006:初めてだったのに(キライザ前提キラ独白))
「002:キスの続き」
キリリク部屋にある「trust」という小説の続編でもあります
「っ…追わなきゃ」
「キラ、そんな体で、無理だよ!」
僕はハイネを追うべく言うことの聞かない体に自ら鞭を打って立とうとした。
見かねたシホが僕を止めようと体を支えて、留まらせようとする。
「家族の約束は、絶対だ…ハイネを止めなきゃ」
「でも」
ハイネは本気だ。
狼の食料不足は最近著しく、干し肉も一生分あるわけではない。
壁が出来始めてからは、ヤギが森をうろつくこともなくなった。
新鮮な肉を口にしたのはもう何年も前のこと。
その状況に一番イラついていたのはハイネだ。
彼は家族の中で一番鼻が利くし、賢い。
頭が良いというよりは、回転が速く、ずる賢いと言ったほうが合っているかもしれない。
その彼が本気になった。
結果は目に見えている。
「僕の荷物取って…あと、水」
「…」
何を言っても聞かないと判断したシホは言われたとおりに、僕の荷物を部屋の奥から取ってきてくれた。
そして、井戸水を木のカップに入れて持ってくる。
小さな袋とナイフ。
僕は袋の中から森で採ってきた木の実を取り出して、ナイフで二つに割った。
その木の実の種を取り、さっき取り落とした干し肉を少し切って木の実の中につめた。
独特の強い香りを放つ木の実を元の形に戻すようにくっつけて、口に入れ一気に水で流し込む。
この木の実には一種の滋養強壮の成分も入っており、これを何回か繰り返すととりあえず体が言うことを利くようになった。
気持ち悪さは消えないし、完璧とまでは言えないけれど体は動く。
「シホはここに残って、僕らが帰ってこない時は森の長老を頼ればいい」
「…そんなこと言わないでよ」
「行って来る」
イザークじゃなかったら、行動を起こそうとは思わなかった。
こんな気持ちは初めてだ。
突き動かされる衝動。
ヤギなんて、ただの食料だと思っていたのに。
守りたい。
たとえ…ハイネと刺し違えようと。
こんな気持ちを持つことは二度とない。
だからこそ。
初めてだったからこそ…僕は守る。
イザーク。
待ってて。
007:好きな所
(小説家弁慶×弁慶の養女敦盛)
「004:手を繋いだら」の続き
私が弁慶殿の養女になってから、5年がたった。
私は16歳になり、高校に通っている。
私は、父の元に尋ねてきた弁慶殿を見たとき、一目で彼を好きになった。
やさしい目元。やさしい口調。
どれも父に似ていて、でも、父と接する時には感じない自分の胸の鼓動。
これが、恋しているってことなんだと気づいたのは、つい最近だが、ちょくちょくと自宅に訪れてくれた彼が、大好きでたまらなかった。
父の不調はなんとなく判っていた。
しかし、それを隠そうとしている姿をみて私は何も言わなかった。
その代わり、頑張って家事をしたり、少しでも父の力になれればいいと思って、自分なりに行動をしてみた。
しかし、父は帰らぬ人となり、親族のあの金に汚い姿を目の当たりにして…偶然、いや必然なのかも知れないけれど、慰問に来てくれた弁慶を見つけて、私は思わず彼のところに行きたいと言った。
突然のことに弁慶殿は驚いていた。
親族の皆も青い顔をしていたが、最終的には遺産を放棄することで弁慶殿の養女になった。
もちろんすぐすぐに彼の養女になれたわけではなく、いろいろな手続きと、私のよき理解者となってくれた、弁慶殿の友人の湛増…て言うと怒るから、ヒノエという弁護士にお世話になった。
ヒノエにすべてを任せて、私は父が亡くなって数ヶ月で弁慶殿の養女になることが出来た。
弁慶殿は都内のマンションに一人で暮らしていた。
初めて足を踏み入れた時、私は絶句した。
あまりにも家の中が汚かったから。
弁慶殿が私の自宅に訪れていた時は、とても素敵なスーツを着ていたし、綺麗好きな印象があったけれど、家の中は正直言ってめちゃくちゃだった。
洋服はあちらこちらに散らかっているし、キッチンも酷い有様。
今にも虫が湧きそうな状況に、私が呆然としていると、弁慶殿は苦笑いしてた。
「男の一人暮らしなんて、こんなもんだよ」
そう言った彼の顔はいまだに忘れられない。
母性本能というヤツだろうか。私は、今度はこの人のために何か出来ることを精一杯やろうと思った。
「弁慶殿?」
午後7時過ぎ。
いつものように、夕食の支度をし終えて、私は仕事中の弁慶殿の部屋をノックする。
小説家という職業柄どうしても時間が不規則になりがちだが、きまって夕食は一緒に食べようと一緒に住むときに約束した。
いつもならある返事がなかなかないので、ドアノブを回して中に入った。
薄暗い部屋の中にはパソコンの明かりのみ。
デスクに弁慶殿はいなくて、すぐ横にあるベッドに彼は寝転んで、穏やかな寝息をたてていた。
長いまつげ、綺麗な長い髪。
整った顔。大きな手。
やさしい声。
知らないことを知るたびに、好きな所が増えていく。
「弁慶殿。ご飯ですよ」
私はゆさゆさと彼の体を揺する。
弁慶殿はすぐに気がついて、起きてくれた。
「転寝してしまいましたね。良い匂いがする。今日はシチューかな」
「はい!」
美味しいと言ってくれる、笑顔も大好き。
008:不安になる…(リボツナ)
「003:言葉が足りない」の続き
※『もしも…リボーンが医者で、ツナが患者だったら…6』
「楽しんできたみたいだな」
いつものように、黒いスーツの上に白衣を着て。
リボーン先生が私の病室にやってきた。
「…ぅ…ぁ…は…ぃ…」
数日前の出来事が脳裏をよぎって、私はリボーン先生を見ることが出来なかった。
今すぐこのベットの布団の中にもぐりこみたかったが、今は朝の回診中なのでそれも出来ない。
足の様子を見てもらっている最中も、なんだか恥ずかしくて私はうつむきっぱなしだった。
「…なにも、取って喰いはしねーよ」
ポンポンと頭を撫でてくれる大きい手。
私はそれにとても安心してしまい、思わずリボーン先生のことを見上げてしまった。
「なんてな」
不意に、リボーン先生の唇が私の唇に触れた。
突然の行動に私の体は動けず、そっと触れた唇が一度離れ、次に唇にぬれた感触。
リボーン先生の右手が私の頭に回る。
「口開けな」
「んっ」
彼の言葉に従うままに、私は薄く口を開ける。
ゆっくりとリボーン先生の舌が入ってきて、私はどうしたらいいのかわからずされるがまま。
息継ぎも出来ずに、ただ彼の白衣を握り締めていた。
カタッ
病室の廊下での物音で、リボーン先生の唇が漸く離れていく。
「チッ…邪魔が入った」
「…ぁ…ッ」
なんて事を、病院でしてしまったのだろうと私はいてもたってもいられなくなって、布団にもぐりこんだ。
かすかだが、彼の笑い声が聞こえる。
「もう少ししたら、レントゲン取りに行って来いよ」
そして、布団の上からポンポンともう一度私の頭を撫でるとそのまま病室を出て行った。
今血圧を測ったら、とてつもない心拍数だろう。
私は、叫びたいような、泣きたいような、でもなんかすこしだけど嬉しいような。
ぐるぐるした気持ちで、レントゲンに呼ばれるまでの時間を布団の中で過ごした。
看護師さんがレントゲンの時間だと呼びに来てくれたのは、それから1時間後。
私は大分歩けるようになり、松葉杖もずいぶんスムーズに使えるようになっていた。
レントゲンはすぐに採り終わり、私はちょっと寄り道しながら病室までの道のりを帰った。
この総合病院には売店はもちろん、カフェやレストラン、花屋が入っており、
ちょっとした物を買うのも楽しみの一つだった。
私はカフェで大好きなカフェオレを頼み、袋に入れてもらって病室まで戻った。
自分ひとりでは到底食べきれないお見舞いの品をもらい、半分以上を家に持って帰ってもらった今でも、
大分お菓子が残っていた。
それを食べつつ、課題や漫画を読むのが入院してからの日課になっていた。
病室に帰る時には、必ずナースステーションの前を通る。
この総合病院の看護師さんたちは皆美人だ。
きっと、売りのひとつといっていいだろう。
もちろんかわいいなぁと思う人もいるが、大半はスレンダーな美人ナース。
ナースステーションにはちょうどリボーン先生もいて、看護師さんたちと何らや話をしている。
話の内容は聞こえなかったけれど、なんだか楽しそう。
美人に囲まれて、なんだかリボーン先生も悪い感じではなさそう。
「…」
私は、なんだかどうしようもない不安に駆られて、そそくさとその場を後にした。
自分の病室に戻り、カフェオレを机において、ベッドにどさっと倒れこむ。
「好きって…言われたけど…その先って…」
自分は一介の女子大生で、相手は有能な医者。
現実的に考えると、すむ世界が違う気がする。
告白されて、キスされて…舞い上がったけど。
それを押し流すほどの不安。
未来が見えない。
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