66:ジャンケン
「疲れた…」
「僕だって、疲れたよ」
キラは仕事から帰って来て、イザークは実家から帰って来て。
リビングのソファに座りながら、ぐったりしている二人。
お互いに疲れていたが、これから夕食。
「なぁ…どっか食べに…」
「ダァメ」
イザークが食べに行こうという前に、キラがダメ出しをする。
確かに、最近外食が多かった気もするが。
今日は疲れて、キッチンに立ちたくない。
キラは料理がそれほど得意な方ではないので、
彼に頼んだとしても何が出てくるか判ったもんではない。
以前、代わりに作るよと言われて、大変な目にあったからだ。
「じゃあ…お釜にご飯あるし、お茶漬けでも…」
「僕、お腹すいてるから、そんなんじゃ足りない」
「…お前」
キラが我侭を言うのは、イザークに甘えている時なので、
(しかも、めったにない)イザークも強くは出られない。
「…じゃあ、ジャンケンで私が勝ったら、外食。キラが勝ったら、
何か作る」
「いいよ」
勝つしかない。
イザークは天に祈るような気持ちで、拳を出した。
67:農場
『モーモーモー』
テレビから流れてくる牛の鳴き声。
旅番組で、タレントが農場を訪ねているらしい。
「牧場か…いいな、のどかで」
「うん」
ボケーッとテレビに二人で没頭するのは珍しいが、
たまにはこんな日もある。
『美味しそうな…ですね…』
タレントが、そこでしか味わえない絞りたてミルクで作った
ソフトクリームを食べているシーンが映る。
いかにも美味しそうな表情だ。
それを見てイザークが、思わず呟く
「ソフトクリーム…いいな」
「行きたくなってきたね…」
そうこうしているうちに、テレビは終わった。
なんだか、アイスが食べたくなり、イザークは買っておいたアイスを
二人分冷凍庫から出してきて、キラに渡す。
二人で食べていたが、やはり市販のアイスはあのソフトクリームには
勝てないと思うイザーク。
「やっぱりソフトクリームだな」
キラに同意を求めようとしたが。
「あーゆーところで、バーベキューもいいと思うよ…
牛でも見ながら」
とんだ的外れな答えが返ってきた。
「お前…意外と残酷なんだな」
「?」
そんな、一日の終わりごろ。
68:外国人
『地下鉄ってどこから乗ればいいんですか?』
「え?」
休日に買物に行くのはもう日課。
イザークが会計をして、キラは外で待っている。
いきなり、肩をポンッと叩かれて、振り返ると、
青い目と金髪の女性。
「どうかしました?」
『地下鉄に乗りたいんですけど』
「うっ」
女性の口から出てきたのは、多分流暢なフランス語。
キラも英語なら何とかわかるが、さすがにフランス語は話せないし、理解できない。
「えっと…」
『だから…地下鉄の』
女性が又フランス語で言ってくる。
「あの…僕」
『だから!!』
だんだん女性の表情が怖くなってくる。
此処フランスじゃないんだから!!と思いながらも、焦ってしまい、どうしようもなくなってしまったキラ。
「何してる?」
「イザ!」
会計を済ませて漸くイザークが戻ってきた。
「この人が…」
イザークがフランス語がわかるか知らないが、とにかく自分
には無理だ。
「多分フランス語で…何か聞いてるんだけど」
「わかった」
『どうかしましたか?』
キラもびっくりするような、流暢なイザークのフランス語。
『あぁ…よかった。あの、この辺に地下鉄の乗り場ってありませんか?』
『それなら、この道をまっすぐ行って…』
『はい…はい。どうもありがとうございました』
キラには理解できない会話の後、女性は去っていた。
「何だって?」
「地下鉄の駅を聞いてたようだ」
「…そう(さっぱりわからなかったよ)」
外国人恐怖症になりそうなキラだった。
69:地下牢
※47:窓の外の続き
「此処が地下牢跡だって」
「へぇ…」
旅行二日目、旅館のパンフレットに載っていた、観光名所。
一キロ以上鍾乳洞が続き、そして何百年も前に使われていたという地下牢跡を見学することになった。
鍾乳洞はさすがに寒いだろうということで、ロープウエイに乗ったときは旅館に忘れてきた、コート、帽子類を着て、
フル装備で洞窟の中へ入っていった。
「足、滑らないようにね
と言っているそばから、イザークが滑る。
「うわっ」
「だから…はい、手繋いでこうか」
此処には、自分達しかいないし、見られて困ることでもないので
イザークは素直にキラの手を取った。
以外に勾配のある道が続き、漸く目的地の地下牢が見えてきた。
薄暗いライトの中、木枠で出来た牢屋が続いているのが見える。
「はぁ…なんか、時代を感じる」
イザークがキョロキョロ見渡す。
槍なども一緒に展示してあり、イザークは興味深げに見て回った。
キラもイザークとは別に、地下牢を見て回った。
「そろそろ…行く?」
「…ひぃ!!」
キラがそろそろ戻ろうと言おうとしたとたん、イザークの悲鳴が
聞えた。
「イザ!!」
キラが駆け寄ると、イザークがキラに抱きつく。
「どうしたの!!」
此処には、イザークと自分以外誰もいないので、誰かに襲われたとかそういうわけではないようだ。
「ほ…ほほ…」
「ほ?」
「骨ぇぇぇぇ」
イザークが抱きついて、指だけを骨のある場所に向ける。
「!!??」
キラがその方向に目を向けると、牢屋の中にうっすらと白いものが。
よく目を凝らすと、確かに土に白い骨のようなものが刺さっている。
キラも怖くなって、急ぎ足で地上に戻った。
「こ…怖かった」
「僕も」
鍾乳洞の入り口には、震える二人の姿があった。
70:三角関係
「イザァクゥvv」
「うわ…出たな、変態」
折角の休日に、厄介な相手がヤマト家に尋ねてきた。
「アスランいい加減にしてよね」
毎度のことだが、キラは良く頑張るなと呆れる。
「いいじゃないか、結婚したって…恋愛は自由だよ」
「それは浮気と言うんだ!!バカもの」
イザークがアスランの頭を殴る。
容赦は勿論無い。
「痛いよイザーク」
「本気だからだ!!」
キラとアスランは幼馴染。
キラとイザークとアスランは同じ大学の学友だった。
で、キラとイザークは付き合って、結婚したのだが。
アスランもイザークが好きだったようだ。
所要三角関係というヤツだったのだが…
キラがイザークのハートを射止めたのだった。
しかし、諦めきれないアスランは、イザークが結婚した後もこうして遊び(邪魔し)に来ているのだった。
「お前も…いい加減相手見つけろよ」
「ひどいなぁ…」
ズカズカと乗り込んできたアスランにしょうがなくイザークとキラは彼を中に上げた。
どうしても拒めないのは。
嫌いになれないのは。
イザークもキラも、このずうずうしい男を多少なりとも認めているからであり。
お互いの絆の強さをわかっているからかも知れない。
絶対に離れないと。