レイの所持する車は顔に似合わず、大型のワゴン車だ。
「キラさんとアスランさんは?」
車を走らせると、シンが聞く。
「まだ、大学にいる」
あの二人は、先に大学で、ロボットを頑丈な箱に詰めてる。
時間かかりそうだから、迎えにいったらどうだといわれたようだ。
大学に着くと、少し大きめの箱を横にバックを持ったキラとアスランが待っていた。
正門の端に車を止めて、レイが後ろを開ける。
箱は壊れるとまずいので、一番後ろのシートに乗せた。
全部乗せたのを確認して、最後にレイが運転席に乗って、いよいよ出発となった。

遺跡までは約4時間の長旅だ。
途中何度か休憩を取って、遺跡に付いたのは午後1時過ぎ。
平日だったこともあり、道が空いていたので、休憩をとってもこの時間に着くことができた。
まず、腹ごしらえをかねて、イザークとシンが作ってきた昼食を食べる。

「へぇ、二人で作ったの?美味いね〜」
キラが感心したように、お弁当を平らげていく。
レイは二人の料理は食べなれているが、天気のいいそして外で食べるのはさらにおいしく感じる。
「あぁ…意外だな」
「それ、失礼です!」
「こら、シン…」
少しむくれたシンがアスランに言う。
そこに、仲裁に入るように、イザークがシンをやさしく咎める。
「悪い…美味いよ」
楽しい食事が終わると、いよいよ遺跡の中に入る。
管理者に書類を渡し、中に入る。
そこまで大きくは無いが、どうやら壁画があるらしい。
入り口は小さいため、早速ロボットを組み立てる。
イザークやアスラン、レイが組み立てている間、イザークがビデオカメラの準備をして、
シンはカメラで遺跡の外観を写真に収めた。



ロボットの組み立てが終わると、アスランがそれの先端に超小型の赤外線カメラを取り付け、小さな入り口から入れる。
コントロールは、すべてパソコンとコントロール用のリモコンで行う。
内部にロボットが入るとすぐにパソコンに中の映像が入ってくる。
キラが、それを見ながらゆっくりと操作した。
レイとアスラン、そしてイザークとシンはそれを見守った。
1時間かけて、内部の様子を観察し、ロボットのバッテリーが切れる直前で内部から出す。
欠点はどうやら燃料の燃費にありそうだ。

「映像は、まぁまぁだな…あとは、燃料か」
パソコンで映像を再度確認しながら、アスランが言う。
「そうだね、今回はアルカリだったから…でも結構持ったほうだと思うよ?」
「リチウムだったら、でも…」
キラやシンが充電器について語り合うが、そこらへんはイザークとキラはわからないので、話にははいていけない。

「シン、写真は撮れたの?」
電池トークに花が咲いている男子達から離れて、イザークとシンが話しをする。
「うん!見てみて〜」
シンがレイから借りたデジタルカメラをイザークに見せる。
「綺麗に取れてる…でも、レイ先輩の写真は要らないよ…」
「…へへっ。だって、ほしかったんだもん!!」
付き合って、3年以上経っているはずなのに、いまさらなことをシンが言う。
でも、そこも可愛らしいのでなぜだか許せてしまう。
「プリントして、部屋に飾るんだ」
「はいはい」
仲良く話している所に、アスランの声が響く。
どうやらもう話が済んだらしく、一度機材を置きに別荘へ帰るらしい。

「…大きいお屋敷ですね」
「そうかな?」
「アスランの実家のほうが、大きいよね」
レイの車に乗り込んで、車で1時間程度のところにあるアスランの別荘へ向かう。
着いたところには、お城のようなお屋敷があった。
イザークがあまりの大きさに少々引く。
だが、レイやシンもかなりの金持ちの子息なので、あまり驚きはしていない。
イザークの家も、それなりの大きさがある。
しかし、その比ではなかった。
「まぁまぁ、坊ちゃまお久しぶりです」
荷物を持って屋敷の玄関を開けると、中では管理人である中年の女性が待っていた。
「お久しぶりです。でもすぐに出ますので…これから、夕食をとりに行くので、
その前に荷物を置いていこうとおもいまして」
「そうだったのですか、実は夕食をご用意しようと思っているのですが…どうですか?
これから車を走らせるのも大変でしょう?研究でお疲れなんじゃないのですか?」
「あぁ、そうですね。じゃあ、お言葉に甘えて…みんないいか?」
皆コクコクとうなずいて、それぞれ部屋に案内された。
一人一室のはずだったが、シンはどうしてもイザークと同じ部屋がよかったので、ツインの部屋を用意してもらった。
部屋に荷物を置いた後、温泉があるというので、先に入っていいよというアスランの好意を受けて、
イザークはシンと一緒にお風呂に入る。
お風呂を出た後、ちょうど良いタイミングで夕食の声がかかる。
ダイニングに下りていくと、とても豪華な夕食が用意されていて、その料理を皆で味わった。

夕食が終わり、今度はレイやアスラン、キラが温泉に入る。
彼らが、出終わったあと、ちょっとした反省会が開かれた。
管理人が気を利かせて、おつまみやアルコールを用意してくれた。
シンは酒には弱いが、酒好きで、イザークはあまりアルコールは好きじゃないが、かなりのザルだ。
今日の遺跡の見学の話をしながら、アスランやキラ、レイはビール。
シンとイザークは、アルコール度の低い果実酒を飲んだ。
話は弾み、これからの予定や今度のロボットの構想を話した。
しかし、だんだんとシンに酔いが回ってくる。
「シン…大丈夫か??」
「う?…うん、平気」
顔には出ないが、目がかなり据わっているので、結構酔っているのだろう。
「レイ先輩…あの、お願いします」
そろそろ寝かせておかないと、シンはいきなり笑い出したり、踊りだしたりする。
以前、高校の卒業式の後、レイの家でお祝い会を開いてもらったときもシンが飲みすぎて、
大変なことになったことがあった。



シンは寝室に戻る事を拒んだが、レイに言われてしぶしぶ部屋に戻った。
そして、一人で帰って途中で倒れたりしたら危ないの。
レイも今日は疲れたということで、シンをおいたら、そのまま自分の部屋に戻るといって出て行った。
「シンちゃんって面白いなぁ…」
キラがくすくす笑う。
「あのままほって置くと、大変なんです」
「それにしても、イザークは酒強いんだな…果実酒もいいが…カクテルで美味いのがあるけど、飲むか?作ってくるぞ?」
シンとは違い、ザルなイザークはかなり飲んでいても顔色ひとつ変化しない。
「あー、僕も飲みたい!!カシス、カシスのがいい」
「イザークは??まだいけるだろ?つまみも持ってくるし、キラと同じのでいいか?」
「じゃあ…はい」
キラがウインクをして、「じゃあ、よろしくね」とアスランを見送ると、
アスランも頷いて宴会をしていたゲストルームを出て行った。

「レイはシンちゃんにべた惚れなんだね。普段無口なくせに、あの子の前だとデレデレ」
残っていたビールを流し込んで、おつまみのクラッカーを食べながら、キラが言う。
「はい。幼馴染なんですよあの二人。私は、中学からの友人ですが…シンが可愛くてしょうがないんでしょう。
私も、シンは可愛いと思います。ほっとけないし、一緒にいて楽しいし」
「でも、僕らはイザークの方が好きだけど?」
「はい?」
いま、さりげなく言われたが、別にキラの表情は変わっていない。
またおつまみに手を伸ばして、ポリポリと食べだす。
酔いが回っているのだろう、キラの顔はほんのり赤い。
「イザーク、兄弟は?」
ガラリと話がかわったので、イザークはやはり酔っていたと判断した。
「いませんよ、一人っ子です」
「ふーん、僕はね、双子の姉がいるよ、あとアスランとは生まれたときから一緒だから、兄弟みたいなもんなんだよね」
「へぇ、双子なんですか」
「そう、うるさいし、大変だよ。幼馴染っていってもレイとシン見たいに綺麗なもんじゃないんだよ〜。
男同士だと、欲しいものとかかぶるし、分けられればいいんだけどね」
ぽつりぽつりと、自分達の話をしていると、アスランが3人分のカクテルを持って戻ってくる。
それからカクテルを飲んで、話をして宴会はお開きになった。

アスランはこの別荘に自分の部屋があるらしくそこに泊まる。
キラはその横の部屋のようだ。
かなりの数の客室があるし、3階建てなので、迷子になりそうだ。
なので、イザークは玄関から一番近い客室を選んだ。
しかし、この場所からは結構遠い。

部屋の前に着くと、うっすらとドアが開いていた。
「ん…シン開けっぱな…っ」
シンしかいないはずの部屋から声が聞こえる。
それは、明らかに艶やかなシンの声で。
「…レイ先輩帰らなかったのか」
現状をすぐに理解して、はぁ、とイザークはため息をつく。
イザークは仕方が無いのでどこかの別の部屋を探す。
近くの部屋にすると、声が聞こえて眠れないと困るので、少しはなれたところまで移動する。
しかし、数メートル歩くと、イザークの体に異変が起きた。
いきなり、背中を熱いものが駆け抜けたのだ、目の奥が熱くて、足がいきなりガクガクする。
「なに…」
これ以上歩けなくて、その場にしゃがみこむ。

「イザーク…ここにいたの?探したよ」
「アスラン先輩?」
「…」
アスランは無言でイザークに近寄り、彼女を抱き上げた。
「なにして…先輩??」
「大丈夫…熱いんだろ。俺達が助けてあげるよ。イザーク」
抱き上げられて、耳元でささやかれる。
やさしすぎる声。
その声すら、体を駆け抜ける炎と化す。

何がなんだか、理解できない。
でも、これだけはわかる。
きっとこの、熱さを取り除けるのは、この人達だけなんだということ。



  
END