academy2


あの、どたばたとした入学式から約一ヶ月。
イザーク達はアカデミーの生活にも慣れ、そろそろ時期的に中間考査が始まろうとしていた。
アスランから不本意な賭けをさせられたイザークは、負けられない一心で我武者羅に勉強し、筋力トレーニングに励んでいた。

ついにテスト週間が始まった。
学生達は、始まったばかりだと言うのに、誰も彼も意気消沈しているようだ。
アカデミー内の試験は結果次第ではクラス変更もありえる。
赤服には入ることは稀だが、成績いかんでは、もしかすればもしかするということも考えられる。
実際に、そういう生徒が過去にいたらしい。
つまり、皆今よりいいクラスに入ろうと必死なのだ。
そのため、試験はかなり難しいのだが。
試験内容も様々で、体術系の技術試験はもちろん。
一般常識やMS工学、OS書き換え等バラエティーに富んでいて、勉強も中々大変である。
しかし、試験期間は約一週間あり、一日大体2科目前後で科目によってはレポートの場合もあり、
そこまでスケジュールが詰まるわけではなかった。
しかし、赤服ともなると、他のクラスとは別メニューの試験もあり、
さすがのイザークも試験前の勉強でかなり疲弊していた。

試験第一日目が終わり、イザークはディアッカと一緒に寮に帰ろうとしていた。
しかし、彼女の顔はいつも機嫌が悪そうだが、それにもまして、眉はつり上がり、
その殺気だけで人が引いていくくらい機嫌が悪かった。
ディアッカに自分の分の荷物を持たせ、下腹部を抱え抱えながら、いつもより遅い速さで廊下を歩く。
「おいおい、大丈夫か?」
「うるさい!!さっきから何度も聞くな。お前から言われると、さらに悪化する!!」
いつも白い顔が、今日は青ざめているようで、心配してディアッカが声をかけたのに、それを睨みつけてイザークは暴言を吐く。
「くっそ!…だから女は面倒なんだ…つぅ…」
「ちょっおい!イザーク?」
ついに痛みに耐えかねて、廊下の壁に寄りかかりうずくまるようにイザークは座り込んでしまった。
「薬が切れただけだ!部屋のテーブルの上にあるから、取って来てくれ!」
「おぶってったほうがいいんじゃないのか!」
「誰がそんな恥ずかしい真似するか!いいから、早く取ってこいよ!」
「はいはい…」

何で女だけが、こんな辛い目に一週間も合わなければならないのか。
コーディネーターで、めったに病気にもかからない、怪我をしてもたいしたことが無いのに、
何故この痛みだけは慣れないのかとイザークは思う。
6時間は効くと書いてあった薬のはずなのに、飲んで4時間で効き目が切れた。
そこらへんがコーディネーターのようだ。薬が長く効かない。
あの薬はコーディネーター用のはずなのに…。
「はぁ…痛い」
つい口に出してしまい、慌ててあたりを見渡すが、誰もいないようだ。



女だからって弱音は吐かない。
このプラントと母上を守るために、自分は負けられないのだ。
「それにしても、ディアッカの奴…遅い」
まだ、何分も経っていないのだが、痛みのせいで、数分がかなり長く感じられる。
それから少しすると、ディアッカだろうか、駆けてくる足音が聞えた。
「遅いぞ…ディア…アスラン!?」
文句のひとつでも言ってやろうと顔を上げたら、走りよってきたのは今、
一番イザークが会いたくない相手だった。
「イザーク大丈夫?」
「うるさい!話しかけるな、このデコ」
何で、こんな時にアスランの顔を見なくてはいけないのか。
只でさえ、腹が痛くてイライラしているのに、アスランの顔を見ると、余計にイライラしてきた。
「ディアッカが、ロックナンバーわからないって…廊下にいるから聞いてこいって言うから…顔色悪いよ?」
「お前を見てさらに気分が悪くなった!!」
「心配してるのに…よいしょっ」
「貴様!何を」
アスランはいきなり、イザークを抱え上げだ。
「痛いんでしょ?直接医務室行った方が早いんじゃないの?」
「オイ下ろせ!くそっ!」
「ふふっ」

実は医務室はイザークが蹲っている所から、寮よりも近い所にあった。
教室からも他の生徒の寮からも遠いため、めったに使用されない。
怪我の多い授業もあるが、皆自分で応急道具を持ち歩くため、いつも入り口には、
教諭が他の場所にいる旨が書いてぶら下げられていた。
イザークはこの今の状況を他人に見られるのをものすごく恐れたが、
いかんせん医務室まではすぐ近くなので、結局誰にも会わず、
医務室の前に降ろされ、中に入るように促された。
医務室はやはり、余り使用されていない。
「ほら、イザーク此処に座って」
中に入ると、アスランはソファを指差し、イザークを座らせ、自分は薬の棚を調べ始めた。
「…これかなぁ、ねぇイザーク生理痛用のってこれ?」
「なっ!お前!この恥知らず!」
「うわ!イザークそんなもの投げないでよ!」
そういえば、どうして具合が悪いのか知りもしないはずなのに…
いきなり確信を突かれて、イザークは恥ずかしいやら、
なんやらで傍にあったパイプ椅子を投げつけた。
しかし、アスランが上手く避けたため、大きな音を立て、椅子は床に転がる。
「恥ずかしがることないじゃないか…大切なことだし」
「うぅ」
「で、これでいいの?」
アスランは、棚からそれらしきものを出して、イザークに見せた。
「あぁ…」
「じゃあ、今水持ってくるから…」
なんで、アスランにそんな世話をされてしまったのか…イザークは恥ずかしくて、うつむいた。
「はい。水…薬飲んだら、ここで寝てる?それとも、動けそうだったら部屋戻る?」
「明日も試験があるから。戻る…」
「抱えてこうか?」
「結構だ!!…だか、助かった」
ソファに座ったままのイザークが立っているアスランに礼を言う。

「でも、勝負はこれからだ!」



  
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