31.初恋記念日(ヒノ敦)
秋の紅葉が美しいのはどの世界でも同じこと。
鎌倉のもみじも美しく色づき、土日ともなると多くの観光客でにぎわっていた。
「源氏山公園に行こう」
そうヒノエに誘われた。
皆でいくのかと思ったら、「二人っきりで」とささやかれた。
うれしくないわけが無い。
敦盛は久しぶりの二人っきりでのお出かけに気をよくして、譲に料理を教わり弁当を作ろうと考えた。
当日。
山道なので歩きやすい格好をして、二人は出かけた。
土日ではないので、それほど人はいない。
敦盛がもて来た弁当をヒノエが持ち、二人はぶらぶらと公園内を歩いた。
「もうちょっとしたらさ、熊野に似てるところがあるんだ」
広い公園内でも奥のほうは本当に人もまばら、そして手付かずの自然が残っている。
「ここだよ」
ヒノエにつれてきてもらった場所はどこのなく雰囲気が熊野の山の中に似ていた。
小さな野の花が咲き、静かに風が吹く。
「な?」
ぎゅっと手を握ってそういうヒノエに敦盛も頷く。
二人でたったまま、景色を見続けた。
「お前と初めて会ったときも、秋だったよな」
兄上に手を引かれ訪れた熊野の土地。
何もわからない敦盛の手を今と同じように握ってくれたのは、ヒノエだった。
「あぁ…何もわからない私にいろいろ案内してくれたな」
「見た瞬間、恋に落ちたさ」
「!!」
不意に言われて、敦盛がヒノエを見る。
まっすぐに自分を見つめる瞳と視線が合った。
「あんな思いは初めてだったかな?」
「私も…初恋って…言うのか?」
「うれしいこと言ってくれるねぇ」
今日は記念日になる。
毎年、ここに来たい。
美味しいお弁当を持って、隣にはあなた。
32.挑発(アスイザ)
「打ち落とせ!!!絶対に打ち落とせっ!!」
イザークの叫び声が艦内に響いた。
アンノウンの報告が入り、イザークは母艦を引き連れて現場に向かっていた。
しかし、着いた場所にはすでに何もなく代わりにアスランの率いている母艦がいた。
通信士が連絡を取ると、たまたま近くを航行中にアスランの母艦もアンノウンに出くわしたために対処したとのことだった。
対処は早いほうがいいので、アスランの取った行動は正しいものだった。
イザークとしては自分の艦の仕事を持っていかれたという意識もあったが、
結果を考えれば何事も起こらないほうがよいに決まっている。
なので、その時はイザークは通信でアスランに感謝の言葉を伝えた。
しかし、たびたびこういうことが続いてしまった。
そして今回は決定打だった。
もちろんアスランとしては、仕事を横取りしている気など毛頭無い。
だが、イザークの艦が武装組織との戦闘中に、アスランの艦に横入りされ、なんと一機追撃されてしまったのだ。
敵にされたならまだわかるが、アスランの部隊。
つまり味方にミサイルを発射され、間一髪でパイロットが脱出したから良かったものの、
これで打ち落として爆破してしまったらどうなっていたことか。
最近の行動といい、イザークの堪忍袋の緒が切れた。
「私が出る…もう我慢ならん!!!」
「た…隊長!!いけません、隊長自ら艦を離れるなどと!」
副官であるディアッカは今出ているので、イザークの一番そばにいるのはシホ・ハネンフースだ。
彼女は必死にイザークの出撃を止めた。
母艦の周り全体に武装組織の機体が展開している今、指揮官がいなくなるのは困る。
「私の部下の機体を撃つなど…挑発しやがって!!!」
「隊長!!!」
シホの静止を振り切り、イザークは猛ダシュでドックに向かった。
「出るぞ用意しろ!!」
イザークの罵声が響いて、クルー達はあわててイザークの機体の発射準備に取り掛かった。
「アスランめ…ゆるさん」
発進の合図よりも早く、イザークの機体は宇宙へと飛び立った。
『こちら、ジュール隊のハネンフース。ザラ隊応答願います』
シホが仕方なくアスランの艦に通信を入れる。
「こちらザラ隊、アスラン・ザラだ。シホ…さっきはすまなかった。新入隊員でね…あれ?イザークは」
アスランの目の前に映る、向こうの艦の映像にはシホだけしか映っておらず、艦長席には誰もいない。
『すみません…隊長は怒って…その、出撃してしまい』
かなり困った表情でシホが言う。
「…わかった、俺がイザークに通信をつなげて戻るように言うよ。まだ戦闘は続いているから、気を緩めるなよ」
『はい』
アスランは通信を切り、通信士にイザークの機体へと回線を繋げるように指示した。
『イザーク?イザーク??』
「アスラン!!貴様、何のつもりだ。よりによって私の部下の機体にミサイルを撃ちやがって!!」
アスランの母艦にイザークの罵声が響き渡った。
『すまない、新入隊員だったんだ…』
「そんなことが理由になるか…っうわぁぁ!!」
イザークの機体にもミサイル。
イザークが撃った相手を確認すると、またもアスランの部下の機体からだと思われるミサイルだった。
「よほど私を怒らせたいらしいなぁ??ジュール隊員全員に告ぐ!!」
イザークが隊員用の回線を全部開けた。
『いいか!ザラ隊の艦、機体全部打ち落とせ!!!これは命令だ!全部打ち落とせ!!!!』
イザークの大声が艦内や機体内に響き渡る。
もうどうしようもなくなって、アスランもあわてて自分の機体に乗り込みイザークを落ち着かせに走った。
その後は何とか武装組織も一掃したが、両艦ともに結構な損害がでてしまい、
イザークとアスランは始末書を書く羽目にっなってしまった。
33.苦しいばかり(知敦)
貴方の愛は時に重く、苦しく、私を追い込む
「んっ…だめです、知盛殿!!」
秋の夜は長い。
屋敷では、静かながらにも酒の席が設けられ、各人思い思いに好きな時間をすごしていた。
つかの間の休息。
いつ源氏に攻めてこられるかわからない、最近は常に気が張っていたが今日は満月。
こう月明かりがまぶしいとすぐに居場所がばれてしまうので、兵は動かない。
このときばかりは戦士の休息で、さすがの知盛も酒をたしなみ、程よい具合に酔っていた。
敦盛は酒を飲まないので、もっぱら晩酌や肴の用意に徹していた。
しかし時間も経つと皆思い思いに飲むので、敦盛の役目も減ってくる。
眠たくもなって来たので、敦盛は先に部屋に戻ろうと思い、立ち上がり、部屋に戻った。
「遅かったな」
「っ…知盛…殿?どうして、ここに…??」
先ほどまでは皆と一緒にいたはずの知盛がなぜ自分の部屋にいるのか。
敦盛は驚いて、部屋に入れた足を思わず引っ込めてしまった。
「どうした、お前の部屋だろ?入って来いよ」
「えっ…あぁ、はい」
立ち去ることもどうかと思い、敦盛は部屋の中に入った。
「どうした??久しぶりの逢瀬…なぜ、逃げる?」
部屋に入り座ったものの、ジリジリと知盛が寄ってくるので、思わず敦盛はズリながらも逃げてしまった。
しかし、知盛がそれを追い、着物を引っ張り自分の方に寄せようとした。
「あの…まだ、皆起きていますので…ちょ…知盛…殿だめです」
手は確実に着物を脱がせにかかている。
それを何とか止めてもらおうと敦盛が身じろいだ。
部屋の戸が閉まっているというものの、宴会の席はこの部屋から近く、話し声も聞えれば、足音も聞える。
そしてなにより、敦盛の部屋の隣には将臣がいる。
彼は敦盛より早く部屋に下がって行ってしまったので、きっと隣にいるだろう。
「んっ…い…やぁ」
的確な目的を持って、素肌に知盛の手が触れる。
優しく、強く。
強引に、焦らして。
「もっ…く……しぃ」
着物はほぼ脱がされ、襦袢だけが敦盛の身体をお情け程度に覆っている。
「聞えぬ…もっとはっきり話せ」
「っぁ…うんっ…も…」
まだ着衣を乱していない知盛の着物を掴んで、その指の動きを止めようとするが、そんなことはかまいなしに指は動く。
敏感は部分は避けられ、もどかしい快感だけが身体を襲う。
「く…苦しいのです…もっ…許してください」
必死に声を振り絞って哀願しても、知盛の動きは止まらず、むしろ焦らすことをやめるような動きになった。
「ぁ…いや、そこっ…ん…んぅっ」
必死に声を殺そうと自分の襦袢を噛み耐える敦盛の口から着物を取り、一度彼女を抱き起こして襦袢をすべて剥ぎ取る。
冷たい畳に再度押し付けられ、唇が触れ合う距離で告げられる。
「苦しいだけではない…感じているだろう?」
そう。
感じている。
触ってもらえて嬉しい、知盛がいるだけで嬉しい。
しかし、明日滅びるやも知れぬ身、一族。
彼の言葉、行動、愛。
すべてが、今の私には苦しいばかりなのだ。
34.EUPHORIA(多幸症)(九敦)
最近の敦盛はよく泣く。
花が綺麗だと言っては泣き、雨が降れば泣き、日が沈んでも泣く。
今日も。
縁側で敦盛は一人泣いていた。
「どうした…また、泣いているのか」
「く…九郎殿」
後ろから近づいてきた九郎に泣き顔を見られまいと、敦盛は洋服の袖でごしごしと目元を拭いた。
「そんなに乱暴に拭くと目が腫れるぞ…」
九郎が彼女の横に座り、そっと顔を拭く敦盛の手を取った。
「ほら…ちょっと目を閉じていろ」
九郎がズボンのポケットから柔らかい生地のハンカチを取り出して、そっと敦盛の目元を拭いた。
「で?今日は何がどうして、泣いてたんだ」
「ぁ…あの…花が…」
敦盛の指差した方向に咲いていたのは今の時期が開花の彼岸花。曼珠沙華だ。
「曼珠沙華がどうかしたのか」
「…天上の花を…見ることが出来て嬉しいのです」
曼珠沙華は死の花とされる説と天上の花とされる説がある。
敦盛はもといた時代の時から、この神秘的な花が好きであった。
天上の花と思い続けていた。
「最近のお前は…泣いてばかりだ」
「…すみません。何をするにも…なぜか嬉しくて。笑いたいのに…涙が出てくるんです」
そう言ってまた、ポロポロと涙が流れたので、すかさず九郎が拭いた。
「…悲しくて泣いているのでないのならいいが…あまりに出てくると干からびそうだな」
幸せならばいい。
悲しくないのならば、いくら泣いてもかまわない。
その涙をいつも拭いて、話を聞こう。
お前の感じるものを、俺も感じたい。
気持ちを、共有したい。
35.塞ぐ(キライザ)
その目を塞いで。
耳を塞いで、言葉を…唇を塞いで。
あらゆるモノから君を隔絶して。
もう二度と傷つかなくていいように。
幸せだけを。
君に捧げたい。
「キラ…いい加減にしてくれ」
朝起きて知らない場所だったら、誰だって驚く。
威厳に溢れ、部下からも慕われる、そして氷の女王とまで呼ばれるイザーク・ジュールであっても、
それは例外ではなかった。
ベッドに寝てはいるが、部屋の壁紙が自分のいた部屋とは違う。
宇宙の見える窓もなければ、家具もこの寝ているベッドしかない。
そして、上を見上げると同僚のキラの顔。
またコイツの道楽かとため息をつく。
しかし、今回は違うらしい。
「先週の戦いは酷かったね…傷はもういいの?」
「ん…あぁ、それより時間は?キラ…私は起き…なに」
イザークが起きようとしたら、ジャラジャラという金属音が聞える。
不意に手首を見ると、鎖が両腕にはめられていた。
「お前…何考えて」
「あー…この傷??」
イザークの話を無視して、キラがイザークのパジャマの袖を捲り上げる。
そこからはかさぶたになった傷が数十センチ縦に入っていた。
他にも所処にうっ血したあとやかすり傷がある。
手でこれだけあるのだから、全身はもっと酷いだろう。
この間の戦闘では、イザークの機体の片足が完全に吹っ飛ぶほどの
「キラ、いい加減にしろよ。私は今日も仕事があって、勿論お前も仕事がある。
こんな遊びをしている暇はないし、お前も隊長だ。部下が心配するだろう?」
キラにはこうやってやさしめに諭した方がいい。
「…綺麗なイザーク…他のモノなんかで傷つかないで」
ギシっとベッドが鳴って、キラがイザークの上に乗る。
「傷つくなら…僕で傷ついてよ」
「キラ??」
「僕の身体で傷ついてよ」
「っ!!」
僕でいっぱいになればいい。
溢れないように、塞いであげるよ。
こぼれないように。
僕で傷ついた、君の証が。