smile6
「キラ…お前だったんだな」
お前が、イザークの愛して止まない相手だったんだな。
「アスラン…どうしてイザークを…」
赤服…ザフト?
「キラぁ!!助けて…」
「イザーク」
そんなことより、今はイザークだ。
彼女が助けを求めている…しかし、このフェンスは上部に高圧電流が流れているので、上っても越えることはできない。
「イザーク、行くぞ!!その手を離せ!!」
今度は容赦なく、アスランはイザークの腕を引っ張る。
早く此処から立ち去らないと、オーブ軍に見つかり大変なことになる。
「嫌だ…キラ、キラ、もう…離れたくない…」
しかし、イザークは渾身の力を振り絞って、金網を掴んだ。
その手は、赤くなり、鬱血する。
「やめろ!アスラン…彼女は」
キラが叫ぶ。
「うるさい!!俺はザフトの軍人だ…彼女も。今は、お前の敵だ!!」
キラが目を見開く。
しかし、イザークはその言葉に、首を振り、そうじゃないと訴える。
「嫌…もうこんなの嫌!!キラ…キラァァ」
この金網が、漸く逢えた二人の邪魔をする。
イザークは泣いた。
嬉しさと切なさで。
会えたことの喜びと、また会えなくなるだろう辛さで。
「イザーク…イザーク…絶対助けるから!!絶対助けに行くから!!」
キラは金網を必死に掴んでいるイザークの手に触れた。
自分はこのフェンスの向こうへいけない以上、イザークはアスランに連れて行かれる。
生きていた。
それを知ることが出来て、よかった。
本当によかったと思う。
絶対…絶対助けるから。
もう、あんなことにはならないから…。
今度は僕が、君を救う番だ。
そして、キラはイザークの手をフェンスから引き剥がした。
「キ…ラ…」
どうして?その言葉は紡がれることはない。
次の瞬間、バチッという音を立てて、イザークのカフスに電流が走った。
アスランが、スイッチを入れたのだ。
イザークはその場に崩れることはなく、アスランに抱きかかえられた。
「アスラン…」
「…」
アスラン一度キラを見たが、後は何も言わずにイザークを抱きかかえ立ち去る。
キラも、呼びかけて、返事が返ってこないだろうことは、なんとなくわかっていた。
何年ぶりかで会った、旧友。
でも、自分の愛する者を傷つけるのならば、もう友でもなんでもない。
キラは、連れて行かれてしまった愛する人をずっと眺めてはいなかった。
自分も、動きださなければならない。
彼女のために。
じっとはしていられない。
キラは、官邸に向かって走った。
昨日カガリに頼まれていたことをしなければ。
何かはわからないけど…。
「キラ!!もう大丈夫か」
官邸に駆け戻ったキラを心配そうなカガリとキサカが待っていた。
どうやら、キラが外に出た後に、彼の様子を見に来たらしい。
いなくなって驚いてしまったようだ。
「うん。大丈夫だよ」
「そうか…」
安心した顔をする姉の肩に触れて、耳元にヒッソリとささやく。
「話しがある」
「?」
「人がいると騒がしくなるから…ちょっと」
一緒にいた、キサカが怪訝そうな顔をするが、カガリが「ちょっと行って来る」と勝手に行ってしまったので、
彼も自分の持ち場に戻ることにした。
「さっき…イザークに会ってきた」
「っ!!」
カガリの目が大きく見開かれる。
「ザフトの軍人が、今、オーブに潜入してる。彼女は彼らと一緒にいた、捕虜としてじゃなく、軍人としてね」
自分の部屋にカガリを入れて、さっきまでの出来事を話す。
「き…緊急配備を…」
慌てて、出て行こうとするカガリの腕をキラは掴む。
自分に会ってしまった以上、アスランもバカではない。
もうすでにこの島から出て行ってしまっているだろう。
「もう、遅いと思うよ。だから、僕が行く」
「ひ…一人で、乗り込もうって言うのかお前は!!どこにいるのかもわからないのに!」
ザフトに乗り込むなって、なんて愚かな。
カガリは、キラの手をとって、部屋を出る。
「カガリ?どこ行くの」
「シモンズの所に行く…」
「?」
カガリは部屋を出て、廊下で一度立ち止まる。
シモンズとは誰だろうか?キラが首をかしげる。
聞いたことの無い名前だ。
「昨日、頼みたい仕事があると言った」
カガリがうつむいた後、キラの目をまっすぐに見つめた。
「新型のMSのOS書き換えだ」
「新型?」
「そうだ。ストライクとは比にならない、核搭載の新型だ」
「あれなら…お前が望むことが出来るかもしれない」
イザークの笑顔を取り戻すためなら。
何だってする。
核兵器だって、なんだって…。
「判った…連れてってカガリ」
「ミゲル!ばれた」
ジープの後部座席にイザークを横たわらせて、アスランは端末からミゲルに通信を送る。
すぐにミゲルから応答が帰って来て、一端元の場所に集合することとなった。
イザークの恋人は、自分の知っているキラだった。
たった1年しか一緒にはいなかったけれど、
本当に仲がよかった。
兄弟のように、遊び、学んだ仲だった。
旧友の恋人を、奪っている自分に吐き気がする。
そこまで汚い人間だったか。
ジープを走らせながら、身の毛がよだつのをアスランは感じていた。
でも、そうまでしても、イザークが欲しかった。
一人の人間をひたすらに思い、まっすぐに見つめ続け、
思い続ける一途な彼女に、自分を見て欲しかった。
アスランは思いのたけをぶつけるように、思いっきりアクセルを踏み込んだ。
「ニコル達はもう潜って、下に待機してる小型潜水艦に乗ってる」
集合場所に着くと、ミゲルを残し、他の3人はすでに退却していた。
ミゲルから口に咥えるだけの酸素ボンベとマスクが手渡される。
「お姫様は?」
「俺が連れて行く。ミゲルも先に行ってくれ」
ミゲルを先に行かせて、アスランはイザークにマスクをつけ、口に小型酸素ボンベを入れる。
イザークが息をしていることを確認して、自分もマスクを付け、ボンベを咥えて、海に入った。
潜入時には気がつかなかったが、この国の海はとても綺麗だ。
車を走らせていても感じた。
プラントとは違う空気、上に広がるのは本物の青空。
海の中、イザークの銀髪がゆらゆらと揺れた。
潜水艦に入り、濡れた服のままとりあえずオーブの海域を離れた。
イザークをニコルに任せて、アスランは機関室へと向かう。
宇宙に戻るにはあまりにも取得した情報が少なすぎる。
アスラン達は一路地球のザフト軍基地に戻ることになった。
潜水艦のパネルには、オーブ軍の追跡は見られない。
キラは言わなかったのだろうか。
だが、アイツは絶対にイザークを迎えに来る。
金網越しに対峙した時の、キラの真っ直ぐに自分を見据えた目。
あれは諦めていない目だった。
「とりあえず、オーブの海域を抜けたら、母艦が待機してます。
それに回収してもらい、カーペンタリアに向かいます」
乗組員からの伝言に、アスランは無言で頷いた
「これが…新型?」
カガリに連れられて来たのは、オーブ軍施設の最下層。
エレベーターで降りてきて、空洞の中央に走る広い橋をカガリと渡る。
そこに不気味に佇む、巨大な黒い影。
「明かりを点けてくれ」
カガリが大声でそういうと、ガチッと大きな音がして、巨大な地下空洞に電気が灯る。
一瞬の光の眩しさの後、キラの目に映った新型のMS。
ストライクとは、配色は限りなく近いけれど、圧倒的に違うのはその威圧感。
ストライクを始めてみた時以上に、無意識に身体にかかる圧力。
下から見上げていない分、まだ気分的には楽なのだろう。
最初にこの機体を、真下から見上げることが無くてよかったとキラは思う。
真下から見上げたら、きっと眩暈がしただろう。
「これが…フリーダム。核搭載の新型だ」
「自由…」
自由という言葉は、確かに必要なもので、しかしそれはなんて曖昧なもの。
目に見えない不確かなもの。
でも、今必要な力。
イザークを助けるために、そして…この戦いの世界のために。
「カガリ様?よろしいですか?」
橋の真下から女性の声がする。
カガリが乗り出して、応答する。
「シモンズ!今連れて行く…キラ、彼女は設計担当のエリカ・シモンズ。
もう一回エレベーターに乗って下まで行ってもらう。私はまだ仕事があるから、彼女の話を聞いてくれ」
「わかった」
二機あるエレベーターの一機に乗り込んで、キラはさらに下へと降りる。
そこで待っていたのは、作業服に身を包んだ女性だった。
「キラ様…お待ちしておりました。どうぞこちらに・・・」
フリーダムの前まで案内される。
シモンズが小型の端末を持ち出し、キラに差し出す。
「今から、この機体のコックピットに乗ってもらいます。コックピットの基本構造は
ストライクとあまり変わりませんが、なにせ、出来たばかりですので、OSは何もしていませんし、私たちは何も出来ません」
シモンズがフリーダムの足についているパネルを操作する。
すると、コックピットが開き、中からワイヤーが出てくる。
「よろしく、キラ君」
「判りました…」
キラは端末を小脇に抱えて、ワイヤーに足を引っ掛けフリーダムのコックピットに上った。