86.突然すぎる(キライザ)
※舞妓イザークシリーズ8
手を繋いで家まで帰った。
「あれ…銀?」
キラがイザークを店の前まで送ると、門の中から彼の知らない男が顔を出した。
「っ…」
その顔を見て、イザークはさっとキラの後ろに隠れた。
「今日はいないから、もう帰ろうとしていたんだけど、なんだ…これから出なの?」
キラの後ろに隠れていても気にせずに、男は話し続ける。
舐めるような視線が気持ち悪い。
「ザラ様!!」
彼の声をさえぎったのは、慌てて中から出てきた店の若支配人ディアッカ。
「すみません、今日彼女には休暇を出しているんです」
「あぁ、そうなの。じゃあ、また来るよ」
ザラと呼ばれた男は、キラにも一瞥をくれて、その場を去っていった。
「イザ?大丈夫?」
キラの背に隠れたまま、ぶるぶると震えるイザーク。
「うっ…うん。ごめんね、キラ。今日は楽しかった…じゃあ…また」
震えた声で、イザークは急いで店の中に入って行ってしまった。
「ディアッカ…何かあったの?」
「…」
イザークの様子が明らかに変で、キラはディアッカに詰め寄った。
「ねぇ!」
「お前には…関係ない」
冷たい一言。しかし、それを言われてしまえば、もうキラにも何もいえなかった。
ディアッカはその場を立ち去る。何もできない苛立ちがキラを襲った。
折角楽しい気分で出かけたのに、台無しだった。
イザークは、部屋に戻るとベッドに倒れこんだ。
「…キラ…嫌に思ったかな」
キラだって此処がどういう店かはきっと知ってる。
「…嫌いになっちゃったかな…」
嫌なことばかりが頭に浮かんでくる。
もうこのまま寝てしまいたいと思ったときに、部屋のドアがノックされた。
「イザ…客間に来てくれ。話がある」
ディアッカだった。
客間には誰もおらず、ソファに対面で座った。
「ザラ様から頂いた手紙だ」
すっとテーブルの上に置かれた封筒。イザークはそれを手に取り、中身を取り出した。
目に飛び込んできた内容に、視界が揺れる。
「み……うけ?」
「その額で、お前を引き取りたいと申し出があった」
幸せが逃げていく。
87.プレゼント(リボツナ)
※もしもシリーズ『もしも…リボーンが医者で、ツナが患者だったら…2』
山積みのような見舞い品の中に…紛れているもの。
カルシウム入りのウエハース菓子。
いよいよ今週末には退院。
それと同時に大学の夏休みも残り少なくはなっているが、まだまだ遊べそう。
ツナはスケジュール帳と睨めっこをしていた。
「んー…この日は〜」
ボールペンを片手に、提出レポートの数を考えながら遊ぶ日を決める。
すでに、ハルや京子からは『この日が空いてるよー』とメモをもらっていた。
「あー旅行いけそうかな…そしたら、山本とか…獄寺君も誘って」
「…そいつらは男か?」
「はひっ!!」
物音も立てずに近寄ってくるのは、彼しかいない…。
「あの…ほんと、びっくりするんで」
本当ならば、『いきなりなにすんの!!』と怒鳴ってやりたいが、後が怖いので何もいえない。
ツナの主治医のリボーンは、気配も無く人の後ろにやってくる。
「…」
無言で見てくる目は、ギラギラしていて、かなり怖い。
「いや…なんでも無いです。すいません」
ツナは何も悪くないのに、なぜか謝ってしまった。
「それよし、さっき言っていた山本とか獄寺っていうのは?」
プライベートもお構いなしに、ツナのスケジュール帳を覗き込んでくる。
しかし、此処で隠すとまた睨まれることは判っている。
ツナはビクビクしながら答えた。
「男友達です…そ…それが…なにか…」
「なんでもない、それより、これ読んでおけ」
リボーンから渡された紙。
「なになに…って、何これ!!入院延長!?」
「骨が完全にくっついてなかった…おまえ、俺が与えたカルシウム菓子食べてたか?」
「はぁ?って…あれ…先生が」
そういえば、お菓子の山の中に色々それらしきものが入っていたのは気がついていた。
しかし、ツナ的にはチョコやスナック菓子に目がいき、そればかり食べていた。
「お前…スナック菓子ばかり食べやがって…」
「だって…私だって先生がくれてるって知ってたら…(治ると思って食べたけど)」
「そういうわけだ…もうしばらくここにいろよ」
「ひぃ〜」
ツナの悲痛な叫びを聞きながら、リボーンはツナの病室を出て行った。
リボーンがナースステーションに戻ると、同じ意志仲間のディーノが話しかけてきた。
「中々やるね…はい」
ディーノが持っていたのはレントゲン写真。名前は沢田綱吉になっていた。
手の骨が映し出されているそれには、ディーノから見てもなんら異常は見て取れない。
「気に入ったなら、はっきりとそう言えばいいのに」
「うるせぇ」
リボーンはレントゲン写真を奪い取ると、それをもってどこかへ消えてしまった。
「やれやれ…困った人だ」
88.涙(アスイザ)
※双子島シリーズ5
胸騒ぎがした。どうしようもない不安がイザークを襲う。
「父上!!」
村の端っこにある、他の家よりもちょっと大きなつくりのイザークの家。
思い切り扉を開けて、中に駆け込む。
「ずいぶんと遅いお帰りで…」
「っ…貴様ら」
家の中に入ってすぐに目に飛び込んだのは、倒れている母とその母に寄り添う父。
父にナイフを向けている、膝立ちのオレンジ頭の男。
そして、我が物顔でソファに座っている男。
「母上に何を…」
「イザーク!!レイと逃げなさい!!」
母に近寄ろうとしたイザークを、父親が止める。
「おっと…余計なことは言わないでほしいんですけど」
父親に向けられたナイフがさらに近づいた。
「やめろ!!」
「イザっ…長の言うとおりに此処から離れ…くっ」
イザークの後ろから付いてきたレイ。彼の言葉が途中で途切れた。
「レイ!レイ!!」
イザークの横に倒れこむレイ。その後ろから、一羽の梟が家の中に入ってきた。
ばさばさと羽を羽ばたかせて、梟はソファに座る男の肩に止まった。
「レイに何を」
「ちょっと眠ってもらっただけだよ。すぐに目を覚ます」
父にナイフを向けている男がそういった。
倒れこんだレイの横にイザークはひざまずいて、彼を抱きかかえる。
首の辺りに赤い傷跡があった。
「さて…言わずもがなだとは思うけど、白の島の救世主。我々とともに来てもらいたい」
「イザーク…いいから早く逃げなさい!!」
「…ちょっと黙っててもらおうかな」
オレンジの髪の男が言うが早いかで、父親の首に手とうを落とす。
「父上!!」
母と同じように父親も、その隣に倒れこんだ。
「うるさくてね…こちらもすぐに起きる。おっと、自己紹介がまだだった…俺は、ミゲル。
言わずもがなだとは思うけど、白の島の救世主。我々にご同行願おう」
ミゲルと名乗った男は、持っていたナイフを鞘にしまい、立ち上がった。
「君の答え一つで、彼らの生死決まる」
「なら、此処で私が死ねばいい…、そうすれば黒の島は沈まないはずだ!!」
「君は何も知らないようだ…アスラン、どうする?」
ミゲルが困ったように、後ろのソファに座っていた男に話しかける。
アスランと呼ばれた男は、冷ややかな目でこちらを見やり、ゆっくりと立ち上がった。
「今此処でお前が死んでは、お互いの島が沈む。ミゲルやれ」
「…あーはいはい、じゃぁちょっと手荒だけどっ!」
急に近づいてきたミゲルになすすべも無く、イザークはミゲルに鳩尾を殴られた。
意識が薄れていく中、倒れている母と父の顔が見えた。二人とも顔に涙の跡があった。
レイは誰かに揺すられて、気がついた。相手は自分の母親だった。
「よかった気がついて…」
「かあさん…それより、イザークが」
そういうと、母がとても悲しそうな顔をした。
レイが目覚めた場所は、イザークの家。すぐ側には、何人もの島の大人たちがいた。
「荷物をまとめたほうがいいのかもしれない…」
長の苦しそうな声が聞えた。
イザークの母の泣き声も聞える。
「いや…儀式の日取りまであと1年はあります。なんとかなりませんか!」
「しかし」
「どうやって黒の島に行って、イザークを連れ戻すんだ!!」
勝手な話し合い。このままでは、誰もイザークを助けに行かない。
「俺が行きます!!この島は沈ませない…イザークを助けに行きます」
レイは起き上がり、大人たちの輪の中に入っていった。
89.きれいな存在(季永)
※もしもシリーズ『もしも…季史が先生で、永泉が生徒だったら…3』
久しぶりのキスに酔った。
玄関先で始まってしまった行為は、中々止まらない。
季史は、久しぶりの永泉の唇を丹念に味わった。
「んっ…ふぅ…す…ふみ…さっ…」
所処で、永泉に呼吸を取るタイミングを与えてやりながらも、キスは終わらない。
しかし、次第に永泉も腰が砕けてきた。
「もっ…んぅ」
季史のシャツを手で握り締め、永泉の膝がガクッと折れた。
「あっ…」
「大丈夫か?」
「は…はい…」
少し息切れしながら、永泉が答える。
「部屋に入ろう…深水立てるか?」
季史が差し伸べた手をとって、まだ少し足が震えていたが永泉は何とか立って彼の部屋の中に入った。
何も無い部屋。
生活に必要なもの以外は本当に何もない。
ベッド、ソファ、本棚、テレビ、パソコンデスク…季史は永泉をソファに座らせた。
季史は一度キッチンの方へ行き、氷の入ったグラスを2つ持ってきた。
「ほら」
一つはテーブルに、もう一つを永泉に手渡す。
その中に、季史は作り置きしておいた永泉の好きな紅茶を注いだ。
「ありがとうございます」
妙に気恥ずかしくいて、永泉は小声でそう言った。
その表情を見て季史は思う。
何度も経験しているはずなのに。
もっと凄いことだってしているのに。
何時までたっても、なれない永泉。
と思えば、妙に積極的になることだってある。
恥ずかしがる姿も色気のある姿もどちらも永泉で。
どちらにもいえること。
彼女は、何時だって一生懸命で、その姿は輝いてる。
彼女は綺麗だ。
季史も永泉の隣に座る。
「テスト…どうだった?」
他愛もない話。
「まぁまぁ…って感じです。せ…季史さんの数学は一番勉強したので…たぶん…大丈夫かと」
「そうか…いい点取れたら、夏休みどこか行こう」
「えっ…お出かけですか!」
さっきまでの顔はどこへやら、永泉はとたんに明るくなる。
「あぁ…点数次第で。だから、今日はもう家に帰るように…」
「…まだ、来たばかりですよ?」
永泉が自分の腕時計を見る。15時にもなっていない。
「今日は早く帰る予定だったんだろ?それに、さっき携帯鳴ってた」
「あっ…本当。…兄さん…まだ帰らないのかって」
携帯を開くと、過保護な兄からのメール。
「今日仕事休みなんだった…はぁ…じゃあ、帰ります。でも…」
「もう一回、キスしてください」
その輝きに目がくらむ。
90.目隠し(九敦)
「海といったらこれよね!!」
望美が持ち出したのは、木刀とスイカだった。
「おい、それは俺の木刀…」
「今回だけ貸して下さいよ〜手ごろな木の棒がなかったんです」
みんなで海に行こうと決めて。
前日。
望美がスイカ割をしたいと言い出して、九郎のもとに木刀を貸してほしいと頼みに来た。
頼むというか、彼女の場合は無理やりも持って行こうとしたのだが。
その現場を九郎は目撃してしまった。
「それでスイカを割るのか?刀が汚れるじゃないか」
「何本も持ってるんでしょ??いいじゃないですか!」
「しかし…」
渋っていると、横から掻っ攫われた。
「スイカ以外にもいい物用意してますからね!!じゃっ」
「…スイカ以外のいいもの?」
脱兎のごとく去っていく望美を見ながら、その言葉が頭に引っかかっていた。
一方、一度自宅に戻った望美に今度は敦盛の悲鳴が聞えてきた。
「朔殿やめてくださーい!!」
「朔!どう?」
「敦盛さん…なかなかしぶとくって」
敦盛の部屋に乗り込んできた望美。
敦盛は、朔に上着を脱がされ、なんとか朔の行動を阻止しようと頑張っていたところだった。
敦盛の部屋の床には、水着。
「海に行くのに、水着は不可欠ですよ!さー文句言ってないでためしに着てみてください!!」
「こっ…こんな、下着ような格好で人前になんて出られません!!」
バンッと望美が敦盛の前に差し出したのは、白いビキニ(パレオつき)
「もっと凄いのもあったけど、敦盛さんには絶対これが似合うって思って…買ってきたのに。酷い」
ぐすんと泣き出してしまった望美に敦盛は慌てた。
「神子!!…そ…そうですよね、私は…神子になんて失礼なことを。申し訳ありません」
「じゃあ…着てくれるのね?」
さっきに顔はどこへやら、にんまり笑った望美の顔が敦盛の前にあった。
本日快晴。
絶好の海水浴日和。
「…遅い」
女子達が着替えるのを、九郎だけが待っていた。
他の男たちは場所取り〜と言って先に海岸の方へ歩いていった。
「ごめんなさい。遅くなって」
先に海の家から出てきたのは、望美と朔。
「あぁ…今しがた場所をとりに行くといって向こうの方へといったぞ」
九郎が指差した方向には、まだはっきりと八葉のメンバーが見える。
「じゃあ、朔先に行ってよう!九郎さん、敦盛さんよろしくお願いしますね。もうすぐ出てくると思いますから」
お先に〜とニコニコ笑顔で去っていく望美がやたらと怖い。
「まったく…何を考えて」
「あっ…く…九郎殿??お待たせしました」
「あつ…もり!!」
去っていく望美をみていたら、後ろから敦盛がおずおずと話しかけてきた。
振り返ると、目に痛い光景。
公共の場で、下着のような格好の敦盛。
いや、たしか望美達も同じような格好をしていたような気がしていたが、相手が敦盛となると話は別。
「神子が似合うって…私に似合うって言うので…うぅ」
白いビキニに、ちょっと長めのパレオ。
胸の谷間が強調されて、九郎はクラクラした。
「…とりあえず、皆のところに行こう。これ…羽織るか?」
差し出されたのは、九郎が着ていたパーカー。
ウンウンと頷いて、敦盛がそれを手に取った。
「駄目よ!あなたたちが先にやったら、すぐにスイカが割れちゃうでしょ?」
木刀を持った望美、その前には大きなスイカ。
これからスイカ割り。
しかし、剣の達人と言われる人もいる八葉のメンバー。
簡単に割れてしまっては、折角のスイカ割りがつまらなくなってしまう。
「独断と偏見で…敦盛さん!!いきましょう」
「私…」
「そう。この目隠しをして…はいはい、じゃあ、木刀を持って、3回まわってぇ〜」
望美がクルクルと敦盛を回す。
「よし!じゃあ、どうぞ!真っ直ぐ歩いて、あのスイカを木刀で割ってくださいね」
ポンと肩を押されて、敦盛はふらふらと歩き出す。
目が回っているのか、へっぴり腰で歩いていく。
「あー敦盛さんそっちじゃないわ!」
朔の声で軌道修正して、またスイカに向かう。
しかし、長めに設定したパレオにつまずいて…。
「敦盛!」
砂に顔から突っ込む前に、九郎が彼女を抱きとめる。
急いで目隠しを外してやると、目が虚ろ。
「大丈夫か…」
「はっ…はい、目が回りました…立てますから、ちょっと手を」
九郎の手をとって敦盛が立つと、彼女が腰に巻いていたパレオがはらりと落ちた。
「っ!」
真っ白な細い足が九郎の目に飛び込んできた。
いきなり目をそらした九郎に、敦盛も自分がどうゆう格好になってしまったのか気付く。
借りたパーカーはめくれ上がり、お腹と水着がバッチリ見える。
「ひぃー!!」
慌てて、パーカーで敦盛はそのなまめかしい足を隠し、その場に座り込んだ。