world3
「さぁ、着いたよ。ここで、今日から僕と二人で暮らすんだ…」
キラはまず自分が降りて、その後、イザークを箱から降ろした。
二人が降りるのをまるで見ていたかのように、箱は下へと降りていった。
部屋の入り口のドアを開ける。
二人が中に入ると、大きな音を立てて、扉が閉まり。鍵がかかる音がする。
イザークの目に広がったのは、まず天蓋付きのベッドが一つ。そして大きな窓が一つ。
その窓の手前に椅子が2脚とテーブル。
キラが、イザークを連れて、まず右側にある扉を開く。
右側の扉には衣装部屋だろうか、大きな衣装ケースが沢山ある。
そこを出て、今度はベッドのある部屋を左に移動して、扉を開けると、まず、洗面所。
そのまた左側に二つ扉があり、どうやら、バスルームとトイレのようだ。
箱型の乗り物殻下りたところを中心とすると、この最上階の部屋というものは、
ドーナツ状になっているようだ。
「ここにおいで…」
一通り、部屋を見て周り、キラは大きな窓の前にイザークを呼んだ。
断る意味もなく、イザークは黙ってそれに従う。
窓はどうやら開くようだが、内開きのようだ。そして、鉄格子もされており、
四角い穴からしか外を確認できない。
丁度その窓からは、ヤマトの城下を望むことが出来た。
黒い家々。淀んだ空気が、部屋に入ってくる。
嗅いだことの無い、鼻をつく嫌な臭いに思わずイザークは咽こむ。
キラはイザークが咳き込んだことで、窓を閉める。
「此処から、もっと遠く…何が見えると思う?」
閉められた窓、そして、鉄格子の四角い穴からイザークは目をこらしてみた…。
そして、ずっと遠く。
七色に光輝く物を見つけた…。
「あ…光白城?」
「そう。君が捨てた国の象徴が見えるだろ?」
「っ!!」
後悔しろというのか。
イザークはキラの方を向き、精一杯睨んだ。
誰のせいで国を捨てなければならなかったのか。
「貴様!!」
さっきはアスランがいたが、今はいない。
一発殴ってやらないと気がすまない。
「おっと…僕は、自分に危害を加える人間には容赦ないよ?」
振り下ろされた手を、上手く受け止め、イザークを引き寄せる。
苦しいぐらいの抱擁。
イザークは必死になってもがく。
「離せ!!!」
「僕のモノになるのがどういう意味なのか…教えてあげよう」
無理やり、キスをされ、抱かれた。
結局、夕方から朝まで、永遠と陵辱行為は続いた。
イザークが、気がついたのは、もう日も高く昇った正午過ぎ。
あの悪夢のような行為の後が、生々しく残っているベッドで、目が覚めた。
キラはいない。
乱れたベッドに一人だが、ホッとする。
しかし、イザークは、起き上がりたくても、起き上がれなかった。
下半身にまったく力が入らず、腕の力で起き上がっても、
それを保っていられないため、またベッドに逆戻り。
それが何度か続いたが、何回目かで漸く、ベッドヘッドに掴まることが出来て、上半身をそれに預ける。
城から連れてこられた時から身につけていた、ジュール王国独特の衣装は、
キラにより引きちぎられ、今は無残にベッドの下の絨毯に落ちている。
「はぁ…」
イザークは、その破けた服をどうにかして拾う。
シーツは汚れているため、巻きつけたくない。
しかし、服がなく心もとないので、とりあえず今は破けたものでも我慢できる。
それを肩から掛けた。
今は、とにかく…。
「シャワー…浴びたい」
この身体の汚れを隅々まで洗い流したかった。
イザークは、ゆっくりと絨毯に足を着け、立ち上がる。
ふらふらすると同時に、足へと流れる、自分の中にキラが出したもの。
「うっ…」
こみ上げる吐き気を我慢して、イザークはバスルームへと向かった。
たった5メートルの距離が、永遠に感じるくらい長い。
バスルームのドアにたどり着いて、中に入り、鍵をかける。
タオルがあることを確認し、掛けていた服を脱衣所において、中に入る。
中は思いのほか広かった。
バスタブにタイルの敷き詰められた、洗い場。
バスタブの中に入り、座り込んで、シャワーヘッドを手に持ち、蛇口を捻る。
「はぁ…っ」
最初は水だったが、次第にお湯に変わっていく。
ところどころに付いた傷がしみる。
キラに縋りつきたくなくて、自分の腕を力いっぱい掴んだり、握り締めたりした。
顔に水がかかると、噛み締め過ぎて切れた唇が痛い。
此処から出たくない。
もう…あんなのは嫌だ。
なのに、地獄は何度も蘇る。
突然外側から、バスルームの鍵が開いた。
「いないと思ったら…ここにいたの?」
「!!」
バスルームに、キラは突然現れた。
イザークは、驚いて、バスタブに掛けてあったバスタオルを体に掛ける。
驚いた拍子に、シャワーヘッドが手から離れて、洗い場のタイルの上に落ちる。
そして、それがキラの服を濡らした。
「別に・・・いまさら隠すことないのに。」
「…出て行ってくれ!!」
バスタオルをきつく握り締めイザークは叫ぶ。
しかし、キラは自分にかかるシャワーの蛇口を捻って止め、
その場からは動かない。
「誰に命令している?」
見下ろす瞳は、驚くほどに冷ややかだ。
「くっ…」
「まだ…わからないのなら…もっと、知る必要があるよね?」
「自分が誰の物なのか」
「いやぁぁ!!!」
叫び声がバスルームに響き渡る。
キラが、イザークの手を掴んだ。
キスはしない。
一度、噛み付かれたから。
優しくはしない。
俺に従わないから…。
愛は…どうだろうか。
今度目が覚めたら、自分は死んでいるのではないかと思った。
激しく抱かれて、意識が何度も飛んだ。
それでも、引き戻されて、さらに強要させられる。
最後の最後は、もう意識も戻らなくて、深く、暗いどん底の闇の中へ、身体が落ちていった。
目覚めは、一度目よりも最悪だった。
動かない身体。
痛む下半身、叫び続けて嗄れた喉。
そしてなにより、生きていることが、一番辛かった。
このままずっと、キラの慰み者でいなければならないと思うと、苦しくて苦しくて。
でも、死ねない。
民を捨てた自分、楽になろうとして逃げることは、簡単だが、出来ない。
神に祈るしか、イザークは出来なかったが。
立て続けにキラに抱かれ、その後2日間、イザークはベッドから出ることは出来なかった。
その間、キラは一度もイザークの元へ来ることはなかった。
来るのは、食事を持ってくる、給仕の者と、イザークの健康管理のための医者だけだった。
このまま、キラが来なければいいのに。
何度もそう願った。
三日目になると、漸く身体が回復し、ベッドから降りることが出来た。
用意された、ヤマト独特の生地のワンピースに身を包む。
窓の真横にある椅子にすわり、外を見る。
太陽が見えないほどの雲に覆われているので、
何時なのかと部屋の時計を見ると、もう昼過ぎだった。
目を凝らして見る。
鉄格子の遠くに、微かに光る、自分の城だったもの。
今、私の国はどうなっているのか…。
そして、散々になってしまった国民達は、ちゃんと生活しているのだろうか。
「はぁ…ん?」
窓辺に一匹の鳥。
どこから飛んできたのだろうか、自分の国では見たことのない綺麗な鳥。
空気の汚いこの国で、生きていられるのだろうか…。
「お前…もっとコッチ…」
チッチッと呼ぶと、鉄格子を抜けて、部屋の中まで入ってくる。
「…何か、食べるもの…」
丁度テーブルの中に、クッキーがあるのを見つける。
イザークは、小さく千切って窓の枠にそれをこぼす。
すると、その美しい鳥はくちばしで、クッキーのかすを食べ始めた。
「…お前はいいな・・・いつでも、飛んでいける」
その羽があれば…。
鳥になれたら。
大人しく食べていた鳥が、何かを察知して、いきなり外へ飛んでいった。
「?!」
イザークは、振り返って入り口を見た。
それと同時に、ガチャリと音がして、キラが入ってきた。
「もう、身体は大丈夫?」
キラはにこやかに、部屋に入って来た。
「…」
「医者はもう大丈夫だって言ってたから…コッチにおいで?」
イザークの座る椅子の所まで来て、手を差し伸べる。
また、抱かれるのだろうか。
拒めば更なる苦痛が待っている。
だったら、大人しくしていよう。
彼が、自分に飽きるまで、されるがままの人形でいよう。
きっと、母の側近の誰かが何かしら策を練っているはずだ。
神はいる。
此処で、希望を失ってはダメだ。
それまで、耐えよう。
「やっと、自分が誰のものなのかわかった?」
何も言わずに自分の手を取るイザークを見て言う。
そう、そうやって、自分にだけ従えばいい。
イザークを生かすも殺すも、すべてが自分の手の上にあるのだから。
キラは、イザークをゆっくり立たせて、ベッドに導いた。
狂乱の宴が始まる。
もう、涙すらでなかった。
行為が終わり、また気を失い寝てしまったイザーク。
死んだように寝ているイザークの唇にキラは口付けを送る。
この瞬間は、彼女は牙を向けない、か弱い存在。
でも。
どうも府に落ちない。
こうやって手に入れて嬉しいはずなのに。
抱いて、自分を奥まで注ぎ込み、彼女のすべてを手に入れているはずなのに。
白い肌に無数に散らばる、自分が付けた所有の証。
顔には涙の後がくっきりと残る。
彼女の乱れた姿を見ることが出来るのは、自分だけである。
欲しいと言わせて、服従させることが出来るのは、自分だけなのに。
でも、何かが違う。
「っ…頭が痛い」
キラは乱暴に、乱れた格好のままのイザークにシーツをかけて、
イライラしながら、塔を後にした。
それから、毎日のようにキラはイザークを抱きに塔へ上がった。
壊すまで抱いて、帰っていく。
イザークは食べ物が喉を通らず、痩せていく一方だった。
キラとの行為が終わった後、彼がイザークの口元に、
何度かフルーツを持っていくこともあったのだが、彼女の胃が受け付けず、
吐き出してしまうので、彼のそんな行動も、数日で終わった。
抱いて、出て行く。
それが、一ヶ月程度続いた。
「ゲホッ…き…もちわるい…」
元から細かった身体は、さらに細くなった。
水は飲めるが、食べ物を飲み込むのが辛い。
しかし、イザークもこのままでは自分の生命の危険を感じているので、
何とか果実だけでも口にする。
2週間目までの、キラの抱き方はそれはひどく、彼女は気を失ってばかりだった。
しかし、此処一週間、キラもしつこく行為を強要しないので、大分楽になった。
行為が終わっても、イザークは意識を保っていられた。
このまま飽きてくれたら。
捨ててくれたら。
イザークは、窓際にある椅子にもたれかかるように座りながら、
いつものように鳥が来るのを待っていた。
それが唯一の此処での楽しみであり、心が落ち着く瞬間でもあった。
クッキーを用意して、待つ。
「今日は…遅いな…」
いつもだったら、来る時間…今日は、なかなか鳥が来ない。
「鳥に…飽きられたか?」
クスッと笑う。
しかし、しばらくすると、いつものように鳥がやってきた。
でも、今日は2羽だ。
「友達か?」
仲良くしている様子を見て、イザークは嬉しそうに微笑む。
「…キラとも、お前達のような関係を築けたらよかったんだろうな」
2羽の鳥が、部屋の中まで入ってくる。
イザークの周りを飛び回り、肩に止まってイザークの髪を引っ張ったり、彼女の差し出した手のひらに乗っかる。
可愛く鳴いて、イザークの心を癒す。
「こら…ひっぱるな」
自然にイザークに笑みがこぼれる。
この瞬間が永遠に続けばいいのに…。
そう思った瞬間、カタッという音がした。
鳥も慌てて、塔から出ていく。
イザークもビックリして、またキラが来たのかと思い、入り口のドアを睨んだが、誰かが入ってくる様子はなかった。
イザークはホッと胸をなでおろし、また外を見た。
曇った空の向こうに見える、自分の城は、まだある。
母が、国際会議に掛け合っていていれば。
どこかの国が自分の国と同盟を結んでくれれば。
今日はキラが来なかった…。