36:絶景  
※29:紅葉の続き


「夕食までまだ、時間あるし…どこか出る?」
午後4時頃。
風呂に入るには、まだ早いし、かといって旅館でごろごろしているのもつまらない。
キラの提案に、イザークも乗っかった。

フロントで近くに何かないかと聞くと、ロープウェイで上れるちょっと有名な山があるらしい。
車で30分ぐらいだと言うことで、二人は早速車に乗り込んだ。
「山か…スニーカーはいてきてよかった」
「そうだね、おっと、此処を右折して」
山道を走り、聞いた山の登山口に差し掛かる。
平日と言うことも有り、人はまばらだ。
しかし、紅葉シーズン。
若い人間はいないが、中高年が目立つ。
キラは車を止め、イザークも降りた。

乗り場に着くと、どうやらロープウェイとリフトがあるらしい。
折角二人できたのだからと、キラは二人乗りのリフトに乗ることにした。
乗り場で往復券を買って、イザークに渡す。
リフトに乗るのは、ウインタースポーツシーズンだけなので、イザークは少しウキウキした。
係員に案内され、早速乗り込む。
アナウンスが流れ、約20分の空中遊泳気分が味わえるようだ。
しかし、少々肌寒いからか、イザークとキラ以外の客は前を見ても後ろを振り返ってもいない。
ロープウェイとは道も違うらしく、この景色を独り占めならぬ二人占めしているような感じがする。

「結構冷える」
山から下りてくる冷えた風がイザークの頬に当たる。
それはキラも同じなのだが、キラはイザークをもっと自分に引き寄せた。
そのせいで、少しリフトが揺れる。
「おい…落ちる!」
「大丈夫、ベルトしてるし…寒いんでしょ?唇青くなってる」
「その…まぁ」
確かに、寒い。
マフラーでも持ってくればよかったと思う。
「だからね…まだ着くまで時間かかるし…暖めてあげるよ」
ぎゅっとキラが抱きついてくる。
誰も見ていない。誰もいない。
森しか見てない。

イザークも自分からキラに抱きついた。





37:双子  


生まれる前から一緒の双子。
その絆は、誰にも切り派なせない。

「悪いな…イザ」
「いや、カガリが着てくれたよかった…まさか、ホントに体調が悪かったとはな」
いきなり、キラの双子の姉、カガリが訪ねてきた。
午後8時前。
夕食も終わり、キラとイザークは二人でくつろいでいた。
特に変わりのない、いつもの食後。
キッチンで、食器を洗いながら、リビングのキラを見ると、ソファに座って、テレビを見ている。
そこに、インターホンが鳴った。

「キラ…平気?」
カガリのいきなりの一言に、イザークは驚く。
「いや…いつもと同じだが」
「んーなんか、悪寒が走ったから来てみたんだけど」
とりあえず、カガリを家に上げる。
いきなり、来たカガリにキラも驚く、そして、嫌そうな顔をした。
「熱なんかないよ!!」
そう、ムキに言う所が怪しい…イザークは、キラのところに行き、おでこを自分のものとくっつけた。
「…熱い」
「ほら、私の勘は当たる。多分、自分から言わないと思ったから…じゃあ、あと、これ」
そういってカガリが手渡したものは、りんご。
「母さんから沢山もらったからおすそ分け」
「すまない…義母様にも後で電話するが、よろしく言っておいてくれ」

用件が済むと、カガリはさっさと帰っていった。
「じゃあ、さっさと寝ろ」
イザークは面白くない。
さすが双子だ、片割れの変化を自然に感じ取れる。
自分には出来ないこと…言ってくれればいいのに。
「…怒ってるの?」
キラが聞く。

「当たり前だ!!私は、お前の妻なんだから!!心配する権利がある」
妻という言葉が胸に響く。
自分は、この人を手に入れたと再確認できる言葉。
たった紙一枚の拘束。
でも、もっと深い所で繋がっていると思っている。
双子以上に。





38:占い師  


女は占いが好きだ。
自分も、最初は馬鹿げているなって思っていてが、最近はそうでもない。
顔には勿論出さない。
でも、テレビで自分の星座がよかったりすると、なんか嬉しくなる。

「ちょっと…いいですか」
そう買物をしている時に、声をかけられた。
若い男。
道端にテーブルを出して、何をやっているのか。
「なにか?」
「お願いがあるんですけど…占わせてもらえませんか?」
「は?」
占う…。コイツ占い師なのか?
いや、でも頭からフードかぶってないし…水晶玉も持っていない…。
インチキか…詐欺が…キャッチセールスか。
「私は忙しい」
「いや、そこを何とか!!」
立ち去ろうとした自分の手を、その男が掴む。
いやに、必死なのと、道端で騒ぎを起こしたくないので、仕方なく占われてやることになった。
「わかった…で、何をすればいいんだ?」
「此処に…座ってください」
男はカバンから良くわからない、羅針盤のようなものを取り出し、生年月日を聞いた。

「…もしかして、結婚されてますか?」
「え?あぁ…している」
「はい、判りました。でました…今年は、健康、金運、恋愛、とてもいいと思います」
「そうか…で?」
「えー…奥様はあまり素直じゃないようなので、もう少しこう…素直になってみれば、さらに運気が向上すると思います」
「…」
「あっ…と、星が言ってます」
「ぷっ…そうか。ありがとう」
「いえ、とても勉強になりました。また、何かのご縁で会える時がありましたら、今度は是非旦那様と一緒に占わせてください」

素直じゃない、のは自分でも良くわかっているのだが。
占い師にまで言われる、しかも当たっているとなると、少々へこむ。
よし。
今日は、めい一杯キラに甘えてみるか。





39:バーゲン  


女はバーゲンが好きだというが。
それは、嘘だ!!
絶対嘘だ。
「…安いのは認めるが…この中に入れと」
「うーん…無理だよね」
夕方のセールタイム。
イザークは夕方、特に閉店前になると安くなると学習したので、早速夕飯を終えて、
キラを引き連れて大型スーパーに買物に来た。
キラに車を出してもらい、なんだかドライブ気分で二人はちょっと嬉しかった。

着いたスーパーは夜遅いというのに、中年の奥様でにぎわっていた。
明らかにイザークとキラは浮いていた。
でも、どの商品を見ても安い。
普通に買うのが馬鹿らしくなる。
これで浮いたお金は、もっと有効に使う道があるはずだ!!
「キラ!!頑張れ」
「えぇ…僕?」
「あぁ、あのキャベツなんて100円だぞ!!上からこうひょいっと取れば…」
「あーわかったから」
キラが仕方なく、売り場に群がっている奥様の頭の上から手を伸ばし、キャベツを1玉取った。
「これでいいの?」
「あとは…」
結局、いいようにキラは使われて、買物は終了した。

「…おばさんパワーはすごいね」
「だろう??いくら私でもあそこには入っていけない」
「これからも行くの?」
車に乗って、家に帰りながらキラがいう。
もう行きたくないような話し方だ。
「…少しでもお金をためて、またどこかに行きたくないか?」
「お正月とか??」
「正月は、忙しいから…クリスマスとか」

「頑張ってみます…」
どうやったらもっと稼げるか、キラは考え始めた。





40:隣  


君の隣に僕がいて。
僕の隣に…君がいる。

「はぁ…」
「どうした?」
「ううん…幸せ」
「?」

ソファに座って、キラがイザークに寄りかかる。
それが至福のとき。
一番の幸せをかみ締めることが出来るとき。
そして…恐怖も感じる時。
いつまでこの幸せが続くのか…。
普段は、気にしないのに。

「キラ?」
イザークは、寄りかかってきたキラの頭を膝に乗せた。
普段はこんなこと絶対にしない。
でも、今日はキラの様子が変だから。
また、いらないことで悩んでいるのは、長年の付き合いでわかってきた。
「話さなくていいけど…大切なことだったら、言えよ?」
「うん…ありがとう」

自分は、彼女の隣にいるために、努力してきた。
これからも、誓う。
これからも、永遠に。
君の隣にいたい。



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