11.制服(将敦)
「将臣どのぉぉぉ〜」
隣の春日家から、敦盛の叫び声が聞えた。
日曜日の昼下がり。
「あん。もーダメですよ敦盛さん!逃げ出しちゃ」
「まって敦盛さん!」
望美と朔の声が此方まで届いている。
そして、どたばたという足音。
将臣は気になって、壁を越えて春日家の庭に入った。
「っ〜助けてください!!」
庭に下りた将臣の目に飛び込んできたのは、望美の制服を着た敦盛。
将臣に向かって走ってくる敦盛の後ろから追いかけてくる望美と朔。
敦盛は逃げるようにして裸足のまま庭に出て、将臣の後ろに隠れた。
「お前ら、何やってんだ」
まだ縁側にいる望美と朔に将臣が話しかける。
「見れば判るでしょ!敦盛さんに私の制服を着てもらったのよ」
「はぁ…で、その手に持ってるのは?」
将臣が望美の手を指差す。
そこには、メイク道具がつかまれていた。
「そのままでも十分に美しいけれど、敦盛さんならもっと美しくなるわ」
望美の横にいる朔も共犯。
彼女も櫛を右手に持っていた。
「わ…私は、その…き…気になっただけで、着たいなどとは…」
「ん?」
将臣の背中に隠れながら、敦盛がぼそぼそと呟く。
「なんで、学校に行くのに何時も同じ服なのか聞かれて…で、綺麗な服だって言われたから、
着てみる??って話になって。朔も敦盛さんなら似合うって言うから」
「で…こうなったと」
チラッと後ろを振り向くと、高校の制服姿の敦盛。
口紅を塗られたのだろう、うっすらとピンクがかったぬれた唇。
望美より背は高いが、線が細いので、少々服が大きめである。
だが、スカートの長さはかなりきわどく、覗く生足に将臣が思わす唾を飲み込む。
「望美、夕方までには返す!!」
将臣はこんなチャンスはめったに無い!と思い。
敦盛をお姫様抱っこで抱えあげた。
すると、待ってましたとばかりに、望が袋を敦盛に投げる。
それを敦盛は難なくキャッチした。
「それ靴!!敦盛さん楽しんできてね!!あと、制服はもう一着あるから!」
汚れても気にしないから〜などと言い手を振る。
「おう」
「なっ…将臣どの!!!?」
「行こうぜ、敦盛」
敦盛はそのまま連れて行かれた。
「制服デートは基本だもんね」
「デート?」
「あー…なんて言うのかなぁ…逢引?」
去っていく二人の姿を見ながら、帰ってきたら色々問いただそう!と心に思う神子だった。
12.5秒前(アスイザ)
「戦闘配備用意!!!」
母艦の中ではイエローのシグナルが所処で点滅していたs。
これはレッドの一つ手前で、注意の意味。
イザークとアスランの両隊長が共同で所有する母艦に戦闘配備用意の警報がなっていた。
これは、操舵室の兵士達が発令したものであった。
モニターにアンノウンが映し出されていたのだ。
それに反応して警報が鳴り、それを艦内に転送した。
現在、母艦の中には小さな音であるが警報が鳴り響いている。
警報を聞きつけて、多くの兵士がドックに集まってきた。
その中の何人かが、隊長がいないことに気付き、彼らの右腕であるディアッカに聞いた。
「隊長たちは??」
「見当たりませんね…ディアッカ先輩知りません?」
「あー…(あいつら…まったく)とりあえず、出れそうなやつは着替えとけ!
俺は、あいつらを探してくるから、後は各自操舵室からの連絡を待つように!」
両隊長が不在の時は、ディアッカが指揮をとる。
彼は一通り指示を出すと、プライベートルームに向かって走り出した。
アスランとイザークはオフを貰っていた。
しかし、母艦が出ているので部屋でゆっくりと休むことしか出来ない。
アスランとイザークは二人っきりでオフを楽しんでいた。
「っ…はぁ…なんか、聞こえ…なぃ…か」
「聞えない」
愛の確認の真っ最中。
イエローのアラームはプライベートスペースにも一応鳴っているが、部屋の中までは聞えない。
しかもアスランがいい雰囲気になるからと流したクラシックがいい具合に警報を遮断している。
なので、二人はだらだらと情事にふけこんでいた。
「ぁっ…ん…もう…ィク」
「っ」
ビクッとイザークが身体を仰け反らせる。
「はぁ…はぁ…」
「イザ…もう一回」
アスランがイザークにキスをしてもう一度…と思ったとき、部屋のドアが思い切り叩かれた。
「おら!!何してんだ、イエロー出てるんだぞ!!出て来い」
ディアッカが大声でアスランの部屋の前で叫ぶ。
それにびっくりして、二人は慌てて服に着替えた。
結局二人がそろって操舵室に現れたのは、レッドシグナルに変わる5秒前のことだった。
13.微熱(キライザ)
※smile番外編3
最近イザークは夜になると微熱が続いていた。
さらわれて、オーブに帰ってきてからそろそろ2ヶ月。
いまさら疲れが出るのはおかしい。
今もキラに言われて、先にベッドに入っていた。
「どう?」
飲み物を持ってキラが寝室に入ってくる。
「平気なのに…」
「だめ!明日…病院行こうか」
「んーえー」
あまり納得いかないのか、寝ながらも文句を言うイザーク。
その姿にキラはため息をついた。
「まったく、病院嫌いだからってしょうがないでしょ?」
キラが飲み物をイザークに飲ますために彼女を抱き起こす。
「ほら、飲み物飲んで、熱を下げないと」
「はいはい。今日はなに?」
キラがベッドサイドに置いたカップをイザークに渡す。
「昨日は紅茶だったから、今日はレモネード」
「あ、いい匂い。いただきます」
イザークがカップに口をつける。
さわやかなレモンの味が口に広がる。
それがとても心地いい。
「美味しい?」
「うん、もう一杯飲みたい」
そういったイザークにキラはもう一杯作って持ってきた。
それを飲んでイザークはまたベッドに入って、すぐに寝てしまった。
その様子をキラが同じベッドに入って、ベッドヘッドに背中をあずけて見ている。
優しく髪をすき、自分も布団にもぐりこむ。
「イザ…」
囁くと寝ぼけて、キラに擦り寄ってくる。
キラは伸ばされた左手に輝くサファイヤの指輪にキスをして、その後に優しくイザークのお腹を擦った。
「…まだ判らないけど」
明日になれば
世界が変わるかもしれない
14.焦らし(ヒノ敦)
「なぁ…ヒノエ?聞いてるのか」
有川家のリビング。
ソファに座ってヒノエは真剣に本を読んでいた。
この時代の本は敦盛にとっては読みにくいのだが、中々興味深い。
自分も没頭してしまうので判るのだが、今日はヒノエが出かけようと敦盛を誘ったのだ。
それなのに、敦盛が声をかけてもヒノエは「もうちょっと」と言って本を読み勧めている。
最初は彼のおふざけで、焦らしているのかと思ったが、どうやら違うようで。
「うん…聞いてる」
「…」
聞いてると言っても、目線は本のまま。
敦盛を見ることなく、ただ本に没頭している。
それが敦盛にはつまらなかった。
出かけようと言った時間は過ぎている。
折角ヒノエのためにと、服を神子から借りた。
なのに、恋人はこの調子で動く気配すらない。
「…ヒノエ…はぁ」
集中する彼をどうにかするのは、自分でも難しい。
仕方なく、敦盛は一歩ひいて、キッチンの椅子に座って彼を待つことにした。
「やれやれ…ヒノエにも困ったものですね」
ずっと見ていたのだろうか、敦盛の横に弁慶がやってくる。
「まったく子供ですね…」
「弁慶殿…」
腕組みをして、弁慶がため息をつく。
「ヒノエはね、嫉妬しているんですよ。さっき君が…」
「うるさい!余計なこというなよ!」
全然気にして無いように本を読んでいたヒノエが本を放り投げてキッチンへ来る。
「何ですか?だって、本当のことでしょう?将臣殿と話していただけで、敦盛君を無視して…大人気ない」
「っ!」
「ヒ…ヒノエ?」
「行くぞ、敦盛」
弁慶の一言で真っ赤になったヒノエは、敦盛の手を勢い良く握って有川家を後にした。
ずんずん進んでいくヒノエに敦盛は精一杯ついていったが、途中で靴が脱げてしまった。
「ちょっと…靴が」
転びそうになって、敦盛がヒノエの袖を引っ張る。
それでヒノエが止まった。
「わ…悪い」
我に返ったヒノエが、脱げてしまった靴を取りに行き、跪いて履かせてくれた。
「無視したりして…悪かった。でも、お前無防備すぎ!」
「す…すまない…だが、何が」
何が原因で無視されていたのか、敦盛としてはさっぱりわからない。
将臣と話していたからと弁慶は言っていたが、それはたあいない世間話だ。
「お仕置き決定」
「えっ!」
なぜ、将臣と話していただけでそんなことをされなければならないのか。
「ヒノエ!!」
「言っても理解できなさそうだから」
「身体に教えてやるよ」
耳元で囁き、敦盛の耳たぶを少し強めに噛んで、ヒノエは敦盛を連れて繁華街へ向けて歩き出した。
15.膨らむきもち(九敦)
最近自分がおかしいと九郎は思う。
龍神温泉で敦盛が女だとわかってから、落ち着かないのだ。
いや、女ということが原因で落ち着かないわけではないのかもしれない。
敦盛は平家で、敵で…でも、神子が連れてきた八葉。
仲間である。
いまさら殺したいというわけではない。
九郎は考え出すと答えが出ない限り寝られないタイプなので、
その日は敦盛のことを考えすぎて眠ることが出来なくなってしまった。
結局、夜中に部屋を抜け、一人庭に出た。
井戸の水を飲み、顔を洗う。
真っ暗だが、月明かりと星の光が綺麗な夜だった。
庭を歩き、精神を落ち着ける。
「ふぅ…」
縁側に座り、池に注ぐ小さな滝の音を聞く。
キィ…
縁側の板を踏む音が聞え、九郎がその気配に驚いて音のした方向を向く。
敦盛だった。
だが、彼女は九郎の気配に気付くことはなかった。
敦盛にとって九郎は死角にいるので、見えないのだろう。
彼女は、笛を持って縁側に立っていた。
こんな夜中に吹くのだろうか。
そう思ったらが、そうでは無いらしい。
「………の」
かすかに敦盛の呟く声が聞える。
九郎は神経を集中させて、その声を聞き取ろうとした。
「く……どの…九郎殿」
敦盛は自分の名を呼び、笛をぐっと握りしめた。
思いつめた顔をして、庭先に下りる。
庭に出ると、九郎がいるのが敦盛にもわかる。
九郎は去ろうと思ったが、出遅れてしまい、敦盛に気付かれてしまった。
「く…九郎殿!!!」
「…」
「あの…す…すみません」
敦盛は真っ赤になって、その場を逃げ出した。
九郎もそれを追うことは無かったが、敦盛に反応して彼も顔が真っ赤だった。
眠れないと思って庭に出てきたと時より、胸が痛い。
胸が膨らんで圧迫されるような。
その原因に気付くのは、まだ先のこと…。