1:朝  


本日のザラ家の朝は、旦那の起床から始まった。
キングサイズのベッドのサイドテーブルでピピッと鳴る目覚ましを消すのはいつも夫、アスランの仕事だ。
妻イザークは、まだ夢の中。
朝方まで続いた愛の行為で、まだ惰眠を貪っている。
イザークは、専業主婦だが、アスランは会社の役員だ。
なので、会社に行かなければならない。
朝食もイザークの作ったものを食べたい。
しかし、昨日無茶をさせてしまったのは自分なので、今日はどこか外で食べることにして、静にベッドを抜け出す。
一端、寝室を出て、顔を洗い、歯を磨いて、また寝室の戻ると、イザークがベッドヘッドに寄りかかって、起きていた。

「悪い…起きられなかった」
「気にしないで…無茶させたのは俺だから…体平気?」
「あぁ…今日は遅いのか?」
「いや?いつもと同じだと思うよ」
スーツを着て、ネクタイを締めながら、アスランは言う。
「そうか…だったら、お前の好きなものを用意して待ってるから、早く帰って来いよ?」
「了解」

今日は、ロールキャベツかな?
朝から、お熱い新婚夫婦なのでした。





2:つまみ食い 


「オイ!まだ食うな」
「イテッ…」
夕飯の支度中に早々アスランが戻ってきて、キッチンに置いてあった、
ロールキャベツにつける綺麗に丸くカットされた、にんじんに手を伸ばす。
スーツからホームウェアに着替えて、一度冷蔵庫の中を見たら、飲み物はあっても、食べものは無かった。
かなりお腹がすいていたので、食べられるなら何でも良かった。
なんだか、さもしいが、さりげなく茹で上がった、にんじんに手を伸ばし掴んだ瞬間、
すかさず、さえ箸で手を突かれる。
(箸で人を突いてはいけませんよ!!) 

「にんじんなんて食うな!まだできてないんだから、ソファで待ってろ!!」
案の定、怒られる…。
「…はい」
これ以上かまうと、包丁を出しかねないので、アスランはさっさと退場する。
キッチンの真後ろにソファセットがあり、アスランはテレビをつけても、
料理をするイザークのことが気になってしまい、ちらりと彼女を見る。
さすがにレースのついたエプロンはつけてないが、
白と水色の淡いグラデーションのエプロンが彼女にはとても似合っている。
お玉を持って、スープの味を確認し、コクコクうなずいて、今度は戸棚に皿を取りに行く。
トマトのいい臭いと、イザークのエプロン姿に誘われて、アスランはそろりと再度彼女に近づく。
お腹がすいた。
彼女が皿を置いた瞬間を見計って、後ろから抱きつく。
「ほんと…おなか空いたんだけど…」

つまみ食いされるのは、にんじんか、それともイザークか。
アスランはさりげなく、コンロの火を消した…。





3:花屋 


アスランは会社に車で通っている。
会社からの帰り道、ちょっといつもとは違う道を通って帰ることになった。
土曜日は大通りが混むのだ。
出来るだけ早く帰りたい、イザークが待っているから。
しかし、細い路地を入ったとき、偶然花屋を見つけた。
丁度通りに面した、外に出ている花の中に、イザークにとても似合いそうなカサブランカを見つけた。
ちょっと通り過ぎて、邪魔にならないような所に車を停車させて、花屋に入る。
百合は外にしかないようで、店員に言って、外のカサブランカを見せてもらう。
「すいません、あのカサブランカを…」
「はい」
若い男性の店員が、何本かそれを取って差し出してくれる。
手にとって、臭いをかぐ。
しかし、思いのほか臭いがキツイ。
『…これじゃあちょっと、イザーク嫌がるかなぁ…』
「…あ」
アスランは、もっといい物を発見した。
「すいません…あの花をあるだけ…」

ピンポーン
新築の庭付き一戸建て。
アスランは車を地下駐車場において、玄関のインターホンを押す。
手にはいっぱいの花があるため、開けられない。
『…アスラン??鍵持ってないのか?』
「ごめん、今手がふさがっちゃって…開けて〜」
『わかった』
ガチャっとドアが開くと、イザークの目の前に、アスランではなく、小さな花の大きな塊がバーンと現れる。
「うわぁぁ!!」
顔面に自分の顔4つ分ぐらいの大きさの「かすみ草」の束を突きつけられて、イザークは大声を上げた。
「こんなに買ってきてどーすんだ!!!!」
イザークの罵声が玄関と周りに響いた。

結局、飾れる所に限界があり、半分以上がドライフラワーと化した。
結婚しても、素直に「ありがとう」と言えないイザークだった。





4:あとチョット...


「おい…」
「もうちょっと…」
「…」
休日の午後、自宅のリビング。
アスランは、会社の仕事を家に持ち帰ってしていた。
会社が決算の時期に入っているので、営業とは無関係ない自分の部署にまで、
色々雑用が回ってきているのだ。
アスランとて、本来ならば家で仕事なんてしたくない。
しかも、休日。
出来るならば、イザークといちゃいちゃして過ごしたい。
でも、上司から明後日までにと、資料を渡されてしまい、結局、
リビングのテーブルをその資料で埋め尽くさなければならなかった。

で、最初に戻る。
イザークはさすがに朝から、昼も過ぎ、三時のおやつの時間になっても、
一向にアスランが仕事をやめようとしないので、さすがにキレかけていた。
いつもだったら、自分から誘わなくても、あっちからちょっかいをかけてくるのに、
今日に限って自分から誘いをかけて何度も読んでいるのに、彼から返ってくる返事は『もうちょっと』
アスランが座っている食事用テーブルと、同じ空間にあるソファに座りながら、
さすがのイザークも、もう我慢の限界だった。
「もうちょっと」だったら、今日の夜にでもやればいい。
退屈で、死にそうだ。
イザークはソファから立ち上がると、アスランに背後から抱きついて、
彼の顔を自分の方に向かせ、強引に唇を奪う。
彼女の突拍子もない行動にさすがに驚いたアスランだったが、
めったにない機会なので、彼女の誘いに乗った。
「…本当に、あとちょっとなんだけど…」
「もうその台詞は聞き飽きた!!…そんな紙切れじゃなくて、私をみろ」
恥ずかしげもなく、そんな台詞を言うイザークも珍しくて、
この誘いを断ったら男じゃないし、彼女の夫でもない。
パソコンの画面はそのままに、アスランは椅子を立つと、
イザークの手を引き、ソファに座る。
「ごめんね…かまって上げられなくて」
アスランは、ゆっくりとイザークをソファに押し倒す。
イザークも甘んじてそれを受け入れた。

結局、仕事が終わったのは、翌日の朝だった。





5:まるい  


今日の夕飯はビーフシチュー。
イザークは、いつものエプロンをつけて、キッチンに立っていた。
丁度、たまねぎを切ろうした、ところでアスランが帰ってくる。

たまねぎの皮を剥き、いざ切ろうとしたところで、
アスランが冷蔵庫から飲み物を取ろうとして、スーツ姿で入ってくる。
まな板の上を覗き込んで、「丸いたまねぎじゃないの?」このぐらいの…。
そういって、アスランは片手でOKサインをしてみせる。
「はぁ?」
小さいたまねぎのペコロスのことを言っているのだろうか。
「お前良く食べるし、あれは量のわりに、値段が高い!」
大きなたまねぎが、カレーの具のようにカットされていく様子を真剣に見ながら、
ちょっと嫌そうな顔をする。
そういえば、結婚してから、初めてビーフシチューを作った。
「俺の家のヤツには、あれが入っていた」
「…私の家のも、そうだったが…この家買って金ないんだから、節約してるんだ!!」
物凄く、現実的問題を突きつけられて、アスランは押し黙る。
たしかに…結婚してすぐに3階建ての部屋が6個もある、
2人で住むには大きすぎる家を買ったのは…間違いだったか?
悶々としつつも、イザークが笑って「美味しかったらいいだろう?」と言うので。
「そうだね」
アスランも微笑む。

君の作るものだったら、ありがたく頂くよ。



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