peace1
いろんなことがあった。
本当にいろんなこと。
もう二度と離れないと、ずっと思っていたけれど。
神様は、意地悪だった。
戦争は終結した。
ザフトの主要基地であるカーペンタリアは壊滅。
そしてアンノウンであり、世界を恐怖に陥れた機体。
フリーダム。
この機体の出現により、世界は震撼し停戦条約の締結へと至った。
オーブは一切この機体に関与していないと発表。
最初は、AAを匿っていたことなので非難をされた。
しかし、各国がこのアンノウンの詳細を分析したが、どの国も結局どこの機体か特定できなかった。
オーブへの批難の声も次第に薄まった。
イザークは帰ってきた。
愛する人のもとに。
離れていた時が、さらに二人を強い絆で結んだ。
そして世界に平和が訪れた。
地球連合の上層部は、人事が一掃され、プラントも新たなる指導者のもとで、新政権が発足した。
オーブにもまた、平和が訪れた。
AAは地球連合に戻り、カガリは代表として忙しく働いている。
キラは、カガリの補佐という役職についたが、軍司令官の肩書きも背負った。
イザークは精神的な疲れがあるということで、まだ何も行動にうつしていない。
キラもカガリもこの戦争になる前は学生だった。
学生に戻るという手もあったのだが、キラはイザークを一人おいてプラントに戻ることなど出来ないということで、
オーブにとどまった。
イザークがキラの下に帰って来て、一ヶ月。
あの大惨事の後、キラとイザークは片時も離れることはなかった。
カガリや周りの人間もそれをとがめることはなかった。
むしろ微笑ましく見守っていた。
最初はベッドの上で過ごすことが多かったイザークも、大分回復し、現在ではキラの仕事を手伝うまでになった。
一緒に仕事をして、食事をして。
一緒に寝て。
毎日のように愛を確かめあって。
楽しい日々が続いた。
「イザ、もう…朝だよ」
キラの声がイザークの耳元で優しく響いた。
彼の声と同時に目覚ましの音も聞えた。
午前7時。
起床の時間。
「ぅ…ぅん?」
まだ眠くて、擦り寄ってくるイザークの髪の毛を優しく梳くとくすぐったいらしくて彼女は身をすくめた。
「ふふ…今日も元気に働こうね」
ポンポンとキラがイザークの背中を叩いた。
「あぁ」
イザークが眠い目を擦る。
「擦っちゃだめだよ、腫れるよ」
「んー」
「ほら・・・」
キラがイザークの手を取り、自分のほうへ引き寄せた。
そして、イザークの顔をもっと良く見るために、彼女の体を自分の上に乗せる。
「もう、腫れてる。昨日だって結構泣いてたし…」
「なっ…アレは・・・キラが」
昨日の情事を思い出して、イザークが真っ赤になる。
「感じすぎて、気持ちよくて泣いちゃった??」
「キラッ!!」
イザークが怒って、キラの胸を叩いた。
「痛っ・・・ごめん・・・ごめんって!」
思いのほか痛くて、キラがすぐに謝る。
「…もう」
「さて…朝ごはんはなにかな?」
これ以上イザークをからかうと、後が怖いので、キラは話題を変えた。
「マーサが作ってくれるものは何でも美味しい」
「そうだね。っとその前に」
いつもの儀式。
優しく唇を触れ合わせて。
愛の歌を囁く。
「大好きだよ」
そして、今日も一日が始まる。
緩やかに時間は流れた。
世界は落ち着きを取り戻しつつあった。
そうなるまで2ヶ月以上の月日を要したことはしょうがないだろう。
イザークはほぼ全快し、カガリから別の仕事を貰うことになった。
まったくキラと会えないというわけではないが、イザークに合った仕事をカガリが見つけてくれたのだ。
それは、外交においての書類整理という仕事。
イザークはキラと一緒にいるために工学系の学校へ行っていたが、元々は文系。
彼女なら、他国からの書類も上手くまとめてくれると思ったカガリがその仕事を頼んだ。
イザークは文句もなかったし、キラと永遠に離れるわけではないということが判っていたので、それを了承した。
キラと離れて仕事をするようになって、イザークはふと感じた。
今までもそうかもしれないし、此方に帰って来てからも、そういえば言ったことが無かったと。
どれだけキラが好きか。
どれだけ愛しているか。
キラのどこが好きか。
いつも彼から言われるばかりで、自分から言ったことが無かったと。
ちょっと離れたことで、見つかる新しい思考回路。
それは悪い物なんかじゃなくて、むしろ嬉しい発見。
「やさしいところが好き」
ふとベッドの横でイザークがキラに、いや独り言かもしれない、呟く。
「ん?」
その小さな声にも反応して、キラが読みかけの本から目を離し、イザークへと視線を移す。
仕事が終わって、一緒に食事をして、一緒に眠る。
それがいつもの日課。
ベッドに入って、今日お互いにあった出来事について語り合う。
今日は特に何もなくお互い一日が過ぎてしまったので、寝るのにはまだ早い。
キラは読みかけの本を読み、イザークはそんなキラを飽きもせず眺めていた。
そして、唐突にさっきの発言。
「キラの好きなところ。やさしいところ。声が心地いいところ」
キラの茶色い、さらっとした髪にイザークが手を伸ばす。
「うん」
「手も好き。唇も…深い紫の目も」
ひとつひとつ言いながら、イザークがキラの上に乗っかって、手で顔を触っていく。
綺麗で滑らかな指がキラの体を滑っていく。
「抱きしめてくれる腕も…支えてくれる胸も」
「くすぐったいよ」
キラがイザークの手の動きに笑いながらも、その指を自分の手に絡める。
イザークがそれから手を離すように優しく振りほどくと、キラの夜着の上着に手をかける。
一つ一つボタンをはずし、顔を胸に近づけて口付ける。
「…全部好き。キラ」
吐息がキラの胸にかかる。
「愛してる」
心臓にゆっくりと浸透するような声で、イザークが言った。
平和は続いていた。
ゆっくりと復興は進み、平和が目に確かに現れ始めていた。
しかし、最近イザークは夜になると微熱が続いていた。
いまさら疲れが出るのはおかしい。
だが、微熱は下がらず、イザークは少々やつれていた。
今もキラに言われて、先にベッドに入っていた。
「どう?」
飲み物を持ってキラが寝室に入ってくる。
「平気なのに…」
「だめ!明日…病院行こうか」
風邪だったら、薬を貰えばすぐに治る。
「んー…」
あまり納得いかないのか、寝ながらも難しい顔をして文句を言うイザーク。
その姿にキラはため息をついた。
「まったく、病院嫌いだからってしょうがないでしょ?」
彼女は小さい頃、注射をされてことがきっかけで、病院が嫌いになった。
今でも、病院嫌いは続いていた。
キラが飲み物をイザークに飲ますために彼女を抱き起こす。
「ほら、水分とって。熱を下げないと」
「はいはい。今日はなに?」
キラがベッドサイドに置いたカップをイザークに渡す。
「昨日は紅茶だったから、今日はレモネード」
「あ、いい匂い。いただきます」
イザークがカップに口をつける。
さわやかなレモンの味が口に広がる。
それがとても心地いい。
「美味しい?」
「もう一杯飲みたい」
コクコク頷いて、イザークがおかわりを要求した。
キラはもう一杯作って持ってきた。
それを飲んでイザークはまたベッドに入って、すぐに寝てしまった。
その様子をキラが同じベッドに入って、ベッドヘッドに背中をあずけて見ている。
優しく髪をすき、自分もベッドにもぐりこむ。
「イザ…」
耳元で囁くと彼女は寝ぼけて、キラに擦り寄ってくる。
キラは自分に伸ばされた左手に輝くサファイヤの指輪にキスをして、その後に優しくイザークのお腹を擦った。
「…まだ判らないけど」
明日になれば
世界が変わるかもしれない