36.欲情するということ(九敦)


「なんだ、敦盛いたのか?」

秋は祭が多い。
以前いた鎌倉でも、秋になると豊穣の祭が行われていた。
今日は近くの神社でも祭があるとかで、家の中の人間は皆それに行ってしまっていた。
九郎は用事があったので、皆が行く時間に間に合わず後で合流することになっていた。

「九郎どの…お待ちしてました」
淡いピンクの浴衣に身を包んだ敦盛がリビングのソファに座っていた。
「先に行っていると思っていた」
荷物をテーブルに置いて、喉の渇きを癒すために冷蔵庫を開ける。
「なんとなく…待っていようかと。皆はもう縁日を楽しまれていると思いますよ?私たちも行きましょう」
「ん…あぁ」
冷蔵庫に入っている九郎専用のペットボトルを一気飲みして再度敦盛の姿を九郎は見た。
上げられた髪は綺麗に束ねられ、うなじがくっきりと見える。
化粧もしているのだろうか、頬は薔薇色だし、口元もいつもより色気がある。
「九郎殿にも浴衣がありますよ?折角だから着ましょう」
「ん?そうだな」
敦盛の呼びかけにこたえて、九郎が彼女に近づく。
敦盛も立ち上がって、九郎が来るのを待ち、行きましょうと手を差し伸べる。

揺れる後れ毛。
綺麗な首すじ。
微笑む顔。
自分に伸びる手。
九郎は思わず差し伸べられた手を思い切り握ってしまった。

「く…九郎殿!?」
彼女の動作すべてに誘発されて、九郎は敦盛の手をとり、自室に向かった。
敦盛を部屋に押し込めて、自分も中に入り、鍵を閉める。
九郎の部屋にはベッドと箪笥しかない。
後は壁際に寄せられている木刀や木。
必要最低限の物しか彼の部屋にはない。
「着替えるのでしたら、私は…」
「敦盛…」
不穏な雰囲気を掴み取って、敦盛が部屋を出て行こうとするが、それを止め、
逆に押さえ込む用に床に敦盛を押し倒した。

「なっ…」
「押さえがきかない…敦盛。とても、綺麗だ」
言葉と共に降りてくる唇が敦盛の唇を覆う。
性急に帯が解かれ、抵抗している間もなく、敦盛の浴衣は乱れ、纏められた髪もバサリと床に散った。
「いつもと違う…いや、いつも以上だ…」
「ん…ふっ…皆が…待って…」
九郎の手が敦盛の豊かな胸を掴み、細い腰を撫でる。
なんとかして、話を他の方向に持っていこうとしても、九朗は聞き耳を持たない。

「敦盛」
「ぅ…ぁぁん!」
一番感じる場所を触られて、敦盛の思考も濁る。
結局は九郎に流されて、敦盛も次第に祭のことを忘れていった。




おまけ

『あっ…ん…九……ど…のぉ』
『敦盛!!』

「中々こねぇから向かえに来たけど…どぉすんだよヒノエ」
「邪魔するのも野暮ってもんじゃないの?戻ろうぜ…っまったく、何してんのかと思えば」
中々こない二人を、望美の命令で見に来たヒノエと将臣は、
この事実をどう望美に伝えようかと悩みながら、皆の下へ戻った。





37.腹上死(将敦)


「自分で動けるか?」
「む……り…ぃ…んぁっ…痛…く…て」

暗い部屋。
響く水音と、揺れる敦盛の長く美しい紫の髪。
軋むベッドともれるため息。

将臣の上に乗る敦盛は涙を流して、必死に快楽と痛みに耐えていた。
慣れない体位を強制されて、それでも必死に将臣について行こうとしている姿は健気だ。
それをいいことに、将臣がムリなお願いをする。
突然将臣の動きが止まり、緩慢になる。
急に動きをとめられ、将臣の熱をよりリアルに感じてしまう。
「綺麗だ…このまま、閉じ込めて…いや、このままいっそ…」

殺してしまえば

「んぅ…将…臣…ど…のっ!!」
不意に首に手をかけられて、敦盛は驚く。
この格好のまま、じわりと喉元の手の力を入れられれば、気が気でなくなる。
ポタポタとさらに涙が溢れ出して、将臣の手を濡らした。
その温かさに、はたと気がついて、慌てて将臣が手を引っ込めた。
「あう…んっ」
その時の揺れで内部が擦れて、敦盛の体が前後する。
「悪い…苦しかったよな」
ポンポンと背中を撫でて、一度自身を敦盛の中から引き抜く。
「あぁぅ」
苦痛を伴ったため息を吐いて、敦盛は将臣の体にしなだれかかるように倒れこんだ。

「はっ…はぁ…はぁ…どう…か、なさったの…ですか?」
「いや…ちょっと…飛んでた」
「?」

この世界では、生きるか死ぬか…そんな立場にいるわけではない。
安穏とした緩やかな生活の流れに乗って、生きているのに。
時々、喉が焼け付くような渇きを感じて。
人をはじめて殺めたときの感触がまざまざと蘇ってくる。
もう一人の俺が、ゆっくりと意識の奥底から這い上がってくるようで。
その俺が、耳元で囁く。

あの感覚を覚えているか?

でも、コイツを自分の手で殺すなら。
俺は自分が死ぬ方が何倍もいいに決まっている。
いや…。
出来るならば。
許されるのならば。

共に繋がって…一緒に。





38.夜までの時間(キライザ)
※smile番外編5


ぽんぽんと大きく膨らんできた下腹部を撫でる。
それに反応して、中の胎児も元気にお腹を蹴った。

妊娠8ヶ月。

イザーク自身この夏の暑さにばてて倒れてしまったりと、
結構なハプニングもあったのだが、子供は順調に成長していた。
エコー検査でも特に異常も見られず、ただ医師に相談して性別は最後まで知らせないと言うことになった。

さすがに重いお腹で仕事はできないし、いても邪魔になるだけである。
なので、仕事は休み、マーサを連れて買いものに行ったり、誰か一緒について散歩をしたりして日々を過ごしていた。
屋敷の中にいる時は部屋で大人しく読書をしたり、音楽を聴いていた。

「遅いなぁ…」
時計を見ると、すでに11時を過ぎていた。
食事は必ず一緒にとるようにしているのだが、キラは食事後すぐに仕事場へと戻っていった。
戦争がなくなったといっても、やることは山ほどあるらしい。
最近は本当に仕事が忙しくて、夜は何時も一人だ。
だんだんと眠くなってきて、とりあえずイザ^ークは着替えてベッドの中に入った。
音楽はつけたままで、ベッドヘッドに寄りかかってボーっとする。
お腹が目立つようになって、うつ伏せになれないことが少々不便だと感じる。
「ん…なに?」
お腹に振動を感じて、思わず声をかけてしまう。
優しく撫でて、さらに話しかける。
「もう眠い??でもね、パパがまだ帰ってこないんだ…」
ふわぁと欠伸をすると、さらにポンポンとお腹を蹴る。
「先に寝ろって??んーでも」
せかされて、少々考えていると、ガチャガチャと音がして、キラが帰ってきた。

「ただいま…今日もごめんね、先に寝てていいのに…お風呂は?」
「もう入った…遅かったな。大丈夫か?明日は…」
イザークはベッドから出て、キラの服を片付けるのを手伝う。
「いいよ、もう眠いでしょ?先に寝てて。僕はお風呂入ってくるし…」
そう言ってさっさとキラはバスルームに行ってしまった。
また一人でポツンと部屋の中にいる。
そういえば、キラは最近ずっと遅い。
「…寂しい…のに」
そうはっきり言えずに、イザークは再びベッドの中に戻った。

それから30分ぐらいたってようやくキラは寝室に入ってきた。
キラがベッドの中に入るのを確認して、イザークが声をかけた。
「キラ」
「っ…まだ、寝てなかったの。体に障るし…って、どうしたの??」
イザークはキラのパジャマの裾を握って、自分の方へと引っ張った。
「…さ…さ…さ…」
はっきり言おうとすると、照れてしまってなかなか言えない。
「さ?なに」
「さ…び…しぃ…んだ」
小声でそういうと、キラがばつの悪そうな顔をした。

「ごめん…その…あの…僕も寂しいんだけどさ…一緒に居るとどうしても…。
その、触りたくなるっていうか…でも、お腹の子のことを考えると」
「!!」
そういわれてみれば、最後にその…あの…したのは大分前のことだ。
「あの…あのさ」
イザークがキラの耳元でなにやらこそこそと囁く。
「えっ!」
喜んだ声と同時に、イザークは静かにキラに抱きついた。





39.征服欲(アスイザ)
隊長アス×アカデミー生イザシリーズ1


一目見た瞬間から思っていた。
その美しい姿をずっと俺のそばに置いておけたら。

「ザラ隊に召集されたって??」
同僚のディアッカから声をかけられて、イザークが振り向く。
此処はアカデミー。
エリート軍人を養成する学校だ。

アカデミーでの学習を終了したイザークはこのたび軍への配属が決まった。
赤服のエリートとして優秀な成績を収めたイザークは、今軍の中でも一番優秀であると言われている、
アスラン・ザラの隊に召集されることになった。
今日はそのための隊長の面接がある日だった。
面接の部屋に向かう途中にイザークは幼馴染のディアッカに声をかけられたのだ。

「そうだ。教官直々にお達しがあって…私が申請を出してた部隊とはちがくて。
少々考えている所だ」
赤服ともなると、自分である程度希望を出せる。
イザークも今回の隊とは別の部隊へ希望を出していたのだが、何でも直々にザラ隊長本人から要請があったらしい。
嬉しいが複雑なイザークである。
「いいじゃないか、うらやましいぜ」
「まぁ…色々はなしてはみるつもりだ。じゃあな、遅れるからもう行く」
ディアッカとの会話を簡単に済ませると、イザークは面接を行う応接室へと向かった。

「イザーク・ジュールです。入ります」
大きな扉をノックして、イザークが中に入ると、アスランはすでに中にいて応接室のソファに座っていた。
「も…申し訳ありません。遅くなりました」
敬礼をして、イザークは急いでソファに近づいた。
「いや、久しぶりのアカデミーだったから、早めに来たんだ…まぁ、座って」
促されて、イザークはアスランの対面のソファに座る。
とても隊長クラスとは思えないほど若い。
もしかしたら、自分とそう年齢は変わらないのではないか。
紺色の髪は長めで、エメラルドの瞳はとても優しい印象がある。
声も、落ち着いていて、良く通る耳に心地いい声だ。
アスランはすでに紅茶を自分で入れたらしく飲んでいて、
イザークにもいれようとソファの前にあるテーブルの上にあるティーセットを弄ろうとしたので、
イザークは慌ててそれを阻止した。
「自分で入れますから…気を使わないで下さい」
イザークはゆっくりと紅茶を注ぎ、アスランもそれを待った。
淹れ終わり、一口イザークが飲んだ所で、話が始まった。

「話は聞いてくれているか?俺は今回、赤から君を選ぼうと思っている。
戦闘のシミュレーションや講義の成績もすべて見せてもらった。素晴らしいね」
「いえ…とんでもありません」
「女性で、中々いないよ。それに…君はとても美しいね」
ガタッと音をたててアスランが立ち上がるので、イザークは驚いて自分も立とうしてしまう。
しかし、立とう意識しているのにも関わらず、足は動かなかった。
「?」

「体…動かないだろ?」

先ほどとは明らかに違う声色。
深く、黒い何かが見えそうな、暗いからだの底に響く声。
「神経は鈍るが…意識ははっきりしてるだろ?」
「いったい…」
イザークはなにがなんだかわからなくて、ただ呆然としてしまう。
「一目見て時から、ずっと思っていた。俺で…君を…満たしてやりたいって」
アスランがイザークの座っているソファにゆっくりと座り、優しく彼女の頬を撫でた。

「やっぱり…君のその顔は被虐心をそそる」
僕の征服欲に火をつけるんだよ。





40.四肢(弁敦)


『うーん…やはり、綺麗ですよネェ』

怨霊によって怪我をした敦盛を治療して以来、弁慶の視線はついつい敦盛を追ってしまっていた。
今日も今日とて。

「はぁ…」
日々の戦いで疲れているのは皆同じことなので、一人だけ疲れた顔は出来ない。
しかし、女性の身として前線で戦闘に参加している敦盛の疲労は他の八葉より大きい。
勿論、望美も女性の身として戦っているが、直接攻撃を受けるのは八葉の方が多い。
大事をとって、今日の散策は敦盛を置いて行われることになった。
彼女は一人屋敷に残り、みなの帰りを待った。

部屋にいても出るのはため息ばかり。
折角休みを貰ったのだからと、敦盛は襦袢を持って風呂に入ることにした。
敦盛は白い湯船用の襦袢を着ていつも風呂に入っていた。
重い着物を脱いで、白い襦袢に着替え、いつも湯がはってある湯船へと入っていった。

そこにタイミングよく弁慶が戻ってきた。
自分のまかされた地域の散策を終えて、皆よりも一足先に戻ってきたのだ。
また、一人残された敦盛の事を心配していた。
屋敷に戻ると、誰もおらず、気配もない。
『どこに行ったのか…』
とりあえず敦盛の部屋へと足を向けた。

『いない…さて、どこへ行ったのか』
考えるポーズをして、色々考える。
そして、もしかしたらと思って風呂場へと向かってみた。

がちゃがちゃと音がかすかに聞えるので、どうやら風呂場にいるのだろう。
様子を見ようとして、うっすらと開けると、すでに上がったのか、濡れた襦袢姿の敦盛が脱衣所にいた。
長い紫の髪が濡れて、着物に張り付き、また着物も白いために透けていて、四肢がくっきりと見える。
『うーん…普段隠れているせいもありますが、やはり綺麗ですね…』
手ぬぐいで拭く様を弁慶はついうっかり長々と見てしまい、思わず戸を支える手に力が入ってしまった。

カタッ

その音に気がついて、敦盛が気がつき驚いた様子で慌てて入り口に手をかける。
「…戸が開いてる…誰が」
少し隙間の空いた戸を開けてあたりを見渡す。
しかし、誰もいなかった。
「…着替えるか」
今度はきちっと戸を閉めて、敦盛は着替えを再会した。

「はぁ…ばれないでよかった」
音をたてた瞬間に、弁慶はささっとその場から逃げていた。
「しかし…綺麗でしたね。今度は…是非寝所で拝みたいものです」
くすくす笑って、弁慶はその場を後にした。

覗きは立派な犯罪ですよ?



  
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