21:とんだぁっっ!!  


カサコソ…カサコソ…
長い触角に、黒光りするデカイ体。
主婦の敵!!

「アスラーーーン!!!助けて!!!」
「!!??」
いきなり、大声で助けを求められて、大慌てで、アスランは1階に下りていく。

「どうしたの!!」
「ヤツが出た!!どうにかしろ!!」
「ヤツ?…あぁ〜ゴキ」
「うわぁぁ、その名前を口に出すな!!気色悪い」
イザークがアスランの口を塞ぐ。
キッチンにどうやらゴキブリが出たらしい。
イザークは虫が嫌いだ。
特に、このゴキブリが…。
「さっき、冷蔵庫の下に入っていた…あーもー本当に勘弁してくれ!!」
「わかったから、イザークはソファで休んでて!!俺が退治するから」
「た…頼んだあぁぁ、ひー出てきた!!」

イザークがキッチンから退散する前に、ヤツは冷蔵庫の下から、カサコソと出てきて…。
「ぎゃーとんだぁっっ!!」
「ちょっとイザークどいててよ!!」
キッチンは阿鼻叫喚の渦に巻き込まれた。

その後、きちんとアスランに退治され(新聞紙の丸めたヤツで)
ゴキブリは…抹殺された。





22:ごめんね。  
※15:ゲームオーバー...の続き。


喧嘩をして…アスランが家を出て行った。

インターホンを押して、返事を待つ。
『はい?』
「キラ?…あの、来てると思うけど…」
「あぁ、いらっしゃい、イザーク。早く持って帰ってくれると、こっちとしては、嬉しいかな?」
イザークの予想は大当たりで、やはりアスランはキラの元へ来ていた。
「今、連れてくるから、待ってて」
「頼む」

キラに半ば引っ張られるような形で、アスランは玄関に連れ出され、外に追い出される。
人の家の玄関先で言い合うのは、迷惑なので、無言で移動する。
人気のないところに来て、漸くアスランが一言発する。
「俺、怒ってるよ?」
「…」
イザークは黙った。
「本当に、怒ってるから!!」
イザークの手を握って、引き止める。
強く、強く、握られる手。
「悪かった…」
「…結婚してまで、『嫌い』なんて言われるとはね…」
悲壮な顔。
イザークは、自分の軽率な行動を悔いた。

「…ごめんね」
イザークが、アスランに抱きつく。
彼の首に手を回して、耳元で囁く。
「こんなんで、許すと思ってるの?」
「…じゃあ、どうしたら許してくれる?」
イザークが聞く。

「もう…嫌いだなんていうな」
アスランが、イザークの唇に噛み付いた。





23:二日酔い  


地球が回っているのか。
それとも自分が回っているのか。
アスランはわからなかった。

普段なら、絶対に酔うほど飲まないのに、キラに勧められるがままに、酒を飲んだ。
キラはザルだが、アスランはそれなりに許容範囲というものがある。
めったにない焼酎が手に入ったと連絡を受けたのが、会社が終わってから。
それから家に帰って、イザークを連れて、徒歩でキラの住むマンションに向かった。
「オイ!!オイ!!アスラン大丈夫か??」
「あ〜この調子じゃダメそうだね」
3人で楽しく飲み始めたのが、午後8時過ぎ。
それから、深夜12時を回るまで、飲み続けた。
イザークは自分の許容範囲を知っているので、
ヤバくなる前にやめたが、アスランは久々の飲み会ですっかりはめを外してしまった。
で・・・。
アスランはつぶれた。

でも、明日も会社があるので、家には帰らなければならない。
泊まっていけば?と言うキラの誘いを断って、キラにも手伝ってもらい、
酔いつぶれたアスランを自宅まで連れ帰った。
とりあえず、寝室へは行けそうにないので、
リビングのソファをベッド代わりにして(ベッドにもなるやつ)その上にアスランをおろす。
「助かった…世話になったな」
「いいえ。こんなアスラン見たの初めてだよ」
「私もだ…」
「じゃあ、帰るね」
キラを見送って、寝室から掛け布団を持ってきて、アスランに掛ける。
酔いつぶれ、眠ったと思われたアスランが、布団を掛けたイザークの手を引っ張る。
どうやら、一緒に寝たいらしい。
「…子供だな」
着替えてもいない。
何もしていないが、仕方なく付き合ってやる。
「うわ…酒臭い…」
「ん…イザ」
「…寝てるときは…可愛いんだがな…お休み」
今日は、アスランの意外な一面を発見した。

「うぅぅ…頭が割れる」
しかし、起きたら、お決まりのパターンだった。





24:天然  


「宇宙人はいるか…いないか」
「それを、この時代に言うの??」
休日のひと時。
二人はソファでお互いに本を読んでいた。

イザークの趣味は民俗学。
古代人の文化を研究して、それを紐解いていく学問だ。
イザークは、本を読みながらつぶやく。
いまや、人類にとって知らない星は無いというぐらいまで探査は進んだ。
火星や土星に人なんか住んでない。
いや、実際住んではいるが、ドームの中だ。

「イザーク…SFの読みすぎじゃない?」
「これは、200年以上前のベストセラーなんだぞ!!馬鹿にするな」
自慢げに『スターウォーズ』の本を見せる。
「はぁ…八本足の火星人はどうしていないのか…。なぞだ」
「いや、だってその小説作り物だし…」
「だって、宇宙人の解剖ビデオとかあっただろう?」
「それ…歴史の教科書の内容じゃないか…どう考えたって、ガセだろ?」

イザークがアスランを睨む。
「お前…サンタクロースも信じてないだろ?」
「はぁ?」
どこから、そういう話になったのか。
「サンタはいるんだぞ!!!」
宇宙人とサンタクロース…架空といえば、架空の物。
「…」

アスランは、結婚して初めてのクリスマスに当たり、出張サンタを頼もうか本気で考えた。





25:無我夢中  


「アスラン…遅い」
いつもならとっくに帰宅している時間。
遅くなる時は、いつもメールか電話をしてくるのに…今日に限ってない。
不安になる。
事故にあってないか…何かに巻き込まれていないか。
折角作った夕食も、大分時間が経ち冷め始めている。
「はぁ…電話するか?」
自分からアスランに電話をすることなどほとんどない。
いつも来るのを待つだけ。
いつもアイツがするのを受け入れるだけ。

tulululu…tulululul…
長い通信音。

『イザーク??遅くなってごめん』
アスランが出た。
「アスラン…今どこだ?」
『まだ…会社。ごめん、急遽どうしても出なきゃいけない会議があって…』
「そうか…それならいいんだ」
『心配…してくれた??』
「心配しなきゃ、電話なんてしない!!…気をつけて早く、帰って来いよ」
相手の返事も聞かずに電話を切る。

よかった…何も無かった。
アスランの声を聞けただけで、安心している自分。
本当は私のほうが、お前に夢中なのかもしれない。
心にもし重さがあるのならば。
天秤に掛けられればいいのに。



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