共に見る白銀の朝日2


車は将臣がどうしてもほしかったスポーツカー。
黒いそれは、流線型でとても美しい。
現代の戻ってから、彼は一年待ってすぐに車の免許を取った。
高校へはこの姿ではいけないし、行っても怪しまれるだけだ。
免許取立てだが、運転はかなりの腕。

スピードは控え目。
「このまま下がって…静岡の方へ行こうか」
「静岡?」
さすがにまだ地理はいまいちな敦盛である。
「あー昔の地理だとなんていうんのだろううな…俺達のいる所は・・・相模国。で、これから行く所は、伊豆」
「??」
そう言っても隣に座っている敦盛はわからない様子。
「あーこれって江戸時代?」
「す・・・すみません」
「良いって…まぁ、海の綺麗なところだ」

車を走らせて、数時間。
伊豆半島を下り、石廊崎まで。
ラジオをつけて、日の出の時刻を確認する。
午前6時51分。
「敦盛…寝てて良いぞ?」
「あっ」
うとうとしていた敦盛に、将臣が優しく声をかける。
「つかれただろ?着物で寝づらいかも知れないけど・・・」
「いえ、大丈夫です…すみません…じゃあ、ちょっと」
ゆっくりと目を閉じて、石廊崎に付くまで敦盛は疲れた身体を癒すことにした。

暖かい車の中で、素敵な夢の中にいた敦盛を、優しく将臣は揺すりおこした。
「敦盛…そろそろ、日が出る」
「ん…ぁ…はい」
何時の間についていたのだろうか。車のフロントガラスからは、大海原が覗いている。
「寒いから、ちゃんとファーつけて」
「はい」
はずしておいたファーをつけて、敦盛は車から降りた。



朝もやが立ち込めている。
海はまだ、薄暗いけれど、遠くの水平線はかすかに明るい。
将臣に手を引かれて、外に出る。
冷たい海風は、あの壇ノ浦を彷彿とさせるけれど。
此処にはもう、あの辛い戦いも、悲しい出来事も無い。

「ほら・・・出てきた」
朝もやに太陽の光が乱反射して、白銀の光が飛び散る。
「綺麗なもんだろ?」
敦盛は言葉が出なかった。
こうやって日の出を見たことは何度も合ったはずなのに。
何時もそれは合戦の開始を告げるものだった。
又辛い一日が始まるのだと、ずっと夜であったらいいのにと。
何度思い続けたことか。
日の光に照らされたこの世界は、こんなにも美しいのに。
「えぇ…とても綺麗です」
涙で、余計に光が反射していた。
「経正にも見せてやりてぇな」
「はい」

大きな太陽が完全に顔を出すと、あたりの朝もやもすっかり晴れた。
今日は一日とてもよい天気になりそうだ。

「じゃあ、温泉でも入って帰るか」
車に戻り、将臣が地図を広げる。
「ここら辺には有名な温泉地が多いんだ、熱海、修善寺、伊豆…どうせなら、海を見ながら露天にでも入りたいよな」
「いいですね…でも、着物ですけど?」
そのまま来たから、敦盛は着物のままで、あまりで歩いて汚したくは無い。
「いいって、それ綺麗だし…自分で着られるんだからさ」
「まぁ…そうですけど」
「旅館とか言ったら浴衣貸してくれるだろ。平気」
よほど温泉につかりたいのか、将臣は結構強引だ。
「判りました、でもどこがどういった感じの温泉なのか私にはわかりませんので、将臣殿にお任せします」
「了解」
将臣がニヤリと笑って、再度地図に目を落とした。



途中スカイラインのサービスエリアで休憩をとり、敦盛が買い物をしている間に将臣は携帯で電話をした。
とある旅館の日帰りプランの空きを聞くために彼は電話をした。
「えぇ…じゃあ、今から行きますから」
予約を取り付けて、敦盛がコーヒーを持ってきてくれるのを待つ。

「ブラックでよかったんですよね?」
敦盛は買ってきた缶コーヒーとサンドイッチやおにぎりを将臣に渡す。
「サンキュ。あ、旅館空いてるって。ちょっと休憩したら、行こう」
敦盛は自分で選んだお茶の缶を開けて飲んでいる。
「はい」
「熱海だから…まぁ、そんなかからないだろう」

一服してから、すぐに又車を出して、将臣が予約した旅館へと直行した。
そこはかなり風情のある旅館だった。
「お待ちしておりました」
初老の女将が二人を出迎える。
「有川です…」
「どうぞ…まぁ、お着物ですのね、あとでお部屋のほうに着物用のハンガーをお持ちしますので」
二人は女将に連れられて旅館の3階の部屋に案内される。
「浴衣はあちらの押入れに、大浴場はこの階の中央にございます。外の露天へは、あちらの内風呂からいけますので」
昼食も頼み、先に二人は大浴場に行くことにした。

さすがに大浴場は男女別れているので、着物を一度脱ぐ敦盛より先に将臣は風呂へと向かった。
仲居が着物用のハンガーを持ってきてくれて、敦盛は汚さないように注意しながら、綺麗に着物をかけ、帯をたたんだ。
「よし…私も」
浴衣に着替えて、敦盛も大浴場の方へと向かった。
広い脱衣所に人はおらず、中にもいない。
時間を見ると9時過ぎなので、丁度宿泊客は初参りに出かけてしまっいるか、朝方帰ってきて疲れて眠っているのだろう。
簡単に身体を洗って、すぐに湯船につかる。
大きな湯船からは、太平洋が一望できる。
「…すごい」
眼下に広がる海は、さっき日の出をみたのと又違う迫力で、いつも砂浜から見ている鎌倉の海とは又ちょっと違う感じがした。
丁度よい温度の湯船はふとすればうとうとしてしまう気持ちよさ。
「早く上がって…ちょっと寝よう」
敦盛はその景色を楽しんだあと、髪を洗わずに風呂を出た。



先に出ていた将臣はやはり疲れたのか、布団を敷いて寝ていた。
敦盛が帰ってきた音で顔だけ向けてくれる。
「寝ててください、私も又少し寝たいので」
「こっち、一緒に寝よう」
将臣が掛け布団を上げて、敦盛を招く。
敦盛は抵抗せずにその中にもぐりこんだ。
「あったけ」
風呂から出たばかりの敦盛の体はまだ温かい。
その身体を抱きしめて、将臣はしばしの眠りについた。

1時過ぎには起きて、2時には遅めの昼食を取った。
豪華な海の幸の昼食に驚きながらも、その美味しさに二人は見事に全部平らげた。
チェックアウトは午後五時。まだ、2時間ある。
将臣は敦盛を内風呂に誘った。
「旅の恥は掻き捨てっていうだろう?」
「…もう」
此処が自分の自宅だったら、逃げるのだが旅館だし、一人になってしまうし。
それに、今日はこの人の温もりを感じていたいと敦盛自身も思ってしまっている。
あの美しい朝日を見せてもらい、こんな素敵な旅館にもつれてきてもらった。
「ほら」

内風呂と露天からも海が見える。
大きな海を独り占めできる風景。
まだ昼で明るいので、敦盛はとりあえずバスタオルを巻いた。
二人で入ればお湯が溢れそうな小さ目なお風呂だが、それでも何か風情がある。
「敦盛こっち」
先に露天に行っていた将臣に呼ばれて、すぐに敦盛も外に向かった。
「海が綺麗だぞ」
「さむいっ」
暖かい中にいるので、いきなり外に出ると寒い。
敦盛は慌てて、外の露天に入った。
「あー…いいなぁ」
狭い露天にギュウギュウになって入りながら、笑いあって。
湯煙の中で。
「幸せになるようにな」
「一生懸命生きましょうね」
額をくっつけて、暖かいキスをした。

あけましておめでとうございます。
今年もよろしく。



  
END