6:煙草
けほけほッ!
突然、鼻を突く臭いがして、イザークは思わず咽こんだ。
日曜日。
イザークは、現在夫のキラと一緒に大型デパートに買物に来ていた。
天気もいいので、お昼は屋上のガーデンレストランで食べようという話になった。
一通り食べ終わって、食後のお茶を飲んでいる時に、タバコの煙でイザークがむせた。
「大丈夫?」
「ケホッ…あぁ…平気」
デパートで唯一喫煙できる場所がどうやら屋上にあるようで、お昼も終わり、一服したい客が多く集まってきたようだ。
「出ようか?」
キラがそう言って、店を出る。
あたりを見ると、やはり風上に喫煙所があったことを知る。
「…どうしてあんな、病気と金の無駄使いの元を…まだ、喉が変だ」
「まぁ…人それぞれだけど」
キラだって、タバコぐらいすったことがある。
決して美味しいものだとは思わないが、なんとなく中毒になる気持ちはわかる。
ショッピングカートを引いて、食品フロアを歩く。
「…お前、私に隠れて吸ってないよな??」
疑いを掛けられて、キラは驚く。
タバコの臭いは服や髪に付きやすい。
なので、あんなに一緒にいて気付かないはずはないのだが…。
それもわからないのは、イザークが箱入りだからだろうか?改めて、お嬢様だったんだろうな?と思ってちょっとからかう。
「もし、僕が吸ってたら??」
「別かれてやる!!!」
キラはイザークの耳元で囁く。
「なら、一生イザークは僕から離れられないね?」
キラがニヤリと笑った。
7:神だのみ
「当たっているか??」
「うーん…まだ本命はないねぇ」
大量に送られてきた、かもめーるを片手に新聞とにらめっこしているのはキラ。
それを後ろからそわそわ見つめているのはイザーク。
キラの妻だ。
結婚してから最初の夏。
キラとイザークの元に会社や友人から大量の暑中見舞いが届いた。
イザークは、年賀状など懸賞がすごく好きで、今年もやってきたこの時期を楽しみにしていた。
100枚以上ある束をキラが一つ一つ確認しながら、当たりとはずれを分けていく。
しかし、切手シートは何枚も出ているが、その一つ上の商品たちは全然あたらない。
ちなみに、イザークは小包セットが欲しくて、キラはどうしても温泉旅行のペアチケットが欲しかった。
イザークとはまだ一度も旅行にいっていないのだ。
最後の何枚かでついにキラが叫ぶ。
キラの思いが神様に通じた。
「当たった!!!やったーー」
「何!!小包か??」
「え?」
イザークはてっきり自分の欲しかった、小包があったのかと勘違いしていた。
「ちがうよ…温泉のペア宿泊券!!イザ、小包欲しかったの?」
「なんだ…桃じゃないのか…まあいい。誰からのだ?」
「ん…あ、アスランだ」
差出人はアスラン・ザラだ。
アスランはキラの恋敵でもあり、今でも隙あらば…という感じだ。キラに旅行券が当たったらさぞかし悔しがるだろう。
「アイツからの葉書で、懸賞に当たるとは…なんだか気持ち悪いな」
イザークは、アスランが苦手だ。
「いいじゃない別に。今年のクリスマスは二人で温泉旅行だねvv」
部屋に露天風呂が付いていると書いてあったので、キラは今から楽しみだった。
『はい、もしもし』
『アスラン!ありがとね。君のお陰で、イザークと温泉にいけるよ』
ガチャン
「なに?!!」
それだけ言うと、キラは電話を切った。
8:アツッ!!
キラが会社から家に帰ると、家中にいい匂いが広がっている。
キッチンを覗いてみると、今日のおかずはから揚げだ。
ジュワジュワといい音を立てて、あがっているが、まだできてないようだ。
キラの帰宅に気が付いたイザークが、声をかける。
「まだできてないから…先に風呂はいるか??」
手伝おうかとも思ったが、たまにはご飯前に風呂に入るのもいいなぁと思い、一度荷物を部屋に置きに行き、着替えを持ってくる。
「じゃあ…入ってくるね」
キラは、キッチンのすぐ横にある脱衣所で服を脱いで、風呂場はいる。
ヤマト家の風呂は、キラの温泉が好きが講じて、こだわって作った檜の浴槽である。
入ると、檜のいい匂がする。
浴槽は広くて、二人で入っても十分な大きさだ。
キラいわく、足を伸ばせない風呂は風呂じゃない!!らしい。
キラは、風呂用の椅子に座り、桶で風呂の湯を梳くって体にかけた…。
「アツッ!!」
風呂場から、声がして、イザークは慌てて、コンロの火を止めて駆けつける。
「どうした!!」
イザークが、風呂場に入ると、腰にタオルを巻き、腕が少し赤くなっているキラがイザークを見る。
「イザ…湯加減見た??」
「熱いのか?…どれ?んー確かに」
イザークは湯船に手を入れて確かめる…ちゃんと設定したはずなのに…。
「もしかして?」
イザークは、風呂をかき回す棒を持って、湯船をバシャバシャとかき回した。
今日は、急いでいたので、かき回すのを忘れていたのだ。
「どうだ??いい感じになっただろ?」
「うーん…ほんとだ。いつもいい湯加減になってるから。かき回してるんだね」
「あぁ…じゃあ、私は料理に戻るぞ?」
「あ、ちょっと…」
帰ってしまうイザークを引き止めて。
「どうせなら…一緒に入る??」
しかし、悪魔の作戦は成功しない。
キラは桶で殴られて、大きなこぶが出来てしまった…。
9:うるさいっっ
「ねー」
「…」
「ねーってば!!」
「…」
「…此処で…やってもいいなら…」
「何をするんだ何を!!!」
やっとイザークが起き上がる。
今日は、いつもより早く帰ってきたキラが、イザークにちょっかいを出していた。
夕飯の支度をするにはまだ早い。
午前中に掃除や洗濯等の主婦業をこなした。
午後は、軽く昼食を取って、その後はお昼寝タイムか、読書タイムか、買物だ。
買物は、昨日したので、今日は買い物に行かなくてもいい。
読書でもしようと思ったが、今読む本がない。
じゃあ・・・ということで、イザークはお昼寝タイムに突入した。
寝室からタオルケットを持ってきて、ソファに転がる。
そういえば、此処最近、夜はキラに襲われていて、ゆっくり休めていなかった…。
うるさいあいつもいないし…とりあえず体力の回復を図らないと。
「はぁ〜寝るぞ」
お休み3秒で、イザークは眠りに落ちていった。
「ただいま〜」
午後3時半。キラはいつもより3時間以上早い帰宅になった。
出先から、そのまま帰宅になったため、イザークを驚かせようと思い、何の連絡もいれずに家に帰った。
しかし、いつもなら、自分が帰ってくると、必ず出迎え…とまでは行かないが、声を掛けてくれるのに。
今日はその声が無い。
「イザ??」
買物かなぁ〜とすたすたリビングに入ると、タオルに包まる人。
「寝てるのかぁ…」
すうすうと、寝息をたてているイザークは可愛い。
けれど、目の下にうっすらと隈。
そういえば、此処連日やってたなぁ〜なんて思いながら、そっと彼女の髪をなでる。
つやつやの美しいプラチナは細く、絡まりやすい。
最初は、眺めているのもいいなぁと思ったキラだったが、だんだんつまらなくなってしまった。
「うるさいっっ!」
「だって、折角帰ってきたのに…返事ないし、寝てるし」
結局、キラに起こされ、イザークの睡眠は妨げられた。
「そんなに疲れてるの?」
「あー…此処最近…その、あの…ごにょごにょ」
「やりすぎた??」
「直接的表現をするな!!バカモノ」
タオルケットを投げつけられるが、たいした威力ではない。
「ごめん…じゃあ、寝てていいよ?」
「ん??」
「今日の夕飯は、僕が作るよ」
たまには休んでいいよ。
その代わり、今日の夜も…ね?
「アイツ…料理できるのか??」
うきうきでキッチンに向かっていくキラを見ながら、つぶやく。
しかし、睡魔には勝てないイザークは、ポスッとソファに逆戻りした。
10:ロボット
「トリィv」
「あ、動いた動いた…」
「よかったな」
キラは、工具箱を箪笥から引っ張り出してきて、鳥型ロボットの修理をしている。
それは、大分長い間放置されていたようで、分解するとあちらこちらに埃がたまっていた。
キラはそれを丁寧に掻きだす。
配線もいくつか駄目になっているようなので、それも繋ぎなおす。
何で、いきなりこんなものを出してきたのか。
それは、イザークが箪笥を片付けていた時に、偶然箱を見つけた。
その中に鳥型のロボットが入っていたのだ。
夕飯後、それをキラに見せると、懐かしげに中身を取り出し、動くかどうか試してみた。
スイッチを押しても動かなかったので、キラは工具を出して、修理を始めた。
イザークも興味があったので、さっさと夕飯の片づけをして、リビングで作業するキラの隣に座り、覗く。
修理されたロボットは、本物そっくりに動き、キラやイザークの周りを跳ねたり、飛んだりしている。
「これ、お前が作ったのか?」
「ううん。僕、こーゆーの昔苦手で…アスランに作ってもらった」
「…アスランか…納得」
アスランは、ロボットオタクでイザークにも良くわからないものを作っては、送っていた。
もちろん、それはキラに処分(消去)されてしまうのだが。
「小学校の時かな?宿題で出て、作ろうとしたんだけど、どうせ出来ないだろ!ってアスランに言われて…」
「ふむふむ」
「そしたら、アスランが代わりに作ってくれた」
「なかなか、いいヤツじゃないか」
「でもねぇ〜」
キラが懐かしそうに言う。
「その後、アスラン、僕に抱きついてきたんだよ…勿論、全力で殴り飛ばしたけど」
「…」
アイツは、そんなに小さい頃から変態だったのか。
イザークは、もう二度とアスランに近づかないと誓った。