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キラキラ光るもの。
ゆらゆら揺れるもの。
自分の目の前をそれらが通りすぎた。
イザークは、海深くに落ちていこうとするそれらを、追って拾い上げた。
良く見ると、綺麗な花束と瓶に入った指輪。
「海の中に、こんなもの捨てるな」
そう、悪態を付く。
しかし、花束は海の中に入ってしまっても綺麗だし、ガラス瓶に入った指輪は自分の目と同じ色をした宝石だ。
青い石が煌く。
イザークは、瓶のふたを開けて、興味深げに指輪を取り出した。
誰のものかも知らない。
きっとそれは人間のものなのに、その青い宝石に魅せられて手の平に乗せてみる。
シルバーのリングを台に青い宝石がポツンと乗っているだけの、とてもシンプルなもの。
でも、それがイザークはとても気に入ってしまった。
だが、指にはめたくなって、ふと気付く、リングの内側に掘られた言葉。
『さよなら…最愛なる人』
「…っ」
こんなものを捨てるなんて、信じられない。
イザークは、急いで海面付近まで泳いだ。
イザークが、ゆっくりと顔を出した場所は、岩場の近くの浅瀬だった。
周りに注意しながら、見渡すと、一人の紺色の髪をした人間が去っていくのが見える。
黒い服を着ていた。
アレは、前に何かで読んだことがある。
人間は、死ぬと葬式というものをして、その時は黒い服を着るのだという。
あの、一緒に投げ込まれた花は、きっと「献花」だ。
ひどく、悲しい気持ちになって、イザークは引き換えした。
指輪を持って。
そして、魔法使いの元へと急いだ。
人魚達がすむ海底よりもさらに深いところに、魔法使いは住んでいる。
彼は、あまり人魚達と積極的にかかわりを持とうとはしない。
だが、別に人魚が嫌いというわけではなく、あまり他者との交流を好まないだけなのだ。
なので、誰かしら来れば、それ相応の対価と引き換えに色々な薬や道具をくれる。
「ミゲルッ!!」
「あーもぅ、イザ早いよ」
ミゲルの元へ行く手前で、友人のキラに出会った。
どこに行くのかと聞かれたので、「ミゲルのところ」と彼女が答えると、「ぼ…僕も行く!!」と後を着いてきた。
「なんだ、お前らか」
魔法使いミゲルは、人魚でもないのに、海の底で暮らしている。
特殊な魔法を使って、海の中でも生活できるようにしているらしい。
なので、彼の家に入ると空気はあるが、重力は無いので、体がふわふわする。
重力があっても、尾びれでは歩けないので、そのほうが人魚にとっては都合がいい。
「で、お前ら、何の用?」
「僕は別に・・・」
「用があるのは、私だ。陸に上がりたい。薬をくれ」
「はぁ?」
宙に浮く椅子に座りながら、ミゲルはタバコをふかしている。
彼が、めんどくさそうに聞くと、キラを押しのけてイザークが頼みたいことを話した。
「今日、これを拾った…」
持っていた指輪をミゲルに手渡す。
彼もそれを受け取り、良く見て顔が変わった。
「で?これを持ち主に返しにいくって?アホらしい…勝手に捨てたんだったら、ほっとけ。
第一、誰が捨てたのかもわかんないんだろ?探すの大変じゃないか」
もっともらしいことを言われて、イザークはちょっとむかついた。
「そうだが・・・こんなもの捨てるなんて、きっと形見なのに」
「だからだろ?持ってても辛いから、捨てたんだろうよ」
「っ」
イザークがいきなり拳を振り上げたので、キラが仲裁に入る。
「ミ…ミゲルさん、イザークは一度決めたら動かないこと知ってるでしょ?お願いです。
彼女の好きにさせてください」
「はぁ…判った、でも、それ相応の対価を頂く。そうだな…陸に上がっても声は出せない。
あと、少しでも水に触れたら元に戻る。それでもいくか?」
結構きつい対価ではある。
しかし、それでもイザークはこの指輪を返したかった。
自分と同じ瞳の色の宝石。
それを捨てた人間に興味もあった。
「わかった。返してきたら、すぐに戻る」
『岩場に出たら、そこに乗って潮が引くのを待って。それから、この薬を飲め。俺の作った薬だ、服も出てくる』
イザークはミゲルから薬を貰って、すぐに海面へと顔を出した。
きょろきょろ見渡して、岩場を差だし、飛び乗る。
「っと、後少しで、潮が引くから、それから・・・」
ミゲルの持つ水晶には、岩場に飛び乗ったイザークの姿が映し出されていた。
「まったく、あのお転婆は仕方がないな・・・」
「はい…でも、言い出したら聞かないから」
彼女は、いつもこうだ。
きっとあまり物事を考えていない。
自分が返したいと思ったから、返しにいく。
それを捨てた人間の気持ちを考えない所は、あまり良くないところだけれど。
「俺が見てる…安心しろ」
「はい…。でも、何かあったら、連絡してください」
潮が引いて、尾びれが乾く。
岩場も太陽に照らされて乾いていた。
それを確認して、イザークは液体状の薬を飲み干す。
下半身が焼けるように熱くなり、物凄い痛みが襲うと思った瞬間、一気に二本の足が現れた。
服は、彼女の尾びれと同じ白いワンピースだ。
「……」
声を出してみるとやはりでない。
でも、返すだけだし大して支障は出ないだろうと思い、
イザークは岩場を歩き、喪服を着た紺色の髪の人間が歩いていった方向へと向かった。
岩場から砂浜、そして林よりさらに遠くに見えるのが街だろうか。
この海岸は、そこからかなり離れた場所にあった。
岩場を抜け、砂浜に出ると、一軒の古い家があった。
そして、そこでイザークは、指輪と花を海に投げた紺色の髪の人間を見つけた。
人間は男だった。
砂浜と防風林の間にある家の小さな庭で、彼は一人立っていた。
何もすることなく。
しかし、イザークが近づくと、砂を踏む音でだろうか。
男は、イザークの存在に気付き、彼女の方へと向いた。
「(あの、これ…って、声出ないんだよな)」
自分の存在に気付いた人間に、イザークは瓶を掲げて声をかけようとしたが、
ミゲルとの交換条件で声は出ないのに気付き、とにかく瓶を高々と上げて見せた。
「…っ」
瓶の存在に気付いたのか、男は顔をこわばらせる。
でも、イザークは早く指輪を返したくて、男のところに早足で近づいた。
男は、少々身構えて、でもイザークが来るのを待っていた。
「(これさ、オマエのだろ?)」
声が出ないので、何とかジェスチャーで意思を伝えようとする。
「?」
「(だから…)」
やはり、伝わらないのか。
そうイザークが思った時に、男が気付いてくれた。
「君…声が出ないの?あ…文字とかなら…書ける?」
「(文字?あーミゲルに教わったやつな、書けるぞ)」
イザークは、ウンウンと頷いた。
男は、とりあえず中に入ろうといって、イザークを古い家の中に案内した。
「(うわ…本だらけ)」
一歩男の家の中に足を踏み入れると、そこらじゅに本が積み重なっていた。
本を崩さないように、気をつけて、ちょっとは片付いているリビングのようなところに案内され、
椅子に座るように促された。
「ごめんね、汚い家で、此処座って、今飲み物でも持ってくるから」
「(飲み物!!いや、いらない)」
そう言って手を伸ばそうとしたが、すでに男はキッチンへと入ってしまった。
「(…飲まなきゃいいんだ…飲まなきゃ)」
仕方なく、イザークは椅子に座って、男が紙とペン、そしてお茶を持ってくるのを待った。
「はい、お茶どうぞ。これ、ペン。紙は…あった。俺の名前はアスラン。君は?」
「(えっと、イザーク…ジュール)」
アスランと名乗った男は、イザークにペンと紙を渡した。
「イザークね。で、その瓶を俺に返しに来たの?」
アスランは彼女がテーブルの上に置いた瓶を指さす。
「(そうそう)」
カリカリという音が家に響いた。
「それは、捨てたものだから…君に上げるよ。わざわざ、持ってきてくれて悪いけど」
「(でも、大切な人のなんだろ?捨てるなんて、ひどいじゃないか!!)」
イザークは、そう、紙に書きなぐった。
アスランの顔が、悲壮に歪んだ。
「…もう、忘れたいから捨てた。持っていても、辛いだけだから…」
「(でも)」
それでもイザークは食い下がった。
「いいって言ってる!!」
あまりのしつこさにアスランは切れる。
ガシャン
アスランがテーブルを叩いて、イザークを怒鳴りつけた瞬間、
テーブルがグラついて、ほんのちょっとのお茶がイザークの指にかかった。
「(まずい!!)」
そう彼女が思った時にはすでに遅く、イザークの体は本来の姿に戻っていた。
「君…大丈夫」
ジュワジュワという音の後、イザークの足が尾びれに変化し、椅子に座っていられなくなって体が床に落ちた。
その拍子に、その場にあった本もガサッと倒れる。
イザークの目の前になだれ落ちた本は、すべて人魚に関する書物だった。
「何これ…」
自分を対象に書かれた本を見て、イザークが青ざめる。
「うわぁぁぁ!!!」
突然床に倒れたイザークを助けに駆け寄ったアスランが、彼女の姿を見て混乱し、声を上げた。
「に…人魚…?本当に…人魚…あ…あはははは」
最初彼の声は、驚きと奇妙さの混じったものだった。
しかし、次第に嬉々とした声色に変化し、最後には笑い声となって、それが家中に響いた。
「やっぱりいた、人魚はいたんだ、俺は嘘つきじゃない。俺は…」
狂ったように喜び笑うアスランの声を、イザークは床に倒れながら聞いていた。
「あのバカ!!」
水晶から様子を伺っていたミゲルが呟く。
イザークが本来の姿を取り戻してしまった映像がそれに映し出されていた。
人間は、珍しいものが好きだし、今回の場合、アスランという男は人魚に対して、何か異常な感情を持ち合わせているようだ。
イザークの目を通して、何冊もの人魚の記述の載る本がミゲルの目に入る。
「早く、キラを…オイ、海老!!」
ミゲルが部屋の片隅にあるツボに向かって杖を振るうと、中から伊勢えびが飛び出してきた。
「何…呼んだ?」
「キラを呼んで来い。今すぐだ…さもないと、焼いて…」
「いってきま〜す」
海老はいそいそと、大海原へと出て行った。
「…だから、行くなといったんだ」
ミゲルは、ゆっくりとふわふわ浮く空間を移動し、奥にある部屋へと入っていった。
漸く見つけた。
嘘じゃない。
何度も馬鹿にされ、軽蔑され続けたけれど。
これを見せたら、皆納得せざるを得ない。
人魚はいた。
あの時見たものは、本当だったんだ…。
イザークはその後、アスランに抱えられ、家の風呂場に連れて行かれた。
アスランは水を張って、塩をいれ塩分濃度を調節しイザークを入れた。
「私を、戻せ」
「童話の人魚姫みたいだね。戻ると、声が出るのか…俺は、色々な文献を読み解いて、
海にも何度も出て…そこで、恋人を亡くした」
突然の告白に、イザークはどうしていいのかわからなくなる。
「俺は、一度だけ人魚を見たことがある。嵐で、海に投げ出されて、助けてもらった。
昨日、恋人と海出た時も嵐で…彼女が投げ出されて、もしかしたら助けてくれると思った。
人魚が来ると思った…君が持ってきた指輪はね、彼女への婚約指輪になる予定だった。」
「そんな、勝手な」
「そう、勝手だよ。だから、自分が憎いし、そう思わせた人魚も!!俺を馬鹿にしてきた奴らも!!
全部が憎い…でも、こうして本当の人魚が現れた。本当に…人魚の血肉は不老不死の効果があるのかな」
「っ!」
この狭い場所からは逃げることは不可能で、まして薬はもう無いのだから走ることは出来ない。
アスランは、一度風呂場を後にして、キッチンからナイフを持って戻ってきた。
「いや…やだ!!やだやだ」
右手にナイフを持ち、おもむろにイザークの肩を掠めようとして、イザークが避ける。
彼女は必死に暴れて、水をバシャバシャとはねさせたが、アスランにはちっとも効果が無かった。
「…傷をつけるのはやめるよ…じゃあ、そのうろこは?宝石みたいに綺麗」
「何を…いっやぁぁぁぁ!!」
うろこは人魚にとって末端神経の集まりであり、傷つくと上半身の皮膚の痛みより
さらに強いものが身体を走り抜ける。
それを、アスランは一枚剥ぎ取った。
あまりの痛さに、イザークは絶叫を上げ、気絶した。
「光に当てると七色なのか…成分は?やはり他の魚と…」
しかし、それに気を止める様子も無く、アスランはうろこを持って風呂場を後にした。
「あの海老はまだか!!!」
奥の部屋に行き、元の部屋に置きっぱなしだった水晶を取りに来た時。
ミゲルはイザークが、うろこを剥がされる瞬間を見てしまった。
彼女の苦痛の声は聞えない。
それが救いだったのかもしれない。
聞えていたら、何をしてでも、どんな手を使ってでもあの人間を殺そうとしてしまっていた。
「ミゲルさま〜キラさん連れてきました」
「ミゲルさん、イザークは!!」
海老の後に、キラが慌てて入ってくる。
ミゲルはこの状況を早口で説明した。
「早くしないと…」
状況を説明されたキラは、真っ青になってミゲルの手を掴んだ。
「後、薬が出来上がるまでに5時間はかかる…出来たらすぐに、上に行け。
対価は要らない。水がかかってもあの薬なら戻らない。でも効果は30分だ」
「5時間…ここで、水晶を見て待ちます」
水晶の中のイザークはぐったりしていた。
ミゲルはキラに話をするとすぐに奥の部屋に引っ込んだ。
アスランは、うろこの成分を調べ始めた。
粉々に砕き、様々な液体の中にその粉を入れていく。
その中の一つに反応が出て、アスランはメモを取った。
「傷に効果がありそうだな…一枚じゃわからないか」
アスランは再度イザークの元に戻った。
「一枚じゃ、効果がわからない…じっとして」
痛みで意識が朦朧としていたが、アスランが訪れたことでイザークは無理やりにでも意識を覚醒させようとした。
「イヤだ…物凄く痛いんだぞ、傷つけられれば誰だって痛い。何でそれが判らないんだ」
イザークは尾びれを何とかして守ろうと、アスランの伸ばしてくる手を叩き落とした。
「痛いさ。判るよ。俺だって、この研究を何度も馬鹿にされて、石を投げられてきた。
だからこそ、見返したい。…我慢してよ」
「だから、自分勝手だって言ってる!!」
「勝手だよ!!でも、そうしなきゃ報われないだろ!!俺も、死んだ彼女も」
今まで行き場の無かった怒りが、すべてイザークに向かう。
「っ…やめ、やだ、もう、痛いの…いやぁぁぁぁ!!」
イザークの両手を押さえつけて、アスランがバスタブの中に手を入れる。
先ほどと同じように、うろこを一枚。
力任せに剥ぎ取った。
激痛が襲う中、イザークは気を失う直前にアスランのどうし言い表したらいいのかわからない表情を見た。
アスランは自分と葛藤していた。
伝説の存在。
憧れて、憧れて。
やっと出逢えたのに。
でも、憎くて、憎くて。
「憧れていたんだ。君に逢うの。本当は…こんなことしたくない。でも、自分でもどうしていいのか、判らないんだよ!!」
その言葉は、イザークにはもう届いていない。
アスランは、暴れて少なくなった水を増やして、またうろこの成分の調査に戻った。
「キラ。出来た、早く」
ミゲルから、瓶に入った薬と紙を一枚もらった。
「はい…連れて帰ってきます」
キラは、イザークがうろこを剥がされる映像を見てしまった。
同じ人魚だから判る。
物凄い痛みだろう。
さっきの映像の前にも一枚剥ぎ取られているようなので、彼女の身体はとてつもない苦しみの中にある。
「待ってて…」
キラは、大海原へと泳ぎだした。
「煎じて、軟膏にすれば傷にかなりの効果がありそうだな…後は加工して」
アスランは剥ぎ取ったうろこを煎じて、他の薬剤と混ぜ合わせていた。
うろこにはどうやら治癒効果があるようで、他の薬と混ぜることで更なる効果が
期待できそうだった。
「後は…血肉と…涙と…」
アスランは、文献をテーブルに積みあげて再度読みなおした。
「もう…傷つけさせない」
「うっぁ」
アスランは、突然の来訪者の顔を見ることなく、椅子から床に倒れた。
彼が倒れた拍子にテーブルの本や、うろこで作られて薬がばらばらと落ちる。
キラはイザークを助けに陸に上がった。
ミゲルがくれた薬は、濡れていても人間になれる。
キラは人魚の特徴である、一種の超音波をアスランの耳に叩き込んで、
三半規管を麻痺させた。
1時間はまともに動けない。
この男がイザークを。
殺してやりたくなると思うが、今はイザークを助けるのが先決である。
キラは、アスランを放置して、イザークのいる風呂場を探した。
「キ…ラ?」
風呂場の入り口で音がするので、イザークは目だけそちらに向けた。
すると、そこには幼馴染の人魚。キラがいた。
「イザーク…助けに来たよ」
やはり、イザークはぐったりしていた。
キラは、イザークにミゲルからもらった薬草を食べさせ、うろこの傷の回復を促した。
「に…苦い」
「我慢して、痛いの嫌でしょ」
薬草を吐き出そうとするのを、そう言って止める。
イザークは何とかその苦い葉を飲み込む。
すると、不思議なことに痛みがすっと消えていった。
「イザ。ミゲルから薬を貰ってきた…戻るよ」
「…」
すぐに返事が返ってくると持ったが、イザークがうつむいて考えている。
「何してるの!帰るよ」
キラが手を差し伸べるが、イザークはそれを取ろうとしなかった。
「アイツ…あのままじゃ、ダメだと思う」
「なに、傷つけた人間のこと気にしてるの!!うろこ剥がされて痛かったでしょ?気絶してたじゃないか!!」
「でも…でも…ほおって置けない」
イザークの真っ直ぐな意志の強い瞳がキラを捕える。
「殺されるかも」
「その時は…オマエとミゲルが助けてくれるだろ?」
イザークは、ニヤっと笑った。
こんな緊張した時でさえ、この調子。
「…これ、ミゲルから預かってきた」
イザークは、ペンダントと紙切れをキラから受け取った。
「キラ…ありがとう」
ただ、助けたいと思った。
同情と思われるかもしれないけれど。
あの、どうしようもない怒りの矛先になってもいいかな、とイザークは思っていた。
美しい花とあの指輪を海に投げ捨てたのは。
彼自身海が好きで、人魚が好きで。
恋人を本当に愛していたことが判る。
きっと、いつか自分の気持ちに整理が付く日が来る。
それまで…話を聞いてあげたいし。
傍にいてやりたいと思う。
海から離れることになっても。
仲間達にはきっとバカにされる。
何で人間なんかにって、きっと言われる。
それでも。いいと思えてしまう何かが、アスランにはある。
「で…置いてきたのか?連れてくるって…言ったよな?」
キラは一人で海に戻った。
ミゲルに報告に行くと、水晶で見ていたのだろう。
怒ったような、あきれたような表情をしていた。
「すいません…僕、ホントイザークに弱くて」
「ペンダントは渡したのか?」
「はい…一応」
イザークのことを考えて、もしものときのためにミゲルは、他の薬も用意していた。
その場から、一瞬に消え去り、此処に戻ってくる薬。
泡になって、消えることが出来る薬。
「人間に恋した人魚姫じゃあるまい…泡なんて、俺も馬鹿だな」
「ミゲルさん?」
しょーがないといって、ミゲルはまた奥の部屋に引っ込んでしまった。
キラも仕方なく、自分の住処に帰る。
人間にとられるなんて・・・。
そう、文句を言って、キラは深い海の底に帰っていった。
イザークは、一人アスランの家の風呂場で考えていた。
キラを悲しませるのは、申し訳なかったが。
どうしても此処で、彼を救ってあげたかった
こんど、アスランが此処に来たら、なんて言って接しよう。
どうやって、心を穏やかにしてもらおう。
歌でも・・・歌おうか。
END