16:LET’s DANCE!
「僕も行くの?」
「私だって行きたくない!!でも、母上の頼みだ…断れない」
イザークの母、エザリアは大きな会社の取締役だ。
今回、取引会社からエザリア宛にパーティーの招待状が来た。
しかし、エザリアはその招待された会社の役員達が嫌いなので、行きたくない。
なので、代わりにイザークに行ってくれと母親命令を出した。
パーティー会場に行くと、すでに大勢の人が集まっている。
その中に、入っていくイザーク。
別に物怖じしない、堂々とした彼女を見て、キラはやはり慣れているなと思った。
キラはこんな所にきたことはほとんど無い。
今勤めている会社のパーティーだってこんな豪華ではない。
キラの方が気後れしそうだ。
イザークが会場に入ると、彼女をエザリアの娘だと知っているこの会社の人間達がわさわさと挨拶してくる。
「相変わらず御美しい…」
「今日はお一人ですか?だったら是非」
言い寄ってくる男達。
それを少し離れてみているキラ。
イザークはそれがつまらなくて、キラの元へと近寄り、群がってきた男達の前でキラと腕を組む。
「いいえ、今日は夫と一緒ですから…ご心配なく」
大勢の男があっけに取られる様がおかしいが、そんなことは気にしない。
イザークはキラと手を繋ぎ会場の奥へと入っていた。
大きなホールでは、管弦楽団がいて優雅なクラシックを奏でる。
そして、何組かのカップルがそれにあわせて踊っている。
ここにいて、つまらない人間に話しかけられるのは、うざい。
イザークはキラの手を引っ張って、ホールの中に入っていく。
「えぇ…踊るの??」
「あそこにいてもつまらん。でも、帰るわけにも行くまい?私に合わせればいいから…」
「うん…なんかこういうところ慣れない…」
「私だって嫌いだが…お前と正装でこういうところに来るのは結婚式以来だから…結構、新鮮」
イザークがリードして踊り始めたが、飲み込みの早いキラは最後には自分からイザークをリードした。
彼らの踊りが終わると、会場中からため息が漏れた。
17:ぐるぐる
夕飯の準備に取り掛かろうと、材料を出して気がつく。
「…パスタがない…」
「買い忘れ??」
「…キラ、買ってきてくれるか?」
「えー…じゃあさ、一緒に行こうよ」
という事で、二人は近くのコンビニまでスパゲッティーを買いに行くことになった。
コンビニについて、目的のものを買い、イザークは新発売のお菓子。
キラは、缶コーヒーを買う。
帰り道、普段は気にしないのに、なぜかイザークは公園のジャングルジムに目が行った。
「ちょっと…待って」
「ん?」
キラの袖を掴む。
「公園に寄りたい…」
「やめろ、やめろ!!!」
「だって、イザークが乗りたいって言ったんだよ」
「目が…目が回る!!」
ぐるぐる。
イザークをジャングルジムに乗せて、キラは思いっきり回した。
最初は楽しんでいたイザークも、だんだん目が回ってきて、キラの止めるように言った。
「うぅ…地球が回ってる」
「ごめん、調子に乗りすぎたね」
ジムから降りて、ふらふらしているイザークを、キラが支える。
さて、遊んだし、帰ろうか?
僕らの家に。
18:甘い!
「キラ…ねぇ…」
イザークが甘えた声を出し、ソファに座っているキラを後ろから抱きしめる。
「なに…どうしたの?」
彼女が自分からこういった行動を取るのは珍しい。
「…私が、甘えるのがそんなに珍しいか?」
「いや?嬉しいよ」
「ふふ…好きv」
イザークが抱きついた手で、キラの顔を自分の方に向ける。
「僕もだよ?」
イザークからのキスを受けて、キラもソファを挟んではいるが、体をイザークの方向ける。
「積極的なイザも、たまにはいいかもね」
「…もっと」
「じゃあ…ベッド行く?」
イザークが頷いて、キラが立ち上がる。
イザークの手を取って、寝室へ向かう。
そして、イザークを横たえて、そのまま…
目が覚めた。
「ちっ…夢か」
現実は、そんなに上手くいかないものだった。
19:見えないナァ。
ドーンッ!
ドーンッ!!
音はするのに、家からは見えない花火。
イザークがベランダに出ても、前のマンションが邪魔で、それを確認することが出来ない。
「…邪魔な、マンションめ」
イザークは悪態を付いた。
「イザ!!イザ!!」
「ん?」
1階でキラの呼ぶ声がする。
さっきまで、仕事をしていたので、ほっておいたのだが、どうやら終わったようだ。
花火も見えないので、イザークは下に下りた。
「もう、仕事はいいのか?」
「んー良くはないけど、これ!買ってきちゃった」
「?」
キラが、コンビニのビニール袋をぶら下げている。
買物に行ったのか?
「じゃ、じゃーん!花火やろ!」
「!?」
「さっきから音がしてたけど…うちからじゃ見えないでしょ?だから…ね」
夏も終わり。
その、今年最後のひと時を、君と花火で彩ろう。
「線香花火…落とさずにいられたほうが、何でも言う事聞くっていうのは?」
キラが言った。
20:後悔
君は僕と結婚して、良かったと思っていますか?
不意に一人になって考えることがある。
本当にイザークが自分と一緒になってよかったのかということを。
家に帰ると、電気がついていない。
そういえば、今日は一度実家に帰ってから戻るといっていた。
もう7時だが、彼女が帰る気配はない。
電気もつけず、ソファに座る。
部屋が暗いと、余計なことを考える。
このまま、彼女が帰って着なかったら…とか。
エザリアに帰るなといわれているかもしれない…とか。
元々、結婚するにいたっても、イザークの母は余り賛成ではなかったようだ。
イザークは、大きな会社の令嬢で、自分は一般中流家庭で育った平民だ。
偶々、大学が一緒だったというだけだ。
自分に自信がもてなかった。
プロポーズも…清水の舞台から飛び降りるような感じだった。
「はぁ…」
彼女は後悔してないだろうか。
ガチャンッ!
玄関が開く音がする。
いきなり部屋が明るくなって、目が痛い。
「何してるんだ?電気もつけないで…」
イザークが帰ってきた。
荷物をキッチンにおいて、リビングのソファに座っているキラの元に来て、横に座る。
「あぁ…お帰りなさい」
「まったく、こっち早く帰りたいのに…いつまでも引き止めて。いい加減子離れして欲しいものだ」
「早く帰ってきたかったの?」
「当たり前だ!!…帰ってこないほうが良かったか?」
イザークが不安そうな顔をキラに向ける。
「ううん…帰って来てくれてありがとう」
僕は君を信じてる。