smile4


「キラ…」
カガリは眠っている弟の頬を優しくなでる。
とりあえず、考えてほしいとAAのクルー達にカガリは伝えた。
しかし、時間はないと。
連合とザフトの戦闘は泥沼と化している。
このままでは、本当にどちらかが滅びるしか道がなくなってしまう。
オーブは他国に加入する気はないが、外交圧力が武力行使になるのも時間の問題だ。
中立に立たないというなら、すぐにでも出て行ってもらいたい。
厳しいかもしれない。しかしそれは、自国を守るためなのだ。
「イザーク…」
さらにカガリはつぶやく。
今はいない、友の名を。
キサカに連れてこられたのだろう、キラは医務室へと運ばれていた。
顔には涙の後がくっきりと残っている。
薬で眠らされたようで、静かに眠っている弟。
「どうして…」
AAでキラが何をしていたのか、カガリは詳しくは聞いていたい。
「…うっ…イザ!!」
キラが眠っているベッドに、崩れるようにカガリはしゃがみこんだ。

キラとカガリは双子でイザークとは幼馴染だった。
オーブではコーディネーター・ナチュラルという人種の差別はほとんどない。
キラはコーディネーターだが、カガリはナチュラルだ。
それでも、父の後を継ぎ、嫡子としてオーブの代表をカガリは務めている。
キラとカガリの父は二人が16歳の時に、さっさと隠居生活をしてしまったので、
それに伴いカガリが代表に着任して、キラはその補佐についていたが、
彼の恋人であるイザークがオーブの所有するプラントの大学に行くということで、
彼は一端補佐を離れ、イザークと一緒に大学に入学した。
カガリは二人がいつから付き合っているとかははっきり言って知らない。
でも、二人が一緒にいることは魚が水無しでは生きられないようなものだと思っていた。
一言で言えば、「自然」
自分とキラが一緒にいる以上に、むしろ二人の方が生まれた時から一緒じゃないのだろうかと思うほどに。
正直に言えば、二人を見ていてうらやましいとは思う。
自分には、そこまで信じ、頼り、寄り添う人間がいなかったからだ。
しかし、繋がりが強く、硬ければ硬いほど、突然の片割れの消失は
その人間の身体・精神に多大なる支障をきたす。
カガリはキラが、イザークの後を追ってしまわなかったことに安心したものの、驚いていた。

「カガリ…キラ様の様子は?良く寝ていたか?」
「…キサカ…あぁ、どうしてイザークがいないのか、わかったか?」
医務室を出て、代表室に戻ったカガリは、キサカからの連絡を受けていた。
「キラ様とイザーク嬢は共にMSに乗っていたようだ…」
「イザも!?」
「そうだ、ザフトからの攻撃を回避するべく、仕方なく二人は搭乗していたようだが…
地球に降下する時、キラ様の機体を庇おうとして、イザーク嬢の機体が間に入ったらしい」

イザークらしいな。

いつでも彼女はキラのことを最優先に考えていた。
それはキラも同じことで。
「ザフトのミサイルで、イザーク嬢の機体はかなり大破したようで、しかも、
機体をザフトに回収されてしまったようだ。だから、生死もわからない…」
「イザークが乗っていた機体は?」
「デュエルだ…」
大量生産型と違い、オリジナルモデルの機体はかなり頑丈なつくりになっているはずだ…もしかしたら、生きているかもしれない。
生きていて、捕虜となっているなら、外交を屈指してオーブに彼女を連れ戻せるかもしれない。
そのためにも今はAAの問題をどうにかしなくては…。
「わかった。とにかく、今はAAのことを最優先に考えよう。それによって動き方が変わる」
「そうだな…連合の動きも気になる。シモンズ主任からは、
新しい機体もすでに完成に近づき、後はOSのみだそうだ」
「はぁ…それを使う日が永遠に来なければいいのだがな」
戦争は化学の進化を導くが、いつも多くの人間を不幸にする。
それは、昔から変わらない、運命なのだ。
この代表室から見える、オーブを囲む美しい海、此処からは見えないが、山、都市、そして国民。
すべてを守れるならば。



夢の中の貴方は
泣いていて
私は手を伸ばしたのに
それが届かなくて
寄り添うぬくもりは確かにあるのに
貴方じゃない

「キラ…」
夢を見ているのか、そう呟くイザーク。
「…俺はキラじゃない!!」
抱きついてきたイザークを、アスランは振り払った。
「あぅ!!」
愛しい相手を求めるイザーク。
まだ薬から覚醒仕切れていない彼女を、アスランは無理やり揺さぶる。
自分に寄りかかって、違う人間の名を呼ぶ彼女を、現実へと引きずり戻そうとする。
「今、君の一番そばにいるのは、キラじゃない!!俺だ」
起き上がっていたイザークを、アスランは再びベッドへと寝かせる。
いや、この場合は押し倒すといったほうが正しいか。
イザークは何が起こったのかわからなかった。
何故、アスランが自分を揺すり、無理に覚醒させ、さらにのしかかろうとしているのか。
重い頭で考える。
確か、自分はかっとなって彼に殴りかかって…その後は良く覚えてないが、
もしかして傷つけたのか?
だから、仕返しに痛めつけてやろうと思っているのだろうか。
「キラは!!此処にはいないんだ!君を助けられるのは、俺だけなんだ!!」
「…キラ…何で知って?」
「キラ」という言葉を聴いて、頭が冷めるのに、頭が混乱する。
何故この男は「キラ」を知っている?
「君が、寝言で何度も何度も口にしていた名前だ」
「…」

アスランは自分がわからなかった。
捕虜である彼女を無理やり傷つけるような真似をし、訳のわからない言葉を無意識に口にした自分が。
イザークを最初に見たときから、心惹かれていたのだ。
意志の強い瞳や、彼女のまとう雰囲気は、どこか高貴なもので、自分を捕えて離さなかった。
自分を犠牲にして他人を守る所。
決して自分に心を許さない、誇り高い、純粋で、女神のような。
そして、「キラ」という人物を深く思っている所。
自分もこんなに思われたい。
子供のように、言葉ではなく行動で、自分でさえわからない感情を彼女に押し付けていた。

「ひとつ聞いていいか?」
「…何を?」
真剣にアスランに問われて、イザークは答えなければいけないような気がした。
「キラは…男?」
「そうだ…」
キラは男で、恋人で…アスランは自分のなかで何かが切れる音を聞いた。

「力入らないんだから、大人しくしてたほうがいいよ…痛くない方がいいだろ?」
「これが、ザフトのすることなのか?」
「個人的感情だよ」
イザークは、薬から脳は覚醒したが、体はまだいつも通りに動かせる状態ではなかった。
そこに、アスランにのしかかられ、病人用の服の合わせの紐を解かれる。
肩には包帯が巻かれていたが、胸は綺麗だった。
足跡をつけるのが気後れするような肌の白さ。
包帯の色とほとんど変わらないとさえ思う。
しかし、良く見ると、首や鎖骨のあたりにある消えかけた口付けの後。
それを見つけて、さらに血が頭に上る。
「跡…沢山付いてる。「キラ」のか?」
アスランは右手で、首を触り、それから鎖骨、脇腹。
触るたびに、イザークがピクッとイザークは動いた。



「…それがどうした」
イザークは否定しない。
そして、弱々しくイザークはアスランの腕を押すが、彼にとってそれは抵抗とは呼べない。
「「キラ」は、どうやって君を愛した?教えてよ」
病人用の下に来ていたキャミソールのような下着をずりあげて、イザークの小ぶりだが、形のいい胸を露にする。
さすがに、その時イザークはできる限りの力を振り絞ってアスランを自分の上から退かそうとした。
アスランがイザークの脚の間に体を入れているが、何とかして脚を動かし、
アスランを蹴り飛ばそうとする。
その間にもアスランの行為は止まることなく、カフスの付いたイザークの首筋を強く唇で吸い、
「キラ」が付けた跡の上に自分のしるしを残す。
「やめて…あぁん」
「キラ」がつけたしるしをすべて消すように、きつく吸い上げる。
そのたびに、イザークが甘い声を上げる。
胸を揉まれ、その頂に口付けられる。
右手はそのまま胸において、左手をイザークの太ももに忍ばせる。
このまま永遠に続くかと思う行為。

「キラァァ!!!」
「っ!!」

イザークの体に夢中になり、彼女の叫び声で、その顔をアスランは見る。
大粒の涙をあふれさせ、食いしばった唇からは鮮血が滴る。
震える体。
本心はこのまま続けて、彼女をめちゃくちゃにしてしまいたい。
「キラ」の存在を彼女の中から消すぐらい、自分という存在を彼女に刻みつけたい。
こんな感情を持ったのは初めてだ。
いつも、他人からは無関心そうでつまらない人間だと思われてきた。
実際、自分でも自分をつまらない人間だと思っていた。
欲しいと思うものは、幼い頃からすべて回りにあった。
自分から望まなくても、向こうからやってくる。
でも、今回は違う。
どうしようもなく、欲しいと思う自分がいる。

「そんなにキラが好き?」
「うぅ…ぅ…」
顔を両手で押さえ、嗚咽を殺す。
好きでもない、むしろ嫌いな男に抱かれそうになっていても、健気に愛する人の名前を呼ぶ。
「じゃあ、どっちか決めてよ」
「…」
「このまま俺に抱かれるか、それとも、ザフト軍に入るか」
「え…」

愛を気付くのは突然で
決断も突然で
私は、どの道を行けば、もう一度貴方に会えるのか



「ザフトに入れ?」
「あぁ…」
「そうしたら…止めてくれるのか?」
この、私には意味の無い行為を。
「あぁ…」

「わかった」
イザークが承諾したことによって、アスランはイザークの上からどいた。
上にずり上げられた下着を下ろし、イザークはベッドの上に居住まいをたたしながら座る。
何故自分がこんな目にあわなければならないのか。
いつかは帰れると思っていたのに、アスランは帰れると言ったのに…。
なのに、抱かれるか、入隊するかといきなり話が飛んだ。
「…お前は…いつか帰すと言った!!」
「話が変わった。君はデュエルのパイロットだった…」
「それがどうした!!私は、お前達の敵なんだぞ…」

「オーブに潜入する」
アスランがイザークを見つめる。
「君を、オーブに連れて行く」
イザークの瞳が揺れた。

「どうやって、説得したんだ??」
ミゲルが、部屋隅で一人座っているイザークの指差し、小声でアスランに話しかける。
作戦実行日。
一路、降下するためのシャトルを待機室にて待つ。
イザークは、赤服を支給され、それを着ていた。
まだ、顔の包帯が取れず、顔の左半分は隠れたままだ。
「別に…たいしたことじゃないよ」
「ふぅん?」
コイツなんかしたな??と思いつつも、そこに突っ込むほどミゲルはお節介でもない。

『降下シャトル準備完了、各員は搭乗してください』
許可が下りたのか、アナウンスが入る。
イザークは、どこに行っていいのか判らないので、アスランが呼びに来るのを待った。
「行くよ…」
ミゲルの元を離れて、イザークを呼びに来る。
「…」
イザークは何も言わず、その後を着いて行った。
こんな形でオーブに行くなんて…。
シャトルの窓から、地球が見える。
故郷。
キラのいる星。



  
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