26:鏡
今日は、なかなか寝癖が直らない
「んー…この、毛がぁ」
キラは、洗面台で奮闘していた。
「キラー急がないと、朝飯無いぞ」
「もうちょっとーー!!」
イザークが朝食を作って、待っているのに。
早くキッチンに行きたいのに、この毛が!
「オイ…大丈夫か??」
なかなか降りてこないキラをイザークが見に来る。
「この前髪が…」
「あーちょっとかがんでくれる?ムースで直して…」
イザークが、洗面台から自分の使っているヘアセット類を取り出してキラの頭につける。
鏡越しにイザークが見える。
どんな顔で自分のいじっているのかを見るのは、めったにないことなので、新鮮だ。
髪をいじられることなど、昼間はほとんどないのだ。
「なんか…新鮮だね?」
「何がだ」
イザークが鏡越しにキラを見る。
「だって、こんな風に直してもらうことって今までなかったじゃない?」
イザークが首をかしげて、色々思い出す。
「確かに」
「直してもらうって言うより…どっちかって言うと、ぐしゃぐしゃにされてるし…」
「??」
「ほら…夜はイザーク、僕の髪引っ張るでしょ?」
「なぁぁ!!」
馬鹿者!!
イザークはキラの言っている意味がわかって、叫びながら猛スピードで1階に下りていった。
でも、髪はちゃんと直っている。
「いじめちゃったカナ?」
ふふっと笑って、キラは彼女の後を追った。
27:コウソク
夜の静寂を二人で駆け抜け
錯覚する
二人しかこの世界にはいないと
聞えるのはモーター音と
あなたの息遣いだけ
「こんな時間に高速に乗るのは…初めてだ」
午前2時過ぎ
明日は休みだし、時間なんて気にしなくてもいいのだが。
いつもなら寝ている時間。
高層ビルがそびえたつ、その間をすり抜けるようにはしる高速道路。
「そうだね…でも、他に走ってる車もいないし…独占してるみたい」
車は、キラの趣味でスポーツカーだ。
イザークとしては、セダンとかの方がよかったのだが、この車はキラが結婚する前から持っていたものだった。
買い換えるのも金がかかるし、キラがとても気に入っているので、それでもいいかと今では思っている。
時速300近くは出るエンジン。
なのに、身体には響かない作り。
結構な値段がしただろうと思ったが、アスランと買いに行ったという話しなので、ヤツのコネか何かで格安で買ったのだろう。
そういうところの友人の使い方は、キラは上手いな。
「どこ行くんだ?」
結構な距離を走っている。
海岸線を走っていたと思ったら、今度は山だ。
「決めてないよ。あーもう少し行けば、また海にでるから」
「うん…まぁ、どこでもいい」
そっけない返事。
続きはある。
でも、言ってやらない。
お前がいればなんて。
少し顔の赤いイザークを見て、キラが笑った。
言わなくても、伝わることもある。
28:ラブレター
部屋の整理をしていたら、出てきた。
キラ宛の。
ラブレターが。
勿論、夫婦だって、プライバシーはある。
イザークは読みたい衝動をこらえて、ダイニングのテーブルにこれ見よがしに置いてみた。
キラがどんな表情をするか。
しかし、キラがラブレター…。
アイツは、外から見ると、どういう男なのだろうか。
自分としては、初めて会ったときから、ずうずうしい、意外と強引だし。
でも、今ではそんな所も、まぁ、その、好きなので気にはしていないが。
「な…何考えてるんだ…自分は!」
ダイニングのテーブルに腰掛けながら、一人で赤面する。
そして、ナイスタイミングでキラが帰ってきた。
「ただいま…」
イザークは、慌ててキッチンの中へと入り、夕食の仕度を始めた。
「お帰り…まだ、出来てないから…」
「んーわかった。あれ?」
キラがダイニングに入って来て、気がついたようだ。
「…なんで、こんな所に?」
その言葉に、イザークが反応して、キッチンから、ひょこっと顔を出す。
「部屋掃除したら出てきたから…おいといたぞ」
眉毛がつりあがって、ちょっと無愛想な返答。
キラはすぐに感づいた。
嫉妬してるな?と。
「イザ」
「わ、いきなり後ろに現れるな…手を離せ!危ないだろ?」
包丁を持っ手いたところをいきなり、後ろから抱きしめられて、イザークが慌てる。
それを知りつつ、キラはイザークの手から包丁を離させた。
「こっち向いて?」
「…なんだ?」
振り向いて、しかめ面で、キラを見るイザーク。
「好きなのは、君だけだよ」
きつく抱きしめて、甘い口付けを送る。
「…ぅん」
イザークも、それを甘んじて受け入れた。
29:紅葉
有給を取って、君と初めての旅行。
秋の行楽日和。
紅葉狩りでもしようか?
キラは、夏のかもめ〜るで当たった、温泉旅行を決行するために、会社の有給を取った。
着いた場所は、イザークの好きそうな、純和風な温泉旅館。
あまり、このような場所には似合わないスポーツカーを駐車場において、キラとイザークはそれぞれ荷物を持ち、
旅館の中へ入っていた。
女将さんと思われる女性が、出迎えてくれ、チェックインを済ませる。
荷物を仲居さんに預け、部屋に案内される。
普通の旅館とは違い、すべての部屋が離れのようになっている。
「こちらでございます」
玄関もある、中央の屋敷から、一端外に廊下に出て、イザーク達が泊まる離れに到着する。
鍵で開けてもらい、先に二人で中に入る。
純和風かと思いきや、和室と、ベッドのある寝室の二部屋あった。
「本日のお夕食は、何時になさいましょうか?」
玄関に荷物を置いてもらい、仲居さんがメモ帳を持って尋ねてくる。
「イザークどうする?」
「7時半ごろで…いいですか?」
「はい、かしこまりました。明日の朝食の方は、夕食時にお伺いします。
それと、当旅館は各部屋に浴室を完備しておりますので、大浴場はございません…。
何か御用がありましたら、電話でおよびください」
そう一礼して、荷物を置いて、仲居さんは帰っていった。
玄関においてもらった荷物をキラが中に運ぶ。
「うわ…すごい」
先に、色々見学していたイザークが、感動の声を上げる。
「どうしたの??」
「見てみろ!!部屋に露天風呂があるぞ!!」
一部屋が本当に一軒屋のようになっていて、庭もあり、垣根が周りを覆っているので、誰かが覗くこともない。
庭の、部屋に近い部分に、こぢんまりとしているが露天風呂がある。
どうやら、部屋の中にある、室内の風呂場から、外に出られる仕組みになっているらしい。
露天のすぐ傍に部屋と繋がっているドアがあった。
「この庭を見ながら…夜とかすごい綺麗だろうな」
イザークが嬉しそうにして、庭に出ようとする。
キラも、そんなイザークを見てとても嬉しそうだ。
「紅葉が綺麗だ…ほら、キラ見えるか??」
庭に出て、落ちてしまった紅葉を拾い上げ、それを部屋の中にいるキラに見せる。
「うん。来てよかったね」
イザークが笑った。
30:昼休み
専業主婦は暇だなんて思われがちだが、やることは山ほどある。
洗濯。
家の掃除。
夕食の買物。
そして…。
「ほう…やはり、ココアは身体にいいのか」
お昼の奥様向け番組みを見て、情報を得ること。
旦那の身体の健康は、妻が守らなければならない。
そして、イザークは結構鵜呑みにしやすいタイプである。
「キラも…ココアは好きだったはずだから、今日の買物で買いに行こう」
ソファにのんびりと掛けながら、小一時間ほど、イザークはテレビに夢中になった。
「イザーク、ココアなんか買ってきての?」
キラが帰宅して、リビングのテーブルに置いてあった、袋を手に取った。
「あぁ、テレビで身体に良いと言っていたからな、キラも飲むか?」
イザークは先にカップで飲んだらしく、飲み終わったカップがテーブルに置いてあった。
「うーん、いいけど、あんま飲むと甘いから、太るよ?」
「え?」
太るという言葉にイザークが反応する。
「何でも、ほどほどがいいんだよ…あと、適度に運動しなきゃね」
「確かに…うーん」
「じゃあ、今日の夜、早速運動しようか?」
キラが囁く。