56:夢
子供の頃に持った夢を。
今でも持ち続けることが出来たら。
それはとても素敵なこと。
「エジプト…いいなぁ」
旅行会社の前で思わず立ち止まるイザーク。
キラは会社帰り、イザークも出かけていた帰りで駅に着いたイザークをキラが車で迎えに来た。
その後、近くのショッピングモールで買物をするために車を降りる。
そこで見つけたもの。
彼女は何かパンフレットを見つけたようだ。
「なに?行きたいの」
「いや、昔考古学者になりたくて…こういうの憧れた」
思わず一冊とって眺める。
「へぇ…民俗学は?」
彼女の大学の専攻は民俗学だ。
考古学とは似ているが少々違うような気もする。
「文献を紐解く方が性に合ってたから…でも、発掘とかも憧れたな」
「そっか」
「キラは??キラは子供の頃何になりたかった?」
そういえばこういう話はしたこと無い。
聞いてみたくて、イザークが問いかける。
「僕?」
「そう」
「僕、ハッカーになりたかった」
「はぁ?」
「いや…当時見てたテレビで、悪の組織のパソコンに入り込んでってやってた役者さんがかっこよくて。
僕もあんなふうになりたいと思ってさ、今の会社もそんなんでしょ?」
いや…お前の会社は、ソフトウエアの開発会社だ…。
生き生きと語るキラに、そんな突っ込みをイザークはすることが出来なかった。
夢は大きい方がいいが。
内容も意外と肝心だと思ったイザークだった。
57:羽
君は自由に羽ばたく鳥で。
籠に収まっていることなんか出来ない。
その羽を。
どうか僕にもぎ取らせないで。
白いTシャツに薄いブールでプリントされた羽。
一生懸命夕飯の料理をテーブルに運ぶイザークを僕は見ている。
キッチンに向かうたびに見える背中のプリントは。
僕に一抹の不安を与えるのには十分で。
思わず。
「キラ!!」
「ごめん、ちょっとだけ」
思わず背後から抱きしめてしまい、イザークに驚かれる。
さっきまでソファにいたのだから当たり前だが。
「どこにも行かない?」
このプリントの羽でない、見えない君の羽で。
行ってしまわない?
「行かない…キラを置いてなんて、いけない」
イザークが振り返り、正面からキラを抱きしめなおす。
「イザ…キスして」
「ん…」
優しい唇を寄せて。
君が行くなら、僕も見えない羽で一緒に行きたい。
58:花束
「あの…はい、そっちの方が。あ、それは赤すぎませんかね…」
花屋の前を偶然通りかかったら、一人の制服の男の子がなにやら店員と話している。
丁度、玄関の花も元気なくなってきたし、新しいものを買おうとキラと二人で立ち寄った。
「リボンは…オレンジで。はい、メッセージカードは…」
一所懸命に選んでいる少年。
きっと恋人にあげるものであろう。
「可愛いな」
イザークがキラにそっと耳打ちする。
キラもふふっと笑う。
自分達は高校時代に出会っていないから。
キラ的にはちょっと制服デートとかに憧れた。
「バイトとかして貯めたんだろうね。彼女の誕生日かな」
自分が高校時代に彼女と出会っていたら、どうなっていただろうか。
こうやって、花束を悩んで買ったりしただろうか。
今ではもう出来ないけれど。
あの少年が選んでいたオレンジのガーベラをキラは一本手に取って。
「僕も…送ってみようかな」
「ん?」
花束とか、手紙とか。
この年でラブレター送るのはまだありかな?
59:大っキライ!
「大嫌い!!」
目の前にイザークに似た可愛い少女。
そう、この子は僕の娘で…。
そこ子が僕に向かって叫んでいる。
「!?」
「パパなんて…大嫌い!!!!」
「×××ッ〜〜」
「オイオイ!!キラ?大丈夫か」
「っ…はぁ…ゆ…夢?」
眠っていたキラがいきなり飛び起きるものだから、一緒にイザークも起きてしまった。
「こ…怖い夢でも見たか?」
「む…娘が…嫌いって…」
「はぁ?寝ぼけてるのか?」
「いや、ちがくて…夢で…」
将来、子供が出来て、それが女の子だったら。
言われるのだろうか。
それは、かなりショックだし、痛い。
「イザ…女の子は大変だね…きっと。最初の子供は…やっぱり男の子かな」
「…大丈夫か」
変なことを言い出すキラを心配して思わず額に手を当てるイザーク。
「あぁ・・・全国のお父さん…お疲れ様です」
「…医者かな?」
60:にらめっこ
「ぷっ…イザ、その顔ヤバイって」
「うるさい!!笑うな…あーもー化粧はめんどくさい」
薄く目を開けて、マスカラをつけるイザークをまじまじ見ていたキラ。
それがなんだかおかしくて、ついつい笑ってしまった。
でも、バッチリ化粧をしたイザークは、美しいとしか言いようがない。
もちろん、化粧をしていなくても、美人なのだが。
「あーもう。何だってこう…はみ出る!!」
「僕がやって上げるよ、貸して〜」
「ん」
キラはこういった細かい作業が意外と上手い。
昔は苦手だったようだが、アスランに色々叩き込まれたようだ。
「えと…まず、ビューラーで上げて…あ、ほら、目…ぷっ」
「だから、笑うな!!」
ツボにはまったようで、キラの笑いが止まらない。
「あーはい、マスカラ終わり。次、口紅もぬっていい?」
楽しそうにぬっていく。
今度はイザークも完全に目を閉じた。
こうやって見ると本当に彼女は綺麗だ。
「いいよ…目、開けて」
「はぁ…もう、何度も笑うな!!」
「その綺麗な顔で睨んでも、効果ないけど?あの薄めの目開けてる方が…ぷっ」
「っ〜!!」
「僕、にらめっこではあの顔のイザに勝てないかもしれないね」
笑ったら負けじゃない。
君といて、笑顔が出ないわけがないよ。
どんな顔だって、魂が君ならば…愛おしい。