001:初恋 (将敦)
(高校生将臣×家庭教師(大学生)敦盛♀)
『何なのこの成績!!あんた、大学受験なめてんじゃないでしょね』
姉代わりの幼馴染(一つ年上)に1学期の終わりにそんな悪態をつかれた。
通知表見せろっていうから、見せただけなのによ。
高校三年の夏前。
水泳部も引退し(元々幽霊部員)、さぁ大学受験…と意気込む気力も無く。
塾に行くとか、学校内の講習に行くとか、そんなこともせずに、ただ夏休みが始まるのかと思っていた。
別にやりたいこともないし、大学行くなら、専門とか…就職とかだってあんだろう。
まぁ、海が好きっちゃー好きだから、海洋学部ってのも面白いとは思うけど。
「はぁ…ったく、望美のやろうの一言で、物凄いやる気を失った」
部屋の勉強机に突っ伏して、さりげなくもう一度通知表を見直す。
体育は10。まぁまぁ得意で、一応選択しておいた現代国語や数学V・Cはそれなりだったが、
それ以外の科目は見事に酷い有様。
アヒルの行進とまではいかないが、それに近い数字が並んでいる。
「アイツの言い分もわかる気するけどよ」
机の隅に通知表を追いやる。
夕飯も食べたし、風呂にも入った…テレビやパソコンをする気も無いから、
もういっそこのまま寝てしまおうかと思ったとき。
1階から母親の声がした。
「望美ちゃんから電話よ〜」
なんで、携帯にかけてこないんだよ!!子機がないから、1階まで降りなきゃならないのに…。
「判った!!」
少し大きな声でそう言って、俺は1階まで降りた。
母親はニコニコしながら待っていて。
「母さんは賛成v」
なんて言って、俺に受話器を渡してきた。
『何?』
『今、小母様とも話したんだけど、夏休みから家庭教師連れてくから!!わかった?』
『なっ!何勝手なこと言ってんだよ、俺は!』
『今のご時勢、大学のひとつも出てないでどうすんのよ、あんた頭は悪くないんだから、しっかりしなさい。
いい?小母様にはOKもらってるんだからね!21日のそうね…夜7時から2時間』
黙ってればこの女わ!!
『21日って明日からじゃねーか!俺は、専門でも就職でも何でもいいんだよ!!おせっかいなことすんな!!』
『…あら…そんなこと言っていいの?』
『…なんだよ』
『家庭教師の顔も見ないで、そんなこと言っていいのかしら?…あんたびっくりするわよ!まっ、明日ね。
ちゃんと家にいるのよ!!とんずらこかないのよ!いいね!』
ガチャッ!
「っ…てぇ」
望美が勢いよく電話を置いたのだろう音に驚いて、思わず耳から受話器をはずした。
「…何がびっくりだよ!…ったく、言い出したら聞きゃーしねぇ…。
まぁ、とりあえず最初だけ付き合ってやるか」
嫌だったら、断ればいいだけだ。
「あっ…っえ??」
玄関前で俺は大きく口を開けたまま動けなかった。
「ほら。ね?やっぱりびっくりしたでしょ?」
「あぁ…久しぶりですね、将臣君」
ふてぶてしい幼馴染の横に、ものすごく懐かしい顔。
中学に上がる前にどこかに引っ越していってしまった、淡い初恋の君。
俺の初恋の相手がそこにいた。
「敦盛…久しぶり…あっ、久しぶりです」
面影はあるものの、ずいぶんと雰囲気が女性らしくなっていて、俺は思わず敬語になった。
「敦盛の得意科目は文型よ…2時間しっかり教えてもらいなさい!来る曜日は後でお互いに都合つけて」
じゃあ、私は帰るからね!
敦盛を案内しただけだろう望美はすぐに家(っていっても隣)に帰っていった。
「あ…上がってくれよ」
「…お邪魔します」
昔は髪が肩までしかなかったのに、今では腰まで届くロングヘア。
俺の背が伸びたからか、敦盛は一回りは小さくて、華奢。
長いまつげ、大きな瞳。
単純な俺は俄然やる気が出た。
002:キス(キライザ前提ハイネ独白)
微エロ妄想さんに100の御題『97.溺れる』の続き
キリリク部屋にある「trust」という小説の続編でもあります
まずはあのかわいい子ヤギの唇に優しいキスをして…。
そして、あの細い首に噛み付こうか。
片手で頭を抑えて、泣き叫ぶ声を聞きながら、赤い血を飲み干して。
骨が砕ける音と断末魔も聞いて…。
ヤギを食らうことができるならば、母や父の教えなんてくそくらえだ!
キラの事なんかかまわない。
あの、美味しさを味わってしまったら、狼はもう後には引けない。
さぁ…俺の獲物…早く来いよ。
愛を語るハイネとはよく言ったものだ。
誰がこんな名前をつけたのか。
過去の詩人の名前なんて、俺には到底似合わないのに。
もっと…誰もが聞いて、怯え、逃げ惑うような名のほうが、俺には似合っているのに。
「南の方角…約10キロってところかな。さて…]
「行かせないよ…ハイネ」
殺気を殺せないキラが俺の前に重い体を起こして立ち上がり、阻む。
こんな体になる前にさっさと食っちまえばいいのに。
こいつは馬鹿だ。
「俺は誰にも縛られない。あの時はハンターも一緒で勝ち目はなかったが、今回は別だ。
そろそろ、干し肉にも飽きたし」
「ハイネ!!」
脳天に響く、キラの声は、なにか強い力を感じて…。
おぉ…怖い怖い。でもな、キラ。
「弱る前のお前だったら、誰もがその後に付き従ってただろうけど、今の弱いお前に誰が従う?
最近はめっきりコロニーが要塞化してきて獲物が少ない。俺たちは生き残るために必死なんだ!」
「どけよ」
俺はキラを振り払う。やつはあっさりと倒れこんだ。
「キラっ!」
じっと、黙ってやり取りを見ていたシホがキラのそばに寄っていく。
「邪魔したいならすればいいさ。できるもんならな?」
俺は家を出た。
もともと、擬似家族なんて真似は俺には似合わないんだ。
一人でいたほうがいい。
世界を一人で見て、好きなときに寝て、好きなときに起きて。
あぁ…そういうところは、似ているかもしれない。
思いついたときにペンを取る、詩人に。
会ったらなんて言おうか。
久しぶり?また会えたね?それとも、何も言わずに…。
かわいい唇をむさぼり食ってしまおうか。
とめてみろよキラ。できるなら。
お前の大切な。
夢にまで出てきてしまう、『イザーク』というヤギを。
俺が食わないように…。
003:言葉が足りない(リボツナ)
微エロ妄想さんに100の御題『98.衝動』の続き
※もしもシリーズ『もしも…リボーンが医者で、ツナが患者だったら…5』
気がついたら夕食が運ばれてきていて。
看護婦さんに肩をたたかれるまで、私は上の空だった。
顔が熱い。
頭がクラクラする。
食事の味もわからないで、噛んでもうまく飲み込めない。
胸の動悸がおさまらなくて。口から飛び出そうな心臓。
キス…された。
あんな怖い顔して、怒ってたのに。
やさしいキスだった…と思う。
「どういう意味…っ///」
私は思い出して、布団を頭までかけて隠れた。
キスって、好きな人とするものじゃないの?
それとも、挨拶…でも、彼の悪戯やからかいかも知れない。
明日もまた往診に来る。どんな顔をして会えばいいの。
なんて話しかければ…彼は、どう話しかけてくるの。
私は眠れなくて、気がついたら朝で、また看護婦さんに体をゆすられていた。
「ディ…ノセンセ?」
どう挨拶しようかとか、散々考えて眠れなかったのに、私の往診に来たのはリボーン先生じゃなかった。
「彼は手術でね。あさってから外泊だろ?さて…様子を見ようか」
「あ…のっ…」
「そんな顔しないでくれよ。俺が彼に怒られる…」
少し笑いながら、ディーノ先生が私の頭をなでてくれる。
なんか、すべて知ってますって顔…。
「君に会いたくないってわけじゃないんだよ。本当に手術が立て込んでるんだ」
心の中を見透かされて、私の顔は茹蛸のようになってしまった。
「彼は医者としての腕はぴか一だが…まぁ、子供のようなところもあるから、言葉が足りなかったんだ」
「ツナちゃんはどう思ってる?」
私の気持ち?
いつも受身で、そんなこと考えた事もなかった。
彼は私に対して、怒って、理不尽なことばかりして…馬鹿にするし。
でも、カルシウムの入ったお菓子をくれたり、転びそうなところを走って来て助けてくれた。
やさしい…?
彼の優しさは見えにくいけれど。
いつも私を考えてくれていた。
怒っているのも、きっと彼の照れ隠し。
「君は優しい子だね…彼をよろしく」
ディーノ先生が私の頬を流れた涙を掬ってくれた。
「あら…外泊は今日から?楽しんできてね」
多くの看護婦さんが、私にそう声をかけてくれた。
体は思った以上に動くし、痛みもないのに…胸が痛い。
結局、リボーン先生には会えず、迎えの車が病院の外に後ちょっとで到着するらしい。
母さんが用意してくれた旅行用のカートを引いて、私は病院の中央玄関を通り過ぎる。
黒い髪の毛の人につい目が行く。
あのツンツンしてるのが似てるなぁとか…背格好とか。
そういう人と何人かすれ違って、さぁ、気分を変えて旅行に行こうと意気込んだ矢先に、誰かに腕を引っ張られた。
「なに!もがっ」
「目移りしてんじゃねーよ」
後ろから口をふさがれて、仰ぎ見ると…白衣を着ていないリボーン先生。
そのままズルズルと私は引きずられていき、外来や関係者からはちょっと見えないわき道に連れてこられた。
「男ばっかり目で追いやがって…って…こんなことを言いたいわけじゃなくてだな…」
「ぷっ…あはっ…」
ディーノ先生の言ってたとおりだ。
照れて、髪を掻く先生は、白衣を着ていないからか余計に幼く見える。
「笑うな…手術で忙しくて、ろくに見てやれなかったが…無茶はするな」
「はい。ありがとうございま…っん…ふぁ…」
2度目のキスは少し激しく。
唇が離れた後に、首筋にも…。
「った…」
「悪い虫がつかねぇように…好きだぜ。ツナ」
言い逃げのように、彼はやりたい放題やって、その場を去り、病院の中へと戻っていく。
私はいても立ってもいられなくて、彼を追いかけて…。
「わ…私も…私もリボーン先生のこと好き!!!」
その背中に飛びついて、愛の告白。
しかし、私はそこが病院の中だということを忘れていた。
周りからは、冷やかしや拍手の嵐が聞こえてきた。
004:手を繋いだら
(小説家弁慶×弁慶の養女敦盛)
あの日から、私の世界の中心は貴方になったんです。
師匠が病死したと突然の連絡が入ったのは、今から5年前。
僕が小説家として鮮烈なデビューを飾ってから5ヶ月たった時だった。
死因は癌。
進行の早いものだったらしく。
見つかった時にはもう手遅れだったらしい。
師匠には11歳になる一人娘がいた。
彼は歴史小説を中心に執筆し、自分の娘なのに、敦盛と名づけるほどの物好きだった。
師匠の小説は派手さは無かったが、細やかな心理描写や独特な歴史観の捕らえ方が僕は好きだった。
自分には無いものに惹かれて、編集さんに頼んで亡くなるほんの数ヶ月前に会う機会をもらった。
彼はとても心優しく、僕を家に招いてくれて、いろいろな話を聞かせてくれた。
それから、僕は彼を師匠と呼び、とても尊敬しだした。
しょっちゅう彼の家に上がりこんでは、話をさせてもらった。
そんな矢先のことだった。
葬式の日。
その日は雨が降っていた。
僕は用事があって、お経が終わってしまい、もう親族しかいないところにあがらせてもらった。
記帳を済ませ、お焼香をさせてもらい、さあ帰ろうと出口に向かう途中。
黒い喪服の大人たちの輪の中で、ひときわ目立つぽつんと座っている幼い少女。
何度か会った、師匠の一人娘だった。
師匠に似て、穏やかな女の子で、師匠は彼女が物心付く前に奥さんと離婚をしていて、
娘を引き取って男手ひとつで育てていた。
彼女は家にお邪魔した時も、お茶を入れてくれて、小さいのにとても気の利く子供だった。
「私の家は、子供が2人もいるしねぇ…あぁ、でも遺産が」
「うちは大丈夫よ!引き取ったら、遺産相続は全部こちらに来るのでしょ?」
「あら、それはちょっとずうずうしいんじゃないの!」
話の端々からしか判らないが、どうやら師匠は多くの遺産を娘宛に残したらしい。
それを目当てに親戚同士が言い争っているようだった。
「あっちゃんはどうなの??どうしたいの??ねぇ?」
「そうよ、おばちゃんの所に来るでしょ?お父さんの実家だものねぇ?」
「あ…」
次々にまくし立てられて、敦盛は混乱していた。
きょろきょろと目を泳がせて、はっと僕と目が合った。
「私…」
彼女はすっと立ち上がって、僕のところにパタパタと駆け寄ってきた。
そして…
「私は、お兄ちゃんのところに行きたい」
僕の手をぎゅっと握ってきて、そう言った。
「私お金沢山いらないから、お兄ちゃんのところに行きたい」
振るえながら声を絞り出す幼い少女に、僕は心を奪われた。
そして、頭は空っぽなのに。不意に口から出た言葉は。
「僕のところに来るかい?」
こうして、僕と11歳の少女との二人の生活が始まった。
005:抱き締めて
(九郎×敦盛 キリリクの「正義を手折る竜胆の花守」続編)
敦盛は真っ暗な光ひとつ射さない闇の中で立っていた。
そう意識すると、漠然のとした恐怖が彼女を襲い、
敦盛はわけもわからずに暗闇の中を走り出した。
走って、走って、呼吸をするのも辛いのに、辺りには光が無い。
不安は駆り立てられるばかりで、ふと誰かの名前を叫ぼうとするが、
誰の名前を呼んでいいのかわからない。
のど元に手を置き、必死に言葉を探すけれども、
かすれたヒューヒューという呼吸音だけが自分の耳に聞こえた。
恐怖におののき、その場に崩れそうになった。
その時、暗闇からすっと手が伸びて、敦盛の手をつかみ走り出した。
敦盛の手を引く人は男か女かもわからないけれど、
長く揺れる橙色の髪の毛が目に焼きついた。
橙色の髪の人が現れると、敦盛の心は少し安らぎ、
そして周囲の暗闇もゆっくりと色が黒から薄い灰色に変わってくる。
そして、橙色の髪の人が不意に走るのをやめ、敦盛のほうに顔を向ける。
その瞬間にぶわっと光があふれ出し、
敦盛の手を引いてくれていた人の顔は逆光で彼女からは見えなかった。
橙色の髪の人はゆっくりと敦盛の手を引き、自分のほうに引き寄せて抱きしめて、
背中をさすった。
声は聞こえなかったが、「大丈夫」と言われているような気がして、
敦盛も抱き締め返そうとしたとき、
合ったはずの体がバッサっと白い羽となって敦盛の手の中から消えた。
そ
して辺りは一面の暗闇へと戻り、敦盛の周りに今度は無数の蝋燭が現れた。
彼女の周りを囲むようにして回る蝋燭。
その間から突如日本の手が伸びてきて、彼女の首に絡まった。
「っ…あぁぁ!!!」
敦盛は、悲鳴を上げて体を起こした。
その声で、すぐそばにいた望美、朔は驚き、すぐに彼女の布団を囲んだ。
「「敦盛さん!!」」
「私は皆に報告をしてくるわね」
朔は敦盛が3日ぶりに目を覚ましたことを仲間に伝えに行き、
望美はすぐにかけてあった布団を押しのけ、敦盛の体を抱きしめ、背中をさすった。
「大丈夫だよ。夢だよ!」
「っは…はぁ…はぁ…」
「敦盛さんゆっくり呼吸をして、そうそう…大丈夫だからね」
望美はまるで母親のように敦盛を落ち着かせた。
敦盛の呼吸もだんだんと回数が減ってきて、どこか遠くを見ていた瞳も焦点が合ってきた。
「敦盛さん?」
「…神子…す…すみません。わ…悪い夢を見たようで、その…大丈夫ですから」
意識が戻ってくるにつれて、自分の失態に敦盛は赤くなった。
「いいんだよ、大丈夫?」
「えぇ、どんな夢かも覚えていないのに、騒ぎ立ててしまってすみません…お恥ずかしい。
そろそろ起きないといけませんよね…っつ」
敦盛は体中に痛みを覚え、布団から立ち上がれなかった。
「…どうしたのでしょう。体中が痛い」
「…敦盛さん…?」
「頭も痛いし…私は怪我をしたのでしょうか…いったいいつ?」
「っ…敦盛さん!!」
望美はもう一度敦盛を抱きしめた。
彼女は忘れていた。
自分の身に起こった出来事を。
それはきっと。
記憶をすべて消し去ってしまいたいほど、絶望と恐怖を味わったからだろう。
「神子?私は怪我には慣れています。そんなに心配しないでください」
「っ…そ…そうだね」
「目が覚めたって?」
「ヒノエ君」
朔の報告を聞きつけて、一番手にやってきたのはヒノエだった。
その後に続き、八葉の仲間たちが続々と敦盛の部屋に入ってきた。
「皆すまない、私の怪我で…八葉の一人として恥ずかしい…ぁっ」
敦盛はある一人を見つめて、深々と頭を下げだした。
「お客人まで呼び出してしまうとは、本当に恥ずかしい限りですね…申し訳ありませんでした」
敦盛は九郎の方を見て、そう告げた。
彼女の記憶から、九郎という人間が消えた。