1.声(アスイザ)
休日が重なると、必然的にこうなるのは判る。
別に嫌ではないし、拒む気はない。
好きだし。
気持ちがいいし。
でも。
どうしても。
気になることがある。
「っ…ぁ・・・ん…」
「声だしてよ」
ベッドの軋む音が部屋中に響き渡る。
その音の間々にイザークの苦しそうな声が聞える。
イザークは艦では絶対に声を出そうとしない。
元から、恥ずかしがりやなのでそこまで声を出すことは無いのだけれど。
艦の中では、本当に出さない(最初は)
「は…ず…かしぃ」
「何をいまさら…」
「だって、隣…ラス…達、聞こえ…」
「平気だって」
ね?
そういうと、さらに深く突き上げてくるものだから、イザークはたまらなくなる。
口に置いてある手が、激しい動きでベッドに落ちる。
「あんっ!!」
「誰も聞いて無いよ」
耳元で囁かれれば、もうどうしようもなくなる。
後は、あられもなく声を上げてしまうだけだ。
結局は、なし崩しになってしまう。
それがいつも艦に乗っているときのパターン。
「マジでいつか言ってやりたい」
「ほんとですよね…」
アスランの隣の部屋にはラスティーとニコルがいる。
彼らは、休日が重なってしまうたびに、この二人の情事の音に悩まされていた。
何で防音じゃないのか。
そこが良くわからない。
この次の日にイザークを見るのが、なんだかニコルは恥ずかしく、
ラスティーはミゲルに言いたくて仕方が無いが、アスランが怖くていえない。
「録音でもしてやろうか?」
「あー…レコーダー持ってますよ。匿名で送ってみましょうか?声が聞えていますって」
「…ばれるな」
そして、二人は今日も休日なのに眠れぬ夜を過ごすのだった。
2.LOVE SONG(キライザ)
※smile番外編1
いろんなことがあった。
本当にいろんなこと。
もう二度と離れないと、ずっと思っていたけれど。
神様は、意地悪だった。
朝の光はカーテンによって阻まれて、部屋の中まで入ってこれない。
あの大惨事の後、キラとイザークは片時も離れることはなかった。
カガリや周りの人間もそれをとがめることはなかった。
一緒に仕事をして、食事をして、キスをして、毎夜お互いを深く確かめあう。
触れ合えなかった時間を埋めるように。
愛をお互いに刻み合うように。
今も、お互い生まれたままの姿で抱き合いながら、うつらうつらとまどろんでいた。
「もう…朝だよ」
「ぅ…ぅん?」
擦り寄ってくるイザークの髪の毛を優しく梳くとくすぐったいらしく身をすくめる。
「ふふ…今日も元気に働こうね」
「あぁ」
キラがイザークの顔をもっと良く見るために、彼女の体を自分の上に乗せる。
「朝ごはんはなにかな?」
「マーサが作ってくれるものは何でも美味しい」
「そうだね。っとその前に」
いつもの儀式。
優しく唇を触れ合わせて。
愛の歌を囁く。
「大好きだよ」
そして、今日も一日が始まる。
3.熱帯夜(将敦)
「暑い…」
敦盛は寝付けずに、春日家の庭先に出て扇子を扇いでいた。
鎌倉にいたときや京にいたときも確かに夏は暑かった。
しかし、この世界の夏の暑さは異常である。
だが、クーラーというものは、最初は気持ちがいいのだが、
長時間つけていると、寒くて仕方がなくなる。
神子は元々この世界の人間なので、クーラーは慣れているだろう。
しかし、自分と同じはずの朔も、何も文句は言わない。
なので、敦盛はクーラーをつけるようになってから、眠れなくなってしまった。
言えばいいのだが、置いてもらっている身。
何も言えないでいる。
「はぁ…暑い」
神子に貸してもらっている、ネグリジェというものは着物よりも涼しいけれど、
それでもこの世界の夏は暑い。
しかし、もう真夜中。
早く眠らないと、明日の行動に差し支える。
でも眠れない。
その時、隣の有川家の庭から、素振りの音が聞えてきた。
敦盛は気になって、壁をよじ登り、飛び越えて、隣の家の庭に下りた。
「ん?」
有川家長男、そして自分の世界では重盛と言われていた、有川将臣がそこにはいた。
上半身裸で、木刀を持っている。
「敦盛か…どうした?」
敦盛の姿を見つけると、将臣はニッコリ笑って、木刀をおろし、
縁側にかけてあった手ぬぐいを取って顔についた汗を拭いた。
「あっ…いえ、暑くて」
「眠れないのか?俺もだ。そうだ、足を冷やすと身体も冷えるぜ?」
将臣は庭から少々深めの木桶を持ってきて、水を入れる。
それをもって縁側に敦盛を呼び寄せて、先に将臣がズボンの裾を巻く利上げ素足を桶に入れた。
「ほら、お前も」
足の長さが違うので、縁側に座り足を入れると木桶の底には足の裏がつかない。
「気持ちいだろ?」
「はい」
将臣の横に座り、敦盛はちゃぷちゃぷと木桶の中で足を動かす。
彼の言ったとおり、足を冷やすと自然と体が冷えてくる。
「俺も、クーラーは苦手だからな」
「えぇ…熱いのですが、寒すぎて…」
「しかし…細いなぁ」
ネグリシェから覗く敦盛の足は月明かりでも判るほど白く、そして細い。
将臣は思わずその足を撫ぜる。
「ひぃぁっ!」
いきなりのことで、敦盛の足が木桶から出て、水がはねた。
「敦盛…」
「ま…将臣殿…あの、手…手を」
暑さが狂わすのか。
それとも、この女性が自分を狂わすのか。
将臣はゆっくりと敦盛のほうへと体を傾けた。
4.キス(九敦)
「望美、それはなあに?」
春日家の望美の部屋。
ベッドの上で、望美は雑誌を読んでいた、そこに朔が風呂から帰って来る。
「え、これはね雑誌。恋愛とかね、洋服とかね。いろんなことが載ってるの」
望美がはいっと、朔にその雑誌を渡す。
「へぇ…この世界の着物はとても色鮮やかで、素敵ね」
「でしょ?占いも載ってるんだよ〜」
「占い?」
「そう、星座で占うの。朔のはね…あった、買い物が吉。
ずっとほしがっていたものが手に入るかも。ラッキーアイテムは…星型のアクセサリーだって」
望美が朔の星座を雑誌のページから探し、その文を読む。
「買い物?あの、らっきー…って何かしら?」
「あー幸運を運んでくれるもの?アクセサリーって言うのは、装飾品のことだよ」
「星型ね?どこかにあったかしら」
どの世界でも、女は洋服やアクセサリー、占いなどが好きなもの。
きゃっきゃっと話に盛り上がっているところに、有川家に行っていた敦盛が帰ってきた。
「遅くなった神子。浴場は空いているだろうか」
「あ、敦盛さんおかえりなさい。朔が出たから、空いてるよ」
「そうか、では…ん?神子それは?」
二人が見ているものが敦盛も気になるらしい。
「これは、雑誌。本みたいなものだよ」
「色々なことが載っているのよ。望美、敦盛さんの占いも見てあげたら?」
「そうだね。えっと…」
朔の提案に従い、望美が敦盛の星座のページをめくる。
「えーとね。恋人に構ってあげていますか?あまり、後ろ向きでいると、愛想をつかされそう。
たまには積極的に。幸運を運んでくれるものは木彫りの動物…って、これ」
「み…神子っ」
敦盛が顔を青くしたり赤くしたりしている。
「九郎殿と話しをしたりしている?…なんだか、当たりそうで怖いわ」
「私も怖い。敦盛さん!意外とこの雑誌の占い当たるから、気をつけて」
二人にそう脅されると、いてもたってもいられなくて、敦盛はさっき帰ったばかりだというのに、
また有川家へと戻っていった。
「く…九郎殿ぉ」
庭に出て、壁を乗り越え隣の家に行く。
九郎は庭で夜の稽古を一人でしていた。
「どうした?帰ったのではなかったのか」
塀から慌てて降りてくる敦盛に少々驚いて、九郎は木刀をおろした。
「あの…その…先ほど、神子に占いを見ていただいて…」
「占い?」
「えぇ…それで、その。あの…」
勢いで来たのはいいが、内容が内容なので、敦盛は言い出しにくい。
「何か嫌な予言でも出たのか?」
真面目な九郎は心配してくれる。
「その…こ、恋人に愛想をつかされると…出まして。それで…」
「俺に会いに来たのか」
「はい…」
真っ赤になってそう答える敦盛が可愛くて、九郎は敦盛の手をそっと掴んで引き寄せた。
小さな身体は、九郎の胸にすっぽりと入ってしまう。
「誰が飽きるものか。そんな占いに惑わされるな」
「はい…申し訳ありません。九郎殿…お慕いしております」
惑わされるな。
そう言われてもやはり不安で、敦盛は初めて自分から九郎に口付けをしてみた。
5.拘束(知敦)
「久しいな、敦盛」
「…」
私は、もう二度と自分のような怨霊を作り出したくなくて、平家を離れた。
知盛のことを忘れたことなど一度も無い。
でも、裏切ったことは事実。
捕えられて、当然なのかもしれない…。
暗い牢獄の中。
光も射さない場所に、知盛の声が響く。
長い時間入れられたせいか、目はすっかり慣れ、知盛の顔も良く見える。
「どうした、何か言えよ」
「っ…お久ぶりで、ございます。知盛ど…っあ」
いきなり首の鎖を引っ張られて、体制が崩れたが、手首にはめてある枷のせいで上手く体は動かない。
首は痛いし、手首も連鎖反応で痛い。
まさに二重苦だ。
「元気そうだな、ん?」
「ぁ…ぁの」
「何か言えないのか?」
「ひぃっ」
首の鎖から、今度は直接首に知盛の手が回る。
「相変わらず細い」
「ぅぁ…や…めて…くだ…さぃ」
知盛が少しの力を入れるだけで、敦盛の首は簡単に締まる。
苦しくて、怖くて、敦盛は震えた。
「俺から逃げられると思ったか?残念だったな、敦盛」
呼吸が苦しくなり敦盛の意識が朦朧としだした所で、知盛は首を閉めていた手を緩めた。
「っ…はぁ…げほっ…ぁは…はぁ」
急に緩められてことにより、大量の空気が肺に入り込み、敦盛は咽こんだ。
必然的に涙目になり、視界がぼやける。
「源氏はどうだ?さぞ、可愛がられたか?」
「け…けして、私は何も」
「そうか?お前は淫乱だからなぁ…誰にでも」
「知盛殿!!私は…私は」
「うるさい。黙れ」
否定しようとしたら、今度は口を塞がれた。
大きな手が、小さな敦盛の口だけを覆う。
「源氏の物でも、平家の物でもない…俺のものだ」
敦盛…と彼女の耳元で怖いくらいに優しく囁いて。
知盛は敦盛の着物を引き裂いた。