56.ケーブル越しの熱(将敦)
携帯ってのは便利だ。
仕事の都合で、2・3日だが家を空けることになった。
仕事だからしょうがない。
しょうがないと判ってるが…。
ホテルのシングルに一人。
やっぱり、隣に敦盛がいないとしっくりこない。
携帯の時計は午前零時過ぎを示している。
寝てるか??
でも…。
ベッドの上で一人自問自答。
敦盛に電話をかけようか、かけまいか迷っていた時。
買ったときからいじっていない、なんの変わり映えもない着信音が鳴った。
相手の名前をディスプレイで見て、思わず笑っちまった。
「眠れねーの?」
『ぁ…将臣殿…もしかして、もう寝てらっしゃいましたか?』
「いや。まだ起きてた…で?どうした」
『ぃぇ…その…一人では…どうにも』
「寝られネェ?」
だって、いつも一緒に寝てるから。
『ワガママですけど…さ…寂し…ぃ…です』
敦盛の声が恥ずかしいのかだんだんと小さくなる。
でも、それが愛しすぎて。
あー俺はなんだってこんな所にいるんだ。
携帯は便利だが、余計に会いたくなる。
「俺もだよ…敦盛」
余計に、掻き立てられた。
57.プレイ(弁敦)
「これを着ましょうね?」
そう言って、白と黒のヒラヒラしたものを渡された。
「まだですか?」
「あの…これ、どう着れば…」
敦盛の部屋の前。
弁慶は彼女が自分の渡した服を着るのを待っていた。
今日は皆出かけていて、家の中には誰もいない。
これをチャンスとばかりに、弁慶はずっと敦盛に着せようと思っていた所謂『メイド服』を何も知らない彼女に渡した。
きょとんとした顔で受け取った敦盛は、何も疑わずに着替えに行った。
少々長く待たされて、部屋からミニスカートの敦盛が出てきた。
「なかなか、いいですよ。はい、これをつけて完成です」
弁慶は敦盛の頭の上にカチューシャをつけた。
「はぁ…で、一体これはなんなのですか、弁慶殿」
「おっと、名前で読んではいけませんよ。この服を着たら、呼ぶ相手は皆『ご主人様』です」
「?」
ますます、わけが判らない敦盛だが、素直なので…。
「僕は弁慶ですが、今だけ『ご主人様』ですよ。はい、言ってみてください」
「ご…ご主人様?」
敦盛が首をかしげてそういう。
「(いいですね…思っていた以上に)」
町に出かけたときに偶然見かけたメイド喫茶。
なにをこんなものをと鼻であしらっていたのだが、一端敦盛のメイド服姿を想像すると…。
これが中々いけそうであることに弁慶は気がついた。
「では、お茶でも飲みましょうか。敦盛君、入れてくれますか?」
「はい。弁…と、ご主人様」
皆が帰ってくるまで、この倒錯プレイは続くのだった。
58.身勝手な本能(アスイザ)
※双子島シリーズ1
暗雲が浮かぶ。
緑豊かな白い島の頭上には、此処数百年浮かんだことのない暗黒の雲。
そんな不吉な日に、印を持ってうまれた少女。
「いやぁぁぁぁぁ!!!」
うまれたばかりのわが子を見て、母親は絶叫した。
父親は…妻を支えつつ泣いた。
赤ん坊の右腕に神からの印。
幾何学模様をしたそれは、濃くはっきりとその子の腕に刻まれていた。
救世主の証。この白の島を守る女神の転生の瞬間だった。
しかし、それと同時に対岸から数キロはなれた黒の島の脅威に彼女はなる。
数百年に一度訪れる。神無の年。
白の島を守るために、この赤ん坊は適齢期になると儀式を行う。
その儀式が成功すれば、白の島は沈ますにまた次の神無の年まで繁栄できる。
しかし…救世主にもしものことがあったら…島は沈む。
それは言い伝え。
でも、確かに…一度この白の島は山の頂やその周辺を残し沈み…また浮上した。
すべてのものを洗い流すように。
これは黒の島にも言えること。
だから…両島で始まるのだ。
お互いの救世主を狩る狩が。
しかし、白の島はそういった手段を持ち合わせていない。
武器と呼べるものは、弓や斧。生活していくための道具でしかないもの。
だから、白の島の救世主は『男』として育てられた。
女とわからなければ、印があるとわからなければ。
適齢期まで逃げ切れば…この島も存続し続ける。
両方が生き残ったという記述は残されていない。その場合どうなるかは…想像できない。
しかし、白の島の住人は一人の少女の命を守るためにそう決断した。
出産に立ち会ったものに、族長は今日の出来事を誰にも口外しないように命令した。
イザークと少女は、その後健やかに成長し、そして『男』として健康に育った。
適齢期の20歳まで後一年。
此処まで黒の島が何かを仕掛けてくるようなことは無かった。
皆安心しきっていた。もう、このままで大丈夫だと。
来年の今頃…島はどうなるかわからないけれど、救世主が生きている限り島が沈むことはないと。
風が強い日だった。
小さな小船が、今白の島に辿りついた。
風の強い日というのは、白の島では珍しかった。
一年中穏やかな気候で、天候に恵まれているのが白の島の特徴だからだ。
船を島の誰も寄り付かなそうな場所によせて、舟から人が二人降りる。
「…腕が…反応する」
被っていたフードを取り去ると、一人の人間の顔がわかる。紺色の髪をした男。
「アスラン?」
「俺にはわかる…」
本能が…アイツを呼んでいる。
59.有刺鉄線(キライザ)
※舞妓イザークシリーズ2
別に逃げようなんて思ったことは一度もない。
うまれた時からずっとこの、店にいたのだから。
「お帰り、イザーク」
店の裏から入るのが決まり。
堂々と入り口から入っていいのは、お客様だけ。
「ディー…ただいま」
この店、宇天楼の若支配人ディアッカが私を出迎えてくれた。
この時間、舞妓たちはすでに自室に戻り、夜のための化粧に勤しんでいる。
「暗い顔してんなよ、今日もお前の予約はみっちりだからな」
「はぁ…はーい」
私は浮かない気分で、とぼとぼと自室に戻った。
自室に戻って、カバンをベッドに放り投げて、化粧台に座る。
酒の席で踊ったり、お酌をしたりするのは嫌ではない。
この店に来る客は、政界の著名人や有識者が多い。
私も政治や社会に関する話は好きだし、それを聞いてとても勉強になる。
でも。
いつも怯えてる。
いつ…呼ばれるのか。
いつ、あの有刺鉄線の張られた離れに呼び出されるのか。
ビクビクして、私は過ごしている。
もう、何も知らないころの私じゃない。子供じゃない。
鏡の前にいるのは、紛れもなく女の私。
18歳の日にきっと呼ばれるんだと思っていた。
好きでもない人に抱かれて、睦言を囁くんだと思ってた。
でも、20歳を越えたいまでも呼ばれることはない。
でも、いつかその日は来る。
私は捨て子。
育ててくれたこの店のために、私は働かなくてはいけない。
「キラ…」
大好きなキラ。
彼に好きだと言えたらどんなに楽だろう。
ボーンボーン
ぼーっとしている間に、自室の掛け時計が鳴った。
「っ…急がないと」
後、一時間で店が始まる。
私は、急いで化粧をして、着物に着替えた。
10数年一人で着ていれば、嫌でもなれる。
今日も、私は…偽名を使って客人達の夢を見る手伝いをする。
『銀(しろがね)です…おみしりおきを…』
60.結婚白昼夢(九敦)
「お帰りなさいませ九郎殿」
気がついた時にはなんか違和感。
なんだって、敦盛はこんな格好してるんだ。
白いふわっとして前掛け。
三つ指ついて、俺を迎えている。
「どうしました?早く中へ…外は寒いですから」
俺はこの家知らない。
でも、目の前にいる女性が敦盛だということはわかる。
「九郎殿??ほら…」
敦盛が框を降りて、玄関先でボーっとしている俺の服の袖を引っ張った。
「あ…あぁ…」
「おかしな九郎殿。いい加減なれて下さってもいいのに…その…私たち」
「結婚したんですから」
ぇ??
け…結婚。
何時の間に。
いや…そう…だった気もする。
なんだか。
今日の俺は少し疲れている気がする。
「お疲れなんですね、お食事も用意してありますけど、先にお風呂にしますか?」
「風呂にする…」
「はい、じゃあそのまま湯殿へどうぞ。着替えは私が後でもって行きますから」
仕事のカバンを敦盛が持って、用意をしにいく。
俺はなぜか知っている風呂場へと足を向け、脱衣所で服を脱ぎ風呂場に入る。
ゆっくりと風呂に入ると、どっと疲れが出た気がする。
あぁ…俺は疲れてたんだ。
今日は早く寝よう。
「九郎殿?お背中をお流ししますね?」
「!!!??」
すっかり湯船の中で眠りそうになっていたところ。
俺は、扉越しに言う敦盛のとんでもない一言で飛び起きた。
なんだって?
背中を流す??
「入りますよ?」
「いや…きょ…今日はいい」
俺は大声でそういう。
「え?でも…いつもしているのに…遠慮しないで下さい」
いつもしている?
そうだったか??
「入りますよ!!」
頭がグルグルしてくる。
湯当たりか?
敦盛の声が遠くで…。
「九郎殿?」
「はっ…夢?」
真っ先に飛び込んできたのは、びっくりした敦盛の顔。