61:鬼
君のためならば
鬼にでも
悪魔にでも
なれてしまう
「一人でなんて、絶対ダメだ」
「なんでだ!!」
イザークがいきなり、一人で旅行に行きたいと言い出した。
結婚して日が浅いのに、なんで一人で行こうとするのか。
友人と行くのならわかる。
「…浮気?」
「はぁ?」
「じゃあ、どこに行くの?言って!」
ぎゅっとイザークの腕を掴む。
痛がる顔をするイザークに、アスランは構わない。
「イタっ」
「言えないの、イザ。俺に、言えないの!!」
頭に血が上る。
そういえば、結婚する前はよく一人で出かけていたといっていた。
でも、結婚したんだ。
「アス…離して」
「浮気なんて…絶対許さないから!!」
そのまま、激しくイザークの唇を奪い、彼女をソファに押し付ける。
彼女のいいわけを聞くこともせず。
鬼神のように
荒々しく
悲鳴さえ
吸い込まれた
62:バイト中
もうすぐ来る
紺色の髪のスーツの人
金曜日の午後6時過ぎ
必ず一杯のコーヒーを頼んで
窓際の席に座って、本を読んでいる
彼を見つけたのは、数ヶ月前。
見たとたんに心奪われた。
端整な顔立ち。
すらっと背も高く、そしてなによりスーツがすごく似合う。
年はたぶん20代。
いつか話しかけたい。
そう思っていたのだけれど。
彼はいつもと同じ時間にやはり来て。
一杯のコーヒーを買っていった。
そして、本を読んで。
大体30分ぐらいしたら帰るのだけど。
今日は違った。
「アスラン…今日は迎えに来たぞ」
「イザv」
あ…笑った顔はじめて見た。
それより、彼女いたんだ…。
しょんぼりしてしまう。
でも、素敵な彼女。
彼も背が高いけど、彼女も女の人なのにすごく背が高い。
スタイルよすぎだし、顔も…物凄く美人。
「はぁ…もっといい女になろ」
63:キラキラ
普段、光物はまったくつけない。
アスランから貰った、ダイヤの指輪だって。
そういえばつけてない。
大体どういうときに付ければいいのかわからないし。
結婚指輪はしているけど、意外と…邪魔。
だから、アクセサリー類はしないのだけど。
ピアスは別。
「これ…かっこいいなぁ」
「うーん…男っぽいよ?」
二人で選んでいるのは、イザークのピアス。
お気に入りのピアスが壊れてしまい、二人で買いに来たのだ。
イザークが見つけたクロスのピアス。
でも、少々彼女の耳には大きいように感じる。
「こっちの方が…」
ローズを模ったピアスは、ダークレッドで少し地味だけれど、大人っぽい印象。
イザークの白い肌と、銀髪に良く栄えると思う。
「そうか?」
鏡に向かい、ピアスを耳元へ持っていく。
その姿が、なぜかとても色っぽい。
「うん…いいかも」
「じゃあ、それは俺からの、プレゼントってことで」
「いいのか!」
イザークの目がキラキラする。
「うん。その代わり」
アスランは、イザークの耳元に唇を寄せ。
そっと噛み付いた。
64:眩しい
珍しく、先に起きてしまった。
いつも、アスランに起こされるか、何度も鳴る目覚ましで起きるのに。
今日は
本当に珍しい。
カーテンから差し込む光のせいだろうか。
一度時計を見る。
6時半。
後、30分は寝られる。
でも、ここで寝てしまうと、起きられなくなる。
仕方なく、起きる準備をしようと横を振り返ると…
横でまだ寝息をたてているアスラン。
こんなふうに見ることも珍しい。
「長い…まつげ」
さりげなく頬に手を寄せて。
ツンっと突く。
「起きろ…」
ぽそっと小さい声で呟く。
一人でいるのは、ちょっと寂しい。
なんて思ったら。
「ん…おはよ」
聞えるか、聞えないかの声で言ったのに
アスランが起きた。
「…おはよう」
思わずアスランに擦り寄って。
おはようのキスを頬に一つ。
65:うたた寝
アスランが、ソファで寝るなんて。
今日はよほど疲れたのか?
食後のお茶を用意するために、キッチンに向かっていた、ほんの数分の出来事。
アスランが舟をこいで寝てしまった。
テーブルにティセットを置いて、イザークもソファに座る。
「アス?アスラン…ほら起きないと」
ユサユサと揺すってみる。
「うん…」
返事はそれだけ。
目も開けないし、腕組みして器用に寝ている。
「アス…風邪引く」
「うん…」
「まったく…」
何かかける物を持ってこないと、と思いイザークガ立ち上がろうとしたら。
アスランがイザークの袖を掴んだ。
「起きてるのか?」
「ここにいて…30分たったら起きる」
そう言って、イザークを再度座らせる。
そしてアスランはイザークの太腿に頭を乗せた。
「…さりげなく、なにしてるんだか」
「役得…ありがと」
また、寝息をたてはじめるアスラン。
良く見ると、目の下にうっすらと隈がある。
「お疲れ…」
イザークが優しくアスランの髪を梳いた。