71:コタツ  


「やっぱり、和室作っといて正解だったね」

冬の寒い一日。
雪も降って、体感温度はさらに低い。
そんな日は、早く帰宅して暖かい部屋にいたい。
アスランは、会社から帰ってくるなり、リビング横に作った和室の押入れからコタツを引っ張り出してセットしだした。
畳の上にカーペットを引いて、その上にコタツを置く。
下も暖かいし、コタツの中も暖かい。

「イザ〜みかんちょうだい」
一度寝室に戻り、部屋着に着替え、温めておいたコタツの中に入り、イザークを呼んだ。
コタツといえばみかんだとアスランは思っているらしい。
「…お前は、隠居した老人か?」
様子を見に来たイザークは彼を見て呆れる。
微妙に似合ってしまっているのも、なんだか情けない。
「いいから、みかんちょうだい。あと、お茶も」
「はいはい」

あまり足蹴にすると、しつこくなるので、イザークはキッチンからみかんを何個か取り、籠に入れて持っていく。
そして、お茶セットも持って、イザークもコタツの中に入った。
「暖かい」
フローリングで立ち仕事をしていたためか、ずいぶん足が冷えていたようだ。
「だろ?はぁ…今日の夕飯は?」
「鍋だけど」
「じゃあさ、コンロ持ってきて、此処で食べよう?絶対美味しいよ」
子供のようにはしゃぐアスランに、イザークも嫌とはいえない。

冬の寒い寒い夜は。
心も身体も芯から温まろう。





72:ジューシー  


テーブルに桃が2つ。
この寒い時期に、何故桃が?

イザークが朝起きてキッチンに向かうと、何故かテーブルに見覚えのない桃が2つ置いてあった。
今は冬で、桃の時期でもなんでもないのに、大きくて美味しそうな桃。
そういえば、昨日は珍しくアスランが残業で遅くなって、夕飯いらないからという電話を貰って…。
「夜先に寝たんだった…アスランが貰ってきたのか?」
昨夜はイザークが寝る頃になってもアスラン戻ってこなかった。
メールでも深夜になりそうだからという内容で着ていたので、イザークは一人で先に寝てしまったのだ。
結局アスランが家に着いたのは午前2時過ぎで、一応イザークにただいまといったのだが、
イザークは眠くて、ボソッと何か呟いたけれど、そのまますぐにまた寝てしまった。

「お土産か?」
桃をつんと突いて、その後に手に取る。
大きくて、重くて、美味しそうな桃。
しかも、寒いキッチンに置いておいたので、程よく冷えている。
「今日の朝のフルーツは桃だ」
イザークはいそいそと朝食の準備に取り掛かった。

キッチンから、スープやトーストのいい匂いがする頃。
アスランもスーツ姿で降りてくる。
「あ、それお土産…ていうか、もらい物だけど」
丁度桃を剥こうとしていたイザークにアスランが言う。
「美味しそうだぞ…ちょっと味見」
包丁で上手く切って、そのまま口に運ぶ。
ジューシーな果汁が、口の中に溢れる。
「おいしい…」
「どれどれ?」
「あ、今切って持ってく…」

ちゅっ

「うん…甘いね」
「○×△□※〜」

桃より甘い、君の唇。





73:ギャング  


ちびっこギャングがやってきた。
「いらっしゃい、良く来たな」
夕方。
玄関を開けると、目の前にいるのは、アスランの同僚ミゲルを
そのまま縮小した、まだ5歳の男の子。
ミゲルの子供だ。
「うん。イザ姉ちゃん元気だったか?」
「あぁ…オマエも元気だな相変わらず」

ミゲルの奥さんとミゲルに急用がある時は、いつもイザークとアスランが面倒を見ている。
家も近いので、一人でも来ることができる距離だ。
ちびっ子はイザークには良くなついていたが、なぜかアスランには厳しかった。
「今日は…アスランいないの?」
リビングに入り、キョロキョロと見渡して、家の主の姿を確認する。
「もうすぐ帰ってくるぞ?私と二人は不満か?」
「ううん、違う!」
ぎゅーっとイザークの腰に抱きつくちびっ子。
そんな彼の頭を、イザークは優しく撫でる。
まるで、自分に子供が出来たみたいだ。
「へへ…イザ姉ちゃん。今日のご飯なに?」
「お前が好きなものを食べようと思ってな、まだ買い物にも行ってないし、
何が食べたい?それともどこかレストランでも行くか?」
イザークはちびっ子が来るとついつい甘くなってしまう。
「んーとね。ハンバーグでしょ?カレーでしょ?プリンでしょ?アイスも!」
目を輝かせてそういう彼にイザークも微笑む。
「そうか、そんなに一杯私は作れないから、今日は3人で外食だな」
「えーアスランも?」
ちびっ子が不満そうに言ったとき、丁度アスランが帰ってきた。

「あれ?」
玄関先に、見慣れない小さな靴をアスラン発見した。
「お帰り、アスラン。ちびが来てるぞ」
「やっぱり…」
少々苦笑いで、アスランはリビングに入った。
「…デコ」
ボソっとアスランが入ってきた瞬間にちびっ子が呟く。
アスランの額に青筋がさりげなく走った。

これからちびっ子ギャングとアスランの戦いが始まるのだ。





74:ゴール!  


アスランもイザークも意外とスポーツが好きだ。
今日も二人でスポーツ観戦。
「あぁ…惜しい」
今日見ているのはサッカーだ。
ワールドカップも近いので、イザークもアスランも今はサッカーに夢中だ。
前半終了5分前。
両チーム無得点での、応援チームのいい場面。
でも、自分達が応援している国がシュートを決めそうで、
決められなかったので、二人そろって落胆していた。
「攻めが甘いんだ!」
「でも、いいところまで入っていってたと思うよ?今日の相手は強いよ」
「でもなぁ…」
ハーフタイムに入り、テレビも試合からニュースやCMに切り替わる。
二人も熱心に見すぎていたので、少々休憩。

「はぁ〜アスラン、何か飲むか?」
「うん、なんか夢中になって見てたら、喉渇いた」
イザークがソファから立ち上がり、冷蔵庫から缶ジュースを取り出す。
そして、ふと気がついて、戸棚から袋も取り出した。

「はい」
アスランにジュースを渡して、イザークもさっきまで座っていたアスランの横、
定位置に座り、持ってきて袋を開けた。
袋を開けると、香ばしい匂いが当たりに広がる。
「ポップコーン?」
「あぁ、やっぱり観戦といえば、これだろ?この前買って置いておいた」
「映画じゃないの?…でも、まぁいいか。俺も食べていいんだよね」
「勿論だ」
アスランが食べやすいように、イザークがポップコーンの袋を彼側の手に持っておく。

後半戦が開始され、最初は二人ともぽつぽつとポップコーンをつまみながら、
テレビを見ていたのだが、佳境に入ってくるとそれに手をつけなくなった。
結局、応援しているチームがゴールを決める後半終了10分前まで、
二人はジュースも飲まず、ポップコーンも食べずに、ひたすらテレビに釘付けだった。





75:決闘  


「久しぶりにどう?」
そういって夕食後にアスランがチェス盤を持ってリビングにやってきた。

夕食後、いつもならリビングのソファでテレビを見ているのに、
今日に限ってアスランはさっさと二階に上がってしまった。
仕事でもあるのかと思い、イザークは気にせずにほおって置いたのだが、
数分してすぐに戻ってきた。
その手に持っていたのが、チェス盤だった。

「それを取りに行ってたのか」
「うん、なんか久しぶりにイザとやりたいなぁって思ったから」
そういって、アスランはダイニングテーブルの上にチェス盤を置いた。
駒を並べて、いざ決闘。

「うーん…」
開始20分まではイザークがアスランを追い詰めていたのだが、
だんだんとイザークが追い詰められてきた。
「はい、次どうぞ」
「っ…そこは」
アスランは良い位置にクイーンを持て来た。
このままだとイザークのキングが危うい。
彼女は慌てて、キングを下げた。
しかし、こうなると、アスランが意地悪く攻めてくるので、
キングを逃がしてもイタチゴッコになるだけだった。
「はい、チェックメイト」
「くっそ〜もう一回だ!!」
まるで学生時代に戻ったときのよう。
大学時代。
良く二人で、誰もいないサークル室でやったものだ。
大体勝敗は10回やって7回はアスランが勝つのが常だった。
お互い負けず嫌い。
アスランも手加減することは無かったが、イザークが勝つと、
悔しい反面、彼女の嬉しそうな笑顔が見られるので、
負けるのも悪くないと感じていた。

アスランが感慨に耽っている間に、イザークがチェス駒を並びかえる。
「さぁ、やるぞ!今度は私が勝つ!」
「はいはい」
決闘は終わらない。
彼女が飽きるまで。



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