91.意味は広辞苑で(リボツナ)
※もしもシリーズ『もしも…リボーンが医者で、ツナが患者だったら…3』


「ほんと…信じられない」
ツナはベッドの中で何度目かのため息を付いた。

リボーンの出した診断書のお陰で、ツナは結局夏休みいっぱいを病院で過ごすことになった。

『この…よく読めない難しい漢字の病気…これが原因なんですかね?』
『あ?あぁ…これは…』
『い…いいです、自分で調べます!!(だって…どうせ聞いても判らないし、バカにされるし)』
どうしても退院したいと言い張ったものの、医学用語を並べ立てられたら、おバカなツナには太刀打ちできない。
結局入院の延長を承諾するしかなかった。
友人達は毎日のように顔を出してくれるけれど、去っていくのを見るのがとても悲しい。


今日は病室の中にばっかりいてもしょうがないという京子の誘いで、夏でも比較的涼しい外の木陰に来ていた。
ベンチもあるそこは、ちょっとした患者達の憩いの場。
そこで、数時間過ごしたとき、京子の携帯の突然連絡が入った。
『えっ…おにいちゃん?いまから…うん、でも…』
「京子ちゃん!行っていいよ。私なら一人で戻れるし…」
京子は電話で話しながらも、ツナを心配そうに見つめる。
いつも病室まで送り届けてくれてから、皆帰っているからだ。
兄、了平 からの電話。なんだか急いでいるようだ。
「でも…」
「大丈夫だって。松葉杖だってあるし、そんなにふらふらするわけじゃないんだもん」
ニコニコしながら言うツナに、京子は頷いて。
『わかった、今すぐ帰るから』
「ごめんね、ツナちゃん。じゃあね。また来るから!」
京子は本当に急いでいたらしく、走ってその場を去っていった。

ベンチにぽつんと一人。
「さて…戻ろうかな」
ここに一人でいる理由もないし、腕時計を見ればもうすぐ夕食の来る時間だ。
「よっこいしょ」
ベンチの横に置いておいた松葉杖を持って、ツナはベンチから立つ。
そして、一歩を踏み出したとき、松葉杖が石ころに引っかかり、体がぐらついた。
思わず、折れていたほうの足に力を入れる。
「っ!!」
思わず、ビリッと傷が痛む。
体を支えきれずに、ツナの体は地面へ。

「ったー…」
しかし、地面の硬く冷たい衝撃は無かった。
代わりにあったのは、白い地面?
「…いきなり立つからそういうことになんだよ」
「ひっ…先生!!」
転んで下敷きにしてしまっていたのは、リボーンだった。
彼の綺麗な顔が、ツナの目に飛び込んでくる。
恥ずかしさと気まずさがあいまって、ツナは急いで起きようとしたが、急ぐほどに、なかなか起き上がれない。
そんなツナを、リボーンが抱き起こしてくれた。
ゆっくりと立たせて、杖を渡してくれる。

「地面を見ないで立つからそうなる」
始まったお小言。
「す…すみません」
「気をつけろ」
もっと怒られると思ったのに、リボーンはポンっと頭を叩いてその場を去っていった。
よく見ると、彼の肩が上下に動いている。そう思えば、下敷きにしたときも、呼吸が荒かった。

「走って…来たのかなぁ」
自分にも走ったような動悸がする。
ドキドキが止まらず、ツナは少しの間そこから動けなかった。





92.足から伝う体液(弁敦)
(※79.屈辱的姿勢の続き)


「帰っていいですよ?」

いつも終わりはこう。
一方的に、追い出される。
敦盛は重い体を引きずりながら、弁慶の部屋を出ていく。

迂闊だった。将臣が離れる時、のこのこと後を追っていった自分。
それを、弁慶に見られてしまった。
将臣が平家の人間であるというのは、秘密。
それを軍師である弁慶に知られてしまった。

彼は黙っていてくれると言った。自分の体と引き換えに。
夕食時に弁慶が最後まで残っている時。
それが合図。

今夜、部屋に来い。

夜着で弁慶の部屋の前に来ると、すっと襖が開いて、中に引きずりこまれる。
一枚の布団。それ以外は畳の上には置かない主義の弁慶。
きちんと整われた部屋での、一方的な行為。

弁慶は無言。
息遣いだけが部屋を包むも、それさえも周りに聞えないようにと、敦盛の口は布で常にふさがれている。
痛めつけるように。
辱めるように。
弁慶は、敦盛の体を開いていく。

弁慶が満足するまで、続く宴。
それが終わると、敦盛の猿轡を弁慶が外し、彼女を布団の中から出す。
「帰っていいですよ」
「…し…失礼します」
よろよろとよろめく体で、敦盛は部屋をです。
歩くと、弁慶が出したものが足を伝う感触。
それがいつも気持ち悪くて、敦盛は急いで湯殿に向かう。

そっと、そっと、引き戸を開けて、まだ暖かそうな風呂に入る。
生ぬるい湯ですべてを洗い流すよ。
嗚咽を噛み締めて、敦盛は今日も生きる。

将臣への恩と兄のために。





93.形勢逆転(季永)
※もしもシリーズ『もしも…季史が先生で、永泉が生徒だったら…4』


学生はほとんど帰った放課後。
ノックは三回。
返事が無い時は、OKの合図。

「先生!!」
永泉が数学教諭室に勢いよく飛び込んできた。

「見てください!!ほら!!90点」
「あぁ…よく頑張ったな」
数学のテストを嬉しそうに見せる永泉。
勿論、自分が採点をしたのだから、彼女の点数は知っている。

「どこに行きますか?海?山?それとも…遊園地?」
とても嬉しそうに話をする、永泉に季史の顔も思わずほころぶ。
「ふふっ。兄さんにも出かけるって報告して…あっ…でも…」

二人でどこかに行くことだけしか考えていなかった永泉。
兄のことなどすっかり忘れていた。
「なんなら、俺が挨拶に行くが…」
「駄目です!!あの人に言ったら、見境無いから!!PTAとかに言っちゃいます」
過保護な兄。大好きだけれども、それが足かせ。

落ち込む永泉。
「俺がなんとか考えよう」
立ちっぱなしだった永泉を招きよせ、季史は自分も立ち上がる。
抱き寄せて、彼女をあやすように背中を撫でた。

あと少しの信望。
後、数ヶ月もすれば、彼女はこの高校を去るのだ。それまで待てばいいだけのこと。
でも、季史もだんだんと我慢がきかなくなってくる。
「季史さん…」
「大丈夫。すぐに行くわけじゃないんだ…計画も立てなきゃいけない。また連絡するから」
いい子で。
そう言って、唇にキス。
そう言われると、永泉も何もいえない。
彼を信じて待つだけ。


後日、なぜか永泉の兄に長期出張が言い渡されていた。
「いつも邪魔されてばかりだからな…こんなことで親父の権力を使いたくないが」
形勢逆転。
二人は気兼ねなく出かけることができるようになった。





94.引き攣った喘ぎ(キライザ)
※舞妓イザークシリーズ9


キラは悪夢で目が冷めた。
イザークが離れに連れて行かれる夢。
彼女が、昨日会った男に組み敷かれて、泣きながら叫んでいる。
次第に声も出なくなり、最後は引きつった喘ぎのみになる。
それを、見ているしかない自分。

「っ…はぁ…」
びっしょりとかいた寝汗。
ベッドから起き上がり、無意識に窓のカーテンを開けると、宇天楼の離れに明かりが灯っていた。
「っ!!」
キラは勢いよくカーテンを閉める。
「イザっ」
何も出来ない自分にイライラした。



「私…どうしたらいい」
ベッドにうつ伏せで寝転がり、イザークは一人呟く。
もう何も考えたくない。


次の日からのイザークは最悪だった。
お酌をすればこぼす。踊れば転ぶ。見ていられなくて、フレイが彼女を下げた。
しかし、フレイの声すら聞えていなくて、とぼとぼと部屋に戻るイザーク。
そんな状態が1週間は続いて、もう見ていられなかった。

「もう見てられない!!あの子。このままじゃ、おかしくなっちゃうわ」
「わかってるよ!!」
ディアッカの部屋を訪れたフレイ。
彼女もそうだが、この店で働いている舞妓の誰もがイザークを心配してた。
「どうにかしてあげて!!本当に…お願いよ」
フレイが頭を下げる。
ディアッカだって気持ちは同じだった。
彼は立ち上がって、フレイの横を通り過ぎた。
一人残されたフレイの目からは涙が止まらなかった。

ディアッカは店の奥のさらに奥の部屋まで歩いてた。
もう引退した、父親と会うために。





95.温室(アスイザ)
※双子島シリーズ6


目覚めたら、暖かい水の中にいた。
驚いたけれど、息苦しくはない。
揺らめく中で、目を開ければ、視界は悪くなく、はっきりと前が見える。
憎むべき相手の顔もはっきり見えた。

「起きたみたいだな」
手を伸ばしてみても、手に触れるのは硬いもの。ガラスだ。
イザークはあたりを見渡すと、どうやら自分は卵型のガラスの中に入っているようだった。
白いワンピースを着せられて、イザークは水の中に浮いていた。
「ここは」
声を出すと水が口の中に入り込んでくるが、嫌な感じはしない。
はっきりと声もでるし、その声も相手に伝わったようだ。
「黒の島。この部屋は温室と呼ばれる、お前のために用意したものだ」
「…」
「お前名前は?」
そういえばお互い名前も知らずに、此処まで来た。
知ったところで、どうにかなるわけでもないが。

「イザーク」
「俺はアスラン。まぁ、知ったところで、どうなることでもないが…」
「私は…どうなる」
そう聞いた時、アスランが何かの機械を操作した。

突然、イザークのいたガラスケースの中の水が無くなる。
卵が割れたように、ガラスが開き、水浸しのイザークが床に転がった。
「傷は治った。イザーク。お前はこれから色々知ることになる。島の歴史、伝説」
アスランが近づき、イザークの前に膝を付く。
水の中では気付かなかった。イザークの首には太い鎖が付いていた。
アスランはその鎖をひっぱり、さらに顔を近づけた。

「此処で儀式を迎えるまで、悔い、悩み、考え…それでもお前は死ねない」
「いったい…どういう意味?」
「いずれ判る。この部屋は好きに使っていい。呼べば誰かがくる」
アスランは、イザークをそのままに、部屋を去っていく。

暖かい部屋なのに、とても寒く感じる。
イザークは呆然としたまま、その場を動けなかった。





  
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