16.意識的依存(リズ敦)
ふと寂しくなることがある。
現代に来たことに迷いは無かった。
兄も成仏し、伯父も…そして従兄弟たちも。
一族の人間は、神子に救われた。
そして、私も消える運命だった。
それを助けてくれた、神子。
彼女についていこうと…彼女がいるから大丈夫だと。
そう思って来たのに。
「敦盛…どうかしたのか?」
有川家の縁側で休んでいた敦盛の後ろから、リズヴァーンが話しかける。
「先生?何かあったのですか?」
敦盛はただ縁側に座っていただけだ。
一言も声を発してはいない。
なのに、何故リズヴァーンは自分に対してそんなことを聞くのか。
「宝珠が…教えてくれた。何か悩んでいるな?」
「あっ…いえ」
リズヴァーンが敦盛の横に座る。
「天地を分かつ者同士、不安や喜びは伝わりやすい…言ってみなさい」
「はい…その」
敦盛はぽつぽつと話し始めた。
一人生きていること。
兄のこと。
一族のこと。
不安なのだと。
「お前が決めた道だ…何も不安がることは無い。案ずるな…」
ひとしきり話を聞いたリズヴァーンが、ポツリと自分の意見を言う。
「私を頼りなさい…いつもお前の側にあるのだから」
「先生…」
リズヴァーンがそっと敦盛の肩を抱く。
「お前はまだ若い…家族が恋しいこともあるだろう…」
優しく頭を撫でられて、敦盛はゆっくりと目を閉じた。
頼っていいのだろうか。
この人に。
いや、もう心のどこかでは、ずっと頼っていた。
天地を分かつ物として、彼の心の響きはあまり自分には伝わってこないけれど。
きっと、自分の思いは彼に伝わっていた。
それはわかっていた。
「先生」
敦盛は横に座るリズヴァーンの身体にぎゅっと抱きついた。
17.包帯(弁敦)
「敦盛君此方へ」
皆で歩く時は、敦盛は必ず一番後ろを歩く。
速度がそんなに速いというわけでもなく、皆にあわせられないというわけではないのだが、
常に彼女は後ろにいた。
しかし、今日はもう一つの理由も相まって、皆の列から遅れかけていた。
先の怨霊との戦いで、太腿とわき腹を痛めてしまっていた。
自分は怨霊なのに、それでも傷を負うなんて本当にたちが悪いと思う。
だんだんと歩く速度が遅くなっていく。
それに、弁慶だけが気付いた。
「九郎…いいですか?」
敦盛のすぐ前を歩いていた弁慶が、先頭を歩く九郎の元に駆け寄り、耳元で囁く。
「判った…もう、日も暮れる。この先で一晩明かそう…待っている」
「えぇ、すぐに追いつきますから」
敦盛には聞えない声で二人は話をすると、弁慶だけが、そこで立ち止まり、
他の仲間は先に歩いていってしまった。
敦盛も置いていかれないようにと速度を速めるが、その分足が痛い。
「敦盛君。ムリをしないで…此方へきてください?」
弁慶だけが、敦盛の側に残った。
彼は、敦盛の手を引くと、そのままわき道に反れて、森の中へと彼女を導いた。
「足を見せてください。かなり痛むのでしょう?」
「…気付いて?」
「右足を庇うように歩いていましたから。折れているかもしれない…見せてください」
弁慶は敦盛を木の陰に座らせた。
「足首ですか??」
弁慶が靴の上から、敦盛の足首を触る。
「いや…その…」
「あぁ…太腿ですか、切られた跡が…血も滲んで。見せてください」
そう言って弁慶は、敦盛の袴をいきなり脱がそうとした。
「ま…待ってください。薬をいただければ…自分で…自分でします」
ただでさえ人に触られるのが苦手なのに、素肌を晒せなどとは、失神してしまう。
敦盛は、必死に抵抗した。
「僕は薬師ですよ?安心してください…」
「ですが…は…恥ずかしい」
敦盛は真っ赤になってうつむく。自分は、一応女なのだ。
「あぁ…それなら、この外套を被っていてください。これは大きいから、貴女の身体を隠すのには十分だ」
はいっと渡されてしまい、敦盛はどうしようも無くなった。
そして、抵抗空しく、敦盛は袴を脱ぎ、太腿を弁慶に見せた。
真っ赤になってうつむきながら、弁慶がくすりを塗り終わるのを待ち、最後に布を巻かれた。
「わき腹は打ち身ですかね?それはこっちの薬を…僕が塗りましょうか?」
足でさえ恥ずかしいのに、これ以上、手が上に上がってきたらどうなるか判らない。
敦盛はブンブンと頭を振って、弁慶から打ち身用の薬を奪い取った。
18.骨になるその時まで(九敦)
「俺は…俺は望美や将臣の世界に行く」
諸悪の根源を倒した。
消えると思ったこの命。
しかし、神は私を救ってくださった。
この人の。
源九郎義経の側にいることを許してくださった。
「九郎殿…」
海辺での出来事。
夜、九郎は敦盛を誘い浜辺へ出た。
敦盛はそれに従い、彼の後について浜辺を歩く。
大分長い間九郎は無言で歩いていた。
それを敦盛も無言で追った。
漸く口を開いた時は、出発した野営地の松明がほとんど見えなくなっていた。
「俺は…ここにいてはいけない。兄上のためにも…仲間のためにも。俺は…望美や将臣の世界へ行く」
足を止め、九郎が敦盛の方へ振り向く。
「敦盛…一緒に来てほしい。いや、お前を連れて行きたい」
九郎が敦盛を抱きしめる。
「っ…九…郎殿」
「意見を押し付けたくは無い、だが…離したくない」
矛盾していると九郎は十分判っていた。
「私は…ついて…行きたい…貴方と…一緒にいたいです」
敦盛も九郎の背中に手を回した。
震えた声で、でも精一杯に。
敦盛は気持ちを伝えた。
敵同士だった。
源氏と平家。
決して相容れない関係だと思っていた。
望美が彼女を連れてきたとき、殺そうとおもった。
平家は源氏にとって、害にしかならない。
しかし、彼女の抱えた闇を知った。
今では、怨霊ということも含めて、それが彼女の一部だと思うことが出来ている。
「好きだ…敦盛」
「私もです」
暗い海。
誰もいない。
「骨になるその時まで…一緒にいてくれ」
ゆっくりと唇が重なった。
19.ラブのかたち(キライザ)
※smile番外編4
微熱が続いていたイザークを心配して、キラは彼女を病院に連れてきていた。
オーブの市街地にある、大きな総合病院。
そこに二人はきていた。
風邪なので、キラは内科を受診させた。
「症状は?」
女医が診察室には待機していた。
中にはイザークだけが入る。
カバンを置いて、女医と対面するように椅子に腰掛ける。
「最近微熱が続いてて…」
「そうですか…じゃあ、一応喉と胸の音聞きましょうか」
「じゃあ、服あげてくださいね」
控えていたナースが、イザークjを手伝う。
女医が聴診器で胸と背中の音を聞く。
そして、イザークの喉を調べた。
「はい、いいですよ。じゃあ、最後の生理は何時でした??今月の初め??それとも先月下旬?」
「あっと…」
そういわれて何時だったか思い出す。
「に…二ヶ月まえ?だったような…いろいろ合って…」
「そうですか…」
女医はなにやら、カルテ以外の紙にも筆を走らせている。
そして、一枚の紙をイザークに渡した。
「これは、婦人科の地図です。ちょっとね、気になるから…見てもらってください。
此方から連絡しておきますから」
大事に。
そう言われて、イザークは診察室から出た。
「どうだった?」
待合室で待っていたキラが、イザークが出てきたので声をかける。
「あ…婦人科行ってこいって言われて…」
「そっか…」
キラが何考えるような仕草をする。
「キラ?」
「ん??なんでもないよ、行こう」
キラに地図を渡して、一緒に婦人科に行く。
待合室では、妊婦さんが何人か座っていた。
イザークは婦人科に来るのが初めてで、しかもまだ18だったので、なんだか妙に緊張した。
呼ばれるまで、二人は端のほうで待った。
キラはイザークの手をぎゅっと握った。
そして、名前が呼ばれ、イザークが中に入った。
キラはそれを優しい眼差しで見送った。
20.熱い(アスイザ)
「暑い!!!どうなってんだ一体!!」
イザークの罵声がアスランの部屋中に響いた。
艦の中はいつも適温に保たれている。
宇宙という空間は寒い。
なので、キチンと温度調節をしないと、人体に影響を及ぼすのだ。
しかし、今日はそれが暑すぎた。
何で宇宙に来てまで、夏を体感しなければならないのか。
「壊れたらしいよ。居住区だけ…」
「はぁ??まったく何をやってるんだ整備班は…」
「今直してるって…操舵室の方行けば涼しいよ??」
「…誰が、行くか」
折角これから寝ようと思っていたのに。
自分の部屋だけが暑いのかと思ってアスランの部屋に来たら、こっちも暑くてイザークはイライラしていた。
「…あぁぁぁ暑い!!」
そう言って、イザークは上に来ていたシャツを脱いで、キャミソールになる。
それをアスランが横目で見ていた。
「暑いならシャワーでも浴びれば?さっぱりするよ。ハイ」
アスランがそこらへんにあったタオルをイザークに向けて投げた。
それを彼女は受け取る。
「…ココデか??」
「そう。君が入っている間に、俺が様子を見てくる…出来るなら直してくるよ。で、直ったら…」
ね?
ニッコリ笑われて、イザークが難しい顔をする。
直ったら、一緒に寝ようとか考えているのだこの男は。
「私が、シャワーを浴びている間に直せたらな」
考えてやる。
そう言ってイザークは、アスランの部屋のシャワールームに入って行った。
アスランは急いで、整備室に走り、すぐに直してしまうのであった。
そして、空調が直ったにも関わらず、アスランに押し倒され、イザークは熱い夜を過ごすのだった。