11:逆光  


「あー…この写真、逆光で駄目だ…」
「ん?」
アスランが、以前に出かけたときに取った写真をイザークに見せる。
確か、登山に行ったときのやつだ。

湖と山を背景に、アスランが映っている。
丁度、彼の頭の上辺りに、逆光による光の反射が出来て、なんだか…。
「プッ…これ…」
イザークが写真のアスランの頭を指差して、笑う。
大体何が言いたいのかわかって、イザークを睨む。
「それ以上言うなよ!!」
「はいはい…これ、私が取ったやつか…すまないな」
「…」

それから、アスランは育毛剤を使うようになった。





12:裏道  


金曜日の夜。
アスランは、イザークを会社まで呼んで、夜のディナーに誘った。
明日と明後日。
土日に無理やり休みを勝ち取ったアスランは、休みの日は家でのんびりしたい。
なので、イザークに会社まで来てもらって、車でレストランに行って、
ドライブでもして、少しばかりデート気分を味わおうと思っていた。
自宅から、アスランの会社まで、電車で1時間。
イザークは、何度か乗りかえをして、会社の近くのコーヒーショップで、夫が来るのを待っていた。

午後6時。
約束の時間通りにアスランがやってきた。
「お待たせイザーク、行こうか?」
彼女を車に乗せて、アスランは何が食べたいかイザークに聞く。

「イタリアン?それとも…中華?」
「んー…エビチリが食べたい」
「じゃあ、中華にしようか」
その後、二人で少し豪華な夕食を済ませ、その後コンビニに立ち寄り、
暖かい飲み物を買って、アスランは夜景の綺麗な高台へと車を走らせた。

駐車場も無い、広い原っぱの上に車を止める。
外に出ると寒いので、車の中で、暖かい、アスランはコーヒー。イザークはココアを飲む。
正面に都会の夜景が広がって、とても綺麗だ。
此処は少々穴場のスポットだ。
此処に来る前に少々広い道があるのだが、そこを通ると、きちんと整備された、公園に入る。
しかし、そこを通らず裏道を行くと、夜には誰も来ない、綺麗な夜景を独り占めできる場所にでるのだ。

「はぁ…エビチリも食べたし…今日はいい日だった」
「…デザート食べてないよ?」
「?杏仁豆腐を食べただろうが?」
「イザークだけでしょ?」
「お前は、自分でいらないといったんじゃないか!!」
「だって…俺のデザートは…」

アスランは、イザークの座席を後ろに倒した。
「わー!!何する」
「誰も来ないから…安心して??」
夜景だけが彼らを見ている。





13:シャボン玉  


「イザーク?イザーク?」
「…悪い。何だ?」
「さっきから全然お箸が進んでないよ??そんなにテレビ気になる?」
「イヤ…そういうわけでは」

夕食時。
たまにテレビをつけながら夕食をとる。
見る番組もいつもはニュースなのだが、今日は教育チャンネルの実験をする番組を見ていた。
テレビの中で、大小様々なシャボン玉が次々に作られていく様を見て、イザークは釘付けになった。
面白そう。
アスランには興味はない風に装ったが、やりたい。

夕食後、後片付けが終わったイザークは、洗剤石鹸を空いたヨーグルトのカップに入れ
水で薄めてシャボン液を作る。
そして、戸棚からストローを取り出し、はさみでその先に十字の切り込みを入れた。
そのままでも、十分シャボン玉は出来ると思ったが、
イザークとしてはもっと大きなものが作りたかった。
アスランはリビングで新聞を読んでいる。
イザークは、リビングの窓を開けて、サンダルを履いて庭に出て、一人でシャボン玉を楽しんだ。
優しく、優しく吹くと、沢山のシャボン玉が出来る。
外は暗いが、リビングの光が庭に差し込むので、
それがシャボン玉に当たって、またなんともいえない光景を作り出す。
「…綺麗だ…よし、もう少し…」
「俺も一緒にやっていい??」

アスランも気がついて庭に出てくる。
自分で作ったストローを持って。
「なんか、子供の頃に戻ったみたいだ…」
「そうだね、今度はさ…子供と3人でやりたいね?」
「…子供?」
「今夜頑張ってみる??」
アスランの言っている意味が漸くわかって…。

「バカヤロー!!!!!夢を壊すようなこと言うな」
アスランは、平手うちされた。
お二人さん、ご近所迷惑ですよ?





14:きわどい。  


母(エザリア)から、実家にたまには帰って来いとのお達しが来た。
大好きな母から言われれば、帰らないわけには行かない。
アスランも一緒にと言うことで、前日二人は大慌てで、
手土産のお菓子や着て行く服などを決めていた。

お菓子は、母が好きなものをイザークが用意した。
エザリアは以外と服のセンスにうるさいので、彼女の好みのものを着て行くのがいつものパターンだ。
アスランは、紺色のスーツ。
そしてイザークは、エザリアからもらったスカートにするか、それともズボンにするか悩んでいた。

「オイ…どっちがいいと思う?」
「…ズボン」
寝室のクローゼットを開けて服を取りだす。
それを両手に持って、イザークがアスランに尋ねる。
上着は決まったので、後は下。
ズボンは、黒。スカートは白。
そして、スカートは丈がかなり短かった。
「…母上がくれたこっち(スカート)の方が良くないか??」
しかし、本当に丈が短く、…きわどい。
確かに、似合うとは思う。
でも、それを行く途中で出会う男連中(たかだか通行人)に見られるのは不本意だ。

「…んーじゃあさ、ちょっと着てみてよ?」
アスランがニッコリ笑って言う。
イザークは、そう言われて、今来ている服の上から、スカートを穿いた。
「ズボンはいたままじゃ…なんかダサいよ?」
「そうか…じゃあ」
イザークはアスランの口車に乗せられているとも知らず、穿いていたズボンを脱いだ。

アスランは、明日は絶対ズボンで行かせると決めていた。
でも、スカートを穿いたイザークだって見たい。
独り占めしたい。

イザークは喰われた。





15:ゲームオーバー...


喧嘩した…。
喧嘩なんていつものことだが、今回はアスランが相当怒ってしまった。
今、家にいるのはイザーク一人だ。

「はぁ…言い過ぎたか?」
イザークはソファに座って、考える。
あの程度の喧嘩は、いつもしていた…。
「でも、結婚してから…無かったか?」
そういえば、結婚してから、物凄い喧嘩を繰り広げたことは無かった。
結婚前は、それはもう本当に毎日のようで…。
喧嘩も楽しかったような気がする。
それは、いつもアスランが謝っていたからだ。

好きだから、結婚した。
本当は喧嘩なんかしたくない。
「よし…迎えに行くか」
イザークは大体アスランのいる場所は、わかっている。
親友の家だ。

謝ることは、ゲームオーバー=負けじゃない。
これをスタートラインにしよう。



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