smile1
「イザーク!!」
「キラァァァーーーッ」
緑の大地で誓った愛を光が飲み込んだ。
ザフト軍のイージスガンダムから放たれたミサイルがキラの乗ったストライクガンダムへと向かっていく。
それに気付いたイザークは慌ててストライクの前に自分の機体デュエルを滑らせ、ミサイルを自分の機体で防いだ。
地球降下まであと少し。
イザークとキラの二人の育った星は二人の背後にある。
イージスからのミサイルが爆発し、光が一瞬あたりを包んだ。
光が消えた後、キラが見たものは、片手と両足が吹っ飛んでいたデュエルの姿だった。
「!!イ・・・イザークッ。応答してぇぇーーー」
狂ったように通信機器をいじるが、彼女からの反応はまったく返ってこない。
通信系等がすべていかれてしまっているようだ。
しかし、ストライクが駆けつける前に、イージスによってデュエルは捕獲されたしまった。
どうやら破壊命令は出ていなかったようだ。
キラは迷わず後を追おうとしたが、母艦アークエンジェル(AA)の艦長マリュー・ラミアスに止められる。
「キラ君!!行っては駄目。私たちはこのままでは地球のどこに降りるかわからない。
もしザフトの領域に落ちたら、AAだけでは戦えないわ。ストライクまでここで失うわけにはいかないの!!」
「でも・・・イザークが!!!彼女の安否は!!」
「此処からでは、機体の損傷具合がわからないわ……キラ君!!何してるの!」
後ちょっとで大気圏に突入しようとしているのにもかかわらず、
キラは無理にブースターをめいいっぱい踏み込んで、宇宙に戻ろうとした。
「彼女は生きてる!きっと、だってだって…僕を置いて死ぬわけないんだ」
「そんなことしたら、ストライクが大気圏に入ったとき、どうなるかわからないわ!早く戻りなさい!!!」
ブースターも大気圏のGには敵わず、次第に威力を失って、最後には稼動しなくなった。
計器を見ると、燃料はもうほとんど残っていなかった。
「っ!!・・・・・イザーーークッ」
AAはすでに大気圏へ突入していた。
そんな中で、イージスと後ろに控えていたバスター・ブリッツ・ザクを相手に彼女を助け出すのは不可能だ。
キラはマリューの命令に従いAAへと戻った。
一人地球に下りた。
彼女を想い、涙を流して。
『生きていて』
「イージスは3番格納庫に入ってください。イージスは…」
ヤキンに到着すると、オペレーターから通信が入る。
アスランは捕獲したデュエルを待機していたザク部隊に預け、他のMSたちと共に格納庫へ入った。
イージスを降りると、ニコルたちはすでにMSを降りたらしく、アスランしかその場にはいなかった。
部屋に戻ると、すぐにまたオペレーターから通信が入った。
ベッドサイドのモニターに、通信部の女性の顔が映る。
「アスラン・ザラに通信です。1400、ラウ・ル・クルーゼ隊長の部屋へおいでください」
「1400、ラウ・ル・クルーゼ隊長の部屋へ…了解した」
通信がきれると、しばしの休息のために、ベッドへとダイブした。
1400。
自分達の自室から、そう遠くはない場所に隊長の執務室はある。
「アスラン・ザラです」
インターホンを押し、中の人物から入室許可が出る。
「あぁ、入りたまえ」
シュンッという音がして、隊長の部屋の扉が開く。
「ご苦労だったね。デュエルを捕獲したそうじゃないか。
まだ中のパイロットの情報はこちらには届いていないようだが…君に様子を見てきてもらいたい。」
いつものように仮面をつけて、クルーゼは椅子に脚を組んで優雅に座る。
「…私にですか?」
「あぁ…不満かね?」
「いえ!けしてそのようなことは…」
「ならば、後で報告書を提出するように…。パイロットは負傷しているらしく、医務室にいる。
捕虜の扱いは軍事協定で決まっているが…まぁ、もちろん君なら大丈夫だろうがね。
君が責任を持って監視するように。以上だ」
「は!!了解しました。では、情報を入手次第、速やかに隊長の端末へ書類を送信いたします。失礼します」
淡々と命令が下され、アスランは5分も隊長の部屋には居なかった。
はぁ…と軽くため息をついて、アスランは捕虜が居る医務室に向かった。
運んだデュエルは、自分でミサイルを撃ち込んだものの、ひどい有様で、
隊長の言葉から生きていることは伺えるものの、相当傷はひどいだろうとアスランは思った。
あの攻撃を受けて、コックピットが破壊されないだけでも驚きだった。
また、あの戦闘中、咄嗟にストライクを庇うように動いたデュエル。
アスランはそのパイロットに少なからず興味を抱いていた。
アスラン達クルーの自室がある場所から医務室は、階は違えども、そんなに離れてはいない。
医務室の前まで来ると、アスランはインターホンを鳴らした。
「どちらかな?」
「クルーゼ隊所属アスラン・ザラです」
「あぁ、話は聞いている。入りなさい」
ドアが開くと、中にはドクターがおり、3つあるベッドのうち一つはカーテンが引かれていた。
そのベッドに捕虜が眠っているようだった。
アスランが中に入ると、ドクターは彼を椅子に座るように促した。
中年の少し小太りの男だ。
「よほどの戦闘だったようだな。大分傷がひどいがね、命に別状はない。
さて、捕虜の扱いはどうすることになっているんだ?」
「はい、捕虜については私に一任されています。とりあえず、
デュエルのパイロットということで、地球軍のストライクガンダムやその他システム系統など聞きだせることは聞こうかと…」
「そうか…君なら大丈夫だと思うが…」
「何か、問題でも?」
「ん…いや」
言葉を濁すドクターにアスランは怪訝な顔を見せる。
「あー…君が連れてきた捕虜は…女性で、しかも、コーディネーターだ」
「!?」
ビーッビーッ
ドクターから意外な事実を突きつけられた瞬間、医務室内に警報が鳴り響いた。
ドクターが点滅している警報用の通信機を取ると、どうやら整備班でけが人が出たようだった。
救急箱を持ち、ドクターは少し出て行くと言った。
「捕虜のことは君に任せる。くれぐれも無茶はさせないように…左腕は特に損傷がひどい。
傷口が開くような無茶はやめてくれよ?頼んだぞ」
「はい」
慌てて出て行くドクターを横目に、アスランはカーテンの向こう側を見つめた。
カーテンを開けるのに戸惑う自分が居ることをアスランは疑問に感じた。
女性と聞いたからだろうか。
それとも、地球軍にコーディネーターが居たからだろうか。
たぶん両方だろう。
カーテンを引き、中の人物を見たアスランは、一瞬にして目を奪われた。
痛々しくも顔の右上半分が包帯で巻かれていたが、銀色の長い髪、
少し苦痛に歪む左眉の下にある髪と同じ色の長いまつげ。
肌の色は透き通るように白く、陶器ようだ。
アスランは、突然その長い銀髪に触れてみたい衝動にかられ、
手を伸ばそうとしたが、寝ていたと思った彼の目の前にいる人物に振り払われた。
「誰だ貴様!」
声は低からず高からず、耳になじむ心地よい声だが、顔を歪ませて荒々しく叫び、
起き上がろうとした彼女は、手をベッドに付いた拍子の激痛にその美しい声を少しだけ濁らせ小さく呻いた。
「まだ、おとなしくしていないと…」
やさしく話しかけるアスランの言葉など耳も貸さず、イザークは怪我をしていないであろうもう片方の手で、
アスランを殴ろうとした。
「貴様、ザフトだろう!私を…私を…」
一目でザフトの者とわかる制服を着ていたアスランを見たイザークは、
自分が拉致され、ザフトの基地、もしくは艦につれてこられたことを悟った。
「お…おい!」
なんとかしてベッド際に居るアスランを少しでも広い場所に遠ざけてベッドからイザークは出ようとした。
しかし、何度拳を繰り出そうとも、軽くかわされるだけだった。
次第にイザークに疲れが見え始める。
さすがにコーディネーターといえども、イージスのミサイルを真正面から受けてしまったのだ。
左手は、感覚からして骨折もしくはひびが入っているだろうし、右の額がズキリと痛む。
肩で息をしだしたイザークをアスランは取り押さえた。
「あぅ!」
怪我をしていない右手の動きを封じて、肩を押して、ベッド押し戻した。
「少し、落ちつけ!」
「離せ!!離せ!!」
それでも、バタバタと足を動かすイザークに焦れたアスランは、彼女の上に馬のりになって、
全体重をかけて彼女を取り押さえ、なおかつ罵声を浴びせる唇を自分のもので塞いだ。
「ん!!んぅっ!」
いきなりのことで驚いたイザークだったが、自分より体格のいい、しかも男に圧し掛かられたら、動くことはできない。
しかも唇も塞がれた。
アスランは、思わずキスまでしてしまったが、彼女の唇が余りに柔らかかったため、もう少し味わいたいと思ってしまった。
「んんぅ…やぁ…ぅんふぅっ…」
傷を負った左手で何とかアスランの体を退かそうとするが、びくともしないし、痛いだけだった。
しかも、アスランはだんだんとキスを深めていき、イザークが息継ぎのためにうっすらと開いた唇から舌を差し入れ、
彼女のものを絡め取った。
しかし、いつまでもやられっぱなしのイザークではない。
口付けに夢中になっているアスランの息をつく隙を見て、その柔らかい下唇に噛み付いた。
ガリッととがするほど勢いよくイザークが噛み付いたため、アスランの唇は切れて血が滴る。
その血がイザークの唇をも汚した。
「っう!!」
噛まれたアスランが咄嗟にイザークを離すと、彼女もアスランを懇親の力をこめて押し戻した。
しばらく、二人の荒い息使いだけが聞える。
イザークも此処からすぐにでも逃げ出したいが、パイロットスーツを脱がされ、
簡易の患者着を着せられているため丸腰だ。せめて何か武器になるものでもあればいいが、
何もなさそうだし、この目の前に居る男から逃げるのはたぶん無理だろう。
「はぁ…はぁ…貴様…殺してやる!!」
アスランの血が付いた唇をこれ見よがしに拭う。
今自分にできることは精一杯、相手を罵ることくらいだ。
イザークは自分で、自分の体の状態をよく理解していたし、
ストライクを…キラを庇えたことだけでよかったと思っていた。
捕虜の扱いは、軍事協定で決まっているし、生きていればきっと何時か会えるはずだ。
キラ
「ごめん…君が暴れるから…」
「ふん」
スキでもない、ましてキラを、恋人を傷つけようとしたやつらの一人にキスまでされて、イザークは憤慨した。
しかし、何も無かったとでもいうように、そんなイザークにはお構いなしで、アスランは話を進めた。
「俺はアスラン・ザラ。君の監視を一任されたんだ。もうわかってると思うけど、
君は捕虜だ。情報提供はなんとしてでもしてもらう。危害を加えたくはない…わかってくれ」
ベッドの上から降りたアスランは、イザークに解いて聞かせるように言った。
今の時代、戦争は情報戦といっていい。
どれだけ相手の内部情報やその他戦力の情報を持っているかで勝敗は大きく左右される。
なので、捕虜は丁重に扱われるようになっている。
「早速たずねたい。君の名前と、なぜコーディネーターの君が地球軍にいる?」
「…」
「言っておくけど、黙秘権は君には無いよ。自白剤とか何でも使って言わせるだけだから…」
「卑怯だ!」
「それが戦争だ!!」
「っ!」
「戦争に卑怯も何もない。君の不注意で捕虜になったんだろ?自分がいけないんだ…」
戦場ではたった数秒の戸惑いが命取りになる。
誰よりもまず自分のことを考えろと訓練される。
それが当たり前だとアスランは思っているが、イザークは元々軍人ではない。
それを知る余地は彼には、今は無かった。
イザークは大切な恋人を守るため、自分を盾にして守ったのだ。
それについては、悔いは無い。
「…私は…いつか地球に戻れるのか?」
これだけは聞いておかないと。
もし地球に帰れないなら、生きていても意味はない。
キラがいない世界で一人生きていくのは無意味だ。
イザークにとって、キラは自分の世界であり、生きていく意味でもあった。