51:もう帰ろう?  


付き合っていたときは、「もう帰ろう」なんて言わなかった。
帰らせたくなくて、何度も彼女を引き止めて、腕の中から離さないようにきつく抱きしめた。
その度に、彼女を困らせた気がする。

「なにやってるんだ?」
休日の夜。
二人で外食をした。
会計を済ませて、先にイザークが車に乗る。
空には満天の星が広がり、キンッと冷えた空気が頬に刺さるが、それが気持ちいい。
アスランは、空を見て、なかなか運転席に乗ろうとしない。
イザークが不思議に思って、ドアを開ける。

「星…綺麗だよ」
アスランが夜空を指差す。
「あぁ…キレ…くしゅんっ!!」
ドアを開けたことで、冷たい空気が車内に流れ込む。
急な温度差の変化でイザークがくしゃみをする。
「ごめん、もう帰ろうか」
アスランはイザークの乗っている助手席のドアを閉めて、車に乗り込んだ。
キーを回し、暖房をつけると、窓が曇る。

「早く帰って、あったかい部屋でごろごろしよう」
もっと暖かい君を腕に抱いて。





52:泳ぐ  
※43:迷子の続き


アスランの出張先に来て3日。
イザークは着て早々自分の欲しいものは買い、行きたいところにも一人で行ってしまった。
ミュージカルでも見ようと思っていたのだが、なかなかいいチケットが手に入らない。
仕方なく、ホテルで読書をしながらテレビを見ていると、アスランが帰ってきた。

「ただいま」
「ずいぶん早いな」
話を聞くと取引先のキャンセルで、会合が明日になったらしく、突然オフが出来てしまったようだ。
「で…どうするんだ?」
「そうそう、このホテル、ジムがあるんだけど…久しぶりに泳ぎに行かない??」
ごろごろしていても、退屈なので、イザークはアスランについていった。

「かなり広いな…」
受付で各自水着を借りて、プールで合流する。
25Mプールが1つあり、6レーンとってある。
また、サイドには15Mぐらいのウォーキング用のプールとジャグジーが外と中の2つ。
イザークは別にガシガシ泳ぎたいわけではなかったので、アスランを置いてウォーキング用のプールへと行く。
アスランは泳ぎたいので、25Mプールへ行った。
30分が経ったころ、さすがに泳ぎすぎたと思ったアスランは、クールダウンもかねてイザークをジャグジーに誘おうとした。
しかし。
イザークが知らない男とウォーキング用のプールで話をしている。
親しそうかと思いきや、イザークは腕をつかまれ、どうやら抵抗しているようだ。
アスランは、走ると監視員に怒られるので、小走りで彼女の元へ向かった。

「連れがいますから!!」
「でも、今はひとりなんだろ?いいじゃん、ちょっと付き合ってくれても」
いかにもな茶髪の男がイザークを誘っている。
アスランはすかさず、男の手を取り、イザークを守るようにして、彼女と男の間に入る。

「なんだよ!!」
「俺の連れに何か用事かな?」
いちゃもんをつけよとした男を、アスランが人を殺しそうな目で睨む。
また、アスランの方が背も高く、勿論ルックスも良かったので、男は舌打ちをして去っていく。

「はぁ…お前、来るのが遅い」
「ごめん…こんな所までとはね。イザを一人にしとくと危ないね」
まして今日は水着だし…。
「だったら、一人で泳いでないで、一緒に歩けばいいだろ!!」
「ごめんごめん。さて、ジャグジーでも入って、今度は俺も歩くよ」
アスランはイザークの手を取って、一緒に外のジャグジーに向かった。
見張ってないと、いつ悪い虫がつくかわかったもんじゃない。





53:刺さってる  


「っ!」
突然指に痛み。
木箱を持った瞬間の出来事。
知り合いから貰ったさくらんぼはご丁寧に木箱に入っているもので、
それを夕飯後のデザートにしようと持った瞬間、どうやら木箱の表面が荒れていたせいで、指に棘が刺さった。

「どうしたの??」
たかだかさくらんぼを取りに行くのに時間をかけるイザークの様子をアスランが見に来る。
イザーク自分で必死に指を見ている。
「あー棘、刺さってるね」
なかなか自分では取れないようで、アスランは明るい所にイザークを連れてきて、救急箱を取りに行き中から刺抜きを出す。
「はい、此処座って!」
証明の真下にイザークを座らせて、アルコールで刺抜きを消毒してから、彼女の前に跪き、手を持ち棘を抜く。
かなり深く入ってしまったようで、途中で棘が折れてしまうことが無いように、慎重に抜いていく。
「イタっ」
「ちょっと、動かない!!」
痛いのをイザークは我慢するが、それでもビクッと動いてしまう。
数分をかけて、漸く棘が抜けた。
傷口からは、血が出てしまい、イザークはアスランが持ってきた救急箱から消毒液を彼にとって貰おうと思った。
しかし、それより先にアスランがイザークの傷口を舐める。

「ちょっ…あっ!」
痛くて、くすぐったいので、思わず声が漏れる。
「舐めとけば治るよ」
そういって、再度アスランは、イザークの指を口に含んだ。





54:pink  


「この花は?」
「うーん…ちょっと色が濃すぎないか?」

花のカタログを二人で見ながら、悪戦苦闘。
今度の日曜日にイザークの実家に行くのだが、その時にアスランが花を持っていこうと言い出した。
なので、二人でカタログを見て選んでいるのだが、なかなかいい物が出て来ない。

「母上は、淡い色が好きだぞ」
「うーん…これじゃ、イザークの肌の色っぽくて、白すぎるかなぁ…」
真っ白い百合を指差して、アスランが言う。
「そこまで、白くない!!…これは、お前の髪の毛の色だし…濃すぎるな」
今度はイザークがあやめか桔梗を指差す。
なかなかこれといったものが見つからず、ついに残り数ページに来てしまった。
そこはバラ特集で、とりわけチューリップと掛け合わせたものなど珍しい品種が並んでいた。
スタンダードな赤から始まり、黄色、紫、色々ある。

「これは?!」
イザークが指差したのはピンクの小さな花が細かく散って可愛らしいもの。
淡いピンクと白のグラデーションが、少女のような印象だ。
「ちょっと、幼くない?」
「そうか?可愛いじゃないか!!」
どうやら、イザークが気にいてしまったようだ。
嬉しそうなイザークを見て、2セット頼もうと考えるアスランだった。





55:誰だっけ  


キラの上司が結婚するらしいという話をアスランが聞いてきた。
「マリュー??」
「そう、キラの上司で…確かイザークもあったことあるよ」
キラに届け物一緒に渡しに行った時、会った女の人。
茶色いフワフワの髪で…。
「あぁ!!あの!」
漸くイザークが思い出して、それは良かったと頷く。
自分達より大分年上に思えたから、結婚しているのかと思った。
「で、相手は??」
「あーうちの専務なんだけど…」
「誰だっけ??」
「あーイザークは知らなくていいと思うよ」
「?」
イザークが首をかしげる。
でも、アスランの所の専務なら、何度か見かけたり会ったりしているはずなのだけれど。
顔が出て来ない。
「フラガ専務。あの人は、セクハラ上司だからね〜」
アスランがしみじみと呟く。
その後も、アスランはイザークにあることないことを吹き込んだ。

後日、フラガに会う機会があったイザークの顔は引きつっていた。



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