21.突っぱねた腕の弱さ(九敦)
「敦盛さんは絶対出てきちゃダメですからね!!」
怨霊なのに風邪をひくとは、何たることか。
怪我といい、この病気といい。
仏はなぜこれほどまでに私に対して厳しいのか。
今日は撒かれた呪詛を見つけに行くので、大人数じゃなくても大丈夫とのこと。
望美は朱雀と白虎と白龍の5人を連れて、出て行った。
将臣は今はこちら側にいない。
屋敷にとどまったのは、朔と九郎とリズヴァーン、そして熱をだして寝込んだ敦盛の4人だ。
「私は、敦盛さんに何か食べやすい物を用意してきます」
「私は弁慶から貰った薬草を煎じてこよう」
朔は炊事場へ、リズヴァーンは薬の袋を持ってどこかへ出かけた。
「九郎殿も…ご自分のお体を休めてください。私の側にいたら、風邪が移ってしまう」
「いや…一人では心細いだろう」
そう言って、九郎はわざわざ敦盛の布団の近くまで来てくれる。
「病に伏している時は気も滅入る。側にいてやる、ゆっくり休め」
「ですが…私にかまわずとも…」
これ以上迷惑をかけるわけには行かないと、敦盛は熱に浮かされた身体を起こす。
それに気付いた九郎が慌てて、布団へと敦盛を押し戻そうとする。
「止めろ。熱が上がるぞ」
「私は…大丈夫ですから…本当に…これ以上の迷惑は」
押し戻そうとする九郎の手を必死に敦盛が押し返す。
しかし、その力は弱い。
熱もせいもあり、普段の力の半分も出せないでいる。
あの、身の丈ほどもある錫杖を持ち戦う彼女とは思えないほどの弱々しい力。
「敦盛…大人しくしていろ」
熱のせいで汗も出ている。
九郎は仕方なく、敦盛を抱き寄せて、一緒に布団の中に入った。
いきなりのことで、敦盛も抵抗を辞めざるを得なかった。
「九…郎殿?」
「休め。休めるうちに…側にいてやる。こうして…」
抱きしめた敦盛の頭を九郎は自分の胸にそっと抱きこむ。
そこから聞える、規則だただいい鼓動に次第に敦盛は安心していった。
懐かしい。
昔はよく熱を出し、経正に抱きかかえながら寝たものだ。
その頃を思い出し、敦盛はゆっくりと眠りの中へと意識を落としていった。
九郎にも次第に睡魔が襲って、朔がおかゆを持ってくる頃には二人そろって夢の中だった。
幸せそうな二人の顔に起こすのが憚られて、結局九郎が起きたのは、周りの大勢の視線を感じてからで。
この状態をヒノエにからかわれたのは言うまでも無い。
22.実況中継(将敦)
将臣殿は時々、いや。
物凄く意地悪だと思う。
今だって。
久しぶりの逢瀬。
将臣は還内府。
会うことは出来ても、皆の前で本当の自分を見せることは決してない。
敦盛はふと思う。
自分にだけは色々と話してくれるとそう思っている。
見せない表情を見せてくれるのは、とても嬉しい。
嬉しいのだが。
「将臣殿…あの…ここで?」
遠くでは望美や朔の笑い声も聞える。
ヒノエの冗談やそれを叱責する九郎、譲の声も聞える。
森の中。
将臣に話があると言われて連れ出された。
大きな幹に突然押し付けられて、敦盛はびっくりする。
しかし、目的を持って動き出した将臣の手。
何をしようとしているのかわかってしまい、その手を敦盛は掴んだ。
「誰も来ない…敦盛」
彼女以外何も見えないといった表情に敦盛は困る。
何とか止めようとしても、将臣の手は敦盛の着物の中へと入ってくる。
「敦盛…心臓凄い早い」
不意に胸に耳をつけられる。
「こんな所だから?皆に見られるかも知れないから?」
「将臣殿!!」
「柔らかい…胸、ほら。尖ってきた」
いちいちそういうことを言うから本当にたちが悪い。
ごつごつとした将臣の手が敦盛の柔らかく、小ぶりな胸をじかに触る。
こういうとき、着物は便利だと将臣は思う。
サイドが空いているからだ。
「いや…言わないで下さい」
「可愛い。敦盛」
「っ…やぁ」
的確に与えられていく愛撫に、敦盛の膝ががくがくと震えてくる。
「震えてる…感じてるのか?もっとほしいか?」
「そんな…聞かないで」
「言えよ敦盛…全部…思ってること。感じる所」
耐え切れなくなって、敦盛は両手を将臣の背中に回した。
将臣の背中をきつく掴んで、後は彼が施す愛撫に流されるだけだった。
23.不思議な恍惚感(弁敦)
私は怨霊。
これは紛れもない事実。
消し去れない汚点。
ただの怨霊に成り下がっていたら、良かったのかもしれない。
私は人間としての意識を保てるまま怨霊になってしまった。
時折、怨霊としての意識が強くなりすぎて、人としての自我と保てなくなるときがある。
その時は、いつも兄上が香を焚いてくれていた。
しかし、その兄上も今はいない。
現在のその役目は薬師である弁慶が担っている。
「落ち着きましたか?」
屋敷の中でも奥のほうにある部屋に現在敦盛はいた。
発作が起きると、自分でも何をするか判らない。
最近では発作の兆候も自分でつかめるようになってきた。
感じたらすぐに弁慶に知らせ、自分は奥の部屋へと引っ込む。
「えぇ…大分よくなりました」
弁慶が換えの香炉を持ってやってくる。
一つ目の香はすでに香が薄くなってしまった。
なので、弁慶は新しい物に取替えに行ってくれていた。
「大分顔色も落ち着いてきましたね。良かった。この分だと明日にはよくなるでしょう」
「迷惑をかけてすまない」
「敦盛君、それは言わない約束ですよ」
弁慶がテキパキと香炉を変える。
慣れ親しんだ匂いが薄くなり、新たに嗅いだことのない匂いが広がる。
「これは…」
「新しいものですよ。いつものはすみません…切れてしまいまして。今ヒノエに調合を頼んでいるところです」
いつものさわやかな香とは違う。
なにか、ねっとりとまとわりつくような。
酷く甘い、花の香。
不思議が感覚が敦盛の体を襲う。
頭の中が酷く重いような、白いもやのかかったような感覚。
「弁慶殿…私は…」
「いい匂いでしょう…気持ちよくなりますよ。お互いにね」
不意に弁慶が敦盛の側に来る。
「なに…弁慶…殿?」
「怖いことは何もありませんよ」
右手で敦盛の髪留めを外すと美しい紫の髪の毛がさらさらと落ちてくる。
その一房を掴み、弁慶は口付けを落とした。
「私もこの匂いにあてられてしまいそうです」
貴女という、美しく甘い香の匂いに。
24.性器(アスイザ)
ぴちゃっと言う音をたてて、イザークが自分のモノを舐めている。
アスランはゆっくりとイザークの髪の毛を撫でる。
こんなことは珍しい。
アスランから言わない限り、彼女は絶対にこんなことはしない。
自分で強請っても、彼女は中々首を縦に振ってはくれない。
なので、アスラン自身も無理強いは絶対にしない。
しかし、アスランも男。
してほしいなと思うことはある。
今日は自分の部屋に来た時からイザークの様子はおかしかった。
なにか考えているのかと思えば、いきなり赤面したり。
見ているこっちは、あまり見られない彼女のクルクル変わる表情を楽しめたのでいいのだが。
とにかく、ちょっとおかしかった。
そして今の状態だ。
いつものようにアスランがイザークをベッドにいざなって、いざ彼女を押し倒そうと思ったら、ストップがかかった。
「今日は…私がする」
そう言って、いきなりアスランのズボンを脱がしにかかった。
さすがに、その突拍子もない行動にアスランは驚いたが、めったにない機会と踏んで、彼女の好きにさせた。
ゆっくりと、いや焦れったい思うほどの彼女の舌の動き。
出来るならば、欲望のまま彼女の頭を支えて、腰を動かしてしまいたい。
だが、それをして彼女の機嫌を損ねるわけには行かない。
仕方なく、アスランは彼女が満足するまで理性を抑え続けた。
一通り終わって、ベッドの中でアスランが問う。
「どうしたのいきなり」
少々疲れ気味にイザークの髪の毛を梳きつつ、聞く。
「あー…なんだ、その…部下がなぁ」
話しによると、部下の女性達とそういう話になったらしい。
で、飽きられるとかマンネリになるとか吹き込まれ、今回の行動に出たようだ。
「お前のモノだし…嫌じゃないんだ…でも、恥ずかしくて」
必死に伝えようとするのが可愛くて、アスランは思わずイザークを抱きしめた。
今回をきっかけに、アスランが図々しくそれを強請る回数が増えたことは、想像に難くない。
25.昔の恋人(キライザ)
又今年も来た。
終戦記念日。
私たちは、花束を持って。
記念碑へと赴く。
喪服を着て、白い百合の花束を持つ。
目の前には石碑。
此処はオーブのオノゴロ。
多くの民間人が、兵士が死んでいった場所。
そして、此処はヤキン攻防戦や今回の戦争で死んでいった者達の慰霊碑も兼ねている。
キラとイザークは毎年此処に来ている。
彼らが終わらせた戦争。
しかし、彼らが奪った命も此処に多く眠っていることは事実である。
そして、此処には。
かつてキラが愛した女性も眠っていた。
フレイ・アルスター
尊敬していた隊長が連れてきた少女。
その時は知る由もなかった。
キラと出逢ったのは、その後停戦を結んでからだったから。
「イザーク…お祈りは?もういいの」
イザークは花を捧げ、祈りをあげおえたキラの一言で自分が花を石碑の前に置いただけだと気付く。
イザークがキラの元恋人を知っているということはキラは知らない。
イザークは、以前ミリアリアから聞いたのだ。
昔のこと。
そう思うことは出来る。
しかし、やはり思ってしまうのは、昔のキラとフレイの関係。
死んでしまった人に対して嫉妬している自分のなんと醜く愚かなことかと思いながらも。
消えぬ影。
そしてキラに聞けずにいる、弱い自分。
「いや…まだ。もう少し…」
イザークがキラにそう告げる。
「僕は、向こうで待ってるから」
去っていくキラの背を見つめて、イザークは石碑の方へと振り返る。
「フレイ…私は…」
言の葉は誰にも聞えることなく、海へと溶けていった。