41.濡れる(知敦)


行かせて下さい、あの人のもとへ。
行かせて下さい。
彼が私のすべてです。

「知盛殿!!知盛殿ぉぉぉ!!!」
着物が濡れるのもかまわずに、敦盛は海へと入っていった。
八葉の仲間が叫ぶのもかまわず、ヒノエや将臣の制止も振り切って。
敦盛は、入水しようとしている知盛の船へと向かった。

「私を…置いていかないで下さい」
私の命は。
貴方の物なのです。
貴方の命も…私のもの。

船は目の前なのに、全然距離が縮まない。
「知盛殿!!!」
叫んで、溺れそうになって。
すると、船の上にあったはずの知盛の体がなくなっていた。
「お前は…愚かだな」
「っ…知盛殿」
届かないはずの彼の体が、目の前にあった。
敦盛は迷わずにその身体を引き寄せた。
お互いに足は付かない、もう後は沈んでいくだけだ。

「果てる時は一緒だと…約束しました」
「良く覚えていたな」
知盛が濡れた敦盛の髪を優しく撫でた。
「貴方との約束…忘れて事などありません…すべて此処に」
敦盛が自分の手を胸に持っていく。
「浄土でも…一緒にいたいです」
沈み行く中で、口付けをかわして。

戦いの無い世界へ行く。





42.陶酔感(九敦)


今宵は宴。
老いも若きも関係なく、飲めや歌えの大騒ぎ。

「九郎飲んでるか!!!」
「将臣…お前…飲みすぎだぞ」
酒瓶を持った将臣が、座敷から離れたところで、一人酒を飲んでいた九郎に近寄ってきた。
明らかにその様子は酔っており、酒の強い将臣が此処までなるのは珍しい。
相当…いや、浴びるほど飲んでいるようだ。
本当に珍しい。

「いいんだって。ほら、お前も飲めよ!」
「っ…おい」
将臣が大きめの徳利を九郎に渡して、自分の酒を注ぐ。
「ほらほら」
「…はぁ…わかった」
飲まない限り、将臣は自分から離れないだろう。
仕方なしに、九郎は注がれた酒を飲み干した。

自分の注いだ酒を飲んだ九郎をみて満足した将臣は、
バシバシと九郎の背中を叩いて、又他の誰かに酒を注ぎにいった。
その様子を呆れ顔で見送って、自分も皆の下へ行こうと立とうとした瞬間。
九郎の視界が揺れた。
「っ…」
自分も相当酔いが回ったらしい。
元々それほど酒に強いわけではない。
無茶をして将臣の酒を飲まなければよかったといまさら後悔する。
仕方ないので、壁際までゆっくりと座ったまま移動し、壁に頭をつけて、ゆっくりと目を閉じた。
寝れば酔いも冷めるだろう。

次に九郎が目を覚ました時、頭に感じたのは硬い壁の感触ではなく、もっと柔らかいもの。
それが人だと気付くまでには少々時間がかかった。
まだ、頭の中がふわふわする感じがするからだ。
「んっ…」
「あ…気付きましたか??」
目の前には敦盛の顔があった。
九郎は敦盛の膝に頭を乗せて寝ていた。
「俺は…」
「壁では頭が痛くなってしまうでしょ?なので」
敦盛は酒を飲まない。なので、今日はお酌役に回っていた。
九郎にも一杯酒を注ごうと探していたら、壁にもたれかかって寝ている彼を見つけて。
そっと九郎の頭を自分の膝に持ってきたのだ。
「そうか…すまない」
「いえ、まだ顔が赤いですね…まだ、皆奥の座敷で騒いでいます。もう少し…休んでから、部屋に戻ってください」
敦盛が九郎の頬に触れる。
それが気持ちよくて、九郎は言われるがままに、もう少し休むことにした。
彼女のヒンヤリとした手が自分の顔に触れるのを感じながら、九郎はまたまどろみの中に沈んでいった。





43.舌を絡める(キライザ)
※smile番外編6


キラの帰りが遅くて、寂しくて。
この間医者に言われたことをそのまま伝えた。
『妊娠は病気じゃない…妊娠36週目までは夫婦生活を行っても大丈夫。ただし、無茶は禁物』

妊娠する前は毎晩のように一緒にいたのに、妊娠がわかってから、キラは自分に触らなくなった。
キスも、唇じゃなくて、額とか頬。
それがとても物足りなくて、でもはっきりと自分からは言えないイザーク。
でも、さすがに帰りが毎晩遅いと不安で。
思い切って、自分から言ってみた。

「イザ…不安にさせてごめんね」
ベッドの上でお腹を庇うように、キラはイザークを優しく抱きしめた。
伸びた髪を梳いて、髪に唇を寄せた。
「私も色々問題起こしてたし…キラの気持ちにも気付けなくて」
お互いに顔を見合わせて。
額をくっつける。
「できるだけ、言いたいことは言おうね」
「うん…その方がいい」
どちらとも無く、唇を寄せ合って。
久しぶりのキスにお互いが没頭した。

ぴちゃっという音がイザークの耳を支配する。
キラはイザークの呼吸に合わせて、キラの舌がイザークの口腔内を探るように撫でる。
「んぅ……はぁっ…ふぅ」
「ん…イザ、苦しくない?」
出来るだけイザークに呼吸しやすいようにキスの間隔を空けてる。
「大丈夫。ね…も…もっと」
イザークがキラの服の袖を掴んで、引き、強請る。
キラはそんなイザークの態度が嬉しくて、啄ばむキスを何度も与えて、そして又舌を絡ませた。

久しぶりの互いの熱に溺れながら。
夜は更けていった。





44.お風呂でも安心できない(ヒノ敦)


この世界は便利だ。
『じゃぐち』というものを捻るだけで、水が出てくる。
しかも、温めもせずにお湯まで出てくる。
なんとも不思議だ。
お風呂も、焚き火で沸かすのではなく、『ガス』というもので沸く。

敦盛は風呂が好きだった。
水属性のせいもあり、一度風呂に入ると中々出て来ない。
最近は、シャンプーにも凝りだして、望美と色々な物を試している。

今日も今日とて、敦盛は長風呂だった。
別に誰にも迷惑はかけていない。
彼女もきちんと時間を考えて風呂に入っているし、望美や朔の迷惑になるようなことはしていない。
しかし。
ヒノエには長風呂が不満だった。
ただでさえお互い忙しい身。
この世界でも起きてしまった怪異を調べるべく奔走しているのだ。
でも、少しでも良いから二人の時間もほしい。
折角、長年の思いを伝え、両思いになったのに。
風呂なんかに時間を割かれてなるものか。

「ふん…ふふーん♪」
今日は一番お気に入りの、イチゴの匂いのぼでぃーそーぷ。
すでに望美や朔は風呂に入ってしまったので、敦盛で今日は最後。
心行くまで入れる。
泡で湯船をいっぱいにして、甘い匂いが風呂場に充満する。
敦盛は自然と笑みがこぼれて、嬉しくて鼻歌がとまらなかった。

そんな様子を、ヒノエが脱衣所から見ていた。
無断侵入+覗き。
最低行為かもしれないが、さすがに我慢できない。
もう1週間も敦盛に触っていない。
彼は暴挙に出た。
服を脱いで、敦盛の入っている風呂に自分も入ったのだ。

「ずいぶんと楽しそうだね?」
「…ひ…ヒノ…きゃ・・・もが」
いきなりの侵入者に大声を出そうとしたけれど、ヒノエが慌てて敦盛の口を手で塞いだ。
「みんなに気付かれるだろ?それとも・・・気付かれたいのかな?」
「んーんー」
首を振って、抵抗する。
ばれるのは嫌だ。
「なら、大人しく一緒に風呂に入ろうよ」
「…」

仕方なく、敦盛はヒノエの侵入を許してしまった。





45.白昼堂々(アスイザ)
隊長アス×アカデミー生イザシリーズ2


四肢の自由を奪われて。
でも、意識ははっきりしている。
これは、以前薬学の授業で勉強した、かつて拷問用に使用された薬の効果に似ている。

こんな時は唇を強くかんで、弛緩している体の神経を無理やりにでも活性化させるのが一番いい。
しかし、相手は隊長。
そのあたりの準備もしっかりしていた。

すばやく白い布で、イザークの口元を覆う。
舌を噛み切らないように、唇を傷つけないように。
「いい顔だ」
「んーんっーー!!」
布が邪魔をして、イザークは声が出せない。
アスランはゆっくりと、イザークの制服を脱がしにかかった。

応接室の窓からは、まだ日の光が差し込んでいる。
正午過ぎ。
この光の下で行うにはあまりにも背徳的な行為は一方的。
自分も着てたこの制服は。
イザークが着るとなおストイックさを醸し出す。

初めて会った…いや、見たのは、夏の暑い日。
偶然訪れたアカデミーで、イザークは訓練を受けていた。
その姿は凛々しく、他の者は汗だくで受けていた訓練を、汗一つかかずにこなしていたイザーク。
氷のような女だと思った。
その周りだけ、空気の流れが違う。
昔の自分を見ているような。
親近感を持つと同時に、めちゃくちゃにして、隠されている顔を見て見たいとおもった。
自分より強いものに出合った時、敵わないと知ったときの。
ゆがみ、涙する顔を。
綺麗で美しいイザーク。
飼いならして。ずっと自分のそばに置けたら。


「俺の隊においで」
「むっ…んーんー」
イザークの上に乗っかり、服を脱がしながら言う。
「思った以上に綺麗だ…胸も…日の光に透けるような白さだな」

白昼堂々行われる行為は。
しかし誰にも気付かれず。
二人だけしか知らない、秘密の出来事。



  
次へ進む